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プロローグ
しおりを挟む昼の12時を少し過ぎた校舎の中。
春のうららかな日差しが差し込む廊下を、おれがふよふよと漂っていると、向かいから一人の女生徒が歩いてきた。
なかなか可愛い女子だ。
長い黒髪をそのまま流し、ひまわりの飾りがついたピンで前髪をとめている。黒目がちな丸い瞳が、みょうにキラキラしていた。じっと見ていると、視線が合った気がしてびっくりする。それから、なんとも言えない気分になった。なんというか、その強い視線には「見覚え」がある気がして。
彼女は誰だ。
じっと顔を見て、やはり知らない顔だと思う。
ああ、そうか。「見覚え」があると思ったのは、校舎を徘徊中に見かけたことがあったからかもしれない。そういえば、一昨日あたり、こんな可愛い子を見た気がする。
彼女が歩いてくる。このままいくと、おれのからだをすり抜けていきそうだ。
ぼんやり構えていると、しかし次の瞬間、彼女はおれの目の前で足を止め、
「見えてるわよ、幽霊さん」
と、悪魔の笑みを作った。
瞬時に失敗を悟るも、もう遅い。
最悪なことに、そいつは『祓い屋』だった。除霊を生業にする『祓い屋』は、おれたち幽霊の天敵だ。
なぜ目を付けられてしまったのだろう。人を呪ったりせず、おとなしく過ごしていたのに。ムカつく男の足を、ちょっとひっかけたのがまずかったか。わからないけれど、これだけは確かだ。
おれ、このままじゃ消されちゃう。
それはこまる。おれには、やらねばならないことがあるんだ。
その“やらねばならないこと”が何なのかは思い出せないけれど。
そもそもおれは、おれが誰で、なんでこの学校にとり憑いているのか、それすら忘れている。
焦るおれに、彼女は言った。
「安心しなさい。いますぐ消しはしないわ。ちょっと、協力を頼みたいの」
「協力?」
「私には好きな人がいるの。図書室にいる、御手洗さんっていう司書さんよ。私、彼のことをくわしく知りたいの」
わずかに唇を震わせ、頬を火照らせているのは、緊張からか興奮からか。
とにかく、彼女はビシッと指を突きつけておれに命令した。
「私のために、彼の情報を探りなさい」
具体的に指示されたのは、“御手洗さん”のバッグの中身をあさり、免許証の内容を盗み見ろというものだった。御手洗さんの下の名前と、生年月日と、住所が知りたいのだと。
おれは呆れた。
こいつは『祓い屋』のくせに、幽霊と透明人間の区別もつかないのか。
姿が透明なこと以外、人間と変わらない透明人間と違って、幽霊のおれには色々と制約がある。たとえば、物体に触れることができないのもそのひとつ。
“バッグをあさる”なんて芸当、おれにはできない。
しかし、その女生徒はいっさい折れなかった。
「あさるのは無理でも、あなたなら、バッグをすり抜けることができるでしょ。財布もすり抜けて、免許証を見てきてくれればいいわ」
「御手洗さんの下の名前や生年月日や住所が知りたければ、本人に直接聞けばいいだろ。幽霊に情報を盗み出させるなんて、根暗というか、なんというか」
心底呆れてそう言うおれに、その女生徒は顔を真っ赤にし、震える拳を握りしめて怒鳴った。
「いいから行くのよ! ほら、さっさと行って! 消されたいの!?」
すごく嫌な感じがする赤いお札が突きつけられる。これを「えいや」とからだに貼られたら、俺は消滅してしまう。本能的に危険を察知したおれは震えあがった。
「行く、行くからソレを持った状態で、これ以上おれに近づくな」
こうしておれは、忠実な狩猟犬のごとく、ぬるい空気の中を走って、御手洗さんの情報をハンティングしに行くのだった。
吹けば飛ぶようなしがない地縛霊にすぎないおれに、そもそも拒否権はなかった。少しでも反抗しようものなら、おれは彼女の不思議な呪術で、たちまちあの世に強制送致されてしまうのだから。
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