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4第二話
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第二話。
「少しは、嫉妬をしてくれますか?」
最近、麗一は、仕事で忙しい。
同棲とはいえない同棲。
無事に、小説家として、ヒット作を出すことができた俺は、今までお世話になったアパートから、麗一の住むマンションの一室に部屋を借りることとなった。
いや、正確には、麗一の所有するマンションに、俺が無理やり借りるということで、なんとかおさまっている。
本当は、どこかマンションの一室を買ってもいい。
けれど、家族もいない俺には、その決断はできなかった。
それに…麗一と今は、とても親密に付き合っているけれど、将来、どうなるかわからない。
こんな悩みを持っていると麗一が知ったら、怒るだろう。
それも、わかっているが、やはり俺の心には、その決断は簡単にはできなかった。
麗一の住んでいる部屋は、マンションの一番上。
そこは、階下の下の様に、ファミリー向けの間取りではなく、オーナー仕様と言っていいだろう。
エレベーターを降りると、そのフロアには、部屋が二つ。
1つは、麗一の部屋。
もう一部屋は、いずれ出会うだろう大切な人。
どうして部屋を分けるのかと尋ねると、自分の時間を大切にしてほしいからだという。
女性を好きになることができない麗一が考えた、相手を思いやるその気持ち。
そこは、ずっと開いたままだという。
仕事が忙しいから出会いがないのかと思えば、そうではない。
相変わらず、無駄に色気を振りまいている麗一は、気付けば誰かに口説かれている。
必要最小限に外出をするようにしている麗一と2人、近くの喫茶店に行ったことがある。
俺が席を外している数分に、手元には、何枚もの連絡先があった。
興味のない物は、麗一は、冷たい。
だから、その連絡先の紙を、その場で粉々にして置いてくる様子は、手慣れていた。
傍にいて思う。
麗一も、大変なのだと。
喫茶店でゆっくりと過ごすこともできないのだと可哀想になってしまった。
本人は、そんな自分の容姿を、あまり気に入らないらしい。
「なんでも、普通がいい」と言うけれど、やはり一つでも優れていると、なんでも都合がいいのではと、俺は考えてしまう。
けれど、現実は、うまいようにはいかないらしい。
見た目だけを求めて、その噂を求めて、出来て当たり前、不可能なことは、ない。
そんな独り歩きをしていることに、嫌気がさすらしい。
麗一も、対策はしたらしい。
でも、効果はなく、今に至る現状に諦めている。
女性にモテる男、麗一。
だけど、女性を受け付けない。
肉食的な被害から始まり、陰湿なストーカー、思い込みによる自殺未遂など、一切かかわっていないのに、自分の名前が出てくる。
「あなたの子どもなの…」
と、頬を赤く染めた妊婦が実家に来た時は、流石に恐怖を感じたそうだ。
そんな息子を見て、親も、心配している。
だから、麗一に結婚を押し付けたりもすることはない。
けれど、俺は不安だった。
麗一の惹きつけられる魅力は外見ばかり見られるが、そうでは、ない。
人を寄せ付けないのではないと気づいたのは、偶然だ。
彼は、怯えているのだ。
だから、自分以外に彼がもし、心を開いてしまったら…
俺を求めなくなってしまったら…
それが、怖かった。
作品のために、色々な所へ出かけるようになった俺。
もちろん、幅が広い。
古美術商や画廊に始まり、モデルハウス、デザイン事務所。
散歩もいい話の材料になる。
デビュー作も、こうした散歩がきっかけで生まれた。
目に留まった物を自分の関心があるところまで追及する。
だから、今日は、ペットショップに来ていた。
いぬ、猫、ハムスター…人気の動物は色々種類がある。
熱帯魚のコーナーも幅広い。
爬虫類も一応、見て回るが、あまり触れ合いたちとは思えなかった。
それに、忘れていた。
俺、動物系の匂いがダメなんだった…
店内を見て回っているうちに、気分が悪くなってきた。
あと20分で、麗一と打ち合わせがある。
けれど、この状態で会えるとは思えなかった。
とりあえず、店を出て、近くの公園に行く。
ベンチに座りながら、スマホを取り出してアプリ陳列サイトを立ち上げる。
俺が飼えるペットは、こうした生命を吹き込むためのデジタルな物だけ。
横着なようにも捕らえられるけれど、まじめだ。
だから、アプリで生き物を飼うことは、好きだ。
ただ、物足りないのだ。
抱いた心地がしない。
物足りないのだ。
けど、欲求は満たされない。
優れない気分のまま、しばらく画面を眺める。
「…いた。
こんなところに、居たの?
打ち合わせ…って、顔が真っ青!?」
マスクで顔を隠した麗一が打ち合わせのために来たのだろう。
丁度、通り道のこの場所に、よくいるから気づいてくれた。
彼を見ると、安心する。
「…麗一…」
顔色の優れない俺を見て、ただ事ではないと悟る麗一。
「…うさぎ…だっこしたい…」
「・・・・」
俺、限界。
ブラックアウトの結果…
麗一の部屋で、休んでいた。
けれど、おかしい。
麗一がウサギの恰好をしている。
そう、どこにでもある、遊園地やイベントでよく出没するあのウサギ。
人間のような身体。そして明らかに元気のない片耳。
瞬きをしないウサギと目覚めた瞬間、目があった俺の気持ちを少しはわかっていただきたい。
ウサギを抱きたいとはいった。
それは、記憶に間違いない。
けれど…
まじまじと俺が彼を見ていたのに、気付いたようだ。
「起きた?
びっくりしたよ、いきなり倒れるんだから…」
普段と変わらない麗一に、違和感が振り切れそうだ。
「…なんで、ウサギ?」
?
まるで、同化したかのように一瞬、何の話をしているんだっていう顔をする。
「いや、麗一、お前、ウサギ…?」
小説家としてあるまじき失態。
言葉が思うようにでない。
だから、ここは仕方がない。
こんなことをする奴ではないと知っている俺だから、この対応だ。
「え?
いや、ウサギで抱きたいって、お前、言ったじゃん」
―!?
言ってない…
「ウサギ…抱きたい」とは言った。
それに!!
ウサギで抱きたいって言われて、お前は断りもなく、OKしてんだ。
「お前、よく恥ずかしくないなぁ…
それに、これをどこで手に入れた」
ウサギの着ぐるみを着ている麗一は、仕草まで染まっている。
「恥ずかしいけど、頑張ったピョン…」
出所を吐かない所が怪しい。
ま、気にしていたら、ダメだ。
「俺は、ウサギを抱きたいといっただけだ」
―!
一瞬、真顔になった麗一。
「どうせ、アプリでまた動物にエサをあげるんでしょ?」
少し拗ねた麗一。
―あぁ、実は、気に入らなかったのか…
口を少し尖らせた麗一。
「だって、俺が傍にいても、アプリのやつばったりにかまってさ…
俺だって、寂しんだ!」
―!!
顔を真っ赤にした彼は、たぶん今までこんな経験はしたことがないのかもしれない。
モテる男、麗一。
だから、自分がこうやって気持ちを表に出していることすら、初めてなのだろう。
そう思ったら、目の前の男がとても可愛らしく思えた。
疑似の動物より、麗一がいい。
「…そんな可愛いことを言われたら、もう…」
お互いの熱い眼差しの先に、2人だけの時間が、濃くそして甘く。
「少しは、嫉妬をしてくれますか?」
最近、麗一は、仕事で忙しい。
同棲とはいえない同棲。
無事に、小説家として、ヒット作を出すことができた俺は、今までお世話になったアパートから、麗一の住むマンションの一室に部屋を借りることとなった。
いや、正確には、麗一の所有するマンションに、俺が無理やり借りるということで、なんとかおさまっている。
本当は、どこかマンションの一室を買ってもいい。
けれど、家族もいない俺には、その決断はできなかった。
それに…麗一と今は、とても親密に付き合っているけれど、将来、どうなるかわからない。
こんな悩みを持っていると麗一が知ったら、怒るだろう。
それも、わかっているが、やはり俺の心には、その決断は簡単にはできなかった。
麗一の住んでいる部屋は、マンションの一番上。
そこは、階下の下の様に、ファミリー向けの間取りではなく、オーナー仕様と言っていいだろう。
エレベーターを降りると、そのフロアには、部屋が二つ。
1つは、麗一の部屋。
もう一部屋は、いずれ出会うだろう大切な人。
どうして部屋を分けるのかと尋ねると、自分の時間を大切にしてほしいからだという。
女性を好きになることができない麗一が考えた、相手を思いやるその気持ち。
そこは、ずっと開いたままだという。
仕事が忙しいから出会いがないのかと思えば、そうではない。
相変わらず、無駄に色気を振りまいている麗一は、気付けば誰かに口説かれている。
必要最小限に外出をするようにしている麗一と2人、近くの喫茶店に行ったことがある。
俺が席を外している数分に、手元には、何枚もの連絡先があった。
興味のない物は、麗一は、冷たい。
だから、その連絡先の紙を、その場で粉々にして置いてくる様子は、手慣れていた。
傍にいて思う。
麗一も、大変なのだと。
喫茶店でゆっくりと過ごすこともできないのだと可哀想になってしまった。
本人は、そんな自分の容姿を、あまり気に入らないらしい。
「なんでも、普通がいい」と言うけれど、やはり一つでも優れていると、なんでも都合がいいのではと、俺は考えてしまう。
けれど、現実は、うまいようにはいかないらしい。
見た目だけを求めて、その噂を求めて、出来て当たり前、不可能なことは、ない。
そんな独り歩きをしていることに、嫌気がさすらしい。
麗一も、対策はしたらしい。
でも、効果はなく、今に至る現状に諦めている。
女性にモテる男、麗一。
だけど、女性を受け付けない。
肉食的な被害から始まり、陰湿なストーカー、思い込みによる自殺未遂など、一切かかわっていないのに、自分の名前が出てくる。
「あなたの子どもなの…」
と、頬を赤く染めた妊婦が実家に来た時は、流石に恐怖を感じたそうだ。
そんな息子を見て、親も、心配している。
だから、麗一に結婚を押し付けたりもすることはない。
けれど、俺は不安だった。
麗一の惹きつけられる魅力は外見ばかり見られるが、そうでは、ない。
人を寄せ付けないのではないと気づいたのは、偶然だ。
彼は、怯えているのだ。
だから、自分以外に彼がもし、心を開いてしまったら…
俺を求めなくなってしまったら…
それが、怖かった。
作品のために、色々な所へ出かけるようになった俺。
もちろん、幅が広い。
古美術商や画廊に始まり、モデルハウス、デザイン事務所。
散歩もいい話の材料になる。
デビュー作も、こうした散歩がきっかけで生まれた。
目に留まった物を自分の関心があるところまで追及する。
だから、今日は、ペットショップに来ていた。
いぬ、猫、ハムスター…人気の動物は色々種類がある。
熱帯魚のコーナーも幅広い。
爬虫類も一応、見て回るが、あまり触れ合いたちとは思えなかった。
それに、忘れていた。
俺、動物系の匂いがダメなんだった…
店内を見て回っているうちに、気分が悪くなってきた。
あと20分で、麗一と打ち合わせがある。
けれど、この状態で会えるとは思えなかった。
とりあえず、店を出て、近くの公園に行く。
ベンチに座りながら、スマホを取り出してアプリ陳列サイトを立ち上げる。
俺が飼えるペットは、こうした生命を吹き込むためのデジタルな物だけ。
横着なようにも捕らえられるけれど、まじめだ。
だから、アプリで生き物を飼うことは、好きだ。
ただ、物足りないのだ。
抱いた心地がしない。
物足りないのだ。
けど、欲求は満たされない。
優れない気分のまま、しばらく画面を眺める。
「…いた。
こんなところに、居たの?
打ち合わせ…って、顔が真っ青!?」
マスクで顔を隠した麗一が打ち合わせのために来たのだろう。
丁度、通り道のこの場所に、よくいるから気づいてくれた。
彼を見ると、安心する。
「…麗一…」
顔色の優れない俺を見て、ただ事ではないと悟る麗一。
「…うさぎ…だっこしたい…」
「・・・・」
俺、限界。
ブラックアウトの結果…
麗一の部屋で、休んでいた。
けれど、おかしい。
麗一がウサギの恰好をしている。
そう、どこにでもある、遊園地やイベントでよく出没するあのウサギ。
人間のような身体。そして明らかに元気のない片耳。
瞬きをしないウサギと目覚めた瞬間、目があった俺の気持ちを少しはわかっていただきたい。
ウサギを抱きたいとはいった。
それは、記憶に間違いない。
けれど…
まじまじと俺が彼を見ていたのに、気付いたようだ。
「起きた?
びっくりしたよ、いきなり倒れるんだから…」
普段と変わらない麗一に、違和感が振り切れそうだ。
「…なんで、ウサギ?」
?
まるで、同化したかのように一瞬、何の話をしているんだっていう顔をする。
「いや、麗一、お前、ウサギ…?」
小説家としてあるまじき失態。
言葉が思うようにでない。
だから、ここは仕方がない。
こんなことをする奴ではないと知っている俺だから、この対応だ。
「え?
いや、ウサギで抱きたいって、お前、言ったじゃん」
―!?
言ってない…
「ウサギ…抱きたい」とは言った。
それに!!
ウサギで抱きたいって言われて、お前は断りもなく、OKしてんだ。
「お前、よく恥ずかしくないなぁ…
それに、これをどこで手に入れた」
ウサギの着ぐるみを着ている麗一は、仕草まで染まっている。
「恥ずかしいけど、頑張ったピョン…」
出所を吐かない所が怪しい。
ま、気にしていたら、ダメだ。
「俺は、ウサギを抱きたいといっただけだ」
―!
一瞬、真顔になった麗一。
「どうせ、アプリでまた動物にエサをあげるんでしょ?」
少し拗ねた麗一。
―あぁ、実は、気に入らなかったのか…
口を少し尖らせた麗一。
「だって、俺が傍にいても、アプリのやつばったりにかまってさ…
俺だって、寂しんだ!」
―!!
顔を真っ赤にした彼は、たぶん今までこんな経験はしたことがないのかもしれない。
モテる男、麗一。
だから、自分がこうやって気持ちを表に出していることすら、初めてなのだろう。
そう思ったら、目の前の男がとても可愛らしく思えた。
疑似の動物より、麗一がいい。
「…そんな可愛いことを言われたら、もう…」
お互いの熱い眼差しの先に、2人だけの時間が、濃くそして甘く。
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