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Eine Serenade des Vampirs編
道具屋
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街道に入ってからは単調な旅だった。いくつか拠点となる街に宿泊して二十日ほどした時、レクトアオゲンに着いた。
「久しぶりにレクトアオゲンに来たけどだいぶ様変わりしているな」
「師匠はレクトアオゲンに来た事があるんですか?」
「もうだいぶ前だけどね。数日間滞在した事があるよ。そうだなぁ、百五十年くらい前の話かな」
(百五十年って……久しぶりのスケールが違いすぎる)
シュタインはその昔、とある用事でレクトアオゲンに立ち寄った事があった。
「その頃はまだこの街も観光だけで成り立っててね。今のような大きな街じゃなかったのさ」
以前はこの街は観光だけで成り立っている街だった。しかし約百年程前に近くの谷で金の鉱脈が見つかったのだ。更に調べてみるとダイヤモンドの鉱床も見つかった。それにより街は一気に発展していった。
「急速に発展していった結果、街は無計画に増築が繰り返されて見ての通り混沌とした街並みになってしまったようだね」
見ると街並みは場当たり的に作られていて通りも真っ直ぐに進めないくらい店の軒先がバラバラだったり、看板が無造作に建てられていたり、しかし人々は通りに多く溢れていて混み合っていた。
「今やポルシュに次ぐ程の大都市がこの有様だとは、複雑な感じだね。でも各地の特産物なども沢山入ってきているから、マルトンの種が見つかると良いんだが」
レクトアオゲンの街は一番外側に第一城壁があり、街の富裕者層が住む地区を囲むように街の東側に第二城壁が作られている。第二城壁の内側は主に居住区で富裕層が暮らしている。
シュタイン達は取り敢えず宿を探した。シュタインはこの街に来た事があると言ってももうその時とはだいぶ街並みが変わっていたので宿屋の場所などは分からなかった。なので近くの人に宿の場所を尋ねたのだった。
宿に着くなりシュタインはミカ達に言った。
「もうだいぶ日が傾いてきてるね。一応手分けしてマルトンの種を探してもらってもいいかな。日が沈んだら宿に戻ってきてくれ」
シュタインとミカ、リグルとザイルのペアで街を散策することにした。もう日が沈むまでそんなに時間がない。
シュタインはキョロキョロと街を見渡しながら歩いているのだが、店に入って聞き込んだりする事は無かった。
「もう僕が以前来た頃の街並みではなくなってるなぁ」
「そんなに変わってるんですね。でも百五十年も経てば……」
そう言いながらシュタインを見るとシュタインは立ち止まってとある建物のドアをジッと見ていた。
その建物はお店ではなく誰かの家なのか窓が二つ付いている。その窓の間にそのドアは付けられており、階段が二段ほど設置されていた。
「ドア……ですか?」
「ん? ああ。何か気になってね……行こうか」
そう言うとシュタインは再び歩き出した。
結局マルトンの種の事は誰にも聞かず宿に戻る事になった。程なくしてリグル達も帰ってきた。
「何か分かったかい?」
「それが収穫はありませんでした」
「マルトンの種の事を聞いたら『マルトンの種? なんだそりゃ』とか言われましたよ」
「まあ、そうだろうねえ」
シュタインは特にガッカリする様子もなく、寧ろ想定内であるような面持ちだった。
「明日は見つけられると思うから大丈夫だよ」
「師匠。そもそもマルトンの種と言うのは何に使うのですか?」
「マルトンの種は魔法触媒さ」
魔法触媒。ミカは何処かで聞いた事があると思った。恐らく魔法の参考書に書かれていたものだろう。しかし詳しくは分からなかった。
シュタインは軽く笑ってから続けた。
「魔法触媒は、何かの魔法を使う時、魔法の増幅目的や反応による効果を利用して魔法を完成させる為の触媒なんだ。触媒を使う事で魔法の効果が強められるのさ」
「どんな魔法でも使えるのですか?」
「いいや。この触媒を使う魔法はこれ、この触媒を使う魔法はこれと言う感じで触媒を使える魔法、使わなければいけない魔法、使ってはいけない魔法などに分かれるよ」
「マルトンの種を使う魔法はどんな魔法なんですか?」
「魔封じ吸収結界の魔法さ。出来ればこの魔法は使わずに済ませたいんだけどね」
ミカは今一つ理解できずにいた。魔法触媒とは、決められた魔法を使う時に一緒に使う品物のようだ。それを使う事で魔法が完成する。もしくは魔法を強化できる。
マルトンの種は魔封じ吸収結界と言う魔法を使う時に必要な物のようだ。
「今夜はのんびり過ごすことにしよう」
その言葉通りその夜はのんびりと過ごした。
翌朝になりリグルがシュタインやミカに声をかけて起こして回った。
「さて、今日行く所はもう決めてあるんだ」
朝食を済ませて少しのんびりしてから四人はシュタインに連れられて出かけて行った。
そこは昨日シュタインが見ていた何かの建物のドアだった。
「昨日も気にしてましたがこのドアが何か?」
「ここは道具屋だよ」
「え? でも看板も何も出てませんよ」
「匂いがする。ポーションが置いてあるんだろう」
ポーションとは魔法によって鍛えられた飲み薬だ。ミカにもそれは分かったが匂いは感じなかった。
シュタインは迷わずドアをノックした。返事がない。
「入ってみよう」
「あ、師匠。人の家に勝手に……」
シュタインは迷わずドアを開けた。すると中は色々な道具が陳列されている道具屋のようだった。
「やっぱり道具屋だったね」
丁度店の奥から店主と思しき男が出てきた。
「見ない顔だな」
「旅の途中に立ち寄らせてもらったのさ」
「冷やかしなら出てっておくれ」
店の中にはミカが見たことのない物が沢山陳列してあった。謎の液体が入った瓶や何かの粉末、干したトカゲのような生き物の干物。羊皮紙が束になって置かれている。
シュタインは傍らに置いてある瓶を手に取る。瓶の中には小さな米粒程の茶色い粒が沢山入っていた。シュタインは瓶からその粒を少量取り出して言った。
「このケンタリウリの実と……マルトンの種を探してる」
「マルトンの種?」
「扱ってないかい?」
「…………」
店主はシュタインを品定めするようにジッと見た。
「そんな物騒な物何に使うんだ?」
「マルトンの種の使い道は限られている。あんたも知ってるだろ?」
「そんなに危険な状態なのか?」
「さあね。あんたがこのケンタリウリの実とマルトンの種を売ってくれるかどうかに掛かっているよ」
「……良いだろう。ちょっと待ってな」
そう言うと店主はシュタインからケンタリウリの実を預かり小袋に入れた。そして店の奥に消えていった。
ミカは二人のやり取りが気に掛かった。
「危険な状態って……師匠、何か大変な事が起こってるのですか?」
「何とも言えないが今はまだ大丈夫だよ。僕らがレッチェにどれだけ早く辿り着けるかが鍵になる……かもしれない」
その時店主が戻ってきた。手に布に包まれたまな板程の長さの細い物を持って。
シュタインはそれを受け取ると布を開いて中を見た。ナタ程もある長い房の、枝豆を大きくしたような茶色い物が入っていた。房が三つ付いている。
「間違いない。マルトンの種だ。リグル。代金を支払ってくれないか。言い値で良いよ」
シュタインはマルトンの種を布に包むとザックにしまった。そしてケンタリウリの実を受け取りポケットにしまった。
「助かったよ」
「お前さんが何者か知らんがうまく行く事を祈ってるよ」
「出来ればこの買い物が無駄になってくれると良いんだけどね。ありがとう」
そう言うとシュタインはドアから出て行った。ミカ達も店主にお辞儀してシュタインに続いた。
「久しぶりにレクトアオゲンに来たけどだいぶ様変わりしているな」
「師匠はレクトアオゲンに来た事があるんですか?」
「もうだいぶ前だけどね。数日間滞在した事があるよ。そうだなぁ、百五十年くらい前の話かな」
(百五十年って……久しぶりのスケールが違いすぎる)
シュタインはその昔、とある用事でレクトアオゲンに立ち寄った事があった。
「その頃はまだこの街も観光だけで成り立っててね。今のような大きな街じゃなかったのさ」
以前はこの街は観光だけで成り立っている街だった。しかし約百年程前に近くの谷で金の鉱脈が見つかったのだ。更に調べてみるとダイヤモンドの鉱床も見つかった。それにより街は一気に発展していった。
「急速に発展していった結果、街は無計画に増築が繰り返されて見ての通り混沌とした街並みになってしまったようだね」
見ると街並みは場当たり的に作られていて通りも真っ直ぐに進めないくらい店の軒先がバラバラだったり、看板が無造作に建てられていたり、しかし人々は通りに多く溢れていて混み合っていた。
「今やポルシュに次ぐ程の大都市がこの有様だとは、複雑な感じだね。でも各地の特産物なども沢山入ってきているから、マルトンの種が見つかると良いんだが」
レクトアオゲンの街は一番外側に第一城壁があり、街の富裕者層が住む地区を囲むように街の東側に第二城壁が作られている。第二城壁の内側は主に居住区で富裕層が暮らしている。
シュタイン達は取り敢えず宿を探した。シュタインはこの街に来た事があると言ってももうその時とはだいぶ街並みが変わっていたので宿屋の場所などは分からなかった。なので近くの人に宿の場所を尋ねたのだった。
宿に着くなりシュタインはミカ達に言った。
「もうだいぶ日が傾いてきてるね。一応手分けしてマルトンの種を探してもらってもいいかな。日が沈んだら宿に戻ってきてくれ」
シュタインとミカ、リグルとザイルのペアで街を散策することにした。もう日が沈むまでそんなに時間がない。
シュタインはキョロキョロと街を見渡しながら歩いているのだが、店に入って聞き込んだりする事は無かった。
「もう僕が以前来た頃の街並みではなくなってるなぁ」
「そんなに変わってるんですね。でも百五十年も経てば……」
そう言いながらシュタインを見るとシュタインは立ち止まってとある建物のドアをジッと見ていた。
その建物はお店ではなく誰かの家なのか窓が二つ付いている。その窓の間にそのドアは付けられており、階段が二段ほど設置されていた。
「ドア……ですか?」
「ん? ああ。何か気になってね……行こうか」
そう言うとシュタインは再び歩き出した。
結局マルトンの種の事は誰にも聞かず宿に戻る事になった。程なくしてリグル達も帰ってきた。
「何か分かったかい?」
「それが収穫はありませんでした」
「マルトンの種の事を聞いたら『マルトンの種? なんだそりゃ』とか言われましたよ」
「まあ、そうだろうねえ」
シュタインは特にガッカリする様子もなく、寧ろ想定内であるような面持ちだった。
「明日は見つけられると思うから大丈夫だよ」
「師匠。そもそもマルトンの種と言うのは何に使うのですか?」
「マルトンの種は魔法触媒さ」
魔法触媒。ミカは何処かで聞いた事があると思った。恐らく魔法の参考書に書かれていたものだろう。しかし詳しくは分からなかった。
シュタインは軽く笑ってから続けた。
「魔法触媒は、何かの魔法を使う時、魔法の増幅目的や反応による効果を利用して魔法を完成させる為の触媒なんだ。触媒を使う事で魔法の効果が強められるのさ」
「どんな魔法でも使えるのですか?」
「いいや。この触媒を使う魔法はこれ、この触媒を使う魔法はこれと言う感じで触媒を使える魔法、使わなければいけない魔法、使ってはいけない魔法などに分かれるよ」
「マルトンの種を使う魔法はどんな魔法なんですか?」
「魔封じ吸収結界の魔法さ。出来ればこの魔法は使わずに済ませたいんだけどね」
ミカは今一つ理解できずにいた。魔法触媒とは、決められた魔法を使う時に一緒に使う品物のようだ。それを使う事で魔法が完成する。もしくは魔法を強化できる。
マルトンの種は魔封じ吸収結界と言う魔法を使う時に必要な物のようだ。
「今夜はのんびり過ごすことにしよう」
その言葉通りその夜はのんびりと過ごした。
翌朝になりリグルがシュタインやミカに声をかけて起こして回った。
「さて、今日行く所はもう決めてあるんだ」
朝食を済ませて少しのんびりしてから四人はシュタインに連れられて出かけて行った。
そこは昨日シュタインが見ていた何かの建物のドアだった。
「昨日も気にしてましたがこのドアが何か?」
「ここは道具屋だよ」
「え? でも看板も何も出てませんよ」
「匂いがする。ポーションが置いてあるんだろう」
ポーションとは魔法によって鍛えられた飲み薬だ。ミカにもそれは分かったが匂いは感じなかった。
シュタインは迷わずドアをノックした。返事がない。
「入ってみよう」
「あ、師匠。人の家に勝手に……」
シュタインは迷わずドアを開けた。すると中は色々な道具が陳列されている道具屋のようだった。
「やっぱり道具屋だったね」
丁度店の奥から店主と思しき男が出てきた。
「見ない顔だな」
「旅の途中に立ち寄らせてもらったのさ」
「冷やかしなら出てっておくれ」
店の中にはミカが見たことのない物が沢山陳列してあった。謎の液体が入った瓶や何かの粉末、干したトカゲのような生き物の干物。羊皮紙が束になって置かれている。
シュタインは傍らに置いてある瓶を手に取る。瓶の中には小さな米粒程の茶色い粒が沢山入っていた。シュタインは瓶からその粒を少量取り出して言った。
「このケンタリウリの実と……マルトンの種を探してる」
「マルトンの種?」
「扱ってないかい?」
「…………」
店主はシュタインを品定めするようにジッと見た。
「そんな物騒な物何に使うんだ?」
「マルトンの種の使い道は限られている。あんたも知ってるだろ?」
「そんなに危険な状態なのか?」
「さあね。あんたがこのケンタリウリの実とマルトンの種を売ってくれるかどうかに掛かっているよ」
「……良いだろう。ちょっと待ってな」
そう言うと店主はシュタインからケンタリウリの実を預かり小袋に入れた。そして店の奥に消えていった。
ミカは二人のやり取りが気に掛かった。
「危険な状態って……師匠、何か大変な事が起こってるのですか?」
「何とも言えないが今はまだ大丈夫だよ。僕らがレッチェにどれだけ早く辿り着けるかが鍵になる……かもしれない」
その時店主が戻ってきた。手に布に包まれたまな板程の長さの細い物を持って。
シュタインはそれを受け取ると布を開いて中を見た。ナタ程もある長い房の、枝豆を大きくしたような茶色い物が入っていた。房が三つ付いている。
「間違いない。マルトンの種だ。リグル。代金を支払ってくれないか。言い値で良いよ」
シュタインはマルトンの種を布に包むとザックにしまった。そしてケンタリウリの実を受け取りポケットにしまった。
「助かったよ」
「お前さんが何者か知らんがうまく行く事を祈ってるよ」
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