9 / 22
9 龍姫のターン、再び
しおりを挟むあたしたちが嫌がらせを続ければ、龍姫もいずれ心が折れて龍の国へと逃げ帰っていくだろうって、そう思ってた。だけど……
龍姫はそんな、やわなやつじゃなかった。あたしたちの嫌がらせにもぜんぜんへこたれず、毎日、毎日、パパにすり寄っていくんだもの。だから、いずれこうなることはなんとなくわかってた。
そのスープを口にしたとき、あたしは思った。ついに、龍姫が反撃に出てきたって。
龍の国から遅れて大臣たちが到着し、こちらの重鎮たちを集めて食事会がひらかれた。
ママはもちろん、あたしとトニーも出席を命じられた。
長くて大きなテーブルの、割と目立つ位置に、なぜかあたしとトニーは並んで座らされた。
前菜の次に運ばれてきたスープについて、龍の国の大臣の一人が言ったんだ。これは、龍の国の特産品、ポド芋を使ったスープですって。濃い紫色の、どろりとした液体を見たときから嫌な予感はしてたんだよね。
あたしとトニーは、二人そろってスープを吐き出した。うぇぇって、効果音つきで。
「お子様には、口に合わなかったかしら?」
すごく心配しているふうに、龍姫は言った。でも、あたしは見逃さなかった。扇子の下に見えた龍姫の口元。醜い笑みが浮かんでた。にぃって。
口に合わなかったか、ですって? 冗談。それ以前の問題よ。こんなの、食べ物じゃない。
ほかのオトナたちが平気で食べてるってことは、あたしたちのスープだけがおかしいんだ。龍姫の命令で、どこかで取り替えられたんだ。大臣たちだってグルかもしれない。ていうか、城の毒味係はどうなってるの。買収でもされたわけ?
「ごめんなさい。せっかくおもてなしいただいたのに、失礼を」
ママが龍姫や大臣たちに謝った。悪いのはこの人たちなのに。ママもパパも、まるで気づいてない。『だってマズイんだもん!嘘じゃないよ!吐き出したあたしたちは悪くない!』なんて声に出して訴えることは、あたしとトニーにはできなかった。言えば、龍の国の特産品を馬鹿にすることになる。魔界にあるすべての国を統べる魔王の子どもという立場が、それをあたしたちに許さなかった。悔しくて、悔しくて、おなかの中がよじれそうだった。スープを龍姫の顔にぶちまけてやりたいけど、それをしてしまったら、パパやママに、ますます恥をかかせてしまう。
「お行儀よくしてちょうだい」と、ママにしかられた。スープを吐き出すなんて、淑女にあるまじき行いだって。わかってる。淑女たるもの、たとえ出されたものが泥水だって、顔色一つ変えずに微笑んで飲み干すべし、でしょ?
その夜、あたしとトニーはしょっぱい涙を味わった。
許さない。絶対に、仕返ししてやる。
翌日、あたしとトニーは、龍姫と廊下ですれ違った。
「側室のお話が、本格的に決まりそうよ」
龍姫が言った。あたしは唖然とした。
「あんたたちは邪魔してたつもりなんでしょうけど、残念。無駄骨だったわねぇ」
あれだけこの女の醜態をさらしてやったのに!? なんでよ!
こんなちんちくりんを側室に、なんてパパや重鎮たちは何を考えてるわけ?
「ママが増えるのよ、嬉しいでしょ?」
「あたしたちのママは、一人だけよ。そしてそれは、あなたじゃない」
「ほんとに、可愛くないわね」
「あなたもね。どうして良い子にできないの?」
「あら、ちょっとくらい悪い子のほうが男の子にはモテるのよ」
龍姫は勝ち誇ったように、腰をくねらせて歩いて行った。
嫌味もなにもかも、この女には何一つひびかない。
「………ぼく、あのひと大嫌い」
「………あたしもよ、トニー」
0
あなたにおすすめの小説
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる