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弟ポジション7

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公園からもどり夕食を食べながら役員の件と朔からの提案を考えることを伝えた。
話を聞いていた父は
「いろいろと考えることはあるが、お兄ちゃんにも伝えたけど、子どもの幸せを親は止めたりしないよ。

 ただ、まだ年齢的にも未熟だから見守って助言はしよう。
 それに、友達同士なら学生の時は泊まりに行ったりもするものだ」
と言ってくれた。
夕食後、久しぶりの外出と、会長たちとあったり、朔と話をして今日はなんだか疲れた。
リビングのソファーに座って朔からもらったガラケーを指で触って感触を確かめながら公園でのキスを思い出し赤面してしまう。
「央くん、とても役にたった妹に腐女子のスパイスをください」

隣から声がして飛び上がる。
「えっと、何のことかな?
 朔はかっこいいでしょ。
 もしかして気になる?」

・・・
「央くん、私がもし、桐嶋さんを紹介して!付き合いたいって言いだしたらどうするの?

 彼は見た目だけでももてるわよ。
 もういいの。わかってるから」
「あ、はい…」

「それで、ス・パ・イ・ス。」

「マフラー使ってキス。
 もう、そろそろ、部屋に戻るね」

なんだ。
これはなんだ。
…恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
思い出しただけでもまた、顔が赤くなる。
部屋まで帰るのに動揺しまくりでドアや壁にぶつかってしまった。

寝る前に携帯を枕元に置こうとしていたら着信音がなり出した。

公園で練習をしたおかげで電話に出ることが出来たのだが朔の声を聴いてキスのことを思い出してしまった。

『央さん、もう寝てましたか?・・央さん?』

耳元で朔の声をきて何だか本当にそばにいるように感じる。

「ん?起きてたよ?でもベッドの中。朔は寝ないの?」

『央さんの声をもう一度聞きたくなったので寝る前に。』

な、何だか朔の態度が変わったような気がする。
こんなことを言うキャラだったんだと、聞いていて恥ずかしくなった。
クサい気取った言葉も朔なら様になるのがうらやましい。

『「・・・」』

話をしなくては・・・沈黙が苦しい。

『央さん、もう央さんが来れるように準備できてますよ。』

「うん。ありがとう」

『毎日、会いに行きますので持って行くものなど用意してくださいね。』

「朔、役員の仕事があるでしょう。無理しなくてもいいんだから」

『無理ではないんですよ。
 一人が淋しくなってしまうときがあるのです。
 央さんがいてくれるだけで・・・』

朔もそんなことがあるなんて寂しがり屋なのかな。

「こんな僕だけど、お世話になるんだけどそれでも朔の役にたつのなら、寂しさが紛れるかな?」

『・・家に帰った時に誰かいてくれるのって憧れるんですよ。
 実家でもあまり経験ないんですよ。』

「じゃあ、少しは役立てそうだね」

『はい。では、また明日。』

「うん。また明日。おやすみ」

何だか電話越しの声ってどうして甘く感じるんだろう。


次の日も朔は下校時に寄ってくれ自分の部屋で過ごして一緒に夕食も食べるようになった。
明日から朔の家に行くのでお礼も兼ねてらしい。

それにしても、部屋で話をしているときに朔が僕に不安がるだろうと膝の上に座らせるのには困った。

桐嶋家には決まりがあるらしく練習だそうで話を聞いている内に膝上にいる状態だった。

さすがに向き合ってはない。
BL脳が警笛を鳴らしてる。
横向に膝の上に座らされている。

気づいたら飛び上がるほどの驚きとこれでも高校生である。
からかっているようで怒ろうとしたが
「はぁ。央さんが私の膝に。幸せですよ」
・・・
桐嶋家の決まりは色々大変なのかもしれない。
朔が変になってる。
蒔さんやタカ兄も大変なのかもしれない。

またあう機会あるのかな?
でも、肩の辺りに朔の顎?耳元に時々息がかかる。
それになんだか腕を腰の上ぐらいに引っかかるようにまわしてきてる。

「朔?蒔さんとは仲いいの?」

尋ねると少しため息をつきながら

「蒔はどういうわけかよく私の学校のことをしりたがるんです。
 あまりもうざ。
 …しつこいものであらかじめ業務連絡のようにしてるんですよ。
 
 もしかしたら、央さんのことが気になったのかもしれませんね」

「そうなのかな?優しくしてあげなよ」

「ところで、央さん。夜に寝れてますか?」
!!!

「…寝れてません。
 でも、これは疲れたら日中でも寝てるからだと思う」

「その寝れないことって入院する前から?」
「うん。
 …特に痴漢にされた日は寝れないから気分転換にイラストに色を付けて紛らわしてる。

 …ほら、昼寝し過ぎ…「ポケットの手紙」
「・・・」
このパターンは朔が有利である。
「あれって…」

「多分、痴漢からの手紙…だと思う」
思い出しそうになり手を握り締め手のひらに爪を立てる。

「多分とは?」
「・・・言わないとダメ?思い出すのいやなんだけど…」

嫌悪感が生まれてしまう。
もう、あれを繰り返すと思うと感情が止められない。

恐怖、緊張、孤独、空虚。

震えが止まらない!

様子を見ていた朔がまわしていた腕をそっと力を入れ央の身体は朔の胸元に寄り添うようになる。

「央、もういいですよ。
 無理やり聞こうとしました。
 何か手がかりになればと思ったのです」

そう落ち着かせるように言い、片方の手でポン。ポン。と一定のリズムで宥めてくれる。

「ううん、ごめん。
 話せることはあまりないよ。
 混雑時に引っ張られたかなと思った時だったから。気づいたのは耳が気持ち悪くて早く取りたくて駅のトイレで洗おうと・・・そしたら…」

「央、ありがとう。
 怖かったですね。
 もし私も同じ事が合ったら怖かったと思います」


朔の言葉に胸の奥の塊が小さくなるようだ。彼なら受けてくれる?

「朔、今日だけでいいから泣いても…いいですか?」

「はい。もちろん。
 今日だけ出なくてもいいですよ」

なんて優しい言葉だろう。涙がでるのに笑えてくる。

「ふ。ふふ…」

「央、泣いてるのか笑うか、どちらかにしてください」

「うん。…いそが…し‥いね…」
泣いたからかな。
気が抜けたみたいにそっと朔の方に頭を寄せる。

ドクンドクンと胸の音が聞こえる。
もっと聞こうとすり寄る。

…音が急に速くなったようだ。

そう思っていたら眠たくなっていった。




腕の中で気が抜けたように身体と頭を預けてくる央はそれからスーッと静かに眠ってしまった。

央の話だと耳元に何かされて学校にあんな乱れた状態で登校したのだろう。
安心したような顔をしている。
この姿を見れるのが自分一人だと思うと優越感を感じる。
ただ、繰り返しはしないと心に決めた志を確かめる。

明日からは一緒の時間を共にできるのだ。
接触の嫌悪感も本人は気づいていないようだが徐々に薄れていっている。
少し休んだあと、夕食をとるため起こそうとするがなかなか起きない。

「央、央。…困りましたね」
と、部屋のドアをコンコンっとならす音が聞こえる。

ーはい。

そっと返事をすると央のお母さんが顔を見せる。

「あら~。
 相当、気を許してるのね~。
 …ねえ、聞いてもいいかしら」

いつもの穏やかな雰囲気で質問されると少し身構えてしまう。
「私の答えれることなら何でも」

「そう?蒔さんより大きいお兄さんっているのよね」

兄?長兄?
「はい。何か心当たりとか?」

「あ~。
 お父さんがね。
 もし、央の妹とそのお兄さんに縁ができるとしたら、藤咲家は寂しくなると言ってたからちょっと慰めの言葉でもかけてあげようかなぁって」

「そうですか、兄は結構気難しくて扱いにくいのです。
 人嫌いですが家族には優しいんですよ。
 仕事はデザイナーをしていると思います。
 …でも妹さんは素敵な女性なのでもっとたくさんの人と出会うでしょうね。
 兄のいつもの姿を見たらだいたいの人はがっかりするようです」

「あらま。デザイナーさん!
 …これはもしかしたら出会うかもしれないわね。
 あの子、デザイナーの所でバイトしながら服飾の勉強してるのよ。
 どんな分野かは知らないんだけどね。

 ・・・でも、みんな自分のしたいことが見つかって嬉しいわぁ」

「!!!央さんも見つかってるんですか?
 具体的な話はしてないんですよ。
 よく絵をみているようですし・・」

「あら。聞いてない?じゃあ私は言・え・な・い。」

・・・・・
「ふふ。
 桐嶋くんもそんな顔をするのね。
 …ほんと、央のこととなると余裕ないわね。
 でも、あなたの弱みになるわね。
 
 気をつけてね」

「…そうですね。
 お母さん、ありがとうございます」

「幸せって難しいから頑張ってね」
幸せは難しい。

央のお母さんは央の顔をじっと見つめその後部屋を出て行った。

央は結局、起きずそのままベッドに休ませた。
家族の話では央はやはり眠りが浅く一緒の家に住んでいたら違う部屋にいても起きているかは気付くようである。

冬休み初日、早めにむかえにいき央の補助を行う。
特に大きいものもなく両親に挨拶をして家をでる。

しばらくガイドしながらゆっくり歩いていたら
「朔、昨日はごめんね。
 でもひさしぶりに寝れたみたい。
 みんなに顔色も違うって言われたよ。

 不安はないよ。よろしくお願いします」
藤咲 央は素直でやさしく少し頑固で我慢強い。
藤咲家の人間が彼に出ているのだろう。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」

藤咲家とは駅の反対側にあるマンションまで10分。
マンションの住んでいる部屋に案内した。

「央、つきましたよ。」
「さ、朔?!ちょっと待ってください。

 下のエントランスにコンシェルジュ?

 …ここってどこですか?」

朔の上着の裾と袖を引っ張り確かめる。

「どうしましたか?
 コンシェルジュには央の事を伝えてます。

 そして私が住んでいるマンションです」

「ん・・・ごめん。
 なんかひとりで勝手に想像してたから。
 ちょっと驚いただけ」

そう言いながら促されリビングと言われた部屋へと入っていく。
「このソファに座りましょう。疲れましたね」

ゆったりとした少し固めの座り心地を確かめながら座る。
これからしばらく朔のお世話になるのだ。

家でできることはしていこう。

「朔、改めてよろしくお願いします。
 できることはするので教えてください」

「央、こちらこそ、よろしくお願いします。
 まだ色々お話をしていないことがあるのでお知らせしますね。
 不安や疑問をためずに聞いてくださいね」

そして勉強会という名のお泊まり共同生活が始まるのである。
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