どうせならおっさんよりイケメンがよかった

このはなさくや

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第41話 太った兎亭

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「もういい時間だから飯でも食っていくか。セリはどっか行きたい店はあるか?」
「あ、アイザックちょっと待って」

 通りすがりに視界の端に気になる物を見つけて立ち止まったのは、地面に雑貨を並べた露天のお店だ。
 銀色に光るアクセサリーの前でしゃがんだ私は、その中の一つを手に取った。

「19歳の誕生日にシルバーのアクセサリーを贈られた女の子は幸せになれる」
 そんなジンクスがあると知って、仲のいい友人たちとおそろいでネックレスを作ったのは高校を卒業する時。せっかくの記念だからと、お互いにプレゼントしあったんだよね。
 細長い長方形のシルバープレートに名前と生年月日を入れたネックレスは、肌身離さずつけていたお気に入りだった。
 でもここに来てまだ間もない頃、お金に困った私は悩んだ末にそれを手放してしまったんだ。

「……やっぱり見つかるわけないよね」

 プレートの裏を確認した私は、ネックレスを元の場所に戻すと立ち上がった。

「なんだもういいのか?」
「うん。ちょっと探し物してるだけだから」
「ふーん、そうか。あー、なんだ、セリは欲しいモンはねえのか?」
「欲しいもの? うーん」

 そういえば食べ物や服とかの生活必需品はともかく、それ以外で欲しいものって特にないかもしれない。
 日本にいた時は好きなアーティストの新譜とか化粧品とか欲しい物は際限なくあったのに、なんだか不思議だよね。

「……強いて言えばテントかなあ」
「はあ? テント?」
「それに野営する時に必要な結界を張る石とか携帯コンロ? あとは……」
「おいおい待て待て、セリ、お前一体なにするつもりだ?」



 ギルドからほど近い場所にある食堂『太った兎亭』。
 美味しい食事と酒が安く飲めるとあって、冒険者の間で大人気なんだそうだ。
 広いホールに飛び交う威勢のいい注文の声と、それに応える元気な声。大きなジョッキや湯気のたつ料理を運ぶ店員たちは、皆忙しそうにテーブルの間を動き回っている。
 そんな賑やかな喧噪の中、私はテーブルの上に次々と並べられていく大量のお皿に呆気にとられていた。
 ローストビーフのような大きな肉の塊に、同じくローストされた野菜やポテト。山盛りになったマッシュルームみたいなキノコのソテー。ピザのような薄い生地の上にのっているのは、香辛料の香りが鼻を擽る挽肉の炒め物だ。

「鶏肉と豆のトマト煮込みはどこに置きますか?」
「ああ、こっちにくれ。後俺はエールを追加だ」
「はい、少々おまちくださーい」
「よしセリ、食うか」
「ええっと……相変わらずすごい量だね」

 この世界の食堂にはメニュー表という物が存在しない。
 壁に貼ってある訳でも黒板に書いてある訳でもなくて、誰でも知っている定番のメニューを注文するシステムなんだそうだ。
 でもその「誰でも知っている定番のメニュー」を当然知らない私には、食堂はちょっとハードルの高い場所だった。
 だから今回はアイザックに注文をお任せしたんだよね。「アイザックの好きな物が食べたい」って。

「そうか? ほら、まずは肉を食え、肉を」
「う、うん。いただきます。……ん! すごく柔らかい! それにこのソースが美味しい!」
「そうだろ? これは暴れ牛って魔物の一種だが、俺の一押しなんだ。こっちの煮込みも熱い内に食え」
「うん!」

 次々と取り分けてくれる料理に舌鼓を打っていると、思い出したようにアイザックが話の続きを促した。

「そんでさっきの話だが、セリはテントを一体何に使うつもりだ?」
「うん、実は王都へ行きたいと思ってて……」

 酸味のきいたトマト煮込みのお肉を食べながら、私はアイザックにいずれ王都へ行きたいと思っていることを打ち明けた。
 行き方とそれに必要なお金は貯めたから、今その準備をしている最中なんだとも。

「馬車を乗り継いで行く予定なんだけど、万が一に備えて野営の準備はしておこうと思って。でも馬車での旅は初めてだから、何を準備すればいいのかわからないんだよね」
「おい待て、馬車の旅が初めてだと?」
「うん、そうだけど。……あの、どうかした?」
「いや、そうか……」

 何故かすっかり黙り込んでしまったアイザックを前に、私はちょっと困ってしまった。
 眉間に深い皺を寄せ顎に手を当てる様子は、なんだか邪魔をしてはいけないようで声をかけづらい。
 テーブルを支配した奇妙な空気に戸惑っていると、不意に背後の喧噪から声がかけられた。




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