生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第9章 未来のために

272.セーズ(9)

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 最速ゼロ戦闘で魔物を無視して進むのは何の問題も無かったが別の問題があった。
 自分たち以外の攻略者たちだ。
 セーズに挑戦して15日目、第10階層を移動しているうちに空が暗くなって来て、そろそろ野営の準備をしようかという頃に風神が人の気配に気付いた。
 俺たちの7日前に一組、10日前に一組入ってるって話だったから7日前の人たちの方かな。
 ギルドから購入した情報にもあった、野営に適した水場の近く。いつ相手の目に触れるかを考えたら今日は俺たちも普通を装った方が良く、声を掛けないわけにもいかない。ダンジョンで他のパーティに遭遇した場合は名乗り合うのがマナーだし。
 テントが4つ、その中にまだいるかもしれないけど外で火を囲んでいる冒険者は6人。
 みんな随分くたびれた……というか、若干不潔な感じ。

「ああなるのが普通だぞ」

 エニスさんがこっそりと教えてくれる。
 そうでした、ダンジョンに挑戦中も水回り完備の個室で毎晩ぐっすり眠れるなんて神具以外ではあり得ない。

「……トゥルヌソルの金級オーァルパーティだな」
「知り合い?」
「ああ。気の良いおっさん連中だ」

 バルドルさんと師匠のやりとりを聞く限りは良い人たちそう?
 隠し事が多い身としてはどうしても緊張してしまう。
 少し離れた場所で足を止め、代表のバルドルさんだけが彼らに声を掛けて近付いていく。

「ここに来ていたんだな」

 軽く手を上げて話し掛けるバルドルさんに、あちらも俺たちに気付いていたんだろう様子で代表者が立ち上がった。

「バルドルか。とうとう金級オーァルダンジョンに来たな」
「運が良かった」
「ははっ。運も実力の内と言うぞ」

 利き手を叩き合わせ、握る。
 そんな動作を他のメンバーとも繰り返している間にテントから顔を出す人がいた。

「あ、バルドルさん?」
「おう」

 その人とも挨拶をしている内に、バルドルさんが手招きするので俺たちも近付く。

「よう、久し振りだな」
「おまえらもマーヘ大陸に行ってたって?」
「え、おっちゃんたちも行ってたの?」
「おうよ、全然会わなかったな」

 ウーガさんやドーガさんも顔見知りらしく自然と会話が盛り上がる。

「お。そっちはウワサの伴侶殿だな?」

 一人が言うと、全員の視線がこちらを向いた。
 見られて居心地が悪くなるけどウワサになっているのは今更。

「初めまして、レンです」

 初対面の人には礼儀正しく、と一礼するとおじさん冒険者たちは「こりゃご丁寧にどうも」なんて笑いつつ一人ひとり名乗ってくれた。
 その流れで師匠やヒユナさんも自己紹介したら「僧侶3人も連れてんのか!」って驚かれた。そりゃそうだ。

「そりゃ怪我知らずの病気知らずだな」
「ふふ、ここで会ったのも何かの縁だし薬の不足や怪我があるなら力になるけど」

 師匠が言うと「そりゃありがたい」と薬の即席販売が始まった。僧侶は僧侶、薬師は薬師で本来は別だから、僧侶なのに薬も作っちゃう師匠が特別。運が良いのはこの人たちもだ。

「お前らの身なりが妙にキレイなのはなんで?」
「ああ、それは……」

 バルドルさんの言葉が途切れる。
 まさか神具があるなんて言えるはずもなく説明に困ったからだ。
 俺は少し考える。
 そして、これならマーヘ大陸で大勢の前で使ったし良いだろうと結論付けた。彼らの親しい様子を見ていても今夜は一緒にご飯を食べる可能性もある。だったら猶更、この臭いは何とかしたい。

「もしよければ皆さんにも魔法を使って良いですか?」
「魔法って、僧侶の?」
「僧侶のと言うよりは俺の、ですね」

 そう言って唱える呪文は「お風呂洗濯消臭乾燥!」。
 マーヘ大陸でゾンビの臭いに辟易した末、騎士団も含め大勢に一斉に使ったアレだ。同じくマーヘ大陸にいたらしい彼らは、その噂も聞いたことがあったらしい。

「お、おおおっ⁈」
「これってもしかしてカンヨン侵攻の時に悪臭を消したって言う……!」

 驚きの声を上げる間にも頭のてっぺんからどんどん汚れが落ちていく。
 後には体も装備もきらりんと光るくらい艶が出て、もちろん不快な匂いは完全に消え去る。後ろで見ていたバルドルさんたちも「それがあったな」って顔。
 そうなんですよ、あったんです。

「生き返った気分だ……!」

 テントの中にいた人も恍惚とした表情。
 満足いただけたようで何よりです。




 その後、予想通りに夕飯を一緒することになったので、神具『野営用テント』の周りにカモフラージュ用のテントを3つ組み立てて、外で調理する準備をした。

「しかしこのダンジョンで魔豹ゲパールを見るのも違和感あり過ぎるが、あの白い梟は何物だ?」
「マーヘ大陸のトラントゥトロワのボスだ。レンが育てている影響で姿が変わった」
「育て……?」
「定期的に魔力を渡して、消えないように注意していると個性的に育つらしいぞ」

 バルドルさんが又聞きの又聞きみたいな説明をする。

「ほお……俺らもその話聞いて試してみたが、戦力になりそうな魔物は顕現出来なくてな」
「一番最初が、一番魔力を必要としますからね」

 俺も会話に参加しながら肉をぶつ切り中。
 今日はダンジョン内でドロップした魔物肉と、下拵え済みの野菜で温かなスープを作る。後は作り置きのパンと、デザート替わりに日持ちする焼き菓子だ。
 少しでも違和感を減らしたいし……。

「それだけの量をダンジョンに持ち込めるのか……さすがレイナルドパーティが持ってる魔道具だな」

 はい来ました、多少の違和感なら払拭してくれる秘奥義「レイナルドパーティから借りた魔道具なので」!
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