不器用な恋の実り方

香野ジャスミン

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硬直している俺を、気にすることなく、今まで見たことのないようなご機嫌な新庄。
「先生は、あまり外出をしませんから、身体にたくさん跡を残してもいいですよね」
妖艶な新庄の笑み。
「は?え?」
気が付けば、俺は、全裸。
「ちょ、え?」
混乱中の俺は、新庄にキスをたくさんされていた。
こんなとろけるキスは、したことがない。
後ろを解され、いつの間にか、新庄は臨戦態勢。
そこで俺は気づいた。
新庄は、俺に興奮をしているのだと。
でも、もう遅い。
口から出るのは、快感を感じている声。
開かれたことのない場所を耐えながら開かれる。
「先生、嬉しいです。
 私は、こんな遠回りで、でも不器用な愛の告白を受けたことはありません」
―あぁぁぁ、やっちまった…
完璧に俺は、押してはならない起爆装置のスイッチを押したようだ。

でも、どうして俺がそんな話を書いたのか、自分でもわからない。
けど、あれを読んで、新庄は嬉しそうだ。
「大切にします。
 本当に、嬉しいんです。
 こんなにも、自然に気持ちを伝えられるなんて…」
そうか…
俺、新庄に優しくしてほしかったんだ。
そう思ったら、一気に感情が溢れてきた。
「しんじょ・・・さん…」
「はぁ、ダメだ。ちょっと余裕ねぇわ」
―!?
口調が変わった?
「何を驚いてんの?
 いつもあんな話し方をするわけないじゃないですか。
 あぁ、マジでかわいい。
 先生、ちょっと俺、止めれねぇわ。
 ごねんな、ま、先生がかわいいから、それを反省するんだな」
そう言うと同時に、手加減をしていたのか、胸やら、後ろを解しながら、良いところを指で刺激してくる。
身体は跳ねるし、体験したことのない感覚。
「男同士は、男のいい場所を知り尽くしているから気持ちがいいらしいですよ」
作品の中に出てきたカップリングの組み合わせをしていた時に、新庄がいったセリフだ。
確かに気持ちがいい。
付き合っていた彼女とは、それなりに付き合っていた。
でも、こんなことは、されたことがない。
自分でも触れたりしない場所を、的確に刺激してくる新庄。
「…なに?」
俺の視線で、気付いた彼は、尋ねてくる。
「…キスして、優しく…」
力の入らない俺は、それはもう、グズグズととけている。
「ダメだ、完堕ちだわ」
唇を顔に落とし、キスをする。
絡まった舌を離れるのが嫌で、また、手繰り寄せる。
彼の首にしがみついた腕も、彼の荒い息も、俺の物。

彼の熱く大きくなったものが、俺の中で暴れる。
声にならない声。
部屋には、声を我慢している俺と、新庄の荒い息。
「あぁ…」とか「しまる…」とか、お互い、身体の様子を言葉にする。
「先生、先生」
激しい熱情も、閉じ込めていた彼の感情。
―!!
何度、イかされただろう…
額の汗を新庄が手で拭う。

普段は吸うことのないタバコ。
窓の外に煙を出す彼は、どこか、想いにふけっている。
「…こんな容姿だからまともに人と付き合ったことがなくって…
 でも、身体は普通の男だ。
 時には発散をしなきゃ、やってらんない。
 けど、周りはそれを許さない。
 変な奴は寄ってくるし…もう、結婚も諦めたんだ。
 子どもなんて、恐ろしい。
 こんな遺伝子、死んで無念しか残らない。
 せめて、死ぬまでに、俺の事を俺を見てくれる人がいたら」
窓を閉めながら話す新庄は、今まで見たことのない穏やかな顔をしている。
「見た目は、こんなに普通で、俺の理想なのに、うまくいかなくて、それが、ほっとけなくて…」
俺の顔をプニプニと触る。
「俺のマンションって訳ではないけど、生前分与として、俺だけの屋敷がある。
 作品はまだ、思ったより売れてないけど、それは、これから俺が何とかする」
寝不足で営んだ行為は、加減を一切してもらえなかった。
話を聞いておかなくてはと思っているが、限界が来て、俺はいつの間にか、寝ていた。
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