声を聴いて

よしだひろ

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出会い

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 高校の入学式から二ヶ月。そろそろクラスメートは自分達と気が合う友達を見つけて休み時間や放課後はその仲間達と過ごしていた。
 ただ小倉優斗は未だに仲良しの友達を作る事はできていなかった。体育の時間に二人一組になるのが一番嫌だった。
(何で俺がこんな目に合わないといけないんだ)
 優斗は、自分に友達が出来ないのはクラスメートが自分の魅力に気付かずに話しかけてきてくれないからだと決めつけていた。
 部活にも所属せず毎日自転車で下校する日々が続いた。
 そんな優斗には気になる女の子がいた。ある日優斗はその女の子を剣道場裏に呼び出した。学校内で人気ひとけのない所と言えばそこくらいだったからだ。そしてそれは何日も掛けて書いたラブレターを渡すためだった。
「なあに、こんな所に呼び出して?」
 優斗はガチガチに緊張していた。声が震えている。
「そ、その……こ、これを読んで、読んでくれないか」
 そう言って何日も掛けて書いたラブレターを差し出した。
「俺のき、き、気持ちなんだ」
 その女の子は封に貼られたハートのシールを見てそれがラブレターだとすぐに分かった。そして露骨に困ったそぶりを見せた。
「なあに、ラブレター? 私そう言うの興味ないんだけど……」
「よ、読むだけでも……」
「ごめんなさい。じゃ」
 と言うと優斗が取り付く島もなくその女の子は行ってしまった。
(部活もやってるし、恋愛に興味がないんだな)
 しかしその子が他の男の腕に絡まって歩いているのを見掛けたのは、それから半月程してからだった。
     *
 夏休みが近付いたある日のホームルームの事。
「いいか、お前達。高校に入って初めての夏休みが始まるが、くれぐれも羽目を外したりして問題起こすんじゃないぞ」
「先生、そりゃ無茶ってもんだよ。このクラスに羽目外さない奴なんていないから」
 しかし別の生徒が言った。
「優斗はクソ真面目に夏休み過ごすだろ」
「ああ、そうだな。優斗はこのクラスには珍しい陰キャだったな」
「そんな事ねーよ、俺だって……」
 優斗は言い返すのだが、声が小さく誰にも届かなかった。女子の中にはクスクス笑う者もいた。
(くそ! みんな馬鹿にしやがって。本当の俺の事知ったら尊敬するくせに)
「騒ぐな騒ぐな。みんな小倉を見習って真面目に夏休みを過ごすんだ」
 優斗はみんなが自分を認めないのは、みんなが自分の事を理解しようとしないからだと考えていた。確かに優斗は真面目で優しく、話も面白く近所の人には愛想が良かった。なので周り近所の人からの評判は良かった。
 ただ人見知りであり内気で自分から進んで絡んでいくタイプではなかったので友達は少なく、恋人がいた事は無かった。
 夏休みになると両親は優斗に友達と遊びに行くか勉強するか何かしなさいと口うるさく言った。
 優斗はそれが鬱陶しくて外出した。と言ってもお金もなく行くあてのない優斗は、涼む目的もあって図書館へ行った。
 本棚の本を探しながら思った。
(ラブストーリーなんかだと、同じ本を取ろうとして知らない異性と手が触れて恋に発展するんだけどなあ)
 と、本に手を伸ばした。すると同じ本を取ろうと知らない人の手が伸びてきた。そして手と手が触れた。
 優斗は自分が考えたベタな展開通りなので露骨に驚いた。思わず手が本の背表紙に掛かり、本が本棚からずり落ちた。
「ああ、ごめんなさい」
 見ると優斗と同じくらいの年頃の眼鏡を掛けた大人しそうな女の子だった。胸に何冊かの本を抱えている。慌てて落ちた本を拾おうとしゃがんだ。それを見て悠斗も慌ててしゃがんだ。
 女の子は本を拾うと優斗に差し出した。
「あ、良いよ。その本君も読みたいんでしょ」
 しかし女の子は困ったように微笑んで本を優斗の胸の辺りに突き出した。
「良いって。それ程興味があった訳じゃないし……」
 女の子は少し困惑しているようだ。落ちた本も胸に抱えると肩掛け鞄の中をゴソゴソ探し始め小さな青い手帳を取り出して優斗に表紙を見せた。
「身体障害者手帳……?」
     *
 女の子は続けて鞄をゴソゴソ探し、今度はスマホを取り出し何か書いて、それを優斗に見せた。
『私は耳が聞こえず、また言葉も話せません』
「え?」
 続けて女の子はスマホに書いた。
『落とした本はあなたが読んで下さい』
 そう言って先ほどの本を再び差し出した。
 優斗は手を降って拒んだ。そして、机の方を指差して、掌でクイクイ手招きした。
 二人は本棚から出て空いている机を見つけて座った。優斗は自分のスマホを取り出して画面に書いた。
『直ぐに必要な本ではないから君が読んでよ』
 女の子は右手の肘から上を立てて拳を握り、その拳を肘を中心に回転させるように振ってみせた。続けて右手の指を揃えて開き耳元から前へ振り下ろした。
(何かのサイン……手話か?)
 女の子はスマホに文字を書いた。
『ごめんなさい。今のは手話で"良いんですか?"と聞いたんです』
 優斗は自分のスマホに"構わないよ"と書いて、直ぐにそれを消した。そして代わりにこう書いて見せた。
『あの、俺は花川高校の小倉優斗と言います。どうせならリニエで話しませんか?』
 リニエとは普及率の高いチャット用のアプリだ。大抵の若者はスマホに入れていた。
 するとその女の子はリニエを開き、自分のQRコードを見せてくれた。優斗はフレンド登録でそのコードを読んでフレンド登録した。
「ai1018tampopo……か」
 優斗は試しに文字を送ってみた。
『初めまして』
 するとその子が返事を返してくれた。
『私は成田愛です。本、読んで良いんですか?』
『構わないよ。直ぐに必要な本じゃないから』
『ありがとうございます』
 会話が途絶えた。何か気まずい雰囲気だった。
『図書館にはよく来るの?』
『はい。本を読むと色んなこと覚えて楽しいから好きなんです。小倉さんは?』
『小倉さんだなんて。優斗でいいよ。その、友達もみんな俺の事優斗って呼ぶし。俺はたまにしか来ないかな』
(でも、これからは来ようかな)
 優斗はその女の子、成田愛が図書館に来るなら自分もと思った。また会いたいと。
『はい。じゃあ優斗君で。優斗君は友達多いんですね。羨ましい』
『ま、まあね。クラスの人気者だよ』
(何で嘘つくんだよ。見栄張っちゃって)
『私は友達少ないから羨ましいです』
『じゃ、じゃあさ。これも何かの縁だし、友達になろうよ』
『嬉しいです』
 すると愛は優斗の顔を見てにっこり笑った。とても素直で明るい笑顔だと優斗は感じた。
 この日から二人は友達になった。
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