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スクナビコナとチュルヒコ③―スクナビコナ天の安河へと向かう―
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「ふう、終わった、終わった」
そう言いながら、スクナビコナは両腕を高く上げて全身を伸ばす。
倉庫から出て視界がかなり開けた場所まで来ると、すでに日がかなり傾き、西の空が茜色に染まりつつあるのが確認できる。
「ははっ、一時はどうなるかと思ったけど、何とか日没までに明日の準備は終わりそうだな。あとは食料の準備だけど、それはすぐに終わるだろう。さあ、チュルヒコ、いっしょに食料がある倉庫まで行こうぜ」
そう言うと、スクナビコナは倉庫に向かって歩き始める。
『…うん、それはいいんだけど……』
チュルヒコはスクナビコナのすぐ横を歩きながら話を切り出す。
「…何か僕に言いたいことでもあるのか?」
『うん、さっきのおわんや箸たちのことなんだけど……』
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えよ」
『スクナはさ、もっとおわんや箸たちの気持ちを考えようとは思わないの?』
「おわんや箸の気持ちを考えるう?」
『そうだよ!だってみんなすごく嫌がってたじゃないか。僕たちといっしょに地上に行くことを』
「ふん!僕があんなやつらに気をつかえってのか?」
『だってスクナのやり方はあまりにも強引過ぎるよ!もうちょっと違うやり方だってあるはずさ!』
「はん!いいか、これは僕の問題なんだ!あいつらがどう思ってるかなんて知ったこっちゃあないな!だいたいおわんも箸もただの〝モノ〟じゃないか!たかが〝モノ〟ごときの気持ちを考えるなんて単なる時間の無駄さ!」
『もう、そんなことを言ってるから高天原から追放されちゃうんだよ!』
「なにぃ、お前言っていいことと悪いことがあるぞ!」
『だって本当のことだろ!』
「ふざけるな!僕は何も悪くない!」
このあと一人と一匹は不毛な言い争いを倉庫にたどり着くまで続けた。
そして、倉庫では親切にも誰かが用意してくれたらしいおにぎりを、スクナビコナが用意していた袋に詰めれるだけ詰めた。
そのあとスクナとチュルヒコは帰り道では一言も会話をすることなく、険悪な雰囲気のまま別れた。
そうしてチュルヒコはネズミの穴へと、スクナビコナは倉庫の前へとそれぞれ帰っていくのだった。
「ふん、ようやく帰ってきたか」
スクナビコナが倉庫の入り口まで戻ると、スサノオが入り口の扉の前で待ち構えている。
「ぎりぎりだったけど準備は全部終わったよ」
スクナビコナは機嫌悪そうに、仏頂面で答える。
今はすでに日没寸前でもう周囲は薄暗くなっている。
「たわけが!」
スサノオはいきなりスクナビコナを叱り飛ばす。
「貴様が持ってきたおにぎりは誰が用意したかわかるか?このスサノオだ!つまり貴様は今日一日かけても一人で準備をすることができなかったというわけだ」
「…そう、一応礼を言っておくよ。ありがとう」
相変わらずふて腐れた様子でスクナビコナはスサノオに礼を言う。
そして昨日と同様にスサノオによってツボヒコの中に入れられるのだった。
「…あー、くそっ!」
スクナビコナはツボの中で一人怒る。
『どうなさいました、スクナ殿?ずいぶん気分を害されているようですが……』
そんなスクナビコナにツボヒコが不機嫌の理由を尋ねる。
「…お前はチュルヒコのことは知っているか?」
『ああ、この高天原のネズミたちの主チュル王の息子チュルヒコ殿のことですか?そこまで詳しく知っているわけではありませんが……』
「そうか、でもまあ大体どんなやつかくらいは知ってるんだな?」
『…ええ、まあ……』
「そのチュルヒコが僕に高天原から追放されたのは僕の態度に原因がある、とか言うんだ!」
『…ふふ、チュルヒコ殿も私と同じ考えのようだ』
「なっ!お前も同じ考えなのか?」
『はい』
「ふんっ、なんだよ!」
『ははっ、しかしまあこのツボヒコ、無理やりあなたの態度を改めさせようとは思いません。そんなことをしようとしてもあなたが聞き入れることはないでしょうからな』
「当たり前だっ!」
『ふふっ、あなたは本当に頑固な方だ。おそらく私やチュルヒコ殿だけでなく、スサノオ様や他の高天原の方々もそう思っておられるはずだ』
「悪かったな」
『ただ高天原の方々はあなたを見捨てているわけではないとも思いますぞ』
「なに?…だって僕は〝ここ〟から追放されるんだぞ。それってもう二度と高天原に戻ってくるな、って意味なんじゃないのか?」
『いやいや、それは違うのではないでしょうか』
「どう違うんだよ?」
『スサノオ様や高天原の方々はあなたに地上で色々なことを学んで欲しいのではありませんか?』
「マナブ?この僕が?そんなの必要ないね。僕に学ぶものなんてないよ」
スクナビコナは肩をすくめながら言い放つ。
『ふふっ、もうこれ以上はこのツボヒコは申しません。あなたが地上で考えるべきものですから』
「ふん、そうか。じゃあもう僕は寝るぞ。今日は一日中あちこちに動き回ったから結構疲れたんだ」
『はい、おやすみなさい。このツボヒコも地上であなたが健闘されることを祈っております』
「言われなくても〝健闘〟してやるさ。じゃあ、お休み」
そう言うと、スクナビコナは横になって眠りに落ちるのだった。
翌早朝、スクナビコナはスサノオによってつぼから外に出された。
そして必要なものを全て自ら用意した。
袋の中には自分が高天原の住人であることを証明する勾玉、入る限りのおにぎりを詰めて、左肩に担ぐ。
腰の帯には愛用の裁縫用の針を帯びる。その〝刀身〟はスクナビコナが藁で作った〝鞘〟におさまっている。
そうして倉庫を出て、高天原から地上へ向かうための出発地点である天の安河へと向かうのだった。
そう言いながら、スクナビコナは両腕を高く上げて全身を伸ばす。
倉庫から出て視界がかなり開けた場所まで来ると、すでに日がかなり傾き、西の空が茜色に染まりつつあるのが確認できる。
「ははっ、一時はどうなるかと思ったけど、何とか日没までに明日の準備は終わりそうだな。あとは食料の準備だけど、それはすぐに終わるだろう。さあ、チュルヒコ、いっしょに食料がある倉庫まで行こうぜ」
そう言うと、スクナビコナは倉庫に向かって歩き始める。
『…うん、それはいいんだけど……』
チュルヒコはスクナビコナのすぐ横を歩きながら話を切り出す。
「…何か僕に言いたいことでもあるのか?」
『うん、さっきのおわんや箸たちのことなんだけど……』
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えよ」
『スクナはさ、もっとおわんや箸たちの気持ちを考えようとは思わないの?』
「おわんや箸の気持ちを考えるう?」
『そうだよ!だってみんなすごく嫌がってたじゃないか。僕たちといっしょに地上に行くことを』
「ふん!僕があんなやつらに気をつかえってのか?」
『だってスクナのやり方はあまりにも強引過ぎるよ!もうちょっと違うやり方だってあるはずさ!』
「はん!いいか、これは僕の問題なんだ!あいつらがどう思ってるかなんて知ったこっちゃあないな!だいたいおわんも箸もただの〝モノ〟じゃないか!たかが〝モノ〟ごときの気持ちを考えるなんて単なる時間の無駄さ!」
『もう、そんなことを言ってるから高天原から追放されちゃうんだよ!』
「なにぃ、お前言っていいことと悪いことがあるぞ!」
『だって本当のことだろ!』
「ふざけるな!僕は何も悪くない!」
このあと一人と一匹は不毛な言い争いを倉庫にたどり着くまで続けた。
そして、倉庫では親切にも誰かが用意してくれたらしいおにぎりを、スクナビコナが用意していた袋に詰めれるだけ詰めた。
そのあとスクナとチュルヒコは帰り道では一言も会話をすることなく、険悪な雰囲気のまま別れた。
そうしてチュルヒコはネズミの穴へと、スクナビコナは倉庫の前へとそれぞれ帰っていくのだった。
「ふん、ようやく帰ってきたか」
スクナビコナが倉庫の入り口まで戻ると、スサノオが入り口の扉の前で待ち構えている。
「ぎりぎりだったけど準備は全部終わったよ」
スクナビコナは機嫌悪そうに、仏頂面で答える。
今はすでに日没寸前でもう周囲は薄暗くなっている。
「たわけが!」
スサノオはいきなりスクナビコナを叱り飛ばす。
「貴様が持ってきたおにぎりは誰が用意したかわかるか?このスサノオだ!つまり貴様は今日一日かけても一人で準備をすることができなかったというわけだ」
「…そう、一応礼を言っておくよ。ありがとう」
相変わらずふて腐れた様子でスクナビコナはスサノオに礼を言う。
そして昨日と同様にスサノオによってツボヒコの中に入れられるのだった。
「…あー、くそっ!」
スクナビコナはツボの中で一人怒る。
『どうなさいました、スクナ殿?ずいぶん気分を害されているようですが……』
そんなスクナビコナにツボヒコが不機嫌の理由を尋ねる。
「…お前はチュルヒコのことは知っているか?」
『ああ、この高天原のネズミたちの主チュル王の息子チュルヒコ殿のことですか?そこまで詳しく知っているわけではありませんが……』
「そうか、でもまあ大体どんなやつかくらいは知ってるんだな?」
『…ええ、まあ……』
「そのチュルヒコが僕に高天原から追放されたのは僕の態度に原因がある、とか言うんだ!」
『…ふふ、チュルヒコ殿も私と同じ考えのようだ』
「なっ!お前も同じ考えなのか?」
『はい』
「ふんっ、なんだよ!」
『ははっ、しかしまあこのツボヒコ、無理やりあなたの態度を改めさせようとは思いません。そんなことをしようとしてもあなたが聞き入れることはないでしょうからな』
「当たり前だっ!」
『ふふっ、あなたは本当に頑固な方だ。おそらく私やチュルヒコ殿だけでなく、スサノオ様や他の高天原の方々もそう思っておられるはずだ』
「悪かったな」
『ただ高天原の方々はあなたを見捨てているわけではないとも思いますぞ』
「なに?…だって僕は〝ここ〟から追放されるんだぞ。それってもう二度と高天原に戻ってくるな、って意味なんじゃないのか?」
『いやいや、それは違うのではないでしょうか』
「どう違うんだよ?」
『スサノオ様や高天原の方々はあなたに地上で色々なことを学んで欲しいのではありませんか?』
「マナブ?この僕が?そんなの必要ないね。僕に学ぶものなんてないよ」
スクナビコナは肩をすくめながら言い放つ。
『ふふっ、もうこれ以上はこのツボヒコは申しません。あなたが地上で考えるべきものですから』
「ふん、そうか。じゃあもう僕は寝るぞ。今日は一日中あちこちに動き回ったから結構疲れたんだ」
『はい、おやすみなさい。このツボヒコも地上であなたが健闘されることを祈っております』
「言われなくても〝健闘〟してやるさ。じゃあ、お休み」
そう言うと、スクナビコナは横になって眠りに落ちるのだった。
翌早朝、スクナビコナはスサノオによってつぼから外に出された。
そして必要なものを全て自ら用意した。
袋の中には自分が高天原の住人であることを証明する勾玉、入る限りのおにぎりを詰めて、左肩に担ぐ。
腰の帯には愛用の裁縫用の針を帯びる。その〝刀身〟はスクナビコナが藁で作った〝鞘〟におさまっている。
そうして倉庫を出て、高天原から地上へ向かうための出発地点である天の安河へと向かうのだった。
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