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4 作戦開始!
しおりを挟む早朝、屋敷に悲鳴が響き渡った。
もちろん、龍姫のものだ。
あたしたち家族は、毎日3食いっしょにごはんを食べる。どんなに忙しくても、その時間は食堂に出てきて顔を合わせること。ママが大事にしてる家族のルールだ。そんな水入らずの空間に、なんでか、今日から龍姫が加わる。うぇーってかんじだ。
だけど、今日の朝食の席にかぎっては、あたしとトニーは龍姫がやってくるのを楽しみに待っていた。
なぜなら……
朝食の席にあらわれた龍姫を見て、あたしたちはみんな口に入っていたものを吹き出した。あ、一人だけ例外。ママだけは、なんとかこらえてた。さすが、淑女の鏡。
龍姫の顔には、見事なアートが施されていた。ご想像のとおり、あたしと、トニー作である。昨夜、気配遮断の魔法をかけて龍姫の寝室に忍びこみ、寝ている龍姫の顔に心を込めてラクガキしてあげたのだ。使ったのは、フェルナンデスおじさまが作った"油性ペン"。これ、肌についたらなかなか落ちないのよね。ちなみに、6色あります。
明るい場所で見るアートはまた一味違う。思ってたよりも眉毛の線がずれてるし、ピンクと間違えて、頬を青色に染めちゃったけど、それもふくめて最高のしあがり。感動で(笑いをこらえる振動で)体がふるえちゃう。
「ええっと……変わった化粧、だな?」
パパ、それフォローになってないから。化粧って、そんなわけないじゃん。
赤い油性ペンでいつもの3倍は太くなった龍姫の唇が、ひくっと動いた。
龍姫が何か言う前に、すかさず口を挟む。
「パパ、龍姫はきっと、龍の国の伝統的な装いを見せてくれているのよ。変わってる、なんて言ったら失礼だわ」
パパはハッとして、納得の表情をつくった。
「───そうだな。これは失礼した」
そうそう、色々な種族がいりまじるこの魔界においては、そういう文化があったって、おかしくないもんね。
「い、いえ……」
ひくひくと、龍姫の頬がけいれんしてる。
龍姫は、たぶん、ラクガキ犯はあたしとトニーだってわかってる。『このクソガキめ!』ってあたしたちを睨む目が言ってるもの。でも、あたしたちがやったっていう証拠がない。それなのに、魔界の最高指導者である魔王の子どもたちを断罪するわけにもいかず、内心すっごく悔しがっていると思う。
ぶは、とトニーがせいだいに吹き出した。
「だめ、ぼくもうたえられない!あー、おっかしい。あははははは!」
「トニー……!」
ママは真っ赤な顔で、はずかしそうにトニーを止めていた。だけど、それすらおもしろいみたいで、トニーはぜんぜん笑いやまなかった。
かわいそうな龍姫。龍姫だって、こんな姿で朝食の席に出てきたくなかったに決まってる。でも、臣下のぶんざいで魔王が用意した食事の席を断るわけにはいかないし?
殺意のこもった龍姫の睨みを受け止め、あたしはせいいっぱいのあわれみの視線を返してあげた。
自慢の容姿がだいなしね。パパに触れてもらおうと、お風呂でたんねんに手入れしたお肌も、パパの気を引くために選んだ露出多めの衣装も。
"龍姫にたっくさん嫌がらせをする"
龍姫をこの城から追い出すため、あたしとトニーが立てた作戦はシンプルだ。
あの手この手で嫌がらせをしかけて、もう二度とパパの側室になろうなんて気が起きないよう、龍姫の心をバッキバキにへし折ってやるのだ!
───ああ、泣きながら龍の国へと逃げ帰っていく龍姫の姿が見えるようだわ!「ごめんなさい、側室の地位なんてもう望みません。だからもう許してーっ!」ってね。うふ、うふふ……
龍姫の出鼻はくじいた。
とりあえず、作戦の第一段階はぶじ終了。
「次の作戦にうつるわよ」
「いえす、まむ!」
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