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第6章 変遷する世界

170.連休の過ごし方(9)

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 レイナルドさんにしこたま叱られました。
 花街に入ったわけじゃないし、未成年は入店禁止にもなってなかったし、成人向けのスペースはちゃんとカーテンで隠されて区切られていたから俺個人の感覚で言うとセーフなんだけど、そう説明したら――。

「大人向けの薬はそれ用のスペースにあるだろ」
「いいえ。未成年には売れませんって注意書きはありましたけど、花街で使うんだろうなって言う薬が普通にズラッと並んでて、売り場に薬師さんがいたんです。それで、俺も薬師だって話したら、いろいろ教えてくれました。調薬の話題であんなに盛り上がったのは師匠、主神様に続いて三人目です」
「……待て。まさか店内で一人だったわけじゃないよな?」
「薬師さんと一緒でしたってば」
「~~っ、クルト! ウーガ! これを一人にするなと言っただろう! そもそもおまえ達三人でっ……鏡を見たことあるのか⁈ もっと警戒心を持て!!」

 ……という感じに、表向き未成年の健全な育成云々が問題なんじゃなく、よりによって俺とクルトさん、ウーガさんの三人で花街付近に赴いたことを心配していた。
 お店の薬師さんが言っていたように、其処を狩場だと勘違いして獲物を狙っている悪い連中に襲われたらどうするんだ、って。
 そう言われてしまうと謝る以外にない。
 レイナルドさんの後はバルドルさんに叱られ、話しを聞いたエニスさんに全員で拳骨をもらい、ドーガさんからは「バカじゃないの⁈」「兄貴が行きたかっただけだろ二人を巻き込むな!」って主にウーガさんが説教されていた。
 レイナルドさんが叱ったなら……と、他のメンバーからの説教はなかったけど、女性4人には「その内に『可愛い』を自覚させてあげるわね」って微笑まれた。
 とんでもなく恐ろしい笑顔だった。


 それから、夕方。
 夕飯を取る前だ。

「いやぁ……うちって予想外に良識ある大人が多かったね」

 ウーガさんが感心したように言うが早いかエニスさんの拳骨が落ちた。

「反省!」
「判ってるよごめんなさいっ、もう充分反省したってば!」
「いまのが反省しているヤツの台詞か」
「ぶー」

 船の特別室――つまり俺の部屋に集まっているのはいつものメンバーほぼ全員で、いないのはグランツェさんとモーガンさん。エレインちゃんと外で家族サービス中だ。
 というわけで15人で集まって何するかって言ったら『自動販売機』の製造です。
 用意された棚は、以前の世界でよく見かけた三段ラックみたいな、俺の腰くらいまでの高さの木製だ。
『自動販売機』って、いつかどっかのダンジョンから設計図が出てきそう、もしくは発見済みで開発中な気がするんだけど……身内だけの秘密というか、門外不出、他言無用。
 そもそもが前の世界の知識であって俺の考案ではないのだから、余所で発表された時には相応に対応してもらえればと思っている。
 それに……。

「魔導具じゃなくて単純な工作になりそうなんだよね」
「ん?」
「あ、えっと……」

 聞き返されて少し迷う。
 電化製品がこっちでは魔石を用いた魔導具に変換されていると単純に考えているが、俺が作ろうとしている『自動販売機』は発売当時ものすごく話題になった、小学生向けの雑誌の付録になっていたそれなのだ。
 もちろん作るのは保護者の担当だったみたいだけど、子ども向けの付録とはとても思えないクオリティに感動して、自分も入手を試みた。
 オークションやフリマアプリをはしごして結局はダメだったんだけど、ネットに上がった詳細記事を幾つか熟読して自力での製作に挑戦したことがある。
 その時の知識を生かせば、ものすごくアナログな『自動販売機』が作れる気がするのだ。

「術式と魔石の力を借りて完成するのが魔導具ですよね?」
「ああ」
「俺がこれから作るのは、術式、魔石は一個も必要ないんです」
「……もう少し詳細を」

 言われて、あっちの世界の『自動販売機』について紙とペンを使いながら説明する。
 スイッチ部分に棒を取り付けて、押すと商品が奥に押される。
 押し出された商品が通路を通って取り出し口まで落ちていく過程。

「――これがこうで……、ロテュスのお金はコインでしょう? 投入されたコインの重さで開く通路を限定するんです。例えば一段目の薬品は50G、二段目は30G、三段目は10Gの商品を並べて、仕切りで区切って、コインの重さが正しく加わらないと通路が開かなくて。……あ、重さで調整するんだから使える硬貨は銀貨に限定しないとダメです」
「ほうほう」
「……ねぇ、レン」
「はい」
「ちょっと話が違うんだけど、避妊薬10Gも破格だけど回復系ポーションが50Gは安過ぎない?」

 商品のラインナップは、現時点で6種類。
 10Gの避妊薬、不眠・不安・イライラ症状を和らげる効果のあるハーブ3個セット。
 30Gには火傷や切り傷に効く軟膏と、ローション。
 一番高額の50Gの棚に置く体力回復ポーションと痛みを取る治癒ポーションはあくまでも夜のお楽しみ後の回復促進程度の効果に留め、こっちの世界で医師の処方が不要な範囲を守るつもりだ。

「効果がものすごく微量ですし、その素材は皆で一緒にダンジョンに行くから採取出来るんです。使用済みの容器を回収できるなら身内価格はこれで充分だと思います」
「容器の回収?」
「はい。リサイクルって前の世界では言ってましたけど、同じ容器を繰り返し何度も使うんです。洗浄魔法でしっかり洗えるんだし問題ないと思うんですが……ダメですか?」
「いえ、初めて聞くから驚いただけよ。なるほどね……」

 個人的には、この『自動販売機』の薬は一律10Gでもいいんだけど、そこは使う素材でちゃんと分けなさいと師匠セルリーに注意されてしまった。
 それに避妊薬が銀貨1枚は譲れないです。
 このパーティメンバーなら心配ないと思うけど、船内に設置するなら船のスタッフさんも使いたいだろうし、恋人との大事な時間に「今日はお金が……」なんて考えて欲しくない。
 身内だからって甘やかしちゃいけないと言われても、ね。
 俺自身が随分と甘やかされているし。

「使用済み容器を回収する箱はこれの横にこう、外付けする感じで……どうでしょう。『自動販売機』。役立ちませんか?」

 ものすごい雑だけど書き上げた紙面を皆に見せる。

「補充頻度のデータを取って、場合によっては時間停止の術式を刻むかもしれませんけど……あ、容器を回収するんだから、そっちに術式を刻んじゃうのもありかな……」

 ぶつぶつ。
 つい考え込んでしまっていたら、アッシュさん。

「すごいわ、レン」
「画期的」

 ミッシェルさんも感嘆の吐息を漏らしながらそう言ってくれる。

「身内だからこそ頼み難い薬を自由に購入出来るのはとても助かると思う」
「それに俺達でも作るのを手伝えそうなのが良いな」

 ウォーカーさんとゲンジャルさんも褒めてくれた。

「しかもこれ、中身は薬じゃなくてレンの焼くパンでも出来るだろ!」
「え?」
「夜中に小腹が空くと無性に食べたくなるんだよ、おまえの焼いたパン」
「野営用テントにそれがあったら見張り中も幸せだわ……」

 えぇぇ……それは想定していなかったけど、たぶん、出来る。
 使う硬貨を銀貨じゃなく銅貨にしたら価格設定もし易いだろう。
 でも自販機一つ分って考えるとかなりの量になるな?

「先ずはこの棚で一つ作ってみようぜ。ガラスと、木材と、追加で準備した方がいいな」
「部屋はこのまま使って良いの?」
「もちろんです。ただ、俺はもう一つ完成させたいものがあるので、これから主神様にお伺いして来ます。これの組み立てはお任せしてしまってもいいですか?」

 そう答えたら皆の視線がこっちを向いて固定された。
 うん、その視線の意味は知ってる。

「大丈夫です、とりあえず聞くだけだし、主神様の許可が出なければ無しです」
「……ちなみに内容は?」
「それは、許可が出たらお知らせします」

 ぬかよろこびさせるのはイヤだから、ここは絶対に譲りませんという意思を示すために皆を真っ直ぐに見返した。レイナルドさんはずっと探るような視線を向けて来ていたけれど最終的には折れてくれた。

「無茶はするなよ」
「はい」
「今日の事で怒られなきゃいいな」
「うっ」

 それは……危ないかもしれないが、怒られたらその時はその時だ。
 どこでも〇アこと『扉型転移具(仮名)』の許可を取るため、俺は寝室から神具『住居兼用移動車両』Ex.に移動した。
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