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第6章 変遷する世界
171.連休の過ごし方(10)
そういえばクルトさんは今夜はどこで寝ることにしたんだろう?
叱られた後に部屋でバルドルさんと話をしたみたいだったけど、本当にこっちの部屋で休むなら神具『住居兼用移動車両』Ex.の扉は寝室から談話室に移動しておいた方がいいだろう。
そんなことを考えつつ玄関からリビングに移動すると、リーデン様はまだ戻っていなかった。
「今日も俺の方が早かったか……でもたぶんもうすぐ……、っ」
帰って来たらって思っただけで、お腹の下の方が反応してしまう。
ダメだ、ダメ。
落ち着け。
まずは『扉型転移具(仮名)』が最優先!
余計なことを考えないためにも、まずは体を動かす事にした。午前中に掃除した風呂を改めて磨いて、湯はり。それから夕飯の準備――昼に寿司折りで贅沢したので夜はそばにしたから、鍋をIHに準備しておくぐらいしかすることがない。
生卵と海苔を添えた月見そば。
麺はトゥルヌソルでも見なかったからスキル『通販』で購入したけど、キクノ大陸には売っているのかな。想像すると益々キクノ大陸に渡る日が楽しみになる。
「あとは……あ、描くか!」
リーデン様に説明する時に視覚的に訴えた方が判り易い気がした。
紙に『扉型転移具(仮名)』の概要を書いて即席のプレゼン資料を作成しながら待つこと30分。
リン、と窓の風鈴が鳴ってリーデン様の帰宅が知らされる。
「お帰りなさい」
立ち上がって、いつも彼が現れる場所に歩み寄り声を掛けると、直後にふわりと風が吹いてリーデン様が現れる。
「ただいま」
「わふっ」
応えると同時にぎゅっと抱き締められ、頬にキスされる。
照れる間もなく彼は言う。
「明日から二日間は俺も休みだ。ずっと一緒にいてくれるか?」
「それは、はい。あ、でもその前に」
頑張って腕を抜け出し、さっきまで書いていた紙をリーデン様に持っていく。
「明日からのお休みを心置きなく過ごすためにも、早急にこういう魔導具……ううん、転移の術式が必要なので神具という扱いになるかもしれませんが、作りたいです。リーデン様しか使えないって言うロテュスの紋が入った術式を使う許可をください!」
「転移……」
俺の声を聞きながら、リーデン様の目は紙に綴られた文字を追っている。
プレゼン資料なら俺が説明すべきだが、読んで理解してもらえるならその方が絶対に早い。じぃっと見つめていると、リーデン様は「ふむ」と口元に指を添えた。
「これの目的は?」
あ。
それを書いていなかったことに気付かされ、俺はレイナルドパーティの彼らの事を説明する。
「――で、ウーガさんの話を聞いていても獣人族は番った相手が本当に特別なんだって学んだんです」
「なるほど」
「俺はいつでもリーデン様と会えていたから考えが至らなくて……その」
「ああ、言わなくても判る。おまえのことだから自分だけがズルしていると感じたんだろう」
ずばり言い当てられて口を噤む俺に彼は小さく笑った。
「せっかく得た休みをおまえが心から楽しめないのでは意味がない」
「! じゃあ……」
「レン」
「はいっ」
「確認だが、これを使うのはおまえの仲間達だけだな? 他の、ロテュスの民に幅広く使わせたいとは言わないな?」
「言いません!」
だって主神様の紋を使った神具なんておいそれと口に出せるわけがない。
これから先にクルトさんやレイナルドさん達と同じくらい信頼出来る人と新しい出会いがあるかもしれないが、それでもこの話が出来るのは彼らだけだって、勘でしかないけど。
そう答えたらリーデン様は安堵したように笑む。
「それなら簡単だ。いま神具『住居兼用移動車両』Ex.の扉を設置されている場所は……船と、トゥルヌソルのクランハウスか?」
「え、っと……そうです」
一時的に扉を出した場所なら帝城やトゥルヌソルの冒険者ギルド、宿屋など複数ヵ所で出入りしたが、基本的に用が終わった時点で消している。
いまも残しているのは常時使っている船の寝室に設置したものと、旅立つ前に必ず全員で此処に帰って来るっていう『願掛け』でそのままにした、クランハウスの自分の部屋。
「説明するより見た方が早い。レン、あの扉を『トゥルヌソルのクランハウスに行きたい』と思いながら開けてみるといい」
「――へ?」
まさかそんな簡単に?
疑いつつも玄関扉を開くと、そこは船の部屋ではなく――。
「っ、ちょ、リーデン様っ」
振り返ったけど誰もいない。
当然だ。
扉が開いている間はリーデン様はそこにいられない。慌てて閉めて振り返れば、今度はちゃんとそこにいてくれる。
「これっ、これ! 本当にトゥルヌソルのクランハウスの……!」
「ああ。だから言っただろう簡単だと」
こんな巧い話があるだろうか!
もう一度開いて、恐る恐る足を踏み出す。
床の感触。
見渡す内装。
何ならそこを出て部屋を移動すれば、しんと静まり返った、クルトさんやバルドルパーティと毎日顔を合わせていた談話室だ。
「……っ」
慌てて神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻り、扉を閉める。
楽し気にこちらを見ているリーデン様と目が合う。
「ちょ、え、あの! これ……!」
「おまえが言う『扉型転移具(仮名)』に間違いないだろう?」
「まさにそのものですけどっ、でも何でですか⁈ いままで一度もこっちに繋がった事なんかないんですよ⁈」
「それはレンが無意識に『船の部屋に戻る』と思いながら開けるからだ」
「――」
理解する。
そうだ、あの扉の先には船の部屋があるって信じて疑っていなかった。
皆がいる。
それが当たり前だと思っていた。
「この神具『住居兼用移動車両』Ex.は、最初からおまえが許可した者には使用できるように設定されている。パーティメンバーならば船の扉から此処を経由し、トゥルヌソルに繋いだ扉で出るだけだ」
「……すごい。あっという間に解決しちゃっ……あ、でもリーデン様は此処に皆が入って来るのはダメだって」
「言った、が……それはあくまで俺個人の感情的な話だからな」
二人だけのって思ってくれるのは、なんだろう、じわじわと嬉しくなってきて口元が緩んだ。
笑われる。
「先日のリス科の友人と同じだ。玄関までなら許す」
「……じゃあ、奥が見えないように暖簾でも付けますか」
「のれん?」
「はい。扉ほどしっかりはしていませんけど、それより先は見えなくしてくれるというか、部屋を分けてくれるというか」
「ほう」
「絵柄が豊富なのでスキル『通販』に幾つか追加してもらえたら、一緒に選べます」
「判った。探しておこう」
「ありがとうございます!」
ついでに筋子も……と思ったけど、何となく今じゃない気がしたので保留。
それから幾つかの注意事項を確認し合う。
「扉を開くことはともかく、出口をトゥルヌソルに繋げられるのはレンだけだ。移動したいなら必ずおまえが同席しなければいけないから、緊急以外は指定した日時にのみ行き来するよう徹底した方がいい。遠くにいる夫や妻に会えるのならそれほど問題ではあるまい」
「なるほど……」
「それから、広く知られて良い話ではない。おまえをどうこうしようという輩が近付けば死よりひどい目に遭わせるのは吝かでないが血の雨が降るのは好ましくないだろう? 転移してもクランハウスからは出ない、他言無用あたりは、トゥルヌソルの者達にも徹底した方がいい」
「ですね!」
恐ろしいことをサラリと言われ、しかも本気だと判るだけに不安が募るが、利用する事になる一人一人の顔を思い浮かべると「大丈夫」という気持ちの方が大きくなる。
だって国から監察官として派遣されているレイナルドさんが不在の間のトゥルヌソルを任されている人達だもの。守秘義務に関する情報の取り扱いは、俺が考えるよりよっぽど徹底しているだろう。
「……喜んでくれるでしょうか」
どきどきする。
家に帰れますよ、家族に会えますよ、……そう伝えたらゲンジャルさん達はどんな反応をするだろう。非常識なことをしようとしているのはさすがに判る。それでも、一緒に冒険に行きたいと願う彼らに、少しでも多く家族と過ごす時間を持って欲しい。
「行っておいで」
リーデン様が背中を押してくれた。
「ただし移動が終わった後は、連休が終わるまで此処で俺と二人きりだ」
「……っ」
顔が火照る。
でも、期待している。
「じゃあ、少し、行ってきます」
「ああ」
いますぐに抱き着きたい、キスしたい。
でもいま触れたら離れたくなくなるのも想像が付くから無理やり足を動かした。
叱られた後に部屋でバルドルさんと話をしたみたいだったけど、本当にこっちの部屋で休むなら神具『住居兼用移動車両』Ex.の扉は寝室から談話室に移動しておいた方がいいだろう。
そんなことを考えつつ玄関からリビングに移動すると、リーデン様はまだ戻っていなかった。
「今日も俺の方が早かったか……でもたぶんもうすぐ……、っ」
帰って来たらって思っただけで、お腹の下の方が反応してしまう。
ダメだ、ダメ。
落ち着け。
まずは『扉型転移具(仮名)』が最優先!
余計なことを考えないためにも、まずは体を動かす事にした。午前中に掃除した風呂を改めて磨いて、湯はり。それから夕飯の準備――昼に寿司折りで贅沢したので夜はそばにしたから、鍋をIHに準備しておくぐらいしかすることがない。
生卵と海苔を添えた月見そば。
麺はトゥルヌソルでも見なかったからスキル『通販』で購入したけど、キクノ大陸には売っているのかな。想像すると益々キクノ大陸に渡る日が楽しみになる。
「あとは……あ、描くか!」
リーデン様に説明する時に視覚的に訴えた方が判り易い気がした。
紙に『扉型転移具(仮名)』の概要を書いて即席のプレゼン資料を作成しながら待つこと30分。
リン、と窓の風鈴が鳴ってリーデン様の帰宅が知らされる。
「お帰りなさい」
立ち上がって、いつも彼が現れる場所に歩み寄り声を掛けると、直後にふわりと風が吹いてリーデン様が現れる。
「ただいま」
「わふっ」
応えると同時にぎゅっと抱き締められ、頬にキスされる。
照れる間もなく彼は言う。
「明日から二日間は俺も休みだ。ずっと一緒にいてくれるか?」
「それは、はい。あ、でもその前に」
頑張って腕を抜け出し、さっきまで書いていた紙をリーデン様に持っていく。
「明日からのお休みを心置きなく過ごすためにも、早急にこういう魔導具……ううん、転移の術式が必要なので神具という扱いになるかもしれませんが、作りたいです。リーデン様しか使えないって言うロテュスの紋が入った術式を使う許可をください!」
「転移……」
俺の声を聞きながら、リーデン様の目は紙に綴られた文字を追っている。
プレゼン資料なら俺が説明すべきだが、読んで理解してもらえるならその方が絶対に早い。じぃっと見つめていると、リーデン様は「ふむ」と口元に指を添えた。
「これの目的は?」
あ。
それを書いていなかったことに気付かされ、俺はレイナルドパーティの彼らの事を説明する。
「――で、ウーガさんの話を聞いていても獣人族は番った相手が本当に特別なんだって学んだんです」
「なるほど」
「俺はいつでもリーデン様と会えていたから考えが至らなくて……その」
「ああ、言わなくても判る。おまえのことだから自分だけがズルしていると感じたんだろう」
ずばり言い当てられて口を噤む俺に彼は小さく笑った。
「せっかく得た休みをおまえが心から楽しめないのでは意味がない」
「! じゃあ……」
「レン」
「はいっ」
「確認だが、これを使うのはおまえの仲間達だけだな? 他の、ロテュスの民に幅広く使わせたいとは言わないな?」
「言いません!」
だって主神様の紋を使った神具なんておいそれと口に出せるわけがない。
これから先にクルトさんやレイナルドさん達と同じくらい信頼出来る人と新しい出会いがあるかもしれないが、それでもこの話が出来るのは彼らだけだって、勘でしかないけど。
そう答えたらリーデン様は安堵したように笑む。
「それなら簡単だ。いま神具『住居兼用移動車両』Ex.の扉を設置されている場所は……船と、トゥルヌソルのクランハウスか?」
「え、っと……そうです」
一時的に扉を出した場所なら帝城やトゥルヌソルの冒険者ギルド、宿屋など複数ヵ所で出入りしたが、基本的に用が終わった時点で消している。
いまも残しているのは常時使っている船の寝室に設置したものと、旅立つ前に必ず全員で此処に帰って来るっていう『願掛け』でそのままにした、クランハウスの自分の部屋。
「説明するより見た方が早い。レン、あの扉を『トゥルヌソルのクランハウスに行きたい』と思いながら開けてみるといい」
「――へ?」
まさかそんな簡単に?
疑いつつも玄関扉を開くと、そこは船の部屋ではなく――。
「っ、ちょ、リーデン様っ」
振り返ったけど誰もいない。
当然だ。
扉が開いている間はリーデン様はそこにいられない。慌てて閉めて振り返れば、今度はちゃんとそこにいてくれる。
「これっ、これ! 本当にトゥルヌソルのクランハウスの……!」
「ああ。だから言っただろう簡単だと」
こんな巧い話があるだろうか!
もう一度開いて、恐る恐る足を踏み出す。
床の感触。
見渡す内装。
何ならそこを出て部屋を移動すれば、しんと静まり返った、クルトさんやバルドルパーティと毎日顔を合わせていた談話室だ。
「……っ」
慌てて神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻り、扉を閉める。
楽し気にこちらを見ているリーデン様と目が合う。
「ちょ、え、あの! これ……!」
「おまえが言う『扉型転移具(仮名)』に間違いないだろう?」
「まさにそのものですけどっ、でも何でですか⁈ いままで一度もこっちに繋がった事なんかないんですよ⁈」
「それはレンが無意識に『船の部屋に戻る』と思いながら開けるからだ」
「――」
理解する。
そうだ、あの扉の先には船の部屋があるって信じて疑っていなかった。
皆がいる。
それが当たり前だと思っていた。
「この神具『住居兼用移動車両』Ex.は、最初からおまえが許可した者には使用できるように設定されている。パーティメンバーならば船の扉から此処を経由し、トゥルヌソルに繋いだ扉で出るだけだ」
「……すごい。あっという間に解決しちゃっ……あ、でもリーデン様は此処に皆が入って来るのはダメだって」
「言った、が……それはあくまで俺個人の感情的な話だからな」
二人だけのって思ってくれるのは、なんだろう、じわじわと嬉しくなってきて口元が緩んだ。
笑われる。
「先日のリス科の友人と同じだ。玄関までなら許す」
「……じゃあ、奥が見えないように暖簾でも付けますか」
「のれん?」
「はい。扉ほどしっかりはしていませんけど、それより先は見えなくしてくれるというか、部屋を分けてくれるというか」
「ほう」
「絵柄が豊富なのでスキル『通販』に幾つか追加してもらえたら、一緒に選べます」
「判った。探しておこう」
「ありがとうございます!」
ついでに筋子も……と思ったけど、何となく今じゃない気がしたので保留。
それから幾つかの注意事項を確認し合う。
「扉を開くことはともかく、出口をトゥルヌソルに繋げられるのはレンだけだ。移動したいなら必ずおまえが同席しなければいけないから、緊急以外は指定した日時にのみ行き来するよう徹底した方がいい。遠くにいる夫や妻に会えるのならそれほど問題ではあるまい」
「なるほど……」
「それから、広く知られて良い話ではない。おまえをどうこうしようという輩が近付けば死よりひどい目に遭わせるのは吝かでないが血の雨が降るのは好ましくないだろう? 転移してもクランハウスからは出ない、他言無用あたりは、トゥルヌソルの者達にも徹底した方がいい」
「ですね!」
恐ろしいことをサラリと言われ、しかも本気だと判るだけに不安が募るが、利用する事になる一人一人の顔を思い浮かべると「大丈夫」という気持ちの方が大きくなる。
だって国から監察官として派遣されているレイナルドさんが不在の間のトゥルヌソルを任されている人達だもの。守秘義務に関する情報の取り扱いは、俺が考えるよりよっぽど徹底しているだろう。
「……喜んでくれるでしょうか」
どきどきする。
家に帰れますよ、家族に会えますよ、……そう伝えたらゲンジャルさん達はどんな反応をするだろう。非常識なことをしようとしているのはさすがに判る。それでも、一緒に冒険に行きたいと願う彼らに、少しでも多く家族と過ごす時間を持って欲しい。
「行っておいで」
リーデン様が背中を押してくれた。
「ただし移動が終わった後は、連休が終わるまで此処で俺と二人きりだ」
「……っ」
顔が火照る。
でも、期待している。
「じゃあ、少し、行ってきます」
「ああ」
いますぐに抱き着きたい、キスしたい。
でもいま触れたら離れたくなくなるのも想像が付くから無理やり足を動かした。
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