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スクナビコナとろくろ首④―スクナビコナ、老婆の家族たちと対峙!はたしてどうなる!!―
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「…ええと、じゃあこちらに……」
老婆は前回泊めた部屋に再びスクナビコナを案内しようとする。
「おばあさん。その前にこの家にいる他の人たちに会わせてよ」
「…え……?」
スクナビコナの言葉に意表を突かれたのか、老婆は完全に固まってしまう。
「確かおばあさん、前にここに来たときにこの家には他にもいっしょに住んでる家族がいるって言ってたよね。僕はその人たちに会ってみたいんだ」
「…わ、私の家族はね。あまりよそからの方とは会いたがらないのよ……」
老婆は明らかに戸惑った様子で言う。
「そこをなんとか一目でいいから会わせてもらえないかな?」
「…ちょ、…ちょっと待ってね。みんなにあなたと会ってもいいかどうかを聞いてくるから……」
そうスクナビコナに告げると、老婆は慌てて家族たちがいる部屋へと続いていると思われる木の戸を開けて、奥のほうへと小走りで向かっていく。
そうしてしばらくすると、老婆がまた小走りでスクナビコナの元に戻ってくる。
「…みんながあなたに会ってもいいって言ってるわ」
「そうか。じゃあ家族がいる場所まで案内してよ」
スクナビコナがそう言うと、老婆は、わかりました、と答えて、部屋の奥へと歩き始める。スクナビコナもそのあとから黙ってついて行くのだった。
老婆は木の戸を開けながら、どんどん家の奥へと入っていく。そして三つ目の戸の前で立ち止まる。
「…この奥に私の家族がおります」
そう言うと、老婆は最後の戸をあけ、部屋の中へと入る。スクナビコナもそれに続いて中へと入る。
「今日はかわいらしいお客さんをお連れしましたよ」
先に部屋に入った老婆が部屋の中で座っている四人の人物に対してスクナビコナを紹介する。四人は老婆と同じように白い服を着ている。
「これは、これは。ようこそ我が家へお越しくださいました」
家の主人と思われる中年の、黒髪に白髪も混じった男がスクナビコナに対して両手をついて丁寧なお辞儀をする。その顎にはひげも蓄えている。
「ふふふっ、これは本当に小さなお客さんですねえ」
若い女が右手を口に当てながら嬉しそうに声を上げる。
「こんな山奥の家にあなたのような方がいらっしゃるとは」
若い女に続いて彼女の夫と思われる若い男が愉快そうに言う。
「本当に珍しいお客さんですこと」
最後に家の主人の妻と思われる女性が穏やかに言う。
「…はじめまして、僕の名はスクナといいます。よろしく」
スクナビコナも部屋の中で座ると、お辞儀をしてあいさつする。そして顔を上げると、部屋の中にいる四人の顔を確認する。
一応ここでは彼らとは初対面ということにしているが、スクナビコナは四人全員の顔を一度見たことがある。
それは忘れもしない先日のこと、チュルヒコを含めた馬たちが田畑で奴隷のように扱われていたのを目撃したときである。
その現場に老婆も入れた五人全員がいて、馬たちをこき使っていたのだ。
それゆえに、スクナビコナは今この部屋にいる者たちが、自分に対して浮かべている笑顔が偽りのものに違いないと確信している。
この者たちは決して〝善人〟などではない。もっとも、そもそも人間であるとも言い切れないし、おそらく人ではない可能性のほうが高いのだが。
「ふっふっふっ。しかし聞くところによれば一度ここに来たことがあったにもかかわらず、今日またここに来たそうじゃありませんか。なぜこのような山奥にもう一度来られるようなことを?」
中年の男は何か含むところがあるような笑いをしたあと、スクナビコナに尋ねる。
「いやあ、特に深い理由はないんだ。僕は生まれついての方向音痴で、一度このあたりには来たことがあったにもかかわらず道に迷ってしまって。そして迷っているうちに日が暮れて周りがすっかり暗くなってしまって。そうして山の中をウロウロしているうちになんとかこの家の光を見つけて、恥ずかしながらもう一度この家に来てしまったということなんだ」
スクナビコナは男の問いによどみなく答える。
「ハッハッハッハッ!まだほんの小さな子供だというのに実にしっかりとした答えをなされた」
男は豪快に笑いながら、スクナビコナの言葉に感心してみせる。
「ところでこちらからも聞きたいことがあるんだけど……」
「…ほう、我々に聞きたいこと?いいですとも。なんなりとお聞きください」
スクナビコナの唐突な要求にも、男は嫌な顔一つせず快諾する。
「これは以前おばあさんにも聞いたことなんだけど……」
スクナビコナは慎重に話を切り出す。何しろ今〝小さな〟スクナビコナはたった一人で、〝大きな〟五人に対峙しているのである。どうしても重要な話を切り出すときは慎重にならざるを得ない。
「なんで皆さんはこんな山奥の一軒家に住んでいるの?」
スクナビコナの問いに中年の男はふーっ、と深いため息をつく。
「…これは大変言いにくいことなんですが…」
男は本当に言いづらそうな様子を見せながら、話し始める。
「…実は我々家族一同、かつてはふもとの村で暮らしていたのです。しかしもう今から十年以上前のことになりますが…。この私が酒の席で浴びるほどの酒を飲み、酔いつぶれた挙句に、その場に同席していたある村の男と些細なことで喧嘩になりまして…。そのときにその場の流れで激高した私が誤ってその男を殺してしまったのです……」
「…そんなことが……」
スクナビコナは一応、懺悔するように話をする男に調子を合わせる。
「…はい、その結果私たちは村にいられなくなりまして、こうして今に至るまでこの山奥の一軒家でひっそりと暮らしております。今はこうして静かに暮らしながら過去の過ちを悔いる日々でございます……」
男は頭を垂れながら、心の底から後悔しているという様子を見せる。
「…それは、…家族の皆さんも含めて辛い日々を過ごしてるんだろうね……」
スクナビコナは彼らに心から同情しているという様子を見せながら言う。
「…いえいえ、これは全てこの私の身から出たさび…。ただ家族全員を巻き込んでしまったことが……」
そう言いながら、男はその両目から涙を流す。その姿からは当初の豪快な様子は完全に消え失せてしまっている。
「…そうだったのか。そんな理由でこんなところに……」
スクナビコナは改めて五人の境遇に同情している様子を見せながら言う。
「…ところで、この家に来る途中に一つ気になったことがあるんだけど……」
スクナビコナは一転して話題を変える。
「…はい、どのようなことでしょうか?」
〝主人〟がスクナビコナの言葉に反応する。
「外が暗かったのではっきりとはわからなかったんだけど…、この家から少し離れた場所に馬小屋らしきものを見かけたんだけど……」
スクナビコナは五人に対して馬小屋の話を振る。
「馬小屋?ええ、確かにこの家には馬小屋があり、我々は馬を何頭か所有しておりますが……」
「こんな山奥で馬を所有する…。なんのために?」
スクナビコナはさらに馬の話題を突っ込んで聞く。
「馬には我々の農作業を手伝ってもらっております。何しろこの家には五人しか人がおらず、しかも男は私を含めて二人しかいないので、重労働を行うには馬たちの力が不可欠なのです」
「…そうなんだ……」
男の説明は、一応筋は通っているとスクナビコナは思う。
「しかしスクナさんはなんだってそんなことを聞くんです?馬小屋や馬のことなんてあなたにとってはなんの関係もないではありませんか」
今度は男がスクナビコナのほうに疑問を投げかける。
「…実は少し前にこの山のふもとにある村を訪れたときに、ちょっと気になる噂を耳にして……」
「ほう、気になる噂…。それはどんなものです?」
男は怪訝そうな表情をしながらスクナビコナに尋ねる。
「村の人たちが言うには、つい先日にこの山に遊びに出かけた村の子供たちがそのまま戻ってこなくなってしまって……」
「ほほう、そんなことが……」
「村の人たちが言うには子供たちは神隠しにでもあったかあるいは……」
「…あるいは、…なんです……?」
「…馬にでも姿を変えさせられてどこかに捕まってるんじゃないかと……」
「ハーッハッハッハッ!」
スクナビコナの言葉を聞いた瞬間、男は突然大声で笑い始める。
「…ハッハッハッ…。スクナさん、まさかあなたは馬小屋にいる馬たちは皆、実は子供たちの変わり果てた姿だとでも言いたいのですかな……?」
男はスクナビコナの言葉がおかしくてしょうがないとでも言いたげに、笑みを浮かべながらスクナビコナに言う。
「…いやあ、もちろんあなた方の飼っている馬が子供たちだと決まったわけじゃない……」
「ハハッ、そうでしょうな。人間の子供が馬に変わるなど聞いたことがない。もしそんなことが本当に起こるならぜひとも私たちの目の前で見せてもらいたいものだ」
男は少しだけおどけた様子を見せながら言う。
「…ただそういう噂がある以上、できることなら今すぐ馬小屋を見せてほしいんだけど……」
「…なんですと……?」
スクナビコナの言葉を聞くやいなや、男の、部屋にいる者たち全員の表情がみるみる険しいものに変わる。
「今からすぐに馬小屋に行って中の馬たちの様子を見て、噂が本当なのかどうか確認したくて」
「…確認する、と言ってもいったいどうやって……?」
男はスクナビコナの言葉に疑問を呈す。
「僕には動物たちの言葉の意味を理解して、話すことができるんだ。だから馬小屋の中に入って馬たちと会話を交わしさえすれば馬たちがもともと人間の子供かどうかはすぐにわかる」
「なっ!…そんなことが……」
スクナビコナの言葉を聞いて、その部屋の者たちは全員明らかに焦ったような様子を見せ始める。
「だからとにかく馬小屋に僕を案内してよ。あなたたちにやましいことがないならなんの問題もないはず……」
「ちょ、ちょっと待ってほしい!」
男がスクナビコナの言葉を遮り、声を上げる。
「何しろ今はこんな夜更けだ!何もこんな時間にわざわざ馬小屋まで行く必要はないはず!せめて明日の朝まで待たれてはどうか!」
男は必死にスクナビコナが馬小屋に行くのを止めようとする。
「いやいや!何しろふもとの村では今でも行方がわからなくなった子供の親たちが本当に心配してるんだ。そんな親たちのためにも一刻も早く子供たちを返してあげないと。だからこそ今すぐ馬小屋に案内してもらわないと……」
「いやいや―」
このあと、しばらくの間、馬小屋に行く、行かないでスクナビコナと男の間で押し問答が続いた。
しかしそれはきわめて不毛なものだったため、結局二人は二つの約束をすることでお互い妥協を図ることになった。
一つは、スクナビコナは今晩のうちはおとなしくこの家に泊まること。
もう一つは、明日の朝一番に男がスクナビコナを馬小屋に案内すること。
こうして二つのことを決めたあと、スクナビコナは休むために前回も泊まった部屋へと向かうのだった。
老婆は前回泊めた部屋に再びスクナビコナを案内しようとする。
「おばあさん。その前にこの家にいる他の人たちに会わせてよ」
「…え……?」
スクナビコナの言葉に意表を突かれたのか、老婆は完全に固まってしまう。
「確かおばあさん、前にここに来たときにこの家には他にもいっしょに住んでる家族がいるって言ってたよね。僕はその人たちに会ってみたいんだ」
「…わ、私の家族はね。あまりよそからの方とは会いたがらないのよ……」
老婆は明らかに戸惑った様子で言う。
「そこをなんとか一目でいいから会わせてもらえないかな?」
「…ちょ、…ちょっと待ってね。みんなにあなたと会ってもいいかどうかを聞いてくるから……」
そうスクナビコナに告げると、老婆は慌てて家族たちがいる部屋へと続いていると思われる木の戸を開けて、奥のほうへと小走りで向かっていく。
そうしてしばらくすると、老婆がまた小走りでスクナビコナの元に戻ってくる。
「…みんながあなたに会ってもいいって言ってるわ」
「そうか。じゃあ家族がいる場所まで案内してよ」
スクナビコナがそう言うと、老婆は、わかりました、と答えて、部屋の奥へと歩き始める。スクナビコナもそのあとから黙ってついて行くのだった。
老婆は木の戸を開けながら、どんどん家の奥へと入っていく。そして三つ目の戸の前で立ち止まる。
「…この奥に私の家族がおります」
そう言うと、老婆は最後の戸をあけ、部屋の中へと入る。スクナビコナもそれに続いて中へと入る。
「今日はかわいらしいお客さんをお連れしましたよ」
先に部屋に入った老婆が部屋の中で座っている四人の人物に対してスクナビコナを紹介する。四人は老婆と同じように白い服を着ている。
「これは、これは。ようこそ我が家へお越しくださいました」
家の主人と思われる中年の、黒髪に白髪も混じった男がスクナビコナに対して両手をついて丁寧なお辞儀をする。その顎にはひげも蓄えている。
「ふふふっ、これは本当に小さなお客さんですねえ」
若い女が右手を口に当てながら嬉しそうに声を上げる。
「こんな山奥の家にあなたのような方がいらっしゃるとは」
若い女に続いて彼女の夫と思われる若い男が愉快そうに言う。
「本当に珍しいお客さんですこと」
最後に家の主人の妻と思われる女性が穏やかに言う。
「…はじめまして、僕の名はスクナといいます。よろしく」
スクナビコナも部屋の中で座ると、お辞儀をしてあいさつする。そして顔を上げると、部屋の中にいる四人の顔を確認する。
一応ここでは彼らとは初対面ということにしているが、スクナビコナは四人全員の顔を一度見たことがある。
それは忘れもしない先日のこと、チュルヒコを含めた馬たちが田畑で奴隷のように扱われていたのを目撃したときである。
その現場に老婆も入れた五人全員がいて、馬たちをこき使っていたのだ。
それゆえに、スクナビコナは今この部屋にいる者たちが、自分に対して浮かべている笑顔が偽りのものに違いないと確信している。
この者たちは決して〝善人〟などではない。もっとも、そもそも人間であるとも言い切れないし、おそらく人ではない可能性のほうが高いのだが。
「ふっふっふっ。しかし聞くところによれば一度ここに来たことがあったにもかかわらず、今日またここに来たそうじゃありませんか。なぜこのような山奥にもう一度来られるようなことを?」
中年の男は何か含むところがあるような笑いをしたあと、スクナビコナに尋ねる。
「いやあ、特に深い理由はないんだ。僕は生まれついての方向音痴で、一度このあたりには来たことがあったにもかかわらず道に迷ってしまって。そして迷っているうちに日が暮れて周りがすっかり暗くなってしまって。そうして山の中をウロウロしているうちになんとかこの家の光を見つけて、恥ずかしながらもう一度この家に来てしまったということなんだ」
スクナビコナは男の問いによどみなく答える。
「ハッハッハッハッ!まだほんの小さな子供だというのに実にしっかりとした答えをなされた」
男は豪快に笑いながら、スクナビコナの言葉に感心してみせる。
「ところでこちらからも聞きたいことがあるんだけど……」
「…ほう、我々に聞きたいこと?いいですとも。なんなりとお聞きください」
スクナビコナの唐突な要求にも、男は嫌な顔一つせず快諾する。
「これは以前おばあさんにも聞いたことなんだけど……」
スクナビコナは慎重に話を切り出す。何しろ今〝小さな〟スクナビコナはたった一人で、〝大きな〟五人に対峙しているのである。どうしても重要な話を切り出すときは慎重にならざるを得ない。
「なんで皆さんはこんな山奥の一軒家に住んでいるの?」
スクナビコナの問いに中年の男はふーっ、と深いため息をつく。
「…これは大変言いにくいことなんですが…」
男は本当に言いづらそうな様子を見せながら、話し始める。
「…実は我々家族一同、かつてはふもとの村で暮らしていたのです。しかしもう今から十年以上前のことになりますが…。この私が酒の席で浴びるほどの酒を飲み、酔いつぶれた挙句に、その場に同席していたある村の男と些細なことで喧嘩になりまして…。そのときにその場の流れで激高した私が誤ってその男を殺してしまったのです……」
「…そんなことが……」
スクナビコナは一応、懺悔するように話をする男に調子を合わせる。
「…はい、その結果私たちは村にいられなくなりまして、こうして今に至るまでこの山奥の一軒家でひっそりと暮らしております。今はこうして静かに暮らしながら過去の過ちを悔いる日々でございます……」
男は頭を垂れながら、心の底から後悔しているという様子を見せる。
「…それは、…家族の皆さんも含めて辛い日々を過ごしてるんだろうね……」
スクナビコナは彼らに心から同情しているという様子を見せながら言う。
「…いえいえ、これは全てこの私の身から出たさび…。ただ家族全員を巻き込んでしまったことが……」
そう言いながら、男はその両目から涙を流す。その姿からは当初の豪快な様子は完全に消え失せてしまっている。
「…そうだったのか。そんな理由でこんなところに……」
スクナビコナは改めて五人の境遇に同情している様子を見せながら言う。
「…ところで、この家に来る途中に一つ気になったことがあるんだけど……」
スクナビコナは一転して話題を変える。
「…はい、どのようなことでしょうか?」
〝主人〟がスクナビコナの言葉に反応する。
「外が暗かったのではっきりとはわからなかったんだけど…、この家から少し離れた場所に馬小屋らしきものを見かけたんだけど……」
スクナビコナは五人に対して馬小屋の話を振る。
「馬小屋?ええ、確かにこの家には馬小屋があり、我々は馬を何頭か所有しておりますが……」
「こんな山奥で馬を所有する…。なんのために?」
スクナビコナはさらに馬の話題を突っ込んで聞く。
「馬には我々の農作業を手伝ってもらっております。何しろこの家には五人しか人がおらず、しかも男は私を含めて二人しかいないので、重労働を行うには馬たちの力が不可欠なのです」
「…そうなんだ……」
男の説明は、一応筋は通っているとスクナビコナは思う。
「しかしスクナさんはなんだってそんなことを聞くんです?馬小屋や馬のことなんてあなたにとってはなんの関係もないではありませんか」
今度は男がスクナビコナのほうに疑問を投げかける。
「…実は少し前にこの山のふもとにある村を訪れたときに、ちょっと気になる噂を耳にして……」
「ほう、気になる噂…。それはどんなものです?」
男は怪訝そうな表情をしながらスクナビコナに尋ねる。
「村の人たちが言うには、つい先日にこの山に遊びに出かけた村の子供たちがそのまま戻ってこなくなってしまって……」
「ほほう、そんなことが……」
「村の人たちが言うには子供たちは神隠しにでもあったかあるいは……」
「…あるいは、…なんです……?」
「…馬にでも姿を変えさせられてどこかに捕まってるんじゃないかと……」
「ハーッハッハッハッ!」
スクナビコナの言葉を聞いた瞬間、男は突然大声で笑い始める。
「…ハッハッハッ…。スクナさん、まさかあなたは馬小屋にいる馬たちは皆、実は子供たちの変わり果てた姿だとでも言いたいのですかな……?」
男はスクナビコナの言葉がおかしくてしょうがないとでも言いたげに、笑みを浮かべながらスクナビコナに言う。
「…いやあ、もちろんあなた方の飼っている馬が子供たちだと決まったわけじゃない……」
「ハハッ、そうでしょうな。人間の子供が馬に変わるなど聞いたことがない。もしそんなことが本当に起こるならぜひとも私たちの目の前で見せてもらいたいものだ」
男は少しだけおどけた様子を見せながら言う。
「…ただそういう噂がある以上、できることなら今すぐ馬小屋を見せてほしいんだけど……」
「…なんですと……?」
スクナビコナの言葉を聞くやいなや、男の、部屋にいる者たち全員の表情がみるみる険しいものに変わる。
「今からすぐに馬小屋に行って中の馬たちの様子を見て、噂が本当なのかどうか確認したくて」
「…確認する、と言ってもいったいどうやって……?」
男はスクナビコナの言葉に疑問を呈す。
「僕には動物たちの言葉の意味を理解して、話すことができるんだ。だから馬小屋の中に入って馬たちと会話を交わしさえすれば馬たちがもともと人間の子供かどうかはすぐにわかる」
「なっ!…そんなことが……」
スクナビコナの言葉を聞いて、その部屋の者たちは全員明らかに焦ったような様子を見せ始める。
「だからとにかく馬小屋に僕を案内してよ。あなたたちにやましいことがないならなんの問題もないはず……」
「ちょ、ちょっと待ってほしい!」
男がスクナビコナの言葉を遮り、声を上げる。
「何しろ今はこんな夜更けだ!何もこんな時間にわざわざ馬小屋まで行く必要はないはず!せめて明日の朝まで待たれてはどうか!」
男は必死にスクナビコナが馬小屋に行くのを止めようとする。
「いやいや!何しろふもとの村では今でも行方がわからなくなった子供の親たちが本当に心配してるんだ。そんな親たちのためにも一刻も早く子供たちを返してあげないと。だからこそ今すぐ馬小屋に案内してもらわないと……」
「いやいや―」
このあと、しばらくの間、馬小屋に行く、行かないでスクナビコナと男の間で押し問答が続いた。
しかしそれはきわめて不毛なものだったため、結局二人は二つの約束をすることでお互い妥協を図ることになった。
一つは、スクナビコナは今晩のうちはおとなしくこの家に泊まること。
もう一つは、明日の朝一番に男がスクナビコナを馬小屋に案内すること。
こうして二つのことを決めたあと、スクナビコナは休むために前回も泊まった部屋へと向かうのだった。
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