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5 嫌がらせはどんどん畳み掛けるべし
しおりを挟む「ぷはーッ。ひと仕事終えたあとのオレンジジュースってしみわたるわ~」
牛頭のロナンのログハウスで、あたちとトニーはジュースをごちそうになっている。
ロナンは城の庭師。ロナンが寝泊まりしているログハウスは庭の端にある。
「親父クセェな」
ロナンは牛頭を揺らしてごうかいに笑った。
「失礼ね、レディに向かって」
「ロナン~、もういっぱいちょうだい」
「飲みすぎると腹壊すぞ」
そう言いながらも、ロナンは新しいジュースを注いでくれる。
「ところで、お前たちはなんでそんなに泥だらけなんだ?」
「穴を掘ったから」
「うん、がんばった」
「穴? また、何のために」
「今にわかるわ」
あたしたちは体についた泥を落とすため、ここにシャワーを借りにきたのだ。城の使用人たちに見つからないうちに証拠を消す必要があったから………
『きゃーーーーーーーーー!!!!』
悲鳴と共に、どすん、という音が聞こえた。
「おいおい、まさか……」
「ごちそうさま、ロナン。これ、口止め料ね」
「おおさめください」
かごに入ったいくつかの球根を、トニーがロナンに渡す。
「こ、これは……っ!こんな貴重なもん、どこで」
「ちょっとしたツテよ。大したことじゃないわ」
ロナンがちっちゃな目をぱちぱちする。それから感心したように言った。
「───オメェ、将来大物になるわ……」
「それで、ロナン? 龍姫を穴に落とした犯人を知ってる?」
「いや、俺は何も知らねぇ」
「よろしい。──じゃ、失礼するわ、ロナン。あたしたちはまだやることがあるから」
あたしとトニーはさっさと退散した。
「………恐ろしい。さすが、魔王様のお子だわな……」
「急ぐわよ、トニー。龍姫が次に行くところはわかってる。先回りしないと」
「大丈夫だよ、トリー。龍姫はいま西の廊下にいる。部屋に戻るまであと7分はかかるよ」
「気配察知の魔法? もう使えるようになったのね!つい最近、ラニに教わったばかりでしょ?」
「えへへ。すごい?」
「すごいわ!!さすがトニー!」
「うふふ、じゃあぼく、もっと頑張っちゃう」
「もうっ、最悪!泥だらけだわ!!こんな屈辱的な気分、生まれて初めてよ!ちくしょう、あのクソガキども、覚えてなさい!ああ、もう、どうやってとっちめてやろうかしら!」
龍姫は侍女たちに当たり散らしながら部屋に帰ってきた。まっすぐ向かう先は、バスルーム。
「あら、お湯を張ってくれてるのね。気が利くじゃない」
龍姫は迷わず湯船に浸かった。あたしとトニーはそれを見てにんまり笑う。
「あら、なんだか……」
龍姫はすぐに異変に気がついた。
「お湯がぬるぬるする? それに、カサカサ当たるものが……あ、石?なに?」
お湯をすくい上げた龍姫は、手の中にうごめくものを見て絶叫した。そこにあるのは、無数の昆虫たち。……うぅ、これは見てるあたしでもキツイ。
追い打ちをかけるように、ぽいぽい、とトニーがさらに虫を落とした。そう、あたしたちは龍姫の湯船の真上、その天井裏に潜んでいる。
「ぎ、やーーーーー!!」
「穴掘りで見つけた虫、たくさん役にたったね!」
「ええ、一石二鳥だったわ。今回の計画はとっても経済的ね」
「み、み、みみず、みみず、みず、」
「あら、どうしたのかしら。龍姫、シャワーに向かって何か言ってるけど」
「み、みず、ミミズ~~~~~!!!」
「ミミズ? あ、もしかして」
トニーは満面の笑みだ。
「ぼく、頑張っちゃった」
「幻覚魔法ね!すごいわ、トニー!そんな高度な魔法まで使えるなんて!素敵よ!」
「えへへ~、ありがとう~」
あたしには見えないけど、たぶん、龍姫にはシャワーがつくる水の線の一本一本が、ほそながーいミミズに見えているんだろうなと思う。ぞっと、背筋がふるえた。自分の想像力の豊かさが恨めしいわ。
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