愛への誤ち

八つ刻

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続・愛への誤ち

said 慧

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レストランで紗栄子さんたちから聞いた話は、俺にとってまさに青天の霹靂だった。

あの男の子が俺の子ーー?

確かに心当たりはある。
俺が梨衣を繋ぎ止めたいと無理やり抱いた時だ。逆算してもあの時しか考えられない。

なりふり構わず俺は必死に当時の説明を二人にした。そして今でも愛している、できればやり直したいと。最初は軽蔑しているような目を向けてきていた二人も、次第にその目は同情の色が出てきているようだった。

「会わせて欲しい」と土下座をしようとした所を旦那の秀司さんに止められ、梨衣に話してみてくれる事を約束して貰えた。



「梨衣が・・・俺の子を・・・」

愚図る佐藤さんと無理やり別れ、自宅に帰ってきてから口に出してみるとじわじわと胸に何かが込み上げてきた。

これは、歓喜だ。

梨衣が他の誰でもない、俺の子を生んだ事が嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
そして無性に梨衣に会いたくなった。

何だか落ち着かず、無駄に家をウロウロしてしまう。そこでふと気付いてしまった。
子供が出来ても梨衣は俺の前から消えた事に。

「そこまで俺の事・・・嫌いなのか?」

そこに気付くとさっきまでの喜びは何処へやら、悲しみで胸が張り裂けそうになる。
紗栄子さんは俺が大学生だったから言い出せなかったと思うと言っていたが、きっと違う。
俺が梨衣に信用して貰えなかっただけだ。

その日は一睡もできなかった。




次の日俺は実家に向かっていた。
一晩考えわかった事、それはとにかく梨衣と子供に会いたいという気持ちだけだっだ。



「真剣な話とは何なんだ?」

今俺は父さんと二人向かい合っている。
あの愚かな女たち母親と姉に報告するつもりはない。

「父さん、俺子供ができた」
「は?」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔でポカンとする父さんに、大学時代からの俺と梨衣の説明をした。
勿論、俺の浮気も。

ガシャン!と音を立ててテーブルの上にあったコップが転がる。
同時に俺は座っていた椅子から転がり落ちた。

左頬がビリビリと傷んで、口の中は少し血の味がする。

「お前は・・・!なんて事を・・・!!」

怒りに顔を真っ赤にしながら父さんは右手拳を震わせていた。

「不誠実だった事はわかってる。でも俺、責任取りたいんだ」
「そんな事当たり前だろう!!!すぐそのお嬢さんとご家族に謝るんだ!」

自分も謝罪すると言い出した父さんに、俺は慌てて止めに入る。

「俺は梨衣と結婚したいと思ってる。でも彼女がどう思ってるのかまだわからないんだ。父さんが今会いに行ったら彼女は断りにくいだろ?お願いだ、今は俺に任せて欲しい」

頭を下げて頼む俺に父さんは、はぁとため息を吐いた。

「わかった。誠心誠意謝ってこい。しかし梨衣さんが結婚を望んでいないなら、私は認めないからな。まさかお前までアイツのようになるとは・・・これが仕事にかまけていた私への報いか・・・」

視線を下げ、悲しそうな父さんの表情かおを俺は直視できなかった。


腫れる頬を冷やしながら自宅のソファで梨衣たちの事をぼうっと考えていると、スマホからSNSの通知を告げる音がした。
相手は秀司さんだった。
次の週末、金曜から日曜まで梨衣たちが遊びに来る事。その時に俺の話をしてみてくれるらしい。

頬の痛みなんか忘れ不安が募る。
もし、もしも梨衣が会いたくないと言ったら・・・スマホを打つ手が震える。
祈るような気持ちで「お願いします」と返事を送っていた。



週明けに出社するとすぐ佐藤さんに捕まり、使っていない部屋に連れ込まれる。

「週末の事ですけど・・・本当にそんなでいいんですか?」
「は?」
「私なら・・・!勝手に生んだりしません!神里さんの傍を離れたりしません!」

そういえば梨衣の事はこの人にも聞かれていた事を、この時やっと思い出した。
普通の女性なら知らなかったとはいえ、子供がいると聞いたら引くものかと思っていたが彼女は違ったらしい。

「あのさ、聞いてたならわかってるでしょ?俺の気持ち」
「でも!そんな無責任な人!神里さんを傷つけて・・・酷いです」
「・・・俺の事考えてくれてるんだ」

俯いて悲痛そうな表情をしていた佐藤さんは、俺の言葉でパッと顔を上げた。
俺はにっこりと微笑む。

「でも俺、梨衣に会えるなら・・・やり直せるなら死んでもいいくらい嬉しいんだ」

目を見開き固まる佐藤さんを放置し、部屋を出て行こうとドアに手を掛けると佐藤さんはポツリと言った。

「会社で言いふらしますよ」

確かに隠し子がいるだなんて言いふらされたら俺の会社での印象は最悪になるだろう。
しかも将来はここの社長になろうという俺が。だけどそれでも俺は梨衣を取るだろう。取ってしまう。

「・・・いいよ、言いたければ言って」

振り返らずそれだけ告げると俺は部屋を後にした。


それから金曜までいつもと変わらない日々だった。どうやら佐藤さんは社員に言いふらしてはいないらしい。
余計な事は考えず、俺は必死に仕事に打ち込んだ。

そして金曜日ーー梨衣が東京へ来る日になった。朝からスマホを手放せない。
不安八割、期待二割で仕事をするが全く手につかず、結局終わったのは夜の九時だった。

自宅に帰る途中コンビニで適当に飯を買い、テレビをボーッと見ながら食べた。どの位そんな時間を過ごしていただろうかという時、スマホが鳴った。
テロップを見ると差出人は秀司さん。そしてーー『会ってくれるって』という言葉に俺は一人涙した。


次の日水族館に行くという梨衣たちに俺は後で合流する事になった。
場所は品川らしい。朝から一向に進まない時計を睨みつけながら約束の時間になるまで俺は待った。

そして約束の時間。
指定されたファミレスに入ると梨衣たちを見つけた。

梨衣は最後に岐阜で見た時と変わらず可愛らしかった。その隣にいる男の子ーー慧介はメニューを楽しそうに見ている。

席に近寄り、梨衣をじっと見つめた。
目の前に梨衣がいる。触れられる距離に梨衣がいる事に俺は泣きそうになった。

「梨衣・・・久しぶり・・・」
「うん・・・。久しぶりだね」

眉を八の字にし梨衣は笑った。







(八つ刻)やっと再会できました・・・。しかしストックがなくなりました:(ˊ◦ω◦ˋ):
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