彼女は変わらない

水の味しかしない

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その日は奴隷商にとって特別な日になった。
彼は社会の言わば裏側、闇、隅にたまった吹き溜まりのような存在。
悪とされる代表格の一つで日の当たらない日陰者だった。
だから随分とその匂いを嗅いだことがなかった。

日の匂いだった。お日様の匂いをたっぷり含んだ清潔で清涼な石鹸の匂い。

濃すぎる香水の匂いでもない、人が流す汗でもない、腐った汚泥でもない
そんな匂いはしばらく彼の嗅覚に訪れたことはなかった。
若い女はよく扱う。だが、こんな澄んだ強い光をもった瞳の人間は知らない。

遠い記憶のかなたにあるただ一人しか。


「この女を好きにしろ」


その日、奴隷商は一人の少女をお偉いお役人から下げ渡された。
なんでも、どんな扱いでもしていいという。…だったら。


「…、へえ。なら俺の妻にします。」

お役人が一瞬面くらって黙った後に爆笑した。それはいいと手を叩いて
奴隷商と少女を置いて部屋の出て去っていいた。


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