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拾伍
小包と影の兆し
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昼下がりの淡い光が、店内にゆっくりと広がっていた。
凛はカウンターの下から、昨夜届いた小包をそっと取り出す。厚手の包み紙に指を触れた瞬間、ひんやりとした感触が伝わり、無意識に指先に力が入った。
中に入っていたのは、見覚えのない薬草と、小さな符の切れ端だった。乾いた草の匂いはほのかに甘く、それでいて胸の奥をざわつかせる。
理由は分からない。ただ、落ち着かない。
「……龍之介、これ、どう思う?」
声をかけられた俺は、店の奥で作業をしていた手を止め、凛の元へ符を受け取りに行く。細かく描かれた文字や模様を一つひとつ確かめるように見つめる。その表情がわずかに険しくなる。
「普通の護符じゃないな。何かを呼ぶか、あるいは封じるためのものだ。……誰かが意図して置いた可能性が高い」
凛は小さく息を吐き、薬草と符を並べて見下ろした。
すでに戦いは終わったはずなのに、この街にはまだ、見えない力が残っている――そんな予感が、胸の奥に沈んでいく。
店内は静かだった。外からは人の足音や、遠くで鳴る鐘の音がかすかに届く。それでも、この小さな異変に向き合う俺達の間には、確かな緊張が漂っていた。
「……調べるしかないな」俺はそう言って符を慎重に広げ、書かれた文字を指でなぞる。
凛も隣に腰を下ろし、薬草を指先でほぐしながら香りを確かめた。戦いの後の、こうした静かな作業は、不思議と心を落ち着かせてくれる。
その時だった。
店の外で、何かが動いた気配がする。
俺はふと顔を上げ、窓越しに通りへ視線を走らせた。人影がひとつ、路地を抜けるようにして消えていく。
確かにそこにいたはずなのに、風のように、跡形もなく。
「……今の、誰?」
凛の声には、警戒と同時に抑えきれない好奇心が混じっていた。俺は答えず、符と薬草を胸元に引き寄せ、店内をもう一度見回す。
街は、相変わらず穏やかな顔をしている。
だが、その裏側で、何かが静かに動き始めている――そんな確信だけが、俺達の間に残った。
視線を交わし、確かめ合うように、俺達はそっと手を握る。これから起こることに備えるために。戦いの後の安らぎの中でも、俺達の絆は、確かに息づいていた。
午後の光は柔らかく、店内の影をゆっくりと伸ばしていく。その温もりとは裏腹に、空気の奥には拭いきれない不穏さが混じっていた。
俺達はそれぞれ深く息を吸い、静かに決意を固める。――この小さな異変の正体を、必ず突き止めるために。
凛はカウンターの下から、昨夜届いた小包をそっと取り出す。厚手の包み紙に指を触れた瞬間、ひんやりとした感触が伝わり、無意識に指先に力が入った。
中に入っていたのは、見覚えのない薬草と、小さな符の切れ端だった。乾いた草の匂いはほのかに甘く、それでいて胸の奥をざわつかせる。
理由は分からない。ただ、落ち着かない。
「……龍之介、これ、どう思う?」
声をかけられた俺は、店の奥で作業をしていた手を止め、凛の元へ符を受け取りに行く。細かく描かれた文字や模様を一つひとつ確かめるように見つめる。その表情がわずかに険しくなる。
「普通の護符じゃないな。何かを呼ぶか、あるいは封じるためのものだ。……誰かが意図して置いた可能性が高い」
凛は小さく息を吐き、薬草と符を並べて見下ろした。
すでに戦いは終わったはずなのに、この街にはまだ、見えない力が残っている――そんな予感が、胸の奥に沈んでいく。
店内は静かだった。外からは人の足音や、遠くで鳴る鐘の音がかすかに届く。それでも、この小さな異変に向き合う俺達の間には、確かな緊張が漂っていた。
「……調べるしかないな」俺はそう言って符を慎重に広げ、書かれた文字を指でなぞる。
凛も隣に腰を下ろし、薬草を指先でほぐしながら香りを確かめた。戦いの後の、こうした静かな作業は、不思議と心を落ち着かせてくれる。
その時だった。
店の外で、何かが動いた気配がする。
俺はふと顔を上げ、窓越しに通りへ視線を走らせた。人影がひとつ、路地を抜けるようにして消えていく。
確かにそこにいたはずなのに、風のように、跡形もなく。
「……今の、誰?」
凛の声には、警戒と同時に抑えきれない好奇心が混じっていた。俺は答えず、符と薬草を胸元に引き寄せ、店内をもう一度見回す。
街は、相変わらず穏やかな顔をしている。
だが、その裏側で、何かが静かに動き始めている――そんな確信だけが、俺達の間に残った。
視線を交わし、確かめ合うように、俺達はそっと手を握る。これから起こることに備えるために。戦いの後の安らぎの中でも、俺達の絆は、確かに息づいていた。
午後の光は柔らかく、店内の影をゆっくりと伸ばしていく。その温もりとは裏腹に、空気の奥には拭いきれない不穏さが混じっていた。
俺達はそれぞれ深く息を吸い、静かに決意を固める。――この小さな異変の正体を、必ず突き止めるために。
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