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しおりを挟む「信じられないと思うけど、私には死者の魂が見えるの。そう、幽霊ってこと。あなたをいじめてた秋尾くんから、伝言を預かってる───」
意識を取り戻した松岡くんに、リンは秋尾から預かった伝言を伝えた。不可解そうな顔をした松岡くんに、どこまで伝わったかわからない。それでも、伝えた。
「秋尾くんは、悪い霊じゃなかったのに。必要のない苦しみを与えてしまった」
すべてが終わって戻ってきたいつもの階段裏で、リンは膝を抱えて泣いた。
『カーッ。悪い霊って言った、オデのせい。リン、ゴメン、ヨ』
使い魔のカラスが慰める。リンは顔を上げ、カラスの羽を撫でた。
「それは違う。すべては不十分な調査で除霊を決断してしまった私のせいよ」
そこでまた、思い出したようにリンが息を詰まらせる。
「その二の方法をとっていれば、穏やかな仲介ができたのに。秋尾くんと松岡くんしか知らないエピソードを伝えて、本当に秋尾くんはいるんだって信じてもらえていれば、秋尾くんのメッセージも、伝わりやすかったのに」
泣きじゃくるリンに、いつもの気の強さは、どこにもない。
「佐久間さん」
おれはリンの前にしゃがみ込んだ。触れることはできない。それでも、彼女の頭を撫でるように手を置いてみる。
「秋尾は、自分が誰かも、なんで松岡くんに憑いてるのかも、覚えていなかったんだ。あのままだと、そのうち松岡くんのことを呪いはじめていたかもしれない。それは、秋尾も望んでいなかったことだ。そうなる前に、秋尾を昇天させることができた。メッセージだって、ちゃんと伝えられた。だから、これでよかったんだよ」
リンが顔を上げて、俺を見る。あーあ、可愛い顔が、涙でぐちゃぐちゃだ。
「そうかなぁ? 本当に、これでよかったのかなぁ?」
「うん。俺が秋尾だったら、リンに感謝すると思う」
「そっか……」
何やら考え込むこと数分、暗闇に光が灯るように、リンに笑顔が戻った。
いままでで一番柔らかい笑顔だと思った。たぶん、御手洗さんも、こんなリンは知らない。
「ありがとう」
そんな笑顔でリンが素直にお礼を言うものだから、不覚にも、おれはどきっとしてしまった。心臓、ないはずなのに。
時刻は20時15分。図書室はもう、開いていない。御手洗さんに会えないまま帰ることになったが、リンの表情は明るかった。
学校の正門。
学校に縛られた魂であるおれが見送りに出られるのはここまで。
「ねえ、太郎くん」
振り向いたリンが、おれに呼びかけた。
「なに」
「私のこと、『リン』って呼んだね」
「そうだっけ」
リンのことは、佐久間さんって呼んでるはずだけど。呼び捨てにした覚えはなかった。
「いいよ。これからは、リンって呼んでよ」
「ええ……ちょっと抵抗あるんだけど」
女子を呼び捨てにする文化が許されるのは、小学校まで。なんとなく、そういう価値観がおれの中に存在する。これも、生前の記憶のひとつかもしれない。
しぶるおれに、リンは頬をふくらませて怒った顔をした。
「私がいいって言ってるんだから、素直に呼び捨てにしなさいよ。あんたのほうが年上なのに、さん付けで呼ばれるの、変でしょ」
「そうかな? ていうか、おれのほうが年上なんて、わからないよね」
「たぶん、そんな気がするってだけ。私は一年生だけど、太郎くんは2年生か3年生って感じする」
「まぁ、いいけど。佐久間さん、一年生なんだね」
もっと上かと思ってた。いつもの偉そうな態度が、年上に見せていたのかも。
そんなことを考えていると、キッと睨まれてしまった。まさか、佐久間には幽霊の心をのぞき見る技まであるのか?
しかし、リンが怒ったのは、別の理由からだった。
「リン」
「え?」
「だから、リンって呼んでって言ったでしょ。いままた、佐久間さんって言った」
「ああ……それは、スミマセン」
リンが照れたように言うから、変にドギマギしてしまった。
じゃあねと走り去るリンの耳が赤いことに気付いて、またドギマギ。
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