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3 敵情視察
しおりを挟む長旅の疲れを癒やすように、と龍姫は客室へと案内されていった。……っと、おとなしく見送ってる場合じゃない。あたしたちも、さっそく行動開始よ!
「トニー、敵情視察に行くわよ!」
「わーい!しさつ!しさつ!」
たぶん、トニーは"敵情視察"が何なのかわってないけど、ちゃんとあたしのあとをついてくる。
パパに一目惚れした龍姫は、これから全力で側室の座を奪いに来るだろう。あたしとトニーは彼女の望みを打ち砕く戦士である。ママの幸せをまもるため───これは正義の戦いである。
先人たちは言っている。戦いに勝ちたければ、敵をよく知ること。敵の弱点をあぶりだし、的確な攻撃を展開し、確実な勝利を得るのだ!
ということで、まずは情報収集というわけ。
「気配を断つ魔法、使えるでしょ?」
「うん!」
「トニーのほうが得意だから、あたしにもかけて」
「いいよー!」
トニーはすらすらと呪文をとなえた。座学や実験はあたしのほうが得意だけど、実践魔法はトニーのほうが得意。トニーは感覚でコツをつかむのがうまいのだ。そのかわり、教えるのは壊滅的にへただけど。だけど問題ない。あたしたちは、双子。それぞれの欠点をおぎなえば、完璧な一人の人間になれる。あたしたちにできないことはない。
気配遮断の魔法をかけてもらうと、透明のベールに包まれたような感覚になる。なんだか、神聖な気分。
いざゆかん。敵は龍姫、客室にあり───!
「──ああ、ヴィ様、とっても素敵だった。あの熱く燃えるような赤い瞳。あの方の視線を独り占めにできたら、どんなにいいかしら」
龍姫は入浴中だった。あらわになった肌には、赤い鱗のようなものがついていた。まるでトカゲみたい。龍の国の民はドラゴンの末裔だって聞いてたけど、本当なのかも。
龍姫は全身鏡に向かってポーズをとりながら、自分の顔や体をしきりに褒めている。「この美貌を使えば魔王様もイチコロよ」なんて言いながら。
「きっと側室の座を手に入れてみせるわ。いいえ、側室だけじゃ満足できない。ゆくゆくは正室の座を手に入れる。そう、そして、ヴィ様との間に産まれた子どもを次の魔王にするのよ……!ああ、でもそうなると───あのクソガキどもが邪魔ね」
「クソガキ」
ばしゃん、とお湯がはねる。
「あ、やだ、ビクトリア姫じゃないですか」
あたしの呟きで、気配遮断の魔法が解けた。龍姫はあたしとトニーに気づいてあせっている。
「それはあたしたちのことかしら?」
「まさか!めっそうもない!」
「ねぇねぇ、トリー。このおばさん、誰と話してたの? ほかには誰もいないよ?」
「トニー。このおばさんは独り言を言ってたのよ。ずいぶん大きな独り言だったから、独り言に思えなかったけど、独り言だったの。話し相手がいないのね。かわいそうだからそっとしておいてあげましょ」
「わかったー!かわいそうだから、そっとする!」
「うぐっ……」
「お気をつけて、龍姫さま。壁に耳あり障子に目ありと言いますわ。軽い気持ちで放った一言が、文字通り、命取りになるかも」
「ご、ご忠告、痛みいりますわ……おほほほ……」
あたしとトニーは自分たちのへやに戻った。
「ねぇ、トリー。あのおばさん、ぼくたちのこと"クソガキ"って言った。ぼく、知ってるよ。これって、"暴言"ってやつなんでしょ。ぼく、許せない」
「ええ、トニー。もとより、許すつもりなんてないわ。あたしたちを馬鹿にしたこと、後悔させてやる」
「でも、どうやって?」
「ふふ、それはね───」
こそこそと、耳打ちする。きゃーっと、トニーは歓声を上げた。
「それすっごくいいね!」
「あたしたちの恐ろしさを思い知らせてやりましょう」
ふふ、ふふふ、とあたしたちは笑いあった。
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