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第4章 ダンジョン攻略
閑話:皇帝陛下の視点から『小さな光り』
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プラーントゥ大陸からの使節団歓迎会の開催を宣言した直後に主役だったはずの主神様の番殿こと未成年僧侶のレン・キノシタがその場から忽然と姿を消して、二日。
オセアン大陸7カ国を統治する皇帝マルシャル・ヌダム・ラファエリ・メールが開いた会議の席には、プラーントゥ大陸リシーゾン国の大臣と共に、レンの師匠だというドワーフの僧侶セルリーが同席していた。
議題は件の魔導具――魔獣除けを改造して作ったという獄鬼除けだ。
獄鬼にのみ効果を齎すもので、僧侶の魔力が必須。
それも僧侶によって効果に差が出ることは先日の牢の一件で確認済みだが、それ以外はデータ不足。あとはオセアン大陸で実験データを積み重ねていかなければならないと僧侶セルリーは言う。
「トル国の王太子殿下に憑いた獄鬼の疲弊具合から見ても、この獄鬼除けの効果は実証出来たものと考えます。まさか拷問具としても使えるとは想定していませんでしたが」
レンの神力を込めた獄鬼除けでは、実に多くの情報を引き出す事が出来た。
そしていま、この会議の席でも、トル国の王太子殿下は会議に出席した全員の前で二日前に地下牢で明かした事情を改めて白状させられていた。
いま使われている魔導に込められのは、セルリーの魔力だ。
「道具というのは使う側の発想一つで様々に用法が広がっていくものと存じます。そういったアイディアもご意見として頂けますと幸いです」
にこりとセルリーは微笑むが、この場に集った面々の心境としては「待て待て待て」である。
なにせ王太子殿下に憑いた獄鬼から齎された情報は想像を絶するほど彼の国の危機的状況を知らしめるものだったからだ。
トル国の王太子殿下に獄鬼が憑いたのはもう半年も前で、トル国では王も、王妃も、そして多くの貴族が既に獄鬼の手に堕ちているという。
更にはトル国が秘密裏にマーヘ大陸と繋がり、トル国の民を奴隷として売る代わりに獄鬼の卵を手に入れてメール国に送り込んでいたこと。
あの三人の側近は、帝都で殺害される予定だったこと。
彼方側はそれを理由に開戦する準備を整えているというのだ。
しかも、あわよくば主神様の番だと嘯く僧侶も始末するつもりだった、と。
そうまで言われてしまえば、利用されて殺されるはずだった三人は何でもしゃべってくれた。
「トルでも獄鬼の被害が頻発していましたから、本当に主神様の番ならば力を貸して欲しいとお願いするのが私たちの役目でした。まさか王太子殿下が初日に投獄されるなど思ってもおらず……大変な失礼を申し上げました」
「申し訳ございません。……まさか、お願いの席で全員まとめて殺すつもりだったなんて……!」
「王までが獄鬼に憑かれていたなんて、そんな……っ」
僧侶が一人でもいれば防げたかもしれない事態。
だが、僧侶の絶対数が足りないのは世界公認の事実で、王族たるもの獄鬼に憑かれるような性根で務まるはずもなし、トル国は「自滅した」というのが最も正しい。
だが――。
「皇帝陛下にお願い申し上げます。トル国にはまだまともな貴族も大勢います。市井の民は言わずもがな……罪なき彼らをお救い下さい」
「あの国を放っておけばいずれはメール国、西方4カ国、ピティ国にもマーヘ大陸の手は伸びましょう」
トル国の三人の訴えに、他の人々も重々しい声や、息を漏らす。
他国の出席者は皆が各国の重鎮だ。
この情報を持ち返ると共に、何としてもマーヘ国を――獄鬼を国に侵入させないための手段を確立しなければいけない。
「プラーントゥ大陸からその話を聞いた時にはまさかと一笑に付したが……マーヘ大陸は本当に獄鬼と手を組んだのか」
「……それを懸念し、私の弟子はこの魔導具の開発を希望しました」
「ほう。発案はレンなのか」
セルリーに確認すると、彼女ははっきりと頷いた。
「あの子はまだ未成年の子どもですが、自分一人がどうこうしたところで世界中を救えないのは理解しているのでしょう」
「なるほど」
迂闊ではあるが、やはり聡明な子どもなのだと皇帝マルシャルは納得する。
と、他方からの疑問の声。
「その、セルリー女史が開発した魔導具があれば侵入を防げるのですか?」
「そういう目的で製作したのは確かですが、幸い現在のプラーントゥ大陸には獄鬼が近付かないため実証は出来ていません。こちらとしてはオセアン大陸の皆様に実証実験をお願いしたいと思っています」
スッと皆の視線が集まるのは、皇帝マルシャル・ヌダム・ラファエリ・メールだ。
皇帝は軽く息を吐いた。
「その魔導具の効果は昨日の内に充分に目にした。力を注ぐ僧侶によって効果が変わることもな。いま魔導具に魔力を注いだのは其方であろう、セルリー」
「はい」
「昨日は5人の僧侶が順番に魔力を注いだが、レンと、他の僧侶では効果が段違いだった。しかしそなたの魔力はレンが齎した効果に似ているように思う。理由に心当たりは」
「ございます。ですがこれは私が作る『僧侶の薬』に由来するため詳細は申し上げられませんが、よろしいでしょうか?」
「構わん」
「であれば、回復魔法を使うつもりで魔力を注ぐと効果が上がるかと」
「回復魔法?」
「魔石にか?」
「何事も実験です」
セルリーはにこりと微笑むと、会議に持参した20の魔導具のうち4つを同席している僧侶達に手渡した。全員、昨日も一緒にいた面々だ。
半信半疑で回復魔法を使い、その魔導具の効果をトル国の王太子殿下で試す。
「ひぃっ」
一人目。
「ぎゃあぁ」
二人目。
「もう殺してくれ!!」
三人目。
だんだんと哀れになって来るが、効果が上がっているのは間違いなくて、皇帝をはじめ出席者全員が感心した様子で見入っている。
「これ一つでどの程度の範囲、どのくらいの期間、獄鬼の侵入を防げるのかは、今後の皆様のご協力次第で解明されていくと思います」
「しかし20個しかないのでは……数を増やす事は可能か?」
「それは、私の弟子を通して主神様にお伺いしてみないことには何とも言えません」
「な、んだと?」
「主神様に……?」
「はい。魔獣除けの魔導具を改造し、獄鬼除けとするために中に入れたのは主神様の角ですから」
ざざっと魔導具から一斉に距離を取った重鎮たち。
それを知っているのはプラーントゥ大陸の面々と、昨日の牢でレンから直接それを聞いた皇帝、トル国の3名、そして僧侶達だけ。
「そ、ほっ、っ……それ、は、真か……⁈」
「嘘など申しません。主神様より、一ヵ所にご自身の神力が溜まり過ぎるのは世界の魔力との均衡を崩すおそれがあり、最悪の場合には魔物の氾濫が起きると言われています。この20を、どの程度の距離を開けて設置することで、幾つまで増やせるのかは、我々が決められることではないのです」
――結果として、オセアン大陸で20の獄鬼除け魔導具の実証実験を行くことを決定。
魔導具の数はレンと相談の後、許容範囲で増産し、幾つかにはレンの魔力を、また幾つかには別の僧侶の魔力を注ぐことで出るだろう異なるデータを詳細に記録すること、と決まった。
レンの帰還後、改めて会議の場を設けることになったが、最後にセルリーが爆弾を落としていく。
「最後に私の弟子はいま帝都の獄鬼を一掃し疲弊した心身を癒すため主神様の御許で回復中です。こちらで準備して頂いた寝室にはおりませんので、面会のお約束もなくお越しになられるのは控えて頂ければ幸いですわね。ふふふっ」
セルリーの微笑みにピティ国の王子と、その側近が顔色を悪くした。
あの日の地下牢で、トル国が獄鬼に――マーヘ大陸の手に堕ちたのだと聞いて、すぐに「俺が行きます」とレンは言った。
周りの冒険者パーティは「待て」と慌てて落ち着かせていたが、獄鬼の脅威が僧侶にしか対処出来ないのであれば自分が行くのは当然だと、あんなにも幼い見た目で、吹けば飛んでしまいそうな線の細さだというのに頑固さは人一倍だと思った。
同時に、これがプラーントゥ大陸の「奇跡」だと納得もしたのだ。
実を言えば、皇帝マルシャル・ヌダム・ラファエリ・メールは一年近く前からレンのことを知っていた。
オセアン大陸の商隊が世話になったという報告を上げて来たのは冒険者ギルドのマスターで「世界には凄い僧侶がいるもんだ」と酒の肴にするような話題の一つだったが、獄鬼との戦闘で被害という被害がなくて済んだのはレンのおかげだと、共闘した冒険者達が絶賛していたそうだ。
その後、プラーントゥ大陸リシーゾンの国王から手紙が届いた。どの大陸の、どの国だって、あらゆる国に間諜を送り込んでいる。今年の春くらいからオセアン大陸で獄鬼の被害が多発しているのはあちらも承知していたのだろう。
『我が国の僧侶が貴殿の国を獄鬼の脅威より解放したいと望んでいる。オセアン大陸としても悪い話ではないはずだ。入国の許可を』
要点だけを纏めると、そんな内容だった。
更に一点。
『獄鬼による災禍を退けた際には、その子達のパーティにオセアン大陸のダンジョンに入場する許可を与えてくれ』
ダンジョンへの入場許可。
それが踏破済み、未踏破に関わらオセアン大陸にあるすべてのダンジョンへの入場許可だと判ればこそ蟀谷に浮かんだ青筋が引き攣った。
どういうつもりかと、改めてプラーントゥ大陸にいる手の者に調査をさせれば、数カ月前から大陸内における獄鬼の被害がゼロになったという返答があった。
その理由はたった一人の少年であるらしい、とも。
プラーントゥ大陸から獄鬼を一掃したのが子ども一人の影響だ、などと、そんな虚言を鵜呑みにすると思われている事が腹立たしい。
騙したいのなら、もっとまともな嘘を吐けと思ったものだ。
だが、今となっては――。
(いくら応援領域持ちなんて珍しい僧侶だとはいえ、子ども一人の影響力で獄鬼がいなくなるなど、あるわけがないと思ったんだがな……)
テラスから見下ろす夜景が、これまでと比べ物にならないほど美しい。
僧侶以外には感じ取ることが出来ないと言われる獄鬼だが、それらが一掃された景色を美しいと感じられるなら、実は見る事が出来るのではないだろうかと淡い希望を抱かずにはいられない。
オセアン大陸で一つの国が沈んだ。
まだ確認したわけではないが、ほぼ間違いない。
更には敵は国境を接するメールや、西方4カ国にもその魔手を伸ばすだろう。
「俺が行きます」
一瞬の躊躇もなく言い切った少年の声が甦る。
自分についていくことになるだろう仲間の事も考えろと思ったが、周りの面々も「落ち着け」とは言ったが「ダメだ」とは言わなかった。
情報を集めてからだ。
まずは帝都の獄鬼を一掃してからだ。
その後はどうしたって倒れるんだから回復するまでの間に準備を進めておく――冒険者ならではのフットワークの軽さに、つい羨ましくなったことは否定できない。
(いいチームだ)
本心からそう思う。
同時に、彼らが本当にトル国を獄鬼から取り返してくれるなら、オセアン大陸は全てのダンジョンの入場許可を彼らに与えねばならないだろう。
(未踏破の白金ダンジョンにもいつか挑みに来るんだろうな……)
マルシャルは苦笑する。
余所者に暴かれるなど冗談ではないと、確かにそう思っていたのに……いまは、長く攻略の進んでいないダンジョンから笑顔で出て来る彼らが見たい、と。
ふと、そんなことを思った。
オセアン大陸7カ国を統治する皇帝マルシャル・ヌダム・ラファエリ・メールが開いた会議の席には、プラーントゥ大陸リシーゾン国の大臣と共に、レンの師匠だというドワーフの僧侶セルリーが同席していた。
議題は件の魔導具――魔獣除けを改造して作ったという獄鬼除けだ。
獄鬼にのみ効果を齎すもので、僧侶の魔力が必須。
それも僧侶によって効果に差が出ることは先日の牢の一件で確認済みだが、それ以外はデータ不足。あとはオセアン大陸で実験データを積み重ねていかなければならないと僧侶セルリーは言う。
「トル国の王太子殿下に憑いた獄鬼の疲弊具合から見ても、この獄鬼除けの効果は実証出来たものと考えます。まさか拷問具としても使えるとは想定していませんでしたが」
レンの神力を込めた獄鬼除けでは、実に多くの情報を引き出す事が出来た。
そしていま、この会議の席でも、トル国の王太子殿下は会議に出席した全員の前で二日前に地下牢で明かした事情を改めて白状させられていた。
いま使われている魔導に込められのは、セルリーの魔力だ。
「道具というのは使う側の発想一つで様々に用法が広がっていくものと存じます。そういったアイディアもご意見として頂けますと幸いです」
にこりとセルリーは微笑むが、この場に集った面々の心境としては「待て待て待て」である。
なにせ王太子殿下に憑いた獄鬼から齎された情報は想像を絶するほど彼の国の危機的状況を知らしめるものだったからだ。
トル国の王太子殿下に獄鬼が憑いたのはもう半年も前で、トル国では王も、王妃も、そして多くの貴族が既に獄鬼の手に堕ちているという。
更にはトル国が秘密裏にマーヘ大陸と繋がり、トル国の民を奴隷として売る代わりに獄鬼の卵を手に入れてメール国に送り込んでいたこと。
あの三人の側近は、帝都で殺害される予定だったこと。
彼方側はそれを理由に開戦する準備を整えているというのだ。
しかも、あわよくば主神様の番だと嘯く僧侶も始末するつもりだった、と。
そうまで言われてしまえば、利用されて殺されるはずだった三人は何でもしゃべってくれた。
「トルでも獄鬼の被害が頻発していましたから、本当に主神様の番ならば力を貸して欲しいとお願いするのが私たちの役目でした。まさか王太子殿下が初日に投獄されるなど思ってもおらず……大変な失礼を申し上げました」
「申し訳ございません。……まさか、お願いの席で全員まとめて殺すつもりだったなんて……!」
「王までが獄鬼に憑かれていたなんて、そんな……っ」
僧侶が一人でもいれば防げたかもしれない事態。
だが、僧侶の絶対数が足りないのは世界公認の事実で、王族たるもの獄鬼に憑かれるような性根で務まるはずもなし、トル国は「自滅した」というのが最も正しい。
だが――。
「皇帝陛下にお願い申し上げます。トル国にはまだまともな貴族も大勢います。市井の民は言わずもがな……罪なき彼らをお救い下さい」
「あの国を放っておけばいずれはメール国、西方4カ国、ピティ国にもマーヘ大陸の手は伸びましょう」
トル国の三人の訴えに、他の人々も重々しい声や、息を漏らす。
他国の出席者は皆が各国の重鎮だ。
この情報を持ち返ると共に、何としてもマーヘ国を――獄鬼を国に侵入させないための手段を確立しなければいけない。
「プラーントゥ大陸からその話を聞いた時にはまさかと一笑に付したが……マーヘ大陸は本当に獄鬼と手を組んだのか」
「……それを懸念し、私の弟子はこの魔導具の開発を希望しました」
「ほう。発案はレンなのか」
セルリーに確認すると、彼女ははっきりと頷いた。
「あの子はまだ未成年の子どもですが、自分一人がどうこうしたところで世界中を救えないのは理解しているのでしょう」
「なるほど」
迂闊ではあるが、やはり聡明な子どもなのだと皇帝マルシャルは納得する。
と、他方からの疑問の声。
「その、セルリー女史が開発した魔導具があれば侵入を防げるのですか?」
「そういう目的で製作したのは確かですが、幸い現在のプラーントゥ大陸には獄鬼が近付かないため実証は出来ていません。こちらとしてはオセアン大陸の皆様に実証実験をお願いしたいと思っています」
スッと皆の視線が集まるのは、皇帝マルシャル・ヌダム・ラファエリ・メールだ。
皇帝は軽く息を吐いた。
「その魔導具の効果は昨日の内に充分に目にした。力を注ぐ僧侶によって効果が変わることもな。いま魔導具に魔力を注いだのは其方であろう、セルリー」
「はい」
「昨日は5人の僧侶が順番に魔力を注いだが、レンと、他の僧侶では効果が段違いだった。しかしそなたの魔力はレンが齎した効果に似ているように思う。理由に心当たりは」
「ございます。ですがこれは私が作る『僧侶の薬』に由来するため詳細は申し上げられませんが、よろしいでしょうか?」
「構わん」
「であれば、回復魔法を使うつもりで魔力を注ぐと効果が上がるかと」
「回復魔法?」
「魔石にか?」
「何事も実験です」
セルリーはにこりと微笑むと、会議に持参した20の魔導具のうち4つを同席している僧侶達に手渡した。全員、昨日も一緒にいた面々だ。
半信半疑で回復魔法を使い、その魔導具の効果をトル国の王太子殿下で試す。
「ひぃっ」
一人目。
「ぎゃあぁ」
二人目。
「もう殺してくれ!!」
三人目。
だんだんと哀れになって来るが、効果が上がっているのは間違いなくて、皇帝をはじめ出席者全員が感心した様子で見入っている。
「これ一つでどの程度の範囲、どのくらいの期間、獄鬼の侵入を防げるのかは、今後の皆様のご協力次第で解明されていくと思います」
「しかし20個しかないのでは……数を増やす事は可能か?」
「それは、私の弟子を通して主神様にお伺いしてみないことには何とも言えません」
「な、んだと?」
「主神様に……?」
「はい。魔獣除けの魔導具を改造し、獄鬼除けとするために中に入れたのは主神様の角ですから」
ざざっと魔導具から一斉に距離を取った重鎮たち。
それを知っているのはプラーントゥ大陸の面々と、昨日の牢でレンから直接それを聞いた皇帝、トル国の3名、そして僧侶達だけ。
「そ、ほっ、っ……それ、は、真か……⁈」
「嘘など申しません。主神様より、一ヵ所にご自身の神力が溜まり過ぎるのは世界の魔力との均衡を崩すおそれがあり、最悪の場合には魔物の氾濫が起きると言われています。この20を、どの程度の距離を開けて設置することで、幾つまで増やせるのかは、我々が決められることではないのです」
――結果として、オセアン大陸で20の獄鬼除け魔導具の実証実験を行くことを決定。
魔導具の数はレンと相談の後、許容範囲で増産し、幾つかにはレンの魔力を、また幾つかには別の僧侶の魔力を注ぐことで出るだろう異なるデータを詳細に記録すること、と決まった。
レンの帰還後、改めて会議の場を設けることになったが、最後にセルリーが爆弾を落としていく。
「最後に私の弟子はいま帝都の獄鬼を一掃し疲弊した心身を癒すため主神様の御許で回復中です。こちらで準備して頂いた寝室にはおりませんので、面会のお約束もなくお越しになられるのは控えて頂ければ幸いですわね。ふふふっ」
セルリーの微笑みにピティ国の王子と、その側近が顔色を悪くした。
あの日の地下牢で、トル国が獄鬼に――マーヘ大陸の手に堕ちたのだと聞いて、すぐに「俺が行きます」とレンは言った。
周りの冒険者パーティは「待て」と慌てて落ち着かせていたが、獄鬼の脅威が僧侶にしか対処出来ないのであれば自分が行くのは当然だと、あんなにも幼い見た目で、吹けば飛んでしまいそうな線の細さだというのに頑固さは人一倍だと思った。
同時に、これがプラーントゥ大陸の「奇跡」だと納得もしたのだ。
実を言えば、皇帝マルシャル・ヌダム・ラファエリ・メールは一年近く前からレンのことを知っていた。
オセアン大陸の商隊が世話になったという報告を上げて来たのは冒険者ギルドのマスターで「世界には凄い僧侶がいるもんだ」と酒の肴にするような話題の一つだったが、獄鬼との戦闘で被害という被害がなくて済んだのはレンのおかげだと、共闘した冒険者達が絶賛していたそうだ。
その後、プラーントゥ大陸リシーゾンの国王から手紙が届いた。どの大陸の、どの国だって、あらゆる国に間諜を送り込んでいる。今年の春くらいからオセアン大陸で獄鬼の被害が多発しているのはあちらも承知していたのだろう。
『我が国の僧侶が貴殿の国を獄鬼の脅威より解放したいと望んでいる。オセアン大陸としても悪い話ではないはずだ。入国の許可を』
要点だけを纏めると、そんな内容だった。
更に一点。
『獄鬼による災禍を退けた際には、その子達のパーティにオセアン大陸のダンジョンに入場する許可を与えてくれ』
ダンジョンへの入場許可。
それが踏破済み、未踏破に関わらオセアン大陸にあるすべてのダンジョンへの入場許可だと判ればこそ蟀谷に浮かんだ青筋が引き攣った。
どういうつもりかと、改めてプラーントゥ大陸にいる手の者に調査をさせれば、数カ月前から大陸内における獄鬼の被害がゼロになったという返答があった。
その理由はたった一人の少年であるらしい、とも。
プラーントゥ大陸から獄鬼を一掃したのが子ども一人の影響だ、などと、そんな虚言を鵜呑みにすると思われている事が腹立たしい。
騙したいのなら、もっとまともな嘘を吐けと思ったものだ。
だが、今となっては――。
(いくら応援領域持ちなんて珍しい僧侶だとはいえ、子ども一人の影響力で獄鬼がいなくなるなど、あるわけがないと思ったんだがな……)
テラスから見下ろす夜景が、これまでと比べ物にならないほど美しい。
僧侶以外には感じ取ることが出来ないと言われる獄鬼だが、それらが一掃された景色を美しいと感じられるなら、実は見る事が出来るのではないだろうかと淡い希望を抱かずにはいられない。
オセアン大陸で一つの国が沈んだ。
まだ確認したわけではないが、ほぼ間違いない。
更には敵は国境を接するメールや、西方4カ国にもその魔手を伸ばすだろう。
「俺が行きます」
一瞬の躊躇もなく言い切った少年の声が甦る。
自分についていくことになるだろう仲間の事も考えろと思ったが、周りの面々も「落ち着け」とは言ったが「ダメだ」とは言わなかった。
情報を集めてからだ。
まずは帝都の獄鬼を一掃してからだ。
その後はどうしたって倒れるんだから回復するまでの間に準備を進めておく――冒険者ならではのフットワークの軽さに、つい羨ましくなったことは否定できない。
(いいチームだ)
本心からそう思う。
同時に、彼らが本当にトル国を獄鬼から取り返してくれるなら、オセアン大陸は全てのダンジョンの入場許可を彼らに与えねばならないだろう。
(未踏破の白金ダンジョンにもいつか挑みに来るんだろうな……)
マルシャルは苦笑する。
余所者に暴かれるなど冗談ではないと、確かにそう思っていたのに……いまは、長く攻略の進んでいないダンジョンから笑顔で出て来る彼らが見たい、と。
ふと、そんなことを思った。
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