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13目撃者の言い分

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篠田 要と白鳥 三春が嵐のように居酒屋から出ていき、後輩、安芸、高木の残された3人は、しばらく言葉を発することができなかった。
その空気を割いたのが、後輩だった。

「どうしよう…
 白鳥さんって、どうでしたっけ?」(白鳥さんって、男もOKでしたっけ?)
尋ねられた安芸は、メニューを広げてみている。
「あぁ‥‥
 そうねぇ…。
 どうだろうね」(どうでもいいんだけど、あれはもう食うだろうね)

高木が、ぼそりと
「せっかく適任の人材を見つけれたと思ったのに、なんで?」
もはや、その問いは、誰に尋ねているのかわからない。

ただ、後輩は、先輩である要を気遣う。
「先輩…お持ち帰りされたと知って、ショックのあまり…」

だんだんと、思考が悪い方へと進んでいく後輩をしり目に、
店員さんを呼んでオーダーを頼む安芸。

「ま、正直、強引な白鳥さんを初めて見たのも、貴重だったな」
いや、その感想だれも、求めていません…

高木は、慌ててどこかにメッセージを送っている。
その様子を見た安芸が尋ねる。
「誰に送ってんの?」
店員が品物を運んで机の上には、数品並ぶようになった。
高木は、その中のシシャモを口に咥えながら話をし始める。
「あ?
 白鳥が、こっちの人材に手を出そうとしてんだぞ?
 ゲンタに報告しておかなくちゃ、仕事に支障がでるだろうが」
素に戻った高木が、野太い声で反論する。

篠田 要が働く部署、BLCD部部長である高木 椎名。
いつもは、大人な女性をテーマとして過ごしている。
その持ち前のスタイルの良さ、そして恵まれた美しさだけを武器に生きてきたわけではない。
ただ、仕事をする上で、都合がいい。それだけで女装を完璧にこなしている立派な男だ。

「…高木さん、素が出てますよ」
後輩の忠告で、我に返り、姿勢を改める。

「…白鳥さん、自分のことをバラしますかね…」
安芸の小さな呟きに高木が反応する。
「え?あ。…ぁぁぁあ、それはしないわねぇ」

バンと小さく机を叩いて自分の存在を主張する後輩が助けを求める。
「…俺、先輩に嫌われたら…この会社に出てこれないっス。
 どうしましょう、安芸さんっ!」
安芸は、真顔で
「え?白鳥さんと俺をこのタイミングで誘ったのお前だろ?
 自分のことは、自分で処理しろよな」
優しさの欠片もない言葉に、後輩は悲壮感を漂わせている。

「ま、白鳥さんが、あの子を逃がすとは思えないけどな」
その言葉は、後輩に少しでも届いているのだろうか…
―バラシてやるもんか。
 白鳥さんが、先に手を出したとしても、俺も気に入ってたんだ。
 気にいったものを簡単に諦めれるほど、人間はできてませんからね

しばらくは、後輩経由で、あの子に近づけるよう様子を見るしかないだろう。
白鳥が、あの子を手に入れたとしても、オープンな関係を取るとは思えない。

どちらかというと、控えめな印象の白鳥のことを、安芸は見抜けていなかった。
本当は、気に入った物に対しては、執着が人一倍強く、激しさはない分、気付かれないうちに、手中に全てを引き入れだけの執念深さを持っていたのだ。

安芸は知らない。
もう、白鳥が要の心の壁を取り、白鳥だけを胸の中にいることを。
要は知らない。
高木や安芸、後輩の目の前で、持ち帰られたということを…

目の前にいる白鳥が、自分の聞いているCDで声優をしていることを。
気付かないままに、白鳥の技のすごさに感銘を受けて聞くときに好感触を持って聞いていることを。
そして、高木の本性、後輩、安芸の狙いなどが、周りにあるということをまだ、知らない。
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