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10 パパなんて大嫌い!
しおりを挟む側室の話が決まりそうだからって、なんだ。あたしたちがやることは変わらない。だってまだ、龍姫は正式な側室に決まったわけじゃない。これまでよりも、もっといっぱい邪魔すればいいだけだ。
あたしたちの朝は、龍姫の寝室の盗聴からはじまる。
ピーピピピーと、壁に貼り付けた箱型の機械が音を出す。これは科学と魔法の結晶。その名も盗聴器だ。あたしとフェルナンデスおじさまの合作。あの失敗続きの研究の日々は忘れないわ。
龍姫は今日も独り言が多くて、おかげさまで盗聴は順調。
「ああ、ヴィ様。早くあの腕に抱かれたい。もう、側室になるまで待っていられないわ」
そうだわ!と龍姫は歌うように言った。
「酔ったふりして、ヴィ様の寝室に突撃すればいいのよ!そのまま寝所を共にしてやるわ」
パパとママはいつもいっしょに寝ているし、突撃したところで色々と見せつけられるだけよって思ったけど……
ママは毎晩必ずあたしたちの部屋に来て、あたしたちを寝かしつけてから寝室に行く。つまり、その間パパは寝室にひとり。そこを龍姫に襲撃されたらたまらない。まもなくママが寝室にやってきて、はちあわせ。龍姫のことだから、無理やりパパをおそうだろう。その場面をママが見ちゃったりしたら………
「まずはぁ、すんごく度の強いお酒をヴィ様に飲ませるの。幻覚効果もあればいいわねぇ。もしかしたら私をフィオリア様と間違えて、積極的に抱いてくださるかも」
きゃっきゃうふふと龍姫は笑う。
背中がひやりとした。パパにその気がなくても、"きせーじじつ"を作られたら終わりだ。その瞬間、龍姫が側室になることが確定し、あたしたちの邪魔なんて意味がなくなる。
「大変!パパに知らせなきゃ!」
「知らせなきゃ!知らせなきゃ!」
たぶん、トニーは龍姫の話の半分もわかっていない。それでも、慌てた調子は合わせてくれるのがあたしの相棒だ。
廊下をぱたぱたと走っていくと、ちょうどパパにであった。
「パパー!」
トニーがいち早く、パパに抱きつく。パパはトニーを片腕に抱き上げた。
「おはよう、トニー。今日も元気だな」
「パパも元気ー??」
「ああ、最高に元気だよ」
「うそ」
あたしはパパを見上げて言った。
「だって、目の下黒いもん。パパ、疲れてるでしょ」
目を丸くしたあと、パパは苦笑した。
「トリーはよく気づくなぁ。ママにも同じこと言われたよ。言い方もそっくり」
「ぼくだって気づいてたよー!」
「あはは、トニーもか。俺の子どもたちはすごいなぁ」
「えへへ~」
「パパ、出かけるの?」
パパはいつもはおろしている長い黒髪を、後ろで結んでいた。それに、騎士服みたいな紺色の服を着てる。膝下まである長いブーツも。あまり見慣れないかっこうだった。
「これから馬で遠乗りに出るんだ」
「馬ー!ぼくもいっしょに行きたいー!」
「今日は、お仕事だからだめなんだよ。パパは龍姫のお供をしなきゃならないんだ」
パパが、トニーを下ろしながら言う。
「龍姫と?」
声が裏返った。聞き捨てならない。それって、お仕事じゃなくてデートじゃない!
「それと、龍の国の大臣たちとね。城周辺の案内を頼まれてるんだ」
「そんなの、パパがしなくたっていいじゃない!下々の者たちに任せれば!」
「下々って……」とパパは苦笑いする。
「そうもいかない。ちょうどいい機会だから、大臣たちとは仕事の話も詰めたいし。開放的な緑の中なら、彼らもいい返事をしてくれるかもしれないしな」
パパはおどけて言うけど、ぜんぜんおもしろくない。
「どうせ、大臣たちは来ないんだから」
「トリー?」
「騙されてるんだよ、パパ!龍姫はパパとデートしたくて、庭の案内や、大臣たちを口実にしてるに決まってる!」
「おはようございます、魔王様」
ハッと振り返る。龍姫だ。言わなきゃ。伝えなきゃ。
「この女はね、パパにお酒を飲ませて酔わせてから、"寝所を共にする"気なの!」
「こら、トリー。どこでそんな……」
「パパ!この女はパパとママの仲を引き裂くつもりなのよ!」
「まぁ、可愛い。パパが私に取られないか、心配してるのね」
にや、と笑われ、カッと頬が熱くなる。
「黙れ!この、アバズレ!」
「な、あばっ………」
「トリー」
パパの声が一気に冷えた。
「すまない、龍姫。娘が失礼を。お恥ずかしいところを見せてしまった。まったく、どこでこんな暴言を覚えてきたのやら」
みるみるうちに涙がたまって、視界がぼやけてくる。
「本当のことなのに……」
「トリー、部屋に戻っていなさい。トニー、連れていけ」
「パパなんて大嫌い!龍姫とどこへでも行っちゃえ!」
あたしは駆け出した。パパはもう、あたしの名前を呼ばない。トニーだけが、あたしを呼びながら追いかけてきてくれた。
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