51 / 57
西の転生者
51.亡国の姫君
しおりを挟む
サウスィーダ王国は世界の最南端、世界の壁のすぐそばにある島国だったそうだ。
空を見上げると世界の壁を間近で見ることが出来て、特に夜は透過する星の輝きが美しい。観光業と漁業に力を入れている、長閑な小国だった。
しかしある日突然、世界の壁に亀裂が入った。壁は時間をかけて、ゆっくりとヒビを大きくしていく。
そしてついに、破損した世界の壁によって水不足になり、死者を弔う闇の神官が足りなくなり、魔物が蔓延り、国は滅んだ。
サウスィーダ王国の末の姫のリチェアは、国が滅ぶ少し前に友好国の第四王子との結婚が決まった。末の姫リチェアと引き換えに災害支援を約束する申し出に、喉から手が出る程助けが欲しかったサウスィーダ王国が、諸手をあげて姫を差し出したからだ。
最初リチェアは友好国の姫として遇されたが、すぐに鍍金は剥がれ落ちた。リチェアは逃げられないように足枷をつけて閉じ込められたのだ。
末姫の名を使い、滅んだ国の民を受け入れる。表向きは避難民として、実際には奴隷民として。
そして民の待遇改善を願うリチェアを脅して、表沙汰にできない案件の魔法を解除させていく。
「そういう話は最近よく聞くよ」
宿に向かってぞろぞろと連れだって歩きながら、ノアの話を聞いていた光の管理者が大きな溜息をついた。
「大事な事だから聞いておくが、この呪いが解けたとして、この子がその国にまた捕まらない保証はあるのかい?」
「俺⋯⋯私が姫を守りま」
「出来ないことは口にしないようにしなさい」
ノアの言葉を遮ったミルミリアが冷たく目を細める。
システィーアは彼等の後ろをサーティスと並んで歩きながら、会話の行く末を見守った。
「罪人の立場では四六時中この子の側に居ることは不可能だ。出来ることならなんでもして償うと言ったのは、嘘だったのかい? それに、例えずっと側に居られたとしても、滅んだ小国の騎士一人では何の保証にもならない」
ノアの表情はこちらからでは見えないが、きっと先程までシスティーアに向けていたものと同じようなものを浮かべているのだろう。雰囲気で感じ取ったシスティーアは、移動前にミルミリアと名乗った光の管理者の背中を見た。
「この子は珍しく、魔力がかなり高めの壁魔法の使い手だから、呪いを解いたことが知られればまた利用されるだろうね。今の中央には各国を諫めている余裕がない。何せ裁定を司る闇の神官は、葬儀も司っているからね。管理者でさえ、魔物化を防ぐためにあちこち飛び回っている状態だ」
そう言ってミルミリアが、後ろを歩くサーティスの方へちらりと目配せした。
「ここへも葬儀のために着た。次の予定も入っている」
システィーアはそれを聞いて、思わず視線を落とした。
次の予定が入ってるのに、サーティスはシスティーアを助けにきてくれたのだ。貴重な時間を使わせてしまったことに申し訳なく思うの反面、自分が替えのきかない壁の管理者であって良かったと心底嬉しく思った。優先順位によっては、捨て置かれていたかもしれないのだ。考えるだけでも、ゾッとする。
顔を青くするシスティーアの頭に、ポンと温かい手が触れた。
それは一瞬のことで。思わず見上げると、フードで隠れたサーティスの横顔が見えた。
魔力からシスティーアの不安に気付いたのだろう。サーティスの気遣いと優しさに、胸の奥がほわっと暖かくなるのを感じた。
「システィーア様!」
突然の聞き覚えのある声にシスティーアが視線を向けると、前方からフォトムが慌てた様子で駆けて来た。
「サーティス様、ありがとうございます」
システィーアの姿に安堵したフォトムが、ほっと息を吐いて肩の力を抜く。
「心配をかけてごめんなさい、フォトム」
「いいえ。私の方こそ、お守りできずに申し訳ありませんでした」
その様子を見ていたミルミリアが、目を瞬かせて自分の供の一人に声をかけた。
「ジーン、壁の管理神官は何人残っていた?」
「三人だったはずです」
ふむと考えるような仕草をしたミルミリアが、一向を先へと促した。
「手伝っておくれ」
宿に着くと、ミルミリアがシスティーアに言った。
「さっき話していたのを聞いていたと思うが、この子は自分にいくつもの壁魔法をかけて呪いを遅らせている。一人で魔法を解除して呪いを解くのは中々手間がかかる。サーティスは次の予定があるのだろう?」
それを聞いたサーティスが頷く。
「システィーアにとっていい経験になるだろう。婆様を手伝っている間に、私は次に予定していた所を終わらせてくる。エレーナ、システィーアについていてくれ」
「かしこまりました」
宿でもう一人の犯人を拘束していたエレーナが、頷いて犯罪者をライガーに引き渡した。
きょとんとしたままのシスティーアを置き去りに、周りが慌ただしく動き出す。
「姫さまを、お願いします」
名残惜しそうに女性を見ていたノアが、もう一人の犯人とともにライガーに連れていかれる。その後にサーティスが続く。
部屋には意識のない女性と、システィーアとフォトム、闇の管理神官エレーナ、ミルミリアと光の管理神官三人となった。
先ほどよりは室内密度は下がったが、部屋の広さ的にまだ人数が多く思える。
ベッドの両サイドにそれぞれ、システィーアとミルミリアが立つ。その後ろ、少し距離を空けて、管理神官達が並ぶ。
「さあ始めようか」
ミルミリアが、まるでオペを始めるかのように両手を胸の位置まで上げた。
空を見上げると世界の壁を間近で見ることが出来て、特に夜は透過する星の輝きが美しい。観光業と漁業に力を入れている、長閑な小国だった。
しかしある日突然、世界の壁に亀裂が入った。壁は時間をかけて、ゆっくりとヒビを大きくしていく。
そしてついに、破損した世界の壁によって水不足になり、死者を弔う闇の神官が足りなくなり、魔物が蔓延り、国は滅んだ。
サウスィーダ王国の末の姫のリチェアは、国が滅ぶ少し前に友好国の第四王子との結婚が決まった。末の姫リチェアと引き換えに災害支援を約束する申し出に、喉から手が出る程助けが欲しかったサウスィーダ王国が、諸手をあげて姫を差し出したからだ。
最初リチェアは友好国の姫として遇されたが、すぐに鍍金は剥がれ落ちた。リチェアは逃げられないように足枷をつけて閉じ込められたのだ。
末姫の名を使い、滅んだ国の民を受け入れる。表向きは避難民として、実際には奴隷民として。
そして民の待遇改善を願うリチェアを脅して、表沙汰にできない案件の魔法を解除させていく。
「そういう話は最近よく聞くよ」
宿に向かってぞろぞろと連れだって歩きながら、ノアの話を聞いていた光の管理者が大きな溜息をついた。
「大事な事だから聞いておくが、この呪いが解けたとして、この子がその国にまた捕まらない保証はあるのかい?」
「俺⋯⋯私が姫を守りま」
「出来ないことは口にしないようにしなさい」
ノアの言葉を遮ったミルミリアが冷たく目を細める。
システィーアは彼等の後ろをサーティスと並んで歩きながら、会話の行く末を見守った。
「罪人の立場では四六時中この子の側に居ることは不可能だ。出来ることならなんでもして償うと言ったのは、嘘だったのかい? それに、例えずっと側に居られたとしても、滅んだ小国の騎士一人では何の保証にもならない」
ノアの表情はこちらからでは見えないが、きっと先程までシスティーアに向けていたものと同じようなものを浮かべているのだろう。雰囲気で感じ取ったシスティーアは、移動前にミルミリアと名乗った光の管理者の背中を見た。
「この子は珍しく、魔力がかなり高めの壁魔法の使い手だから、呪いを解いたことが知られればまた利用されるだろうね。今の中央には各国を諫めている余裕がない。何せ裁定を司る闇の神官は、葬儀も司っているからね。管理者でさえ、魔物化を防ぐためにあちこち飛び回っている状態だ」
そう言ってミルミリアが、後ろを歩くサーティスの方へちらりと目配せした。
「ここへも葬儀のために着た。次の予定も入っている」
システィーアはそれを聞いて、思わず視線を落とした。
次の予定が入ってるのに、サーティスはシスティーアを助けにきてくれたのだ。貴重な時間を使わせてしまったことに申し訳なく思うの反面、自分が替えのきかない壁の管理者であって良かったと心底嬉しく思った。優先順位によっては、捨て置かれていたかもしれないのだ。考えるだけでも、ゾッとする。
顔を青くするシスティーアの頭に、ポンと温かい手が触れた。
それは一瞬のことで。思わず見上げると、フードで隠れたサーティスの横顔が見えた。
魔力からシスティーアの不安に気付いたのだろう。サーティスの気遣いと優しさに、胸の奥がほわっと暖かくなるのを感じた。
「システィーア様!」
突然の聞き覚えのある声にシスティーアが視線を向けると、前方からフォトムが慌てた様子で駆けて来た。
「サーティス様、ありがとうございます」
システィーアの姿に安堵したフォトムが、ほっと息を吐いて肩の力を抜く。
「心配をかけてごめんなさい、フォトム」
「いいえ。私の方こそ、お守りできずに申し訳ありませんでした」
その様子を見ていたミルミリアが、目を瞬かせて自分の供の一人に声をかけた。
「ジーン、壁の管理神官は何人残っていた?」
「三人だったはずです」
ふむと考えるような仕草をしたミルミリアが、一向を先へと促した。
「手伝っておくれ」
宿に着くと、ミルミリアがシスティーアに言った。
「さっき話していたのを聞いていたと思うが、この子は自分にいくつもの壁魔法をかけて呪いを遅らせている。一人で魔法を解除して呪いを解くのは中々手間がかかる。サーティスは次の予定があるのだろう?」
それを聞いたサーティスが頷く。
「システィーアにとっていい経験になるだろう。婆様を手伝っている間に、私は次に予定していた所を終わらせてくる。エレーナ、システィーアについていてくれ」
「かしこまりました」
宿でもう一人の犯人を拘束していたエレーナが、頷いて犯罪者をライガーに引き渡した。
きょとんとしたままのシスティーアを置き去りに、周りが慌ただしく動き出す。
「姫さまを、お願いします」
名残惜しそうに女性を見ていたノアが、もう一人の犯人とともにライガーに連れていかれる。その後にサーティスが続く。
部屋には意識のない女性と、システィーアとフォトム、闇の管理神官エレーナ、ミルミリアと光の管理神官三人となった。
先ほどよりは室内密度は下がったが、部屋の広さ的にまだ人数が多く思える。
ベッドの両サイドにそれぞれ、システィーアとミルミリアが立つ。その後ろ、少し距離を空けて、管理神官達が並ぶ。
「さあ始めようか」
ミルミリアが、まるでオペを始めるかのように両手を胸の位置まで上げた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
逢生ありす
ファンタジー
女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――?
――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語――
『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』
五大国から成る異世界の王と
たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー
――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。
この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。
――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして……
その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない――
出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは?
最後に待つのは幸せか、残酷な運命か――
そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)
音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。
それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。
加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。
しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。
そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。
*内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。
尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる