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スクナビコナとチュルヒコ①―ネズミ王子チュルヒコ、地上に行きたがる―
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「…これからどうしようか……」
スクナビコナは倉庫を出たあと、一人つぶやく。
これから明日の準備を始めるとき、正直一人ぼっちでは心細い。
誰かの助力を仰ぎたいところである。
あいう
「…うーん、でも誰に助けを求めたらいいんだ……?」
正直ほかの高天原の神々には助けを求めようとは思わない。
何しろ彼らのほとんどが自分を高天原から追放することに賛成したのだ。
今さらこの者たちを信用しようという気分にはとてもなれない。
「…そうなると、…あっ、あいつらに相談してみよう!」
そう言うやいなや、スクナビコナは急いで駆け出していくのだった。
「…ふう、着いたぞ……」
スクナビコナはアマテラスの宮殿の床下にやってくる。その視線の先にはネズミの住むが。
「…さて、ここから降りるとするか……」
スクナビコナは穴から地下へと降りていくのだった。
『これはこれは!』
『スクナ様!』
『お久しぶりです!』
スクナビコナが穴の下のほうへと降りようとする途中、全身真っ白の毛をした数匹のネズミたちが声をかけてくる。
「よう、お前ら、久しぶりだな!」
そんなネズミたちにスクナビコナは気軽に声をかける。
スクナビコナは付喪神だけでなく、動物たちとも自由に話すことができるのである。
『今日はいったいどんな御用で?』
「うん、実はお前たちの王様に話したいことがあるんだ」
『へえ、我らが王に…、どんなことを?』
「ああ、実は……」
スクナビコナはその場にいるネズミたちに自分が高天原から追放されるに至った経緯を説明する。
『なんと、それではいっしょにアマテラス様の宮殿に入ったのにあなただけが罰せられ、我らはお咎めなしと?』
「そうなんだ!お前たちも不公平だと思うだろ?」
『いやいや、あなたは宮殿に無断で侵入した以外にも数々の悪事をなしている!』
『そうそう、あなたのいたずらはここのネズミたちの間でも有名ですぞ!』
「なっ!お前たちまで僕のことをバカにするのか?」
スクナビコナはネズミたちの言葉に憤る。
『いやいやまさか!』
『あなたはチュル王さまに次ぐ我らがネズミたちの英雄だ!』
『そうそう、あなたはこの高天原でもっとも強く賢いお方だ!』
「ははっ、やっぱりお前たちもそう思うだろう?」
ネズミたちが一転して自分のことをほめ始めたため、スクナビコナは上機嫌になる。
『はい、しかもあなたは非常識で、ずるくて、狡猾で、抜け目がなくて、悪辣だ!』
『そんなあなたは地上でもあらゆる試練を乗り越え、あらゆる敵をやっつけるに違いありませんよ!』
「なんか途中から僕の悪口も言われたような気もするけど、まあいいか…。よし、とにかく頑張るぞ!」
『はい、頑張って下さーい!』
スクナビコナはネズミたちの〝声援〟を背に受けながら、穴の最下層、チュル王の間を目指すのだった。
『これはこれはスクナ殿、よく来て下された』
「うん、久しぶりに来たぞ!」
スクナビコナがネズミの穴の最深部にある〝チュル王の間〟にたどり着くと、そこにはネズミたちの王であるチュル王以下、その妻であるチュルヒメ、息子チュルヒコ、そしてチュルジイが勢揃いしている。
『スクナ様、久しぶりにお会いしてこんなことを言うのはなんですけど……』
唐突にチュルヒメがスクナに対して口を開く。
『もう少し〝丁寧な言葉づかい〟というものはできませんの?ここにいる我らは皆ネズミの王族ですのよ』
「ははっ、僕がこんなにくだけた話し方をしているのはチュル王やみんなに親しみを感じている証拠だよ。だいたい僕はここのネズミたちには今まで十分〝便宜〟を図ってきただろう?」
『そうですわね。確かにあなたは我々に〝ベンギ〟を…って、あれ?あなたが私たちに何かをしてくれたことが一度だってあったかしら?あなたはここに来てもいつも適当におしゃべりをして帰っていくだけではありませんの?』
チュルヒメはいぶかしげにスクナビコナのほうをじっと見る。
「えっ、…い、…いやそんなことはないぞ!この高天原の神々の中で僕以上にネズミたちのことを考え、ネズミたちにくし、ネズミたちと親しくしている者はいないっ!うん、間違いないぞ!」
『…まあ、いいですわ。さてスクナ様。この高天原の地下世界の主にして、全世界のネズミたちの頂点に立ち、美しく気高い純白の毛を持つ我らがチュル王に何の用でしょう?』
「…ずいぶんと大げさなを使うんだな…、まあ、いいか、…実は……」
スクナビコナはチュル王たちの前でも、自分が高天原を追放されるに至った経緯を話して聞かせる。
『…ふむ、そのようなことがな……』
チュル王はスクナビコナの話を全て聞き終えたあと、考え込むしぐさをする。
『…スクナ様、あなたのことは気の毒だとは思いますけど……』
さらにチュルヒメが口を開く。
『残念ながら私たちがあなたのためにできることはありませんわ。これはあくまであなた自身の問題、私たちが高天原から追放されるわけではありませんもの……』
「ちょっ、ちょっと!そりゃあ、あまりにも冷たすぎる!僕はあなた方、高天原のネズミたちとはずっと〝いい関係〟を保ってきたはずだ!」
『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、チュルヒメ様……』
唐突にあごから長く白いひげを垂らしたネズミ、チュルジイが双方の会話に割って入ってくる。
『なんですの?チュルジイ……』
『せっかく我ら高天原のネズミたちの共通の友であるスクナ様がこのように頼まれているのです。僭越ながらこのチュルジイがスクナ様のためにわずかな知恵をお貸ししてもよろしいでしょうか?』
『まあ、あなたが?もちろんいいですわよ。私たちにそれを否定する理由はありませんわ』
『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、そういうことです、スクナ様』
「さっすが、チュルジイ!〝高天原ネズミの良識〟と言われるだけのことはある!」
『ふぉふぉっ、あなたの期待にどれだけこたえられるかはわかりませぬが……』
「まずは地上に降りる前に何を用意したらいいかな?今日一日で明日の準備をしなくちゃならないんだ」
『ふーむ…、高天原から地上に降りるとなると…、まずは天の安河を下るための舟……』
「あっ!それはスサノオ様も言ってたな……」
『…あとは、舟をこぐための…、何か棒のようなもの……』
「うんうん」
『それとあなたの身を守るための武器、当面の飢えをしのぐための食料、…といったところでしょうか』
「それ以外には?」
『それ以外はあなたが持って生きたいと思う物を持っていかれればよろしいかと』
「そうか!」
『ふぉふぉっ、このジイの話は役に立ちましたかな?』
「うん、完璧だ!これだけ用意すべきものがわかればあとはこちらで準備できるよ!」
『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、このチュルジイ、いや高天原中のネズミ達は皆、あなたが再び地上からここに帰ってこられることを期待しておりますぞ』
「うん、ありがとう。じゃあ、僕はこれで……」
『ちょっと待って!』
別れのあいさつを言って、部屋から出て行こうとするスクナビコナをある声が制止する。
その声の主、これまで一言も言葉を発してこなかったネズミ、チュルヒコが決意を秘めたような様子でスクナビコナのほうを見すえる。
「ん、なんだ?チュルヒコ……」
スクナビコナもチュルヒコのほうに顔を向ける。
『僕もいっしょに地上に行きたいんだ!』
「え?」
『ちょっと、何を言っているの?チュルヒコ!』
チュルヒコの言葉にスクナビコナも驚くが、それ以上にチュルヒメが驚く。
『僕は生まれてから今まで高天原から一度も外に出たことがない。だからこの機会にスクナといっしょに地上の世界をこの目で見てみたいんだ!』
『ふざけないでちょうだい、チュルヒコ!あなたは地上がどれほど危険な場所かわかっているの?』
チュルヒメはもはや半狂乱にならんばかりである。どうやらチュルヒコのこととなると冷静ではいられないらしい。
『地上には高天原にはいないネコというネズミの天敵がいて、そのネコによって地上のネズミはもはや絶滅寸前まで追い込まれているのよ!そんなところにあなたが行けばたちどころにネコに食い殺されてしまうわ!』
「…あの、ちょっと……」
『あなたは黙っていて!これは私とチュルヒコの問題よ!』
「……」
スクナビコナはチュルヒメのあまりにもヒステリックな反応に呆れて言葉を失う。
実は実際の地上の状況はチュルヒメの言っている内容とはかなり違う。
確かに地上には高天原にはいないネコがいるが、そのことでネズミが絶滅寸前に追い込まれているわけではない。
地上のネズミはチュルヒメが考えているよりもはるかにたくましく生き抜いているのである。
スクナビコナはそのことを言おうとしたのだが、チュルヒメは一切聞く耳を持とうとはしなかった。
スクナビコナは倉庫を出たあと、一人つぶやく。
これから明日の準備を始めるとき、正直一人ぼっちでは心細い。
誰かの助力を仰ぎたいところである。
あいう
「…うーん、でも誰に助けを求めたらいいんだ……?」
正直ほかの高天原の神々には助けを求めようとは思わない。
何しろ彼らのほとんどが自分を高天原から追放することに賛成したのだ。
今さらこの者たちを信用しようという気分にはとてもなれない。
「…そうなると、…あっ、あいつらに相談してみよう!」
そう言うやいなや、スクナビコナは急いで駆け出していくのだった。
「…ふう、着いたぞ……」
スクナビコナはアマテラスの宮殿の床下にやってくる。その視線の先にはネズミの住むが。
「…さて、ここから降りるとするか……」
スクナビコナは穴から地下へと降りていくのだった。
『これはこれは!』
『スクナ様!』
『お久しぶりです!』
スクナビコナが穴の下のほうへと降りようとする途中、全身真っ白の毛をした数匹のネズミたちが声をかけてくる。
「よう、お前ら、久しぶりだな!」
そんなネズミたちにスクナビコナは気軽に声をかける。
スクナビコナは付喪神だけでなく、動物たちとも自由に話すことができるのである。
『今日はいったいどんな御用で?』
「うん、実はお前たちの王様に話したいことがあるんだ」
『へえ、我らが王に…、どんなことを?』
「ああ、実は……」
スクナビコナはその場にいるネズミたちに自分が高天原から追放されるに至った経緯を説明する。
『なんと、それではいっしょにアマテラス様の宮殿に入ったのにあなただけが罰せられ、我らはお咎めなしと?』
「そうなんだ!お前たちも不公平だと思うだろ?」
『いやいや、あなたは宮殿に無断で侵入した以外にも数々の悪事をなしている!』
『そうそう、あなたのいたずらはここのネズミたちの間でも有名ですぞ!』
「なっ!お前たちまで僕のことをバカにするのか?」
スクナビコナはネズミたちの言葉に憤る。
『いやいやまさか!』
『あなたはチュル王さまに次ぐ我らがネズミたちの英雄だ!』
『そうそう、あなたはこの高天原でもっとも強く賢いお方だ!』
「ははっ、やっぱりお前たちもそう思うだろう?」
ネズミたちが一転して自分のことをほめ始めたため、スクナビコナは上機嫌になる。
『はい、しかもあなたは非常識で、ずるくて、狡猾で、抜け目がなくて、悪辣だ!』
『そんなあなたは地上でもあらゆる試練を乗り越え、あらゆる敵をやっつけるに違いありませんよ!』
「なんか途中から僕の悪口も言われたような気もするけど、まあいいか…。よし、とにかく頑張るぞ!」
『はい、頑張って下さーい!』
スクナビコナはネズミたちの〝声援〟を背に受けながら、穴の最下層、チュル王の間を目指すのだった。
『これはこれはスクナ殿、よく来て下された』
「うん、久しぶりに来たぞ!」
スクナビコナがネズミの穴の最深部にある〝チュル王の間〟にたどり着くと、そこにはネズミたちの王であるチュル王以下、その妻であるチュルヒメ、息子チュルヒコ、そしてチュルジイが勢揃いしている。
『スクナ様、久しぶりにお会いしてこんなことを言うのはなんですけど……』
唐突にチュルヒメがスクナに対して口を開く。
『もう少し〝丁寧な言葉づかい〟というものはできませんの?ここにいる我らは皆ネズミの王族ですのよ』
「ははっ、僕がこんなにくだけた話し方をしているのはチュル王やみんなに親しみを感じている証拠だよ。だいたい僕はここのネズミたちには今まで十分〝便宜〟を図ってきただろう?」
『そうですわね。確かにあなたは我々に〝ベンギ〟を…って、あれ?あなたが私たちに何かをしてくれたことが一度だってあったかしら?あなたはここに来てもいつも適当におしゃべりをして帰っていくだけではありませんの?』
チュルヒメはいぶかしげにスクナビコナのほうをじっと見る。
「えっ、…い、…いやそんなことはないぞ!この高天原の神々の中で僕以上にネズミたちのことを考え、ネズミたちにくし、ネズミたちと親しくしている者はいないっ!うん、間違いないぞ!」
『…まあ、いいですわ。さてスクナ様。この高天原の地下世界の主にして、全世界のネズミたちの頂点に立ち、美しく気高い純白の毛を持つ我らがチュル王に何の用でしょう?』
「…ずいぶんと大げさなを使うんだな…、まあ、いいか、…実は……」
スクナビコナはチュル王たちの前でも、自分が高天原を追放されるに至った経緯を話して聞かせる。
『…ふむ、そのようなことがな……』
チュル王はスクナビコナの話を全て聞き終えたあと、考え込むしぐさをする。
『…スクナ様、あなたのことは気の毒だとは思いますけど……』
さらにチュルヒメが口を開く。
『残念ながら私たちがあなたのためにできることはありませんわ。これはあくまであなた自身の問題、私たちが高天原から追放されるわけではありませんもの……』
「ちょっ、ちょっと!そりゃあ、あまりにも冷たすぎる!僕はあなた方、高天原のネズミたちとはずっと〝いい関係〟を保ってきたはずだ!」
『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、チュルヒメ様……』
唐突にあごから長く白いひげを垂らしたネズミ、チュルジイが双方の会話に割って入ってくる。
『なんですの?チュルジイ……』
『せっかく我ら高天原のネズミたちの共通の友であるスクナ様がこのように頼まれているのです。僭越ながらこのチュルジイがスクナ様のためにわずかな知恵をお貸ししてもよろしいでしょうか?』
『まあ、あなたが?もちろんいいですわよ。私たちにそれを否定する理由はありませんわ』
『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、そういうことです、スクナ様』
「さっすが、チュルジイ!〝高天原ネズミの良識〟と言われるだけのことはある!」
『ふぉふぉっ、あなたの期待にどれだけこたえられるかはわかりませぬが……』
「まずは地上に降りる前に何を用意したらいいかな?今日一日で明日の準備をしなくちゃならないんだ」
『ふーむ…、高天原から地上に降りるとなると…、まずは天の安河を下るための舟……』
「あっ!それはスサノオ様も言ってたな……」
『…あとは、舟をこぐための…、何か棒のようなもの……』
「うんうん」
『それとあなたの身を守るための武器、当面の飢えをしのぐための食料、…といったところでしょうか』
「それ以外には?」
『それ以外はあなたが持って生きたいと思う物を持っていかれればよろしいかと』
「そうか!」
『ふぉふぉっ、このジイの話は役に立ちましたかな?』
「うん、完璧だ!これだけ用意すべきものがわかればあとはこちらで準備できるよ!」
『ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、このチュルジイ、いや高天原中のネズミ達は皆、あなたが再び地上からここに帰ってこられることを期待しておりますぞ』
「うん、ありがとう。じゃあ、僕はこれで……」
『ちょっと待って!』
別れのあいさつを言って、部屋から出て行こうとするスクナビコナをある声が制止する。
その声の主、これまで一言も言葉を発してこなかったネズミ、チュルヒコが決意を秘めたような様子でスクナビコナのほうを見すえる。
「ん、なんだ?チュルヒコ……」
スクナビコナもチュルヒコのほうに顔を向ける。
『僕もいっしょに地上に行きたいんだ!』
「え?」
『ちょっと、何を言っているの?チュルヒコ!』
チュルヒコの言葉にスクナビコナも驚くが、それ以上にチュルヒメが驚く。
『僕は生まれてから今まで高天原から一度も外に出たことがない。だからこの機会にスクナといっしょに地上の世界をこの目で見てみたいんだ!』
『ふざけないでちょうだい、チュルヒコ!あなたは地上がどれほど危険な場所かわかっているの?』
チュルヒメはもはや半狂乱にならんばかりである。どうやらチュルヒコのこととなると冷静ではいられないらしい。
『地上には高天原にはいないネコというネズミの天敵がいて、そのネコによって地上のネズミはもはや絶滅寸前まで追い込まれているのよ!そんなところにあなたが行けばたちどころにネコに食い殺されてしまうわ!』
「…あの、ちょっと……」
『あなたは黙っていて!これは私とチュルヒコの問題よ!』
「……」
スクナビコナはチュルヒメのあまりにもヒステリックな反応に呆れて言葉を失う。
実は実際の地上の状況はチュルヒメの言っている内容とはかなり違う。
確かに地上には高天原にはいないネコがいるが、そのことでネズミが絶滅寸前に追い込まれているわけではない。
地上のネズミはチュルヒメが考えているよりもはるかにたくましく生き抜いているのである。
スクナビコナはそのことを言おうとしたのだが、チュルヒメは一切聞く耳を持とうとはしなかった。
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