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しおりを挟む秋尾芳次の霊が初めて俺に接触してきたのは、リンに出会って二週間が経ったころだった。
この時点では、俺も、そしてリンも秋尾の名前を知らず、ただの幽霊Aに過ぎなかった秋尾は、開口一番、「ばっかじゃねぇの」とおれを罵った。
秋尾の見た目は、一言で言えばヤンキー。頭は金髪リーゼントだし、当然のように腰パン。がにまた歩きで近づいてきて、下唇を突き出し、睨みつけてくる。「ああん?」と威嚇まで。絵にかいたようなヤンキーだ。
「『祓い屋』と仲良くつるむとか、正気かよ」
正気。
幽霊のおれたちは、何をもって「正気」というのだろう。自分の名前を含め、生前の記憶を失って、頭の中をぼんやりさせている時点で、かなりイッちゃってると気がするけど。
「心配はありがたいけど、余計なお世話だ」
おれは冷静に、やつに言ってのけた。
ヤンキーが怖い、なんていう感情は生前に置き忘れてきている。たとえ殴られても、生身の体がないおれには痛くもかゆくもないし、巻き上げられる金もなければ、脅されるネタもない。怖がる要素が、どこにもないのだ。
「バカヤロウ。俺は別に、お前を心配してやってるわけじゃねぇ。お前が『祓い屋』と手組んで、俺たちを売るんじゃねぇかって心配をしてんだよ」
なるほど。
「だけど、おれと君は今日が初対面だし、『祓い屋』の彼女に売る情報なんて、何も知らないよ。この学校にいる、古株の幽霊たちならまだしも、君が心配する必要は、ないんじゃない?」
チッと、秋尾が舌打ちをする。いけ好かねぇやつだと吐き捨てられた。
いけ好かねぇ、は、リンに対する第一印象だった。思い出して、にやりとする。その笑みが気に入らなかったらしい。肩をいからせた秋尾は、ブリザードを吹き荒れさせて俺を威嚇した。お遊びのような、「ああん?」もない。どうやら、本気で怒っているらしい。
「これだけは言っておく。おれの邪魔をしたら、ぜってー許さねえ。あの女もお前も、消してやる」
捨て台詞を残して、秋尾は空気の中に溶けて消えた。
いまのブリザードの風圧と華麗な消え方で、秋尾の強さが推し量れた。たしかに、秋尾になら、おれなど簡単に消してしまえるだろう。
幽霊は、この世にとどまった年数で強さが決まる。なんでも、怒りとか悲しみのエネルギーが年々増大し、蓄積され、それが強さに比例するらしい。
秋尾はたぶん、死んでから5年は経っている。死んで1、2年そこらの俺には敵わない。
だけど、最強の『祓い屋』佐久間家の娘であるリンの敵ではない。
秋尾がなにをする気か知らないが、まぁ、大丈夫だろう。
おれは安心し、このときの秋尾とのやりとりをすぐに忘れてしまった。そうしてリンに聞かれるまで、一度も思い出すことがなかった。
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