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舞い降りた天使
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よく晴れた気持ちのいい天気の日でした。とある公園のベンチに今日もその年老いた女性が座っていました。肩を落としてどこか落ち込んでいるようでした。
その年老いた女性はふと自分の目の前に小さな女の子が立っている事に気付きました。その女の子は手にスケッチブックを持ち、じっと女性を見ています。
「こんにちは。こんな所でどうしたの? お母さんは?」
女の子は何も言いません。しかしその言葉を聞いたせいかニコリと笑顔を見せました。
すると女の子はベンチの空いている所に座り、スケッチブックを広げて何やら書き始めました。
『あたしは ろくさいです。みみが きこえません。みんなは あたしをかわいそうというけど そんなことは ありません。だって みみがきこえないけど ひとのこころが みえるから』
それを年老いた女性は読みました。だから話しかけても返事がなかったのだと理解しました。
『だから おばあさんが なやんでいることにも きがつきました。おばあさん、まいにちここへきて すわってるね』
するとその年老いた女性はスケッチブックを借りて事情を説明し始めました。
この女性には一人息子がいます。その息子さんは数年前にお嫁さんをもらいました。そのお嫁さんはとても良い人で年老いた女性とも仲良く暮らしていました。
『でもね、そのおよめさんは おもいびょうきにかかってしまったのよ』
病気は手術で治りましたが代わりにそのお嫁さんは子供を授かる事が出来なくなってしまったのです。
『あかちゃんがいなくても わたしはしあわせよ、やさしいだんなさんと おかあさんがいるんだもの。およめさんは そういうのだけど……』
そこで年老いた女性は一旦書く手を止めました。女の子は不思議そうに年老いた女性の顔を見つめました。
年老いた女性は笑顔を作り女の子の頭を撫でるとまた書き始めました。
『およめさんは げんきにしているけど、わたしがみてないところで ないているのをしっているの』
年老いた女性は買い物から帰ってきたりお風呂から上がった時に、そのお嫁さんが一人涙しているのを見かけていたのです。
『わたしたちのまえでは げんきにしているけど、ほんとうは ふかくきずついてるんだとおもうの。でも ほんにんがだいじょうぶというから それいじょうなにもいえなくて』
女の子は事情を理解しました。するとニコリと笑ってスケッチブックに書きました。
『あした、そのおよめさんを ここへつれてきて。あたしが おはなししてあげる』
年老いた女性は、それも何かの気晴らしになるかと思い頷くのでした。
次の日、年老いた女性はお嫁さんを連れてきました。
「おかあさん、こんな所へ連れて来てどうしたんですか?」
「昨日話した耳の聞こえない女の子がお話したいんですって」
二人はベンチに座って女の子を待ちました。
すると昨日の女の子がスケッチブックを持って現れました。女の子は笑みを浮かべ二人にお辞儀しました。そしてお嫁さんにスケッチブックを手渡しました。
お嫁さんはスケッチブックを受け取るのですが、どうしたら良いのか分からず女の子を見ました。
女の子は"スケッチブックを開いて"と言うような動作をしていました。お嫁さんは中を見て良いものかと思うのですが、迷っていると女の子自らスケッチブックを開いてくれました。
『あたしは あなたのことをおばあさんからききました。おばあさんは あなたがはたらきものだということを しっています。そして みんながしんぱいするから げんきいっぱいでいることも しっています。あなたがひとしれずないていることも しっています。でも あなたがげんきでいるから なぐさめることができなくて こまっています』
そこまで読んでお嫁さんは一旦顔を上げ年老いた女性を見ました。
「おかあさん……」
年老いた女性は優しく微笑み、ただ頷くのでした。お嫁さんは申し訳ないようなありがたいような複雑な気持ちになりました。
女の子は笑顔でお嫁さんに続きを読むように促しました。
『あなたは あかちゃんができないからだに なってしまったんですね。でも あんしんしてください。てんしは あなたのとなりに まいおります。それは あなたがまわりのひとに しんぱいをかけさせまいと げんきにふるまっているから。あなたが おばあさんをなかせないように いっしょうけんめい いつもとおなじようにしているから。てんしは そんながんばってるあなたを みています』
お嫁さんはそっとページをめくりました。
『そして てんしはしっています。ひとは みんなでささえあって いきていくものであることを。あなたは おばあさんに ささえてもらうことができます。まわりのひとたちに ささえてもらうことができます。ひとりでがんばらずに みんなにもたれかかれば いいのですよ。おばあさんをしんじて つらいことを はなしてみてください。てんしは ちゃんとみていますから』
お嫁さんは知らず知らずのうちに涙が溢れていました。
「ありがとう、ありがとうね」
お嫁さんは思わず口に出していました。でも女の子の耳が聞こえないことを思い出し、スケッチブックにお礼の言葉を書くのでした。
女の子はそのスケッチブックを残して、そのまま手を振って笑顔で緑の公園の中に去っていきました。
「おかあさん、心配かけてしまいごめんなさい。おかあさんもご存知のように私の両親は私が若い頃に亡くなりました。誰かに頼る事が、頼り方が分からなかったんです。でもこれからは頑張って頼っていきますね」
「あなたが悲しんでる事は知ってましたよ。あなたは一人じゃない。これからは力を合わせて生きていきましょう」
二人は強く抱き合うのでした。
その日の夜、年老いた女性の息子が仕事から帰って来ると言いました。
「なあ、前から考えてたんだけど……ウチに里子を養子縁組してもらうのはどうだろうか」
「養子?」
息子はいくつかのパンフレットを持ってきていて、テーブルに並べるのでした。それは養子縁組の事が書かれているパンフレットでした。
「ああ、家族の在り方は人それぞれあって良いんじゃないか?」
「でも私達に子供を育てる事はできるかしら……」
「最初は誰もが不安なものさ。でも子供がいればお前だって元気になるだろう?」
「あなた……」
その日から三人は養子縁組について毎日話し合うのでした。
数年後、夫婦は里子を養子として迎え入れました。あの時の女の子と同じ六歳の女の子でした。
その姿は可愛くてまるで舞い降りた天使のようでした。
その年老いた女性はふと自分の目の前に小さな女の子が立っている事に気付きました。その女の子は手にスケッチブックを持ち、じっと女性を見ています。
「こんにちは。こんな所でどうしたの? お母さんは?」
女の子は何も言いません。しかしその言葉を聞いたせいかニコリと笑顔を見せました。
すると女の子はベンチの空いている所に座り、スケッチブックを広げて何やら書き始めました。
『あたしは ろくさいです。みみが きこえません。みんなは あたしをかわいそうというけど そんなことは ありません。だって みみがきこえないけど ひとのこころが みえるから』
それを年老いた女性は読みました。だから話しかけても返事がなかったのだと理解しました。
『だから おばあさんが なやんでいることにも きがつきました。おばあさん、まいにちここへきて すわってるね』
するとその年老いた女性はスケッチブックを借りて事情を説明し始めました。
この女性には一人息子がいます。その息子さんは数年前にお嫁さんをもらいました。そのお嫁さんはとても良い人で年老いた女性とも仲良く暮らしていました。
『でもね、そのおよめさんは おもいびょうきにかかってしまったのよ』
病気は手術で治りましたが代わりにそのお嫁さんは子供を授かる事が出来なくなってしまったのです。
『あかちゃんがいなくても わたしはしあわせよ、やさしいだんなさんと おかあさんがいるんだもの。およめさんは そういうのだけど……』
そこで年老いた女性は一旦書く手を止めました。女の子は不思議そうに年老いた女性の顔を見つめました。
年老いた女性は笑顔を作り女の子の頭を撫でるとまた書き始めました。
『およめさんは げんきにしているけど、わたしがみてないところで ないているのをしっているの』
年老いた女性は買い物から帰ってきたりお風呂から上がった時に、そのお嫁さんが一人涙しているのを見かけていたのです。
『わたしたちのまえでは げんきにしているけど、ほんとうは ふかくきずついてるんだとおもうの。でも ほんにんがだいじょうぶというから それいじょうなにもいえなくて』
女の子は事情を理解しました。するとニコリと笑ってスケッチブックに書きました。
『あした、そのおよめさんを ここへつれてきて。あたしが おはなししてあげる』
年老いた女性は、それも何かの気晴らしになるかと思い頷くのでした。
次の日、年老いた女性はお嫁さんを連れてきました。
「おかあさん、こんな所へ連れて来てどうしたんですか?」
「昨日話した耳の聞こえない女の子がお話したいんですって」
二人はベンチに座って女の子を待ちました。
すると昨日の女の子がスケッチブックを持って現れました。女の子は笑みを浮かべ二人にお辞儀しました。そしてお嫁さんにスケッチブックを手渡しました。
お嫁さんはスケッチブックを受け取るのですが、どうしたら良いのか分からず女の子を見ました。
女の子は"スケッチブックを開いて"と言うような動作をしていました。お嫁さんは中を見て良いものかと思うのですが、迷っていると女の子自らスケッチブックを開いてくれました。
『あたしは あなたのことをおばあさんからききました。おばあさんは あなたがはたらきものだということを しっています。そして みんながしんぱいするから げんきいっぱいでいることも しっています。あなたがひとしれずないていることも しっています。でも あなたがげんきでいるから なぐさめることができなくて こまっています』
そこまで読んでお嫁さんは一旦顔を上げ年老いた女性を見ました。
「おかあさん……」
年老いた女性は優しく微笑み、ただ頷くのでした。お嫁さんは申し訳ないようなありがたいような複雑な気持ちになりました。
女の子は笑顔でお嫁さんに続きを読むように促しました。
『あなたは あかちゃんができないからだに なってしまったんですね。でも あんしんしてください。てんしは あなたのとなりに まいおります。それは あなたがまわりのひとに しんぱいをかけさせまいと げんきにふるまっているから。あなたが おばあさんをなかせないように いっしょうけんめい いつもとおなじようにしているから。てんしは そんながんばってるあなたを みています』
お嫁さんはそっとページをめくりました。
『そして てんしはしっています。ひとは みんなでささえあって いきていくものであることを。あなたは おばあさんに ささえてもらうことができます。まわりのひとたちに ささえてもらうことができます。ひとりでがんばらずに みんなにもたれかかれば いいのですよ。おばあさんをしんじて つらいことを はなしてみてください。てんしは ちゃんとみていますから』
お嫁さんは知らず知らずのうちに涙が溢れていました。
「ありがとう、ありがとうね」
お嫁さんは思わず口に出していました。でも女の子の耳が聞こえないことを思い出し、スケッチブックにお礼の言葉を書くのでした。
女の子はそのスケッチブックを残して、そのまま手を振って笑顔で緑の公園の中に去っていきました。
「おかあさん、心配かけてしまいごめんなさい。おかあさんもご存知のように私の両親は私が若い頃に亡くなりました。誰かに頼る事が、頼り方が分からなかったんです。でもこれからは頑張って頼っていきますね」
「あなたが悲しんでる事は知ってましたよ。あなたは一人じゃない。これからは力を合わせて生きていきましょう」
二人は強く抱き合うのでした。
その日の夜、年老いた女性の息子が仕事から帰って来ると言いました。
「なあ、前から考えてたんだけど……ウチに里子を養子縁組してもらうのはどうだろうか」
「養子?」
息子はいくつかのパンフレットを持ってきていて、テーブルに並べるのでした。それは養子縁組の事が書かれているパンフレットでした。
「ああ、家族の在り方は人それぞれあって良いんじゃないか?」
「でも私達に子供を育てる事はできるかしら……」
「最初は誰もが不安なものさ。でも子供がいればお前だって元気になるだろう?」
「あなた……」
その日から三人は養子縁組について毎日話し合うのでした。
数年後、夫婦は里子を養子として迎え入れました。あの時の女の子と同じ六歳の女の子でした。
その姿は可愛くてまるで舞い降りた天使のようでした。
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