26 / 56
スクナビコナと腰折れスズメ④―アマノジャク、無理やりスクナビコナたちのつづらを開ける!…だが…?―
しおりを挟む
「いやあ、本当によかったな」
『うん、そうだね。贈り物ももらったし、スズメたちとも仲良くなれたし……』
先ほどまでのスズメたちとの出来事の余韻に浸りながら、スクナビコナとチュルヒコはアマノジャクたちが住んでいるという一軒家を目指す。
実はスクナビコナたちはスズメヒコに自分の代わりに、アマノジャクたちに無断で米を食べてしまったことを謝ってほしいと頼まれていた。
それはもっともな頼みだった。
もし仮にスズメヒコが再びアマノジャクたちの前に現れれば、即座に石を投げられかねない。アマノジャクとドブヒコはそれくらいのことはやってもおかしくない性格の持ち主である。ゆえにスズメヒコが直接謝るよりも、スクナビコナたちが代わりに謝ったほうがよいというわけである。
「…ええと、スズメヒコの話によると確かこの辺りだったと思うけど……」
『うん、そうだよね……』
スクナビコナとチュルヒコは話をしながら辺りを見回してみる。周囲は田んぼに囲まれた典型的と言っていい田園地帯である。
「…ひょっとして、あれか?」
スクナビコナは一軒の建物を指差す。それは周りにほかの建物もなく、一軒のみでぽつんと建っている木造の高床式倉庫である。
『うーん、確かに他にこの辺りに当てはまりそうな建物はないよね……』
スクナビコナやチュルヒコがいくら周囲を見回したところでこの倉庫以外に建物は見当たらない。
「…まあ、とりあえず行ってみるか……」
『そうだね……』
スクナビコナとチュルヒコが倉庫の入り口に近づこうとしたその時である。
『あ、あれは!』
「ああ、間違いないな!」
倉庫の入り口から小さな人影とネズミらしき影が話をしながら出てくる。
『いやー、それにしても今朝は不届きなスズメのやつを懲らしめて気分がよかったですねえ!』
ドブヒコは愉快そうに話を切り出す。
「ふん、そうだな」
『もっとも俺たちの米は基本的によその田んぼから盗んだものばかりで、本当は自分たちのものではな…、グハッ!』
話している途中で突然ドブヒコはアマノジャクに殴られてしまう。
『…そ、そんな、正しいことを言ったのに……』
「正しくなどない!」
痛さのあまり頭を抱えてうずくまっているドブヒコにアマノジャクは言い放つ。
「他の者がアマノジャク様の物を盗むのは決して許されんが、俺が他の者の持ち物を盗むのはいくらでも許されるからだ!フッハッハッハッ!」
アマノジャクは自慢げに高笑いする。
『…さ、さすがアマノジャク様。すごい理屈だ……』
「ハハッ、これぞアマノジャク様の〝掟〟だ!」
アマノジャクは自らの〝信念〟を自画自賛する。
「…ふう、初めて会ったときから思ってはいたことだが…、本当にふざけたやつらだな……」
アマノジャクたちから少し離れた位置から話の様子を見ていたスクナビコナは呆れながら言う。
『…うん、僕できることならあいつらと会いたくないんだけど……』
チュルヒコもアマノジャクたちに対する嫌悪感をあらわにする。
「そういうわけにもいかないだろ。さあ、行こうぜ」
『…うん、わかったよ……』
スクナビコナはあまり気が進まない様子のチュルヒコとともにアマノジャクたちに近づいていく。
「おい、お前ら!」
「ゲッ、なんだお前ら!」
『そうだ!お前ら何しに来たんだ!』
アマノジャクとドブヒコはスクナビコナたちに対する不信感をあらわにする。
「勘違いするな。別に喧嘩を売りに来たわけじゃないよ」
「何を言ってやがる!」
『そうですぜ!どうせこいつらまた何かくだらない手を使ってこちらを騙そうという魂胆に違いないですぜ!』
『…チュー、僕たちよっぽど信用されてないみたいだね……』
「…そうだな……」
相変わらず信用しようとしないアマノジャクとドブヒコに、チュルヒコもスクナビコナも呆れ果てる。
「じゃあ、何しにここに来た!」
『チューッ、そうですぜ!』
「僕たちがここに来たのはスズメヒコから伝言を頼まれたからだよ」
「伝言だと?」
『スズメヒコって誰だ?』
「お前たちが石をぶつけてケガをさせたスズメだよ」
「ああ、あのスズメか……」
『そのスズメが俺たちになんの伝言を?』
「スズメヒコは米を勝手に食べてしまって申し訳なかった、って言ってたぞ」
「ふん、謝ろうという気持ちくらいは持ち合わせていたのか。だが……」
『直接面と向かって謝ろうとしないのが気にいらねえ!』
アマノジャクとドブヒコはスズメヒコが直接自分たちに謝ることにこだわる。
「もしスズメヒコが直接謝りに来たらお前たちにまた石を投げられるだろ」
『そうだよ。それに確かに最初に米を食べちゃったのはスズメヒコかもしれないけど、そっちだってスズメヒコにケガを負わせたよね』
スズメヒコの直接の謝罪を迫る一人と一匹に対して、スクナビコナとチュルヒコは反論する。
『テメエら!グダグダ抜かしてないで!…ん……?』
続きを喋ろうとするドブヒコを突然アマノジャクが制止する。
「まあいいだろう。この件に関してはもうこのあたりでよしとしてやってもいいぜ。ただし条件がある……」
「条件?なんだ?」
「まずはそのお前が持っている物。それはどうやって手に入れた?」
アマノジャクはスクナビコナが両手で持っているつづらを指差しながら言う。
「つづらをどうやって手に入れたかを聞きたいのか?ああ、いいぞ。話してやる」
スクナビコナはケガをしているスズメヒコを助けてから、その礼としてつづらを受け取るまでの一連の出来事をアマノジャクとドブヒコに話して聞かせる。
「…ふん、そんなことがあったとはな……」
「これで満足か?」
「いや、もう一つお前にやってもらいたいことがある」
「なんだよ?」
「そのつづらの中身を開けて俺たちに見せてみろ」
「これは僕たちがスズメたちにもらったものだ。お前たちにわざわざ見せるようなものじゃない」
スクナビコナはアマノジャクの要求をきっぱりと拒絶する。
『ククッ、スクナよ、なぜ断る?何かやましいことでもあるのか?』
『そうじゃないよ!これはスズメたちからもらった大切な贈り物だから、お前たちなんかに見せたくないって言ってるんだよ!』
ドブヒコの言葉に激高したチュルヒコが答える。
「ハハッ、もしお前らがどうしても見せたくないって言うなら、俺たちはやっぱりスズメヒコを許さないことにするぞ」
「…お前ら本当にしつこいな……」
『…そうまでしてつづらの中身を知りたいの?』
スクナビコナもチュルヒコもアマノジャクたちがつづらの中身を見ることに執拗にこだわることに呆れる。
「さあ、どうする?見せるのか!見せないのか!」
『さっさと決めやがれ!』
アマノジャクとドブヒコはなおもつづらの中を見せるようスクナビコナたちに対して強硬に主張する。
『…スクナ、どうしよう……?』
一人と一匹のあまりのしつこさに戸惑うチュルヒコはスクナビコナに決断を委ねる。
「…しょうがないな、わかったよ……」
ついにスクナビコナはアマノジャクたちに、つづらの中身を見せることを渋々ながら了承する。
「けっ、クソが!初めからそう言やあいいんだよ!」
『まったくですぜ!無駄にもったいぶりやがって!』
アマノジャクとチュルヒコはようやくつづらを開けることを認めたスクナビコナに容赦なく悪態をつく。
(…くそ……)
スクナビコナは内心じくじたる思いを抱えながらも、つづらを地面に置き、蓋を開けようとする。
「しゃらくせえ!俺がお前の代わりに開けてやる!」
アマノジャクは突然そう叫ぶと、スクナビコナを強引に突き飛ばす。
『な、何するんだよ!』
「…くっ、お前らどこまで……!」
いきなりのアマノジャクの横暴な行動に、チュルヒコとスクナビコナは憤る。
『ケケッ、お前がトロトロ蓋を開けようとしているから、アマノジャク様が代わりに開けてやろうってんだよ!感謝しろ!』
しかし怒っている一人と一匹にドブヒコは言い放つ。
「フッハッハッハッ。さあてと、中には何が入ってるかな?」
アマノジャクはさも自分がつづらを手に入れたかのように高笑いしたあと、乱暴に蓋を開ける。
「…これは!」
『ゲゲッ!』
『うわあ……!』
「すごい……!」
その場にいた誰もがつづらの蓋が取り払われた瞬間、感嘆の声を上げる。つづらの中からは、夜だったら周囲を明るく照らさんばかりの強い光が外に向かって漏れているのである。
『クソッ!』
「うわっ、まぶしすぎて目が!」
そのあまりの光の強さに目をやられてしまったアマノジャクとドブヒコは、うめきながらその場に倒れてしまう。
「おい、チュルヒコ!お前は大丈夫か?」
『うん、かなりまぶしいけどなんとか目は見えてるよ』
「そうか、じゃあなんとか頑張ってつづらに近づいてみるとしようぜ」
『わかった』
スクナビコナとチュルヒコは意を決して、つづらのほうに向かって歩き始める。そしてつづらの中身から放たれる光のまぶしさに耐えながら、なんとかつづらのすぐそばにまで近づくことに成功する。
「…な、なんとかここまで来たぞ……」
『…な、中には何が入っているんだろう……』
「よし、チュルヒコ。いっせいのせーで目を開けるぞ!」
『うん、わかった!』
「いっせいのせーっ!」
スクナビコナの掛け声と同時に一人と一匹は目を開ける。
「…これは!」
『…すごい!』
スクナビコナもチュルヒコもその光源の正体に驚く。
『…僕、こんなもの高天原にいたときは一度も見たことないよ……』
「ふん、僕だって高天原だけじゃなく地上を旅したときでもこれだけのものは見たことがないぞ……」
つづらの中には金、銀、サンゴ、ヒスイの勾玉といった財宝が詰まっている。
「おい、これだけの宝が当分食うには困らないぞ!」
『えっ、どうすればこれらの物が食べ物に変わるの?』
地上の事情に疎いチュルヒコはスクナビコナの言葉に戸惑う。
「これらのものを近くの人間が住んでいる村に持って行って、食べ物に交換してもらうのさ。これだけの珍しいものだったら、米だとしてもとんでもない量が手に入るだろうな。それこそ僕たちだけじゃなく、ネズミの穴のネズミたち全員が当分飢えないくらいの量だ」
『それはすごいね!』
「だろ!」
スクナビコナとチュルヒコは本当に愉快そうに、自分たちの身に起きた幸運をともに喜ぶ。
「さあ、とりあえずつづらをネズミの穴に持って帰ろうぜ。〝お宝〟を食べ物に換えるのはそれからだ」
『うん!…あ、でも……』
そう言うと、チュルヒコは視線をいまだに倒れているアマノジャクとドブヒコのほうに移す。
『…確かにこいつらは酷いやつらだけど…。さすがにこのままほうっておくのは……』
チュルヒコは少しだけ心配そうにいまだに意識を取り戻さない一人と一匹を見る。
「…ふう、確かに今のこいつらは多少かわいそうではあるけどな…。でもはっきりいってこいつらがこうなったのは少なからず自業自得の側面があると思うぜ……」
『…うーん、そうかな……』
「そうだよ!さあ、さっさとネズミの穴に帰ろうぜ」
スクナビコナはいまだにアマノジャクとドブヒコの身を案じるチュルヒコを強引に押し切る。
『…わかったよ……』
結局、チュルヒコもスクナビコナに従って、ネズミの穴に帰ることに同意するのだった。
『うん、そうだね。贈り物ももらったし、スズメたちとも仲良くなれたし……』
先ほどまでのスズメたちとの出来事の余韻に浸りながら、スクナビコナとチュルヒコはアマノジャクたちが住んでいるという一軒家を目指す。
実はスクナビコナたちはスズメヒコに自分の代わりに、アマノジャクたちに無断で米を食べてしまったことを謝ってほしいと頼まれていた。
それはもっともな頼みだった。
もし仮にスズメヒコが再びアマノジャクたちの前に現れれば、即座に石を投げられかねない。アマノジャクとドブヒコはそれくらいのことはやってもおかしくない性格の持ち主である。ゆえにスズメヒコが直接謝るよりも、スクナビコナたちが代わりに謝ったほうがよいというわけである。
「…ええと、スズメヒコの話によると確かこの辺りだったと思うけど……」
『うん、そうだよね……』
スクナビコナとチュルヒコは話をしながら辺りを見回してみる。周囲は田んぼに囲まれた典型的と言っていい田園地帯である。
「…ひょっとして、あれか?」
スクナビコナは一軒の建物を指差す。それは周りにほかの建物もなく、一軒のみでぽつんと建っている木造の高床式倉庫である。
『うーん、確かに他にこの辺りに当てはまりそうな建物はないよね……』
スクナビコナやチュルヒコがいくら周囲を見回したところでこの倉庫以外に建物は見当たらない。
「…まあ、とりあえず行ってみるか……」
『そうだね……』
スクナビコナとチュルヒコが倉庫の入り口に近づこうとしたその時である。
『あ、あれは!』
「ああ、間違いないな!」
倉庫の入り口から小さな人影とネズミらしき影が話をしながら出てくる。
『いやー、それにしても今朝は不届きなスズメのやつを懲らしめて気分がよかったですねえ!』
ドブヒコは愉快そうに話を切り出す。
「ふん、そうだな」
『もっとも俺たちの米は基本的によその田んぼから盗んだものばかりで、本当は自分たちのものではな…、グハッ!』
話している途中で突然ドブヒコはアマノジャクに殴られてしまう。
『…そ、そんな、正しいことを言ったのに……』
「正しくなどない!」
痛さのあまり頭を抱えてうずくまっているドブヒコにアマノジャクは言い放つ。
「他の者がアマノジャク様の物を盗むのは決して許されんが、俺が他の者の持ち物を盗むのはいくらでも許されるからだ!フッハッハッハッ!」
アマノジャクは自慢げに高笑いする。
『…さ、さすがアマノジャク様。すごい理屈だ……』
「ハハッ、これぞアマノジャク様の〝掟〟だ!」
アマノジャクは自らの〝信念〟を自画自賛する。
「…ふう、初めて会ったときから思ってはいたことだが…、本当にふざけたやつらだな……」
アマノジャクたちから少し離れた位置から話の様子を見ていたスクナビコナは呆れながら言う。
『…うん、僕できることならあいつらと会いたくないんだけど……』
チュルヒコもアマノジャクたちに対する嫌悪感をあらわにする。
「そういうわけにもいかないだろ。さあ、行こうぜ」
『…うん、わかったよ……』
スクナビコナはあまり気が進まない様子のチュルヒコとともにアマノジャクたちに近づいていく。
「おい、お前ら!」
「ゲッ、なんだお前ら!」
『そうだ!お前ら何しに来たんだ!』
アマノジャクとドブヒコはスクナビコナたちに対する不信感をあらわにする。
「勘違いするな。別に喧嘩を売りに来たわけじゃないよ」
「何を言ってやがる!」
『そうですぜ!どうせこいつらまた何かくだらない手を使ってこちらを騙そうという魂胆に違いないですぜ!』
『…チュー、僕たちよっぽど信用されてないみたいだね……』
「…そうだな……」
相変わらず信用しようとしないアマノジャクとドブヒコに、チュルヒコもスクナビコナも呆れ果てる。
「じゃあ、何しにここに来た!」
『チューッ、そうですぜ!』
「僕たちがここに来たのはスズメヒコから伝言を頼まれたからだよ」
「伝言だと?」
『スズメヒコって誰だ?』
「お前たちが石をぶつけてケガをさせたスズメだよ」
「ああ、あのスズメか……」
『そのスズメが俺たちになんの伝言を?』
「スズメヒコは米を勝手に食べてしまって申し訳なかった、って言ってたぞ」
「ふん、謝ろうという気持ちくらいは持ち合わせていたのか。だが……」
『直接面と向かって謝ろうとしないのが気にいらねえ!』
アマノジャクとドブヒコはスズメヒコが直接自分たちに謝ることにこだわる。
「もしスズメヒコが直接謝りに来たらお前たちにまた石を投げられるだろ」
『そうだよ。それに確かに最初に米を食べちゃったのはスズメヒコかもしれないけど、そっちだってスズメヒコにケガを負わせたよね』
スズメヒコの直接の謝罪を迫る一人と一匹に対して、スクナビコナとチュルヒコは反論する。
『テメエら!グダグダ抜かしてないで!…ん……?』
続きを喋ろうとするドブヒコを突然アマノジャクが制止する。
「まあいいだろう。この件に関してはもうこのあたりでよしとしてやってもいいぜ。ただし条件がある……」
「条件?なんだ?」
「まずはそのお前が持っている物。それはどうやって手に入れた?」
アマノジャクはスクナビコナが両手で持っているつづらを指差しながら言う。
「つづらをどうやって手に入れたかを聞きたいのか?ああ、いいぞ。話してやる」
スクナビコナはケガをしているスズメヒコを助けてから、その礼としてつづらを受け取るまでの一連の出来事をアマノジャクとドブヒコに話して聞かせる。
「…ふん、そんなことがあったとはな……」
「これで満足か?」
「いや、もう一つお前にやってもらいたいことがある」
「なんだよ?」
「そのつづらの中身を開けて俺たちに見せてみろ」
「これは僕たちがスズメたちにもらったものだ。お前たちにわざわざ見せるようなものじゃない」
スクナビコナはアマノジャクの要求をきっぱりと拒絶する。
『ククッ、スクナよ、なぜ断る?何かやましいことでもあるのか?』
『そうじゃないよ!これはスズメたちからもらった大切な贈り物だから、お前たちなんかに見せたくないって言ってるんだよ!』
ドブヒコの言葉に激高したチュルヒコが答える。
「ハハッ、もしお前らがどうしても見せたくないって言うなら、俺たちはやっぱりスズメヒコを許さないことにするぞ」
「…お前ら本当にしつこいな……」
『…そうまでしてつづらの中身を知りたいの?』
スクナビコナもチュルヒコもアマノジャクたちがつづらの中身を見ることに執拗にこだわることに呆れる。
「さあ、どうする?見せるのか!見せないのか!」
『さっさと決めやがれ!』
アマノジャクとドブヒコはなおもつづらの中を見せるようスクナビコナたちに対して強硬に主張する。
『…スクナ、どうしよう……?』
一人と一匹のあまりのしつこさに戸惑うチュルヒコはスクナビコナに決断を委ねる。
「…しょうがないな、わかったよ……」
ついにスクナビコナはアマノジャクたちに、つづらの中身を見せることを渋々ながら了承する。
「けっ、クソが!初めからそう言やあいいんだよ!」
『まったくですぜ!無駄にもったいぶりやがって!』
アマノジャクとチュルヒコはようやくつづらを開けることを認めたスクナビコナに容赦なく悪態をつく。
(…くそ……)
スクナビコナは内心じくじたる思いを抱えながらも、つづらを地面に置き、蓋を開けようとする。
「しゃらくせえ!俺がお前の代わりに開けてやる!」
アマノジャクは突然そう叫ぶと、スクナビコナを強引に突き飛ばす。
『な、何するんだよ!』
「…くっ、お前らどこまで……!」
いきなりのアマノジャクの横暴な行動に、チュルヒコとスクナビコナは憤る。
『ケケッ、お前がトロトロ蓋を開けようとしているから、アマノジャク様が代わりに開けてやろうってんだよ!感謝しろ!』
しかし怒っている一人と一匹にドブヒコは言い放つ。
「フッハッハッハッ。さあてと、中には何が入ってるかな?」
アマノジャクはさも自分がつづらを手に入れたかのように高笑いしたあと、乱暴に蓋を開ける。
「…これは!」
『ゲゲッ!』
『うわあ……!』
「すごい……!」
その場にいた誰もがつづらの蓋が取り払われた瞬間、感嘆の声を上げる。つづらの中からは、夜だったら周囲を明るく照らさんばかりの強い光が外に向かって漏れているのである。
『クソッ!』
「うわっ、まぶしすぎて目が!」
そのあまりの光の強さに目をやられてしまったアマノジャクとドブヒコは、うめきながらその場に倒れてしまう。
「おい、チュルヒコ!お前は大丈夫か?」
『うん、かなりまぶしいけどなんとか目は見えてるよ』
「そうか、じゃあなんとか頑張ってつづらに近づいてみるとしようぜ」
『わかった』
スクナビコナとチュルヒコは意を決して、つづらのほうに向かって歩き始める。そしてつづらの中身から放たれる光のまぶしさに耐えながら、なんとかつづらのすぐそばにまで近づくことに成功する。
「…な、なんとかここまで来たぞ……」
『…な、中には何が入っているんだろう……』
「よし、チュルヒコ。いっせいのせーで目を開けるぞ!」
『うん、わかった!』
「いっせいのせーっ!」
スクナビコナの掛け声と同時に一人と一匹は目を開ける。
「…これは!」
『…すごい!』
スクナビコナもチュルヒコもその光源の正体に驚く。
『…僕、こんなもの高天原にいたときは一度も見たことないよ……』
「ふん、僕だって高天原だけじゃなく地上を旅したときでもこれだけのものは見たことがないぞ……」
つづらの中には金、銀、サンゴ、ヒスイの勾玉といった財宝が詰まっている。
「おい、これだけの宝が当分食うには困らないぞ!」
『えっ、どうすればこれらの物が食べ物に変わるの?』
地上の事情に疎いチュルヒコはスクナビコナの言葉に戸惑う。
「これらのものを近くの人間が住んでいる村に持って行って、食べ物に交換してもらうのさ。これだけの珍しいものだったら、米だとしてもとんでもない量が手に入るだろうな。それこそ僕たちだけじゃなく、ネズミの穴のネズミたち全員が当分飢えないくらいの量だ」
『それはすごいね!』
「だろ!」
スクナビコナとチュルヒコは本当に愉快そうに、自分たちの身に起きた幸運をともに喜ぶ。
「さあ、とりあえずつづらをネズミの穴に持って帰ろうぜ。〝お宝〟を食べ物に換えるのはそれからだ」
『うん!…あ、でも……』
そう言うと、チュルヒコは視線をいまだに倒れているアマノジャクとドブヒコのほうに移す。
『…確かにこいつらは酷いやつらだけど…。さすがにこのままほうっておくのは……』
チュルヒコは少しだけ心配そうにいまだに意識を取り戻さない一人と一匹を見る。
「…ふう、確かに今のこいつらは多少かわいそうではあるけどな…。でもはっきりいってこいつらがこうなったのは少なからず自業自得の側面があると思うぜ……」
『…うーん、そうかな……』
「そうだよ!さあ、さっさとネズミの穴に帰ろうぜ」
スクナビコナはいまだにアマノジャクとドブヒコの身を案じるチュルヒコを強引に押し切る。
『…わかったよ……』
結局、チュルヒコもスクナビコナに従って、ネズミの穴に帰ることに同意するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる