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男
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「翔平くん!?」
控室の扉を開けると、見慣れた男の子が座っていた。目は真っ赤に腫れて、ティーカップに注がれたオレンジジュースにも全く手を付けていない。
「とりあえずこの子が持ってた携帯番号にかけてんけど、知り合い?」
「ああ、親戚の子」
「あー、びっくりした。どっかで子供こしらえたんかと思たわ。じゃあ、俺は店じまいあるから」
「そんな暇ねえよ。サンキュー。今度なんか奢る」
いつの日かのように、部屋には二人きりになる。
同僚の田辺からいきなりの電話がかかってきた時はびっくりした。まあ、動転していたのは田辺の方だったが。
「あ、の、すみません…。勝手に来ちゃって…」
「ううん、それより久しぶり。髪、ちょっと伸びたね」
また、髪の状態が戻っている。きしきしと軋んだそれを手ですく。この前買った靴と、Tシャツにズボン。身なりは前よりは改善されているけれど、肝心の体がまた薄くなったような気がする。
「今日はどうしたの?」
言った瞬間、目の下が水でいっぱいになる。
「この前、教えてもらった、のを、あさ、起きた時に、したのですが、」
はっきりとその用語を使わないこと、耳が赤いこと、中学生を感じた。
「ゴミ箱に、ティッシュを捨ててて、おばさんに、ばれて…きもちわるいって…」
最後まで言うことが出来ないまま、声を詰まらす。膝下で握りしめた手は白く、肩を震わせて泣く姿は、実際の何倍も小さく見えて。
「いえからかえったら、おお、きなこえで、おこ、られてぇ、こわくて、ごめ、なさい、」
ごめんなさい、ごめんなさい、とうわ言のように繰り返す姿に胸が苦しくなって、その小さな体をぎゅっと抱きしめた。一瞬びくりと体をはねさせたが、俺の背中側の服が握りしめられるのに時間はかからなかった。
次から次へと水分を吸収する肩、永遠に聞こえ続ける、ひきつった泣き声。半年間抑え続けていたものを吐き出すかのように、彼は泣き続けた。
「もしもし」
「あら、東村くん、ちょうどよかった。翔平くんそっちいってない?」
「なぁあんた。俺、いったよな?ちゃんと食べさせろって。風呂も入らせろって。当たり前のことだろ」
「やぁねえ、食べさせてるわよ。でもあの子、とろくてとろくて。まずっそうに食べるんだもの。お風呂は…、まぁ?間違えて抜いてしまうことだって、あるわよねぇ?娘たちより先に入らせるのも汚いし」
「汚ねえのはどっちだよおばさん。さんざん翔平くんを汚物呼ばわりしてるけどさ、子供もいるのに他の男とセックスしてるあんたの方が気持ち悪い」
「っなっ、何でそれを…」
「よく見かけるんだよなぁ。なんせ俺のアパートの帰り道がラブホ通りなもんで。おじさんが出張だからって調子乗ってんじゃねえよ」
「とりあえず、今日はうちで泊まらせるから。あんたは自分の行いを見つめなおせ」
「ちょっ、まちなさっ」
相手の言葉も聞かず、電話を切る。
ベランダから中に入ると、そわそわと落ち着きのない様子で部屋の隅にちょこんと座っている翔平くん。寝起きだからか、まだ目がとろんとしている。
「あの、ぼく、」
口をパクパクさせながら目線がきょろきょろ不安そうな表情。
「夕飯食べよっか。何食べたい?」
今日は、何も考えずに安心して眠ってほしい。
控室の扉を開けると、見慣れた男の子が座っていた。目は真っ赤に腫れて、ティーカップに注がれたオレンジジュースにも全く手を付けていない。
「とりあえずこの子が持ってた携帯番号にかけてんけど、知り合い?」
「ああ、親戚の子」
「あー、びっくりした。どっかで子供こしらえたんかと思たわ。じゃあ、俺は店じまいあるから」
「そんな暇ねえよ。サンキュー。今度なんか奢る」
いつの日かのように、部屋には二人きりになる。
同僚の田辺からいきなりの電話がかかってきた時はびっくりした。まあ、動転していたのは田辺の方だったが。
「あ、の、すみません…。勝手に来ちゃって…」
「ううん、それより久しぶり。髪、ちょっと伸びたね」
また、髪の状態が戻っている。きしきしと軋んだそれを手ですく。この前買った靴と、Tシャツにズボン。身なりは前よりは改善されているけれど、肝心の体がまた薄くなったような気がする。
「今日はどうしたの?」
言った瞬間、目の下が水でいっぱいになる。
「この前、教えてもらった、のを、あさ、起きた時に、したのですが、」
はっきりとその用語を使わないこと、耳が赤いこと、中学生を感じた。
「ゴミ箱に、ティッシュを捨ててて、おばさんに、ばれて…きもちわるいって…」
最後まで言うことが出来ないまま、声を詰まらす。膝下で握りしめた手は白く、肩を震わせて泣く姿は、実際の何倍も小さく見えて。
「いえからかえったら、おお、きなこえで、おこ、られてぇ、こわくて、ごめ、なさい、」
ごめんなさい、ごめんなさい、とうわ言のように繰り返す姿に胸が苦しくなって、その小さな体をぎゅっと抱きしめた。一瞬びくりと体をはねさせたが、俺の背中側の服が握りしめられるのに時間はかからなかった。
次から次へと水分を吸収する肩、永遠に聞こえ続ける、ひきつった泣き声。半年間抑え続けていたものを吐き出すかのように、彼は泣き続けた。
「もしもし」
「あら、東村くん、ちょうどよかった。翔平くんそっちいってない?」
「なぁあんた。俺、いったよな?ちゃんと食べさせろって。風呂も入らせろって。当たり前のことだろ」
「やぁねえ、食べさせてるわよ。でもあの子、とろくてとろくて。まずっそうに食べるんだもの。お風呂は…、まぁ?間違えて抜いてしまうことだって、あるわよねぇ?娘たちより先に入らせるのも汚いし」
「汚ねえのはどっちだよおばさん。さんざん翔平くんを汚物呼ばわりしてるけどさ、子供もいるのに他の男とセックスしてるあんたの方が気持ち悪い」
「っなっ、何でそれを…」
「よく見かけるんだよなぁ。なんせ俺のアパートの帰り道がラブホ通りなもんで。おじさんが出張だからって調子乗ってんじゃねえよ」
「とりあえず、今日はうちで泊まらせるから。あんたは自分の行いを見つめなおせ」
「ちょっ、まちなさっ」
相手の言葉も聞かず、電話を切る。
ベランダから中に入ると、そわそわと落ち着きのない様子で部屋の隅にちょこんと座っている翔平くん。寝起きだからか、まだ目がとろんとしている。
「あの、ぼく、」
口をパクパクさせながら目線がきょろきょろ不安そうな表情。
「夕飯食べよっか。何食べたい?」
今日は、何も考えずに安心して眠ってほしい。
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