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しおりを挟む事件のはじまりは、カラスだった。
この日は朝から、やけに外が騒がしかった。窓から見えたのは、数十羽のカラス。騒音の原因は、羽の音と鳴き声だったのだ。
せっかくの黄色い木漏れ日も、カラスの黒のせいでだいなしになっている。
ゆううつな気分で昼休みを迎えると、やがて廊下の先からリンが現れた。
すると、リンの登場を待ち望んでいたかのように、一羽のカラスが開いた窓から侵入してきた。
他にもちらほらと生徒の姿があるのに、彼らは侵入してきたカラスなど、まるで気にしていないようだった。まるで、見えていないってかんじで……
え? 見えていない?
カラスがリンの肩に止まった。
『カーッ、三年二組、松岡康平、憑かれてる、ヨ。悪い悪い、霊』
カラスがそう言うのを、おれははっきりと聞いた。
「わかった。引き続き、監視を続けて」
飛び立とうとしたカラス。しかし、俺と目が合い、動きを止めた。
『カーッ、幽霊、キモイ、カーッ』
あっと、リンも俺に気付く。
仕方ない、というふうにカラスを連れたまま俺のほうへとやってきた。
いつもの階段裏。
今日はそこに、うるさいカラスが加わる。
『キモイ、キモイ、幽霊、キモイ』
羽をばたつかせ、黒目をぎょろぎょろ回転させながら、カラスがおれの悪口を言いまくる。
初対面なのに、失礼なやつだ。
だいたい、
「お前も幽霊だろうが!」
そう、このカラスも、おれと同じ幽霊だったのだ。
『イヤーッ、キモイ』
「キモイのはお前だろ。しゃべるカラスなんて、気色悪い!」
『リン、こいつ嫌いだ。オデをいじめる』
「なっ……!」
「二人とも落ち着いて」
おれたちの仲裁に入るリンは、真面目な顔をしつつも、どこか楽しそうだった。気分は喧嘩の仲裁をする学級委員。みんな、仲良く話しあおうよ! なんて、リンの頭の中では、熱い学園ドラマでも繰り広げられているのかもしれない。
リンはぼっちの根暗女子だからな。こういう、学園ドラマっぽいシチュエーションに憧れがちなのだ。と、わかってはいるけれど、それに付き合ってやる気はない。
「で、このカラスは何者?」
おれがすっかり落ち着いてしまったことを知ると、リンはあからさまにつまらなそうな顔をした。もっと喧嘩してもいいのに、と言わんばかりだ。
あーあ、とため息を吐き、リンが話し出す。
「この子は私の使い魔。元々は幽霊だったけど、契約して、仕事を手伝ってもらってるの。ほら、羽のところに渦巻き模様があるでしょ。これが契約印」
使い魔、か。聞いたことがある。『祓い屋』のしもべみたいなものだ。人によって、猫だったり、犬だったり、はたまた蛙だったりと色々らしい。
都市伝説みたいなもので、おれも、見るのはこれが初めてだ。もっと恐ろしいやつかと思ってたけど、蓋を開けて見ると、バカっぽいカラスとは。拍子抜けである。それと同時に、思い知る。しゃべるカラスを使役するリンはたしかに、『祓い屋』の娘だ。
「さっきこのカラスが話してたのは……」
「聞いたままよ。三年二組の松岡康平くんが悪い霊にとり憑かれているから、お祓いにいくの」
お祓いとは、つまり、霊を消滅させるか、あの世に強制送致することを指す。
いまさらながら、ドキッとした。俺も、祓われるべき霊の一体なのだと、自覚する。
リンはおれの緊張を見抜き、「安心して」と柔らかく言った。
「太郎くんを消す気はないと言ったでしょ」
リンが御手洗さんと無事に付き合うことができたとき、俺は解放される。そういう約束ではあるけど、それはつまり、『祓い屋』のリンが幽霊を見逃すということで、はたして、そんなことが許されるのだろうか。それとも、この約束自体が嘘で、用済みになったら、俺は消されるかもしれない。
まあ、でも、とおれは思う。
それでもいいか。
だって、おれはもう、色のない日常には戻れない。だったらいっそ、用済みになった時点で消してもらう方がいい。
「まずはとり憑いた霊が何者なのか、調べないとね」
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