惹かれた君とこの先に

香野ジャスミン

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「…と、隼人、帰ったまま眠ったの?」
篤紀の声で、目が覚めると、辺りはもう暗いのか、室内は照明がつけられていた。
「あ、おかえり…」
目覚めてすぐに起き上がろうとしたけど、それはできなかった。
ソファに寝ている俺を覆い被さって嬉しそうに見ている篤紀。
―…確実に、これは
「…」
じっと、俺は篤紀の様子を見ている。
ニコリと笑った篤紀の様子に、俺は一瞬、身構えた緊張を解していく。
「今日は、病院で疲れたのに、会社まで寄って、ちょっと無理したんでしょ。
 今日は、夕飯も総菜を買ってきたよ。
 あ、あと母からケーキを預かってきたよ。
 一緒に食べよう?」
篤紀は、何でもないように俺を起こそうとする。
絶対に、キス…すると思ったのに…

篤紀を待っている時間がすごく楽しみで、だから、篤紀の変わらない様子に俺はちょっと動揺していた。
―実は、もう…いや、篤紀はそんなことない。
 見ていたらわかる。
 だけど…
「ほら、隼人、起きて…うわ!!」
篤紀の手を引っ張って俺の方に倒し、そのまま、俺は彼の頬にキスをした。
―!!
篤紀の身体に、一気に緊張が走ったように感じた。
―?
顔を見ると、俺をじっと見ている。
さっきまでの穏やかな篤紀じゃない。
真剣な眼差しで俺を見ている。

徐々に広がるふわふわとした迷い。
俺、キスしたらダメだったのかな…
なんだか、一人で盛り上がってしまったから、空回りしたのかもしれない。
考えれば考えるほど、思考は沈んでいくほうに向かっていく。

「…えっと…ごめん「何が、ごめんなの!!」
―!!
怒られると思っていなかったから、謝ろうとした。
―空回りしてごめんの、ごめんです
言えないけど、怒っている篤紀をじっと見つめる。
「隼人、何がごめんなの?俺は、ずっと我慢してたの、それを、今日一日でどんだけ…はぁぁぁ」
あ、怒るのやめたみたいだ。
考えたら、そうだと気づいた俺、鈍すぎるだろう。
「…ごめんな。嬉しくて…早く篤紀とキスしたかったから…」
しゅんっと反省をしながら、篤紀の顔に触れる。
と、今度は
「いや、そんなに落ち込まないで、えっと、俺も嬉しいんだから…
 一緒に祝わして」
俺の手を繋ぎ、そして篤紀の顔が近づいてきた。
「ん…」
最初に感じたのは、篤紀の高い体温。
その感触は、とても柔らかく、優しい。
瞳を閉じて、その感覚に酔いしれる。
彼の緊張している呼吸の気配とか、どこか、ぎこちない感じとか。

もっと緊張するのかと考えていた。
だけど、そんなことはなかった。


どれくらいの時間だろう、数秒?数分?
俺は、とてもとても長く感じた。
走馬灯っていうのだろうか。
死んだりはしないけど、この一回の初めてのキスをこうやって試練を乗り越えたから、やっぱり色々と思い出していた。
「どうしよう、めっちゃ嬉しい…」
照れながら俺は感想を言って篤紀を見る。
顔が真っ赤の篤紀。
「…なんで、そんなに顔が赤いんだ?」
―!?
風邪?
額に手を当てても異常はない。
「もう…隼人にキスしたからでしょう。
 止まらないんだけど、もう一回…
 - はっ!!
 うわぁぁ!!
 だから、俺は控えようとしたのに…!!!」
さっきの余所余所しい態度は、そういうことだったのか。
なんだか、申し訳ない。
無意識に彼の手をギュッと握りしめていて、それに気づき手を離そうとする。
けれど、
「ダメ。
 隼人が必死になっている所とか、恐々と試してくるとか、どんだけ俺を挑発してるか、わかる?」

挑発?
そんなつもりはない。
「で、どうだった?キスの感想は?」
彼の表情が、とても嬉しそうで、それが、ちょっと悔しい。
だって、そうさせている俺は、どんな風なんだろうって考えたりする。
「どうって、そりゃ…嬉しかったよ?」
チラッと篤紀を見ると、うんうんっと喜んでいる。

でも、どこか自分のこととは、遠いもので、でも、それを落ち着いて受け入れている時間が欲しいとか。

この胸の中の、どこか騒がしい感情が、俺を落ち着かせなくしていた。
篤紀を見ることができない。
それに気づいた篤紀は、俺に聞いてくる。
「どうして、俺を見ないの?」
わかっている。
でも、嬉しくて、恥ずかしくて、それがどうしようもなくて。
俺は、彼に心の中を、語っていた。
「…嬉しいのにさ、でも、それを喜んでいるのに…でも、…」
混乱している俺を、篤紀は、抱きしめてくれる。
背中をポンポンと擦る。
「…どしたの?
 もしかして、冷静な自分に、ショックを受けているとか?」
―!!
顔を見上げて彼を見る。
―そう、それなんだ。
「…あぁぁ、可愛い!!
 それって、嬉しいのに素直に喜べないってことでしょ?」
言い当てられた俺は、頷く。
「…もっと、キス…したい」
―!!
煽ったというか、普通に言った感想だとか、言い訳はある。
だけど、いきなり篤紀は、俺に口づけをし始めて、驚いてしまった。
今度は、本当に大人のやつ。
微かに、消毒液とか、色んな香りがする。

気を付けてくれるんだ。

チュッチュッと音を立て始めた彼が、こそばゆい場所に唇を置いていく。
たくさんされた。
けれど、その先の事をする気配はない。

大切にしたいって思ってくれているのだと思う。

篤紀のキスは、とても優しい。
他をしらない自分が言うのも変だけど、本当に求められているってわかる。
角度を変えてきたり、じっと俺の目を見てきたり。
俺は、それに必死に答えようとする。
「はぁ、あ、篤紀、息がでン!!!」
心臓が鳴り響き、体温が上がっていく。

息ができなくなってきて、怖いと思った自分の経験値の低さ。
そして、それを見てまた、興奮している篤紀。
「…どうしよう…やっぱりとめられない…」
濡れた唇を指で拭い取られる。
それを、自分の元に運んでぺろりと舐める仕草。
なんでこんなにかっこいいんだよ…
好きって言う感情が溢れる。
「…やめんな…」
―!!!?
篤紀は、一瞬、躊躇った。
けれど、もう、俺に一切の遠慮は、いらない。
「いきなりどうにかするとかは、早いからさ。
 一緒に気持ちよくなろう?」
―!?
俺の返答など聞くこともせず、篤紀は俺を抱き上げて浴室に向かう。
「…お風呂?」
服を脱がされながら尋ねると、
「そう、一緒にお風呂&こきあいっこしよう!」
―?!
―こきあい?
あまりにも、無知に近い俺にとって、それは、ハードルが高い。
でも、篤紀は俺を裸にして、一緒に入っていく。

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