恋をアップデートするには

香野ジャスミン

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アップデートするには

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ヨシキが似合ってると言ってくれた服装も、もうしない。

僕が誰かと話をしたらすぐ機嫌が悪くなってたのも気にしない。

亮一さんにここに連れてきてもらう前は、ヨシキのことが好きだったのに、もう今の僕にはその気持ちはない。

意外と薄情な人間なのかもしれない。

それを亮一さんに言うと、

「一葉が薄情なんじゃない。俺が一葉にそうさせてるんだ」

彼は、自分の事を自分で追い詰める僕に気付いて、自分が悪者だと言ってくれた。

「…亮一さん…」

この世に存在するわけがないと思えるような綺麗な顔の亮一さん。

まじまじと顔を見たら、それが確信を持つけれど、こんな人は普通に生きられないんじゃないのかと、逆に心配してしまう。

そのことを言ってみると、素晴らしい変装スキルを披露してくれた。

サラリとした髪は整髪料で後ろになでつけ、眼鏡をかける。

それだけでも、亮一さんの整った顔はバレると思うのだが、ネクタイを微妙にずらし、くたびれた社会人を見事に演じていた。すごい。

「この容姿でどれだけ苦労したことか、話すのも嫌になる」

過去にトラウマがあり女性との付き合いができない亮一さんは、ずっと独り身でいるつもりだったらしい。

同性の僕に心を奪われたと言ってくれた。

「今まで出会えなかったんだ。出会えたのなら、手に入れるためには努力をしないとね」

そう言って、亮一さんは、僕を甘やかす。

それは、ヨシキから与えられた偽りの関係ではなく、本当の恋人として。





あれからヨシキはすぐに大学を辞めていった。

と同時に、亮一さんのご両親も離婚が成立したと教えてくれた。

お金に貪欲だったヨシキのお母さんは、お金のために身体を平気で差し出す人だったらしい。

当然、結婚したままでそれをするというのは、あまり知識のない僕でもわかる。

ヨシキのお母さんはその現場の写真やら色んなものを用意され亮一さんのお父さんに裁判を起こされたらしい。



ヨシキの動画問題もあの後、すぐに変化があった。

全てその環境を整えた亮一さんがヨシキの了承も得ずに全て機材を回収してきたのだ。

当然、ヨシキは怒る。

けれど、自分がしてきたことと、母親の悪行、そして、友人を使って金を稼ごうとした行為は、ヨシキ自身も罪悪感を持って行っていたためすぐに諦めることをしたらしい。

僕と過ごした時間に録りためた音声は、亮一さんが管理している。

亮一さんが言うには、

「ヨシキ自身も、悪いと思っているから、一葉の声を変えようとしたんだろう。

 少しは守ってやろうという気持ちがあっただけでもまともな人間に戻ることができるだろう」

らしい。

動画サイトでは、一度ネットを介した物を消すことは難しいと、僕自身認識している。

だから、いくら投稿者を辞めても僕とヨシキとの会話はずっと世界中で触れることになる。



時々、亮一さんとコメントを一緒に見るけれど、相変わらず更新を待ち望んでいる人がいることには驚きだ。



でも、大切な人との会話を誰かに聞かせることって、してほしくないと僕自身は思う。

それは、消せないというのもあるけれど、その人との思い出は、その時だけは僕の物だからだ。



「最近は、ヨシキみたいな事例が多いみたいだな。後先を考えると、それをするには、想像以上に大変だ」

うん

大学の友達も、ゲームの攻略とか、面白ネタとか色々と工夫して動画を作ったりしているけれど、それは一時の楽しみだ。この先、それを続けることはできない。でも、今だからこそできることでもある。

大切にできる物と、失うものに気付くことが出来たらいいのだと僕は思っている。

僕は、失った気持ちもあったけど、その先には、そんな僕を丸ごと拾ってくれた亮一さんがいた。



そして、僕は幸せだ。
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