月影の魔法使い 〜The magic seeker of the moonlight shadow〜

よしだひろ

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Eine Serenade des Vampirs編

レガリース教団

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 季節は初夏。陽射しがだいぶ強くなってきていた。カーテンカーテンの復興の時以降、長期にわたってシュタインの屋敷を離れたことはない。キルシュや皆んなは元気にやっているだろうかと流れる雲を見ながらミカはぼんやり思っていた。隣りでは相変わらずザイルがウトウトしていた。
「見えてきたよ。レッチェだ」
 遠くにそろそろ収穫の時期を迎える小麦畑が見えてきた。トウモロコシも良く育っているようだ。それが目隠しになってレッチェ自体は見えない。
 暫く畑を進むとレッチェの村が見えてきた。規模はそんなに大きくないのだろうか、木の板で村の周りを囲っていた。村の中に入っても通りを行き交う人の数は少ない。
 適当に村の中を進んで行くと宿屋があった。シュタイン達は特に考えることもなくその宿に部屋を取ることにした。
 宿に入ると入り口に一人の女性が立っていた。ローブに身を纏い軽く会釈してきた。
 シュタインは不思議に思ったが構わず店の奥に入って行った。一通り手続きを済ますとその女性が話しかけてきた。
「こんにちは、友人よ」
「君のような友人を持った覚えはないんだけどな、記憶違いかな?」
「私達はガイス様を信仰するレガリース教です。あなた達を幸福へと導く事が出来ます」
(ガイス? 聞かない名だ)
 シュタインは聞いたこともない神の名前に違和感を覚えた。
「私達と一緒に幸福へと向かいませんか?」
 すると宿の主人が走ってきた。
「困るよ、店先で宗教の勧誘は。ただ立ってるだけだと言ったじゃないか」
「申し訳ありません。この方達から運命を感じたもので」
「運命だか何だか知らんが勧誘ならよそでやってくれ!」
 そう言うと主人はその女性を無理やり店の外に押し出した。
「すみませんねぇ」
「レガリース教と言うのは?」
「数年前から活動し始めた新興宗教なんですよ。やけに信者が増えてましてね。中にはブメリアート教から鞍替えする人もいるくらいですよ」
「随分人気のある宗教なんだね」
 シュタイン達は手分けして情報を得ることにした。例によってシュタインとミカ、リグルとザイルのペアで、シュタイン達は村の中、リグル達は村の外を調べることにした。
「村の地理も覚えておきたいな」
 この村はそれ程大きくない。とは言っても一度歩いた位で地理を覚えられるとは思えない。なので、ミカは目印となる店や建物などを中心に覚える事にした。
 シュタインはたまたますれ違った人に話しかけた。
「この辺りにレガリース教の建物はないかい?」
「レガリース教かい? 村の外れの屋敷が本部だと聞いたけど、俺は信徒じゃないから分からんね」
 男は立ち去った。ミカは何故レガリース教の事を聞くのか不審に思った。シュタインは男が指差した方へ歩き出した。
「表裏の石の事は聞かないんですか?」
「表裏の石の事は誰も知らないはずさ。仮に知ってても話しちゃくれない。外堀から埋めていこう」
 シュタインには何か考えがあるようだったがミカには知る由もなかった。
 村の外れにやってきた。広い敷地が設けられている。その敷地内には村の外周に建てられている木の板は設置されていなかった。敷地内を通れば村の外と中を自由に行き来できる。その敷地の中心に屋敷が建てられていた。二階建ての屋敷の二階は天井が丸くなってる。小さい礼拝堂のようだ。
「ここがレガリース教の本部かな? 木の板が取り除かれているな。村の外にすぐ出られるようになってるんだね」
 屋敷の周りは広く庭になっていて庭と道を隔てる柵などの類はない。屋敷の裏、村の外にあたる部分はちょっとした林になっている。
「建物は大きいな。信者も多いと言っていたけどこの建物で収まるくらいなのかな?」
「さあどうなんでしょうね」
 建物を観察していると出入り口の所に立っていた二人組がシュタイン達に気付いて近付いて来た。
「ご友人よ。我が教団に何か御用ですかな?」
「そうだね。教団の事が知りたくてね」
「それは入信を前提とした事ですか?」
「さてね。何も分からないのに入信も何もないよ」
「……分かりました。友人よ。案内しましょう」
 ミカは不安に思った。表裏の石の事をそっちのけにしてこんな訳のわからない宗教にかまけているなんて。
 その二人はシュタイン達を応接間に案内すると一旦部屋を出て行った。程なくして一人の白いローブを纏った男性が現れた。
「私は教祖のライスという者でございます」
「僕はシュタイン、こっちはミカだよ」
「よろしくお願いします。ではご案内しましょう」
 シュタイン達はライスと名乗った男に連れられて屋敷の中を見て回った。
「ここは第二礼拝堂です」
「第二? って事は第一もあるのかな?」
「はい。二階になります。信徒以外立ち入り禁止でございます」
(立ち入り禁止……ね)
 一通り屋敷内を回ると再び応接間に戻って来た。
 するとライスは今度は教団の教えについて話し始めた。シュタインは考え事をしながら聞いた。
「とまあ、これが我が教団の活動になります」
「それはそれはご立派だ。所でこの屋敷の中にはあまり信者がいないようだが」
 屋敷内を見て回った時に信者の姿があまり見かけられなかった。
「普段は農作業や布教活動など、みな働いておりますので」
「なるほどね」
「どうですか? あなた方も私達と共により高みへ昇ってみませんか?」
 シュタインはすっくと立ち上がった。
「今日の所は帰るよ。また遊びに来てもいいかな?」
「どうぞどうぞ。お好きな時に」
「ミカ、行こう」
 そう言うとシュタインは部屋のドアに歩き出した。ミカも慌ててシュタインに続いた。
     *
 その日の夜。夕食を食べながらその日の成果を話し合った。
「表裏の石について知ってる人はいませんでした」
「まあ、そうだろうね。それよりも農作物の出来はどうだったんだい?」
「農作物ですか?」
 ザイルが思い出しながら答えた。
「畑によって出来栄えはバラバラ。雑草が伸びてる畑も多かったですよ」
「なるほどね。で、顔に化粧をしている人や腕輪をしている人はいなかったかい?」
「沢山いましたよ」
 シュタインはその特徴を詳しく聞いた。
「表裏の石を持ち去った犯人と似てると思わないかい?」
「そう言われれば化粧の特徴など一致しますね。気付かなかった」
「やはりレッチェに来て正解だったようだね」
「犯人はこの村の人間なんですか?」
「恐らくね」
 しかしそれ以上の事は何も分からない。また、その犯人がこの村に戻って来ているのか、もしくは戻って来るのかも分からなかった。
「シュタイン様達は何か掴みましたか?」
「この村にはレガリース教と言う新興宗教があるみたいだよ」
「昼間のあれですか?」
「かなりの数の信者がいるようだ。ガイスと言う聞いたこともない神を崇めている」
 この世界には天界、魔界、物質界の三つがある。但し比較的霊的エネルギーが弱く物質界に近い領域を精霊界と呼ぶ事もある。天界や魔界は霊的エネルギーが強く、そこで生まれる生物も必然的に霊力が強い。しかし天界や魔界で生物が生まれる事は稀で、また神や悪魔は生殖能力が弱いので滅多に新たな生命は生まれない。
 霊的エネルギーが安定している物質界からは天界も魔界も通常見えない。
 ガイスと言う神についてはシュタインは知らなかった。神と一口に言っても数多く存在する。シュタインが知らないのも無理はなかった。
「そのレガリース教と言うのは今回の盗難事件と関係があるのですか?」
「さて……ただ無関係とも言い切れない。何かが気になるんだよね」
「今の所手掛かりと言えば犯人の外見だけですしね」
「僕は教団を調べる。ミカはリグル達と合流して怪しい人物が村の外から入って来ないかチェックしてくれ」
「怪しい人物?」
「外見が犯人に似てる事、旅支度をしてる事などかな」
 犯人はこのレッチェからハインベルクまで旅をしている。村の周囲の畑に農作業に出るのとは違う。明らかに旅支度をしている筈だ。
「もし怪しい人物が現れたらそっと後を付けてくれ」
 村に門は一つしかない。三人は話し合って隠れて門を見張ることにした。
 翌日ミカ達は門の方へ歩いて行った。シュタインは教団本部の敷地の周りを回って何かないか調べて回った。
 教団本部の屋敷の裏はちょっとした林になっていたのだが実際に裏に回ってみると獣道のような小道が続いている事が分かった。シュタインはその小道に沿って歩いて行ってみた。
 すると前方からローブを纏った二人組が歩いてくる事に気付いた。シュタインはすかさず身を隠した。
「もう少ししたら満月だけどタエスはまだ戻らないのか?」
「まだのようだ。間に合わなければその次の満月を待つんだろ」
「何とかと言う石は上手く手に入ったのだろうか」
「さてな」
 二人は木陰に潜むシュタインには気付かずに行ってしまった。
(何とかの石……タエスとか言ってたが)
 シュタインは二人が話してた石とは表裏の石の事だと思った。タエスと言われた人物がそれを手に入れて来るのだろう。
 シュタインは取り敢えず小道を先に進む事にした。暫く進むと林が拓かれていてちょっとした広場になっていた。地面には大きな魔法陣が描かれている。
(この魔法陣は……)
 シュタインは王立図書館から盗まれた魂の行方を読んだ事がある。この魔法陣はそこに描かれていたものに似ていると思った。しかし大昔に一度読んだだけなのでハッキリとは分からなかった。
 傍らには小さ目の箱が無造作に置かれていた。シュタインは辺りに人がいないのを確かめると箱に近付いた。
 蓋を開けてみる。簡単に蓋が開いた。
 大量のメタセコイアの枝、麻薬の一種である大量のザッハコカの葉、乾燥したブタクサ、更に仕切りで区切られて生きた鶏、亀、毒蛇であるペタシスクがしまわれていた。
「これは……もう表裏の石があれば儀式を行う事が出来るじゃないか!」
 シュタインはまずいと思った。しかしその場は箱に蓋をしてそっと立ち去った。
(月齢は……もう数日で満月か)
 シュタインは村へ戻り門の方へ向かってみた。ミカ達が隠れている所へ行ってみるとミカ一人だけがいてリグルとザイルの姿は無かった。
 ミカが隠れている茂みにシュタインも潜り込んでミカにその事を尋ねた。
「怪しい男が現れたのでリグルとザイルが後をつけて行きました」
「なるほど。戻ってきてしまったのかな」
「?」
 シュタインはその場に腰を下ろした。ミカと共に門の方を注視した。
「師匠の方は何か手掛かりがあったのですか?」
「後で話すけど事態は危険な状態だよ」
 シュタインは考えていた。
(それにしても誰が転生をするつもりなのだろう)
 ミカとシュタインが門の監視を続けてるとザイルが帰ってきた。
「シュタイン様。いたんですね」
「まあね、でどうだった?」
「それがその男レガリース教の本部屋敷に入って行ったんです。流石にその中までついて行けなくて今師匠が見張ってます」
「やはり教団か……ここはもう良い。ザイルはリグルを呼んできてくれ。大事な話がある」
 ザイルは再びリグルの元へ走るのだった。
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