スクナビコナの冒険―小さな神が高天原を追放されネズミとともに地上に落っこちてしまった件―

七柱雄一

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スクナビコナと腰折れスズメ⑥―ついにアマノジャクとドブヒコ、つづらを手に入れる!やつらこそが真の〝勝利者〟なのか!!―

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「フッハッハッハッ、あいつらよりも大きなつづらを手に入れてやったぞ!」

 アマノジャクは背中に大きなつづらを背負いながら、高笑いする。今は家路へと向かう途中である。

『クックックックッ、まったくスクナもチュルヒコも救いようがないバカ、大バカですぜ!大きなつづらを選ばずに小さいほうを選ぶとは!』

 ドブヒコもともにその背につづらを背負いながら、そんなアマノジャクに同調して大笑いする。

「これはまさにこのアマノジャク様の完全勝利だ!〝勝利の方程式〟の完成だよ!」
『…し、しかし、アマノジャク様……』

 ドブヒコは苦しそうに大量の汗をかきながら言う。

「なんだ?ドブヒコよ」
『…ゼエ、…ゼエ、…このつづらやけに重い気が……』

 ドブヒコは息を切らしながら言う。

「何を言うか!このつづらの重みは〝勝利の重み〟なんだよ!中にはとんでもないお宝が詰まっているに違いないんだ!気合で耐えろ!」

 アマノジャクは今にも倒れそうなドブヒコにゲキを飛ばす。

『…ゼエ、…ゼエ、…そ、そうは言っても…、もう体力の限界が……』

 ドブヒコはそう言いながら、体をふらつかせる。

「…オイッ、このバカが!つづらを落とす気か!」

 ドブヒコがフラフラし始めたために、その背中に背負っているつづらまでふらつき、危うくアマノジャクは転びそうになる。

『…お、…お願いです、…アマノジャク様、…少し休ませて……』

 ついにドブヒコはアマノジャクに休んでくれるよう懇願し始める。

「…ゼエ、ゼエ、…確かにこのアマノジャク様も、…さすがに少し疲れてきた…。やむをえん、休けいだ……」

 このアマノジャクの言葉とともに、一人と一匹は同時につづらを横に落とすように置く。つづらはドーン、という大きな音を立てて地面に落ちる。そしてアマノジャクもドブヒコもそのまま倒れてしまう。

『…ゼエ、ゼエ、…それにしてもなんて重さなんだ……』

 ドブヒコは仰向けに倒れ、激しく息を乱しながら言う。

「…ゼエ、ゼエ、…いったい中には何が入っているんだろうな……?」

 アマノジャクも同じく仰向けに天を見上げながら、苦しげに言う。

『…ゼエ、ゼエ、…アマノジャク様、このままでは家に帰る前に俺たちの体力が尽きてしまいやすぜ……』
「…ゼエ、ゼエ、…確かにこのまま家まで歩き続けるのは不可能だろうな……」
『…ゼエ、ゼエ、…アマノジャク様、こうなったらつづらを開けて、中身を少しずつ家に持ち帰るしかないのでは……?』

 ドブヒコはアマノジャクにつづらの蓋を開けることを提案する。

「…ゼエ、ゼエ、…そうするしかないか…。つづらの中身も気になることだし……」

 アマノジャクもドブヒコの提案を受け入れる。

「…よし、だいぶ体力も戻ってきた。つづらの蓋を取るぞ!」

 このアマノジャクの言葉と同時に、アマノジャクもドブヒコもパッ、と飛び起きる。

「…な、なんとこのつづらはこれほどまでに大きいのか!」

 アマノジャクは懸命に背伸びをしたり、ジャンプしたりしてみる。
 しかしつづらの蓋に手をかけることさえできない。

「…ウムム、…こうなったら、…おい、ドブヒコ!俺の踏み台になれ!」
『ゲゲッ、俺がアマノジャク様の踏み台に……?』

 ドブヒコは突然のアマノジャクの命令に困惑する。

「つべこべ言わずにさっさとしろ!」

 そう言うと、アマノジャクはつづらのすぐそばにいるドブヒコの背の上を、強引に両足で踏みつける。

『…グハアッ!…ああ、なんか俺っていつも損な役回りばかりのような気が……』

 ドブヒコは両目から大量の涙を流しながら、己の身の不幸を嘆く。

「…オオッ、こうすればなんとか蓋に手が届くぞ!」

 アマノジャクは下の〝踏み台〟になっているドブヒコのことなどは一切気にすることなく、いよいよつづらの中身が見れそうなことに興奮する。

「…よし、やった!」

 アマノジャクは蓋を両手で持ち、すぐ横に放り投げる。

「フッハッハッハッハッ、とうとう開いたぞ!」

 アマノジャクはつづらを開けたことを一人自慢げに誇る。

「…さてと、中には何があるのかな?トウッ!」

 そう言うと、アマノジャクはつづらに両手をかけ、壁を登るときのように腕を曲げて、つづらの中を見ようとする。

「…ん……?」

 するとすぐに〝奇妙な怪物〟と目が合う。その怪物、ヘビの顔はアマノジャクのすぐ目の前にあり、その口から二股に分かれた舌をチロチロと出している。

「…なんでお前みたいなやつがつづらの中に?」

 ふと疑問に思ったアマノジャクはつづらの中全体を見渡してみる。

「…なんだこれはァァァァァァーッ!」

 アマノジャクはつづらの中の光景を見て驚愕する。そこにはところ狭しヘビやムカデがうようよとひしめいている。

「あわわわわわ!…うん、なんだ……?」

 その凄まじい風景に慌てるアマノジャクの頬を何かが打ちつける。
 アマノジャクがその感触がする自分の真正面の方向を見ると、そこには恐ろしい顔をしてアマノジャクを凝視するヘビの顔が。そう、アマノジャクを打ちつけていたのはヘビの舌だったのである。

「…グワァァァァァァーッ!」

 アマノジャクはヘビと目が合うのと同時に、その場から一目散に逃げ出す。

『…ん、アマノジャク様。なんで逃げ出すんです?』

 凄まじい速さで逃げ出したアマノジャクの様子をドブヒコは不思議そうに見る。

『…いでで!』

 突然、ドブヒコの頭上や体に上から何かがぶつかってくる。

『…いてて、いきなり何がぶつかってきたんだ?』

 ドブヒコはその落ちてきたものの正体を確認する。そしてそれを見た瞬間、ドブヒコもアマノジャクがなぜ逃げ出したのかを理解する。

『…グギャァァァァァァーッ!』

 落ちてきたものの正体は巨大なヘビとムカデである。ドブヒコもアマノジャクに続いてその場から逃げ出す。

「グワァァァァァァーッ!」
『グギャァァァァァァーッ!』

 その日、アマノジャクとドブヒコは辺り一帯を、悲鳴を上げながらひたすら逃げ回った。
 そんな一人と一匹をヘビとムカデはどこまでも追いかけ回し、あらゆる方法で痛めつけた。
 そのためにアマノジャクもドブヒコも、何度もヘビやムカデにかみつかれたり、その体で締め上げられたりしなければならなかった。
 その執ようかつ無慈悲な攻撃にアマノジャクもドブヒコも心と体に深い傷を負い、それが癒えるまでに一ヶ月程度の期間を要したとのことだ。
 一方、スクナビコナとチュルヒコはスズメたちにもらったつづらの中身の〝お宝〟を、人間の村で米などの食料と交換した。
 そしてそれらを自分たちだけのものにはせず、ネズミたちにも分け与え、ともに愉快に過ごしたとのことである。
 めでたし、めでたし。
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