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スーパーから公民館へ移動している途中で、同じように今日の作業を終えて宿泊先に移動する生徒たちとすれ違った。
中には同級生たちもいたんだけど、向こうは必ず宿泊先の人が一緒だった。
俺たちは公民館に泊まるのでホストファミリーはいない。そういう意味でなら気を遣わないで済むけど、壁一枚向こうに教師陣がいると思うと、特に悪いことをするつもりはなくても緊張するよね。
宿泊先の人とは丁寧に挨拶し、同級生には「またな」なんて軽く声を掛けて別れる。が、そちらを見ていた結人が「あ、あの家に入ってった」って。
徒歩でも数時間で一周できる島だ。
人が住んでいる土地に限ればもっと狭い。宿泊先が違ってもご近所さんには違いないってことだ。
「……ね。いま何時?」
颯真が聞いてくる。
答えたのは幸大。
「もうすぐ十八時」
「……公民館って十七時に閉まるんじゃなかったっけ」
「そう聞いたが」
二人の遣り取りを聞きながら皆の視線が明かりがついたままの公民館に向かう。
「もしかして予定入ったんじゃ?」
晴也が言うけど、結婚式や何かのお祝い事なら事前に予約が入っていたはず。柿本さん曰く俺たちが宿泊する期間に予定はなかったのだから、想定外の集まりとなると良くないことしか思いつかない。
そのせいで顔が強張っていたらしい。
「大丈夫だ」
武尊にそう声を掛けられて肩が跳ねた。
「人が集まってない」
「あ……」
言われてみれば、広い駐車場には公用車と思しきバンが一台あるだけだし、公民館に出入りする人はいなければ話し声も聞こえてこない。
「ちょい見て来るわ」
言うが早いか晴也が走り出し、公民館の中に。
内容までは聞こえないけど誰かと話しているのは判る。そのうち、ドアから上半身だけ出して来た晴也が手招きして来た。
「みんな来い来い! ばあちゃんがイモ蒸かしてくれてる」
「は?」
「イモ?」
戸惑いつつも晴也の後を追うように公民館に入ると、今日から三日間は受付の当番だと言っていた朝代さんが「おかえり」と笑顔で出迎えてくれた。
そんな彼女の側には大皿の上でラップに包まれているジャガイモたち。蒸かし済みなのが見ただけで判る状態で、皮が剥き易いよう上部がめくれていた。
しかもものすごい数だ。
「ただいま、です。ところで朝代さん、これって……」
「ばあちゃんの息子が育てたんだよ。とっても美味しいからお兄ちゃんたちにも食べてもらおうと思って。先生方の分もね」
朝代さんはそう言いながら、ラップに包まれたジャガイモを手渡してくる。
「お部屋にレンジあったでしょ。温めてね。それからこれ、息子の友達が釣ったイカで、ばあちゃんが作った塩辛なの。塩辛は食べられる?」
「好きー!」
結人が即答して、両手で塩辛の瓶を受け取った。
彼が持っていたじゃがいもは俺の手の上だ。
「バターが良ければバターもあるよ」
「バターはスーパーの屋台で買っ……もらって来ました」
もらったで良いのかな。
学校と島の間でそういうのも清算されるはずだけど、俺自身が支払いしていないから適当な言い方が判らなくて困る。
対して朝代さんはそういうのも慣れているのか、にこにこしながら「そうなの。バターも美味しいよ。田所さんちのバターでしょ」と。
それから、蒸かしたじゃがいもに何を乗せるかなんて話で盛り上がっている内に先生たちも戻って来て、部屋じゃなく此処で島の人と楽しんでいることを驚かれたが、同じように朝代さんからお裾分けを貰って恐縮していた。
ちなみに俺と武尊、晴也はバター。
結人が塩辛で、颯真と幸大は塩派だ。
「朝代さんと話盛り上がり過ぎてすっかり遅くなった」
苦笑交じりに幸大が言い、部屋に戻った時には十八時を過ぎていたので、先ずは手早く米を研いで炊飯器にセットした。
その間に、先ずは晴也が風呂に。
手が空いている人からどんどん入らないとコインランドリーに行く時間がなくなるし、就寝時間も遅くなるからだ。
風呂の順番が来るまでは手分けして夕飯準備と校外学習のメインでもあるレポート課題のための記録とまとめ。俺の役割は前者で、隣には武尊。
家にいるのと変わりない並びにホッとする。
「武尊、野菜全部ざく切りにして」
「ああ」
シンクの右半分を蓋して広げた作業場は、それでも広いとは言えないので互いに注意しながら包丁を扱う。
部屋では大きなちゃぶ台を広げた幸大と結人、颯真が今日の作業をそれぞれに記録しながらそれぞれ過不足が無いかを確認し合っていた。
晴也が風呂から出て来て、結人と交代。
「晴也、手伝ってもらっても良いかな」
「おう。何したらいい?」
「両手をこうして」
言われるがまま手の平を上にして揃えられたそこに、大き目に切ったアルミホイルを乗せる。
「作業台が狭いから少しの間そのままでいて」
「お、おう」
晴也の手の平の上に敷いたアルミホイル、その上に野菜を敷き、サクラマスの切り身を乗せ、合わせ済みの調味料を回し掛け、最後にバターを乗せたら、アルミホイルをキャンディの包み紙のように巻いて両サイドを捩じる。これを六回繰り返して終了。
次いで味噌汁。
朝代さんから貰った蒸かし芋も温めるだけに整えた後は、ご飯が炊けるまで俺と武尊もレポート作業に参加した。
ご飯は美味しかった。
じゃがいもも、塩辛も美味しかったが、サクラマスがとにかく美味しかった。五合の白米はあっという間になくなった。全員が大満足の夕飯だった。
その後、颯真が風呂に入り、幸大、武尊、そして最後にキッチンの後片付けを終えた俺が入ってすぐ。
「ひぃちゃん、コインランドリー行って来るから脱いだもの貰ってくよー」
「ん、お願いします」
事前に聞いていたので驚くこともなく、諸々済ませて風呂を出ると部屋には武尊と幸大だけ。
ちゃぶ台の上にはスーパーで結人たちが買って来た菓子が乗っていたがどれも未開封のまま、二人の手元にはまだまだ空白の多いレポート用紙が広げられている。
空白部分は俺と、武尊、幸大が書くべき箇所だ。
「書くこと決まらないの?」
「んー……」
二人ともシャープペンシルを利き手に持っているのに、武尊は壁に背中を預けた体勢でシャーペンを指先でくるくる回しているだけだし、幸大は紙と向き合っているものの芯を出したりしまったりで、まるで書く気がない。
「どうしたのさ」
「どう、っつーか」
幸大が溜息を吐く。
一体どうしたのかと思いつつ部屋を見渡して、あれ? と思う。今日の洗濯当番は結人と晴也の二人だったはず。
「コインランドリー、三人で行ったの?」
「颯真が隣のコンビニを見てみたいって」
「へえ」
「コンビニにも目新しいものはないと思うんだけどな」
結人がスーパーで買って来たのは見慣れた商品ばかりで、北海道限定商品はあっても、島オリジナルではない。観光地でもなければ人口約千人の小さな島だ。スーパーとコンビニがあるだけですごいと思う。
「……」
空白の多いレポート用紙を眺めてしばらく。
「聖」
幸大からシャープペンシルを差し出される。
俺も今日の分も記入しないとならないのだから感謝して受け取るのがいま取るべき行動、……のはずなのに。
なんだろう。
手が出ない。
なんで、って自分でも思っているのが顔に出たのか、今度は隣から武尊の溜息が聞こえた。
「おまえもか」
「え?」
「……おかしいよな」
幸大がぽつりと零した呟きは、俺と、そしてきっと武尊とも同じ気持ちだった。
「なんかさ、書くことを纏めようと思って考えれば考えるほど、混乱するっつーか……気になって仕方なくなるんだ。この島はおかしいって」
この島はおかしい。
その言葉に戸惑うが、よくよく考えてみると自分も今日一日で何度も同じように感じていたことを思い出した。
「……ここ、人口の割にというか……島っぽくないよね」
言ったら二人が頷いた。
「病院は結構しっかりしてるみたいだし、役場、学校、港……、ドラマなんかで見る離島をイメージしていたから、正直ビビった」
「判る」
小さな診療所をお医者さん一人で切り盛りしているのかと思いきや三階建ての鉄筋コンクリート造りの病院は介護施設も兼ねていて複数の医師と看護師が常駐しているというのだから安心感がすごい。
役場も立派。
学校だって俺たちが通っている市立のそれとほとんど変わらなかった。
極めつけがあの地下シェルターだ。
「絶対におかしい。けど、もう何年もうちの高校が此処で校外学習をしているってことは、何か悪いことしてるってわけじゃないと思うんだ」
言うと、隣で武尊が頷く。
「校外学習で来ているの、うちの高校だけじゃないらしいしな」
「……校外学習の受け入れで国から支援がある、とか」
「あったからって、あのシェルターは無理だろ」
ちゃぶ台に身を乗り出し、密談のように小声で話す。
俺たちこそ悪いことを相談してるわけじゃないのに。
「しかも、気付いたか。此処の人口ピラミッド」
「子どもがすごく多かった」
「それ」
柿下さんに聞いたら「高校に通うために島を出る人が大半なんですが、いざ就職ってなると、ありがたいことに半数以上が島に帰って来てくれるんですよ」と教えてくれた。
つまり帰って来た人たちは此処で結婚して、子育てし、働いている。
生まれ育った土地に愛着を持つのはとても自然だし、骨を埋めたくなる気持ちもわかる。俺だって北海道を出る気はないから。
だから、理解は出来るんだけど。
「……なんなんだろう、この違和感」
たった二泊三日の縁だ。
校外学習が終われば、もしかしたら二度と来ることのない場所なのだから、余計なことは考えずに決められた作業を終わらせてレポート課題を済ませば良い。
それで良いのに、レポート用紙を前にすると手が止まる。
「……このへんは結人の字だ」
「ああ。こっちが晴也」
「判り易いなぁ。ここ颯真だろ」
「正解。……正直、あいつらが普通に今日のあれこれを記録していくのも変な感じだった」
調理優先で、レポート用紙さえいま初めて目にした俺は友人たちがどんな様子で今日の記録をしていったのか知らない。武尊を見たら軽く頷き返されたので、彼に取っても変な感じだったんだろう。
はぁ。
考えれば考えるほど判らなくなって、まるでのぼせたみたいに頭の中がグラグラする。
「窓開けても良い?」
「ああ」
「俺も風に当たりたい」
武尊がそう言うので一緒に窓に近付いて、開けた直後だった。
「ん?」
この宿泊部屋は、公民館の中にあるセレモニーホールの上を歩かないよう設計されているから窓の向こうは屋根だ。その屋根の上を、窓を開けると同時に駆けていった影。
「……この辺って猿なんて出るのかな」
「猿?」
「いま屋根を走ってただろ。あ、猿かどうかはわかんないし、どっちかって言ったら犬か猫みたいな……」
武尊を見上げた俺は、そこで言葉を切った。
彼の目が言っている。
武尊は何も見ていなかった。
中には同級生たちもいたんだけど、向こうは必ず宿泊先の人が一緒だった。
俺たちは公民館に泊まるのでホストファミリーはいない。そういう意味でなら気を遣わないで済むけど、壁一枚向こうに教師陣がいると思うと、特に悪いことをするつもりはなくても緊張するよね。
宿泊先の人とは丁寧に挨拶し、同級生には「またな」なんて軽く声を掛けて別れる。が、そちらを見ていた結人が「あ、あの家に入ってった」って。
徒歩でも数時間で一周できる島だ。
人が住んでいる土地に限ればもっと狭い。宿泊先が違ってもご近所さんには違いないってことだ。
「……ね。いま何時?」
颯真が聞いてくる。
答えたのは幸大。
「もうすぐ十八時」
「……公民館って十七時に閉まるんじゃなかったっけ」
「そう聞いたが」
二人の遣り取りを聞きながら皆の視線が明かりがついたままの公民館に向かう。
「もしかして予定入ったんじゃ?」
晴也が言うけど、結婚式や何かのお祝い事なら事前に予約が入っていたはず。柿本さん曰く俺たちが宿泊する期間に予定はなかったのだから、想定外の集まりとなると良くないことしか思いつかない。
そのせいで顔が強張っていたらしい。
「大丈夫だ」
武尊にそう声を掛けられて肩が跳ねた。
「人が集まってない」
「あ……」
言われてみれば、広い駐車場には公用車と思しきバンが一台あるだけだし、公民館に出入りする人はいなければ話し声も聞こえてこない。
「ちょい見て来るわ」
言うが早いか晴也が走り出し、公民館の中に。
内容までは聞こえないけど誰かと話しているのは判る。そのうち、ドアから上半身だけ出して来た晴也が手招きして来た。
「みんな来い来い! ばあちゃんがイモ蒸かしてくれてる」
「は?」
「イモ?」
戸惑いつつも晴也の後を追うように公民館に入ると、今日から三日間は受付の当番だと言っていた朝代さんが「おかえり」と笑顔で出迎えてくれた。
そんな彼女の側には大皿の上でラップに包まれているジャガイモたち。蒸かし済みなのが見ただけで判る状態で、皮が剥き易いよう上部がめくれていた。
しかもものすごい数だ。
「ただいま、です。ところで朝代さん、これって……」
「ばあちゃんの息子が育てたんだよ。とっても美味しいからお兄ちゃんたちにも食べてもらおうと思って。先生方の分もね」
朝代さんはそう言いながら、ラップに包まれたジャガイモを手渡してくる。
「お部屋にレンジあったでしょ。温めてね。それからこれ、息子の友達が釣ったイカで、ばあちゃんが作った塩辛なの。塩辛は食べられる?」
「好きー!」
結人が即答して、両手で塩辛の瓶を受け取った。
彼が持っていたじゃがいもは俺の手の上だ。
「バターが良ければバターもあるよ」
「バターはスーパーの屋台で買っ……もらって来ました」
もらったで良いのかな。
学校と島の間でそういうのも清算されるはずだけど、俺自身が支払いしていないから適当な言い方が判らなくて困る。
対して朝代さんはそういうのも慣れているのか、にこにこしながら「そうなの。バターも美味しいよ。田所さんちのバターでしょ」と。
それから、蒸かしたじゃがいもに何を乗せるかなんて話で盛り上がっている内に先生たちも戻って来て、部屋じゃなく此処で島の人と楽しんでいることを驚かれたが、同じように朝代さんからお裾分けを貰って恐縮していた。
ちなみに俺と武尊、晴也はバター。
結人が塩辛で、颯真と幸大は塩派だ。
「朝代さんと話盛り上がり過ぎてすっかり遅くなった」
苦笑交じりに幸大が言い、部屋に戻った時には十八時を過ぎていたので、先ずは手早く米を研いで炊飯器にセットした。
その間に、先ずは晴也が風呂に。
手が空いている人からどんどん入らないとコインランドリーに行く時間がなくなるし、就寝時間も遅くなるからだ。
風呂の順番が来るまでは手分けして夕飯準備と校外学習のメインでもあるレポート課題のための記録とまとめ。俺の役割は前者で、隣には武尊。
家にいるのと変わりない並びにホッとする。
「武尊、野菜全部ざく切りにして」
「ああ」
シンクの右半分を蓋して広げた作業場は、それでも広いとは言えないので互いに注意しながら包丁を扱う。
部屋では大きなちゃぶ台を広げた幸大と結人、颯真が今日の作業をそれぞれに記録しながらそれぞれ過不足が無いかを確認し合っていた。
晴也が風呂から出て来て、結人と交代。
「晴也、手伝ってもらっても良いかな」
「おう。何したらいい?」
「両手をこうして」
言われるがまま手の平を上にして揃えられたそこに、大き目に切ったアルミホイルを乗せる。
「作業台が狭いから少しの間そのままでいて」
「お、おう」
晴也の手の平の上に敷いたアルミホイル、その上に野菜を敷き、サクラマスの切り身を乗せ、合わせ済みの調味料を回し掛け、最後にバターを乗せたら、アルミホイルをキャンディの包み紙のように巻いて両サイドを捩じる。これを六回繰り返して終了。
次いで味噌汁。
朝代さんから貰った蒸かし芋も温めるだけに整えた後は、ご飯が炊けるまで俺と武尊もレポート作業に参加した。
ご飯は美味しかった。
じゃがいもも、塩辛も美味しかったが、サクラマスがとにかく美味しかった。五合の白米はあっという間になくなった。全員が大満足の夕飯だった。
その後、颯真が風呂に入り、幸大、武尊、そして最後にキッチンの後片付けを終えた俺が入ってすぐ。
「ひぃちゃん、コインランドリー行って来るから脱いだもの貰ってくよー」
「ん、お願いします」
事前に聞いていたので驚くこともなく、諸々済ませて風呂を出ると部屋には武尊と幸大だけ。
ちゃぶ台の上にはスーパーで結人たちが買って来た菓子が乗っていたがどれも未開封のまま、二人の手元にはまだまだ空白の多いレポート用紙が広げられている。
空白部分は俺と、武尊、幸大が書くべき箇所だ。
「書くこと決まらないの?」
「んー……」
二人ともシャープペンシルを利き手に持っているのに、武尊は壁に背中を預けた体勢でシャーペンを指先でくるくる回しているだけだし、幸大は紙と向き合っているものの芯を出したりしまったりで、まるで書く気がない。
「どうしたのさ」
「どう、っつーか」
幸大が溜息を吐く。
一体どうしたのかと思いつつ部屋を見渡して、あれ? と思う。今日の洗濯当番は結人と晴也の二人だったはず。
「コインランドリー、三人で行ったの?」
「颯真が隣のコンビニを見てみたいって」
「へえ」
「コンビニにも目新しいものはないと思うんだけどな」
結人がスーパーで買って来たのは見慣れた商品ばかりで、北海道限定商品はあっても、島オリジナルではない。観光地でもなければ人口約千人の小さな島だ。スーパーとコンビニがあるだけですごいと思う。
「……」
空白の多いレポート用紙を眺めてしばらく。
「聖」
幸大からシャープペンシルを差し出される。
俺も今日の分も記入しないとならないのだから感謝して受け取るのがいま取るべき行動、……のはずなのに。
なんだろう。
手が出ない。
なんで、って自分でも思っているのが顔に出たのか、今度は隣から武尊の溜息が聞こえた。
「おまえもか」
「え?」
「……おかしいよな」
幸大がぽつりと零した呟きは、俺と、そしてきっと武尊とも同じ気持ちだった。
「なんかさ、書くことを纏めようと思って考えれば考えるほど、混乱するっつーか……気になって仕方なくなるんだ。この島はおかしいって」
この島はおかしい。
その言葉に戸惑うが、よくよく考えてみると自分も今日一日で何度も同じように感じていたことを思い出した。
「……ここ、人口の割にというか……島っぽくないよね」
言ったら二人が頷いた。
「病院は結構しっかりしてるみたいだし、役場、学校、港……、ドラマなんかで見る離島をイメージしていたから、正直ビビった」
「判る」
小さな診療所をお医者さん一人で切り盛りしているのかと思いきや三階建ての鉄筋コンクリート造りの病院は介護施設も兼ねていて複数の医師と看護師が常駐しているというのだから安心感がすごい。
役場も立派。
学校だって俺たちが通っている市立のそれとほとんど変わらなかった。
極めつけがあの地下シェルターだ。
「絶対におかしい。けど、もう何年もうちの高校が此処で校外学習をしているってことは、何か悪いことしてるってわけじゃないと思うんだ」
言うと、隣で武尊が頷く。
「校外学習で来ているの、うちの高校だけじゃないらしいしな」
「……校外学習の受け入れで国から支援がある、とか」
「あったからって、あのシェルターは無理だろ」
ちゃぶ台に身を乗り出し、密談のように小声で話す。
俺たちこそ悪いことを相談してるわけじゃないのに。
「しかも、気付いたか。此処の人口ピラミッド」
「子どもがすごく多かった」
「それ」
柿下さんに聞いたら「高校に通うために島を出る人が大半なんですが、いざ就職ってなると、ありがたいことに半数以上が島に帰って来てくれるんですよ」と教えてくれた。
つまり帰って来た人たちは此処で結婚して、子育てし、働いている。
生まれ育った土地に愛着を持つのはとても自然だし、骨を埋めたくなる気持ちもわかる。俺だって北海道を出る気はないから。
だから、理解は出来るんだけど。
「……なんなんだろう、この違和感」
たった二泊三日の縁だ。
校外学習が終われば、もしかしたら二度と来ることのない場所なのだから、余計なことは考えずに決められた作業を終わらせてレポート課題を済ませば良い。
それで良いのに、レポート用紙を前にすると手が止まる。
「……このへんは結人の字だ」
「ああ。こっちが晴也」
「判り易いなぁ。ここ颯真だろ」
「正解。……正直、あいつらが普通に今日のあれこれを記録していくのも変な感じだった」
調理優先で、レポート用紙さえいま初めて目にした俺は友人たちがどんな様子で今日の記録をしていったのか知らない。武尊を見たら軽く頷き返されたので、彼に取っても変な感じだったんだろう。
はぁ。
考えれば考えるほど判らなくなって、まるでのぼせたみたいに頭の中がグラグラする。
「窓開けても良い?」
「ああ」
「俺も風に当たりたい」
武尊がそう言うので一緒に窓に近付いて、開けた直後だった。
「ん?」
この宿泊部屋は、公民館の中にあるセレモニーホールの上を歩かないよう設計されているから窓の向こうは屋根だ。その屋根の上を、窓を開けると同時に駆けていった影。
「……この辺って猿なんて出るのかな」
「猿?」
「いま屋根を走ってただろ。あ、猿かどうかはわかんないし、どっちかって言ったら犬か猫みたいな……」
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