彼女は変わらない

水の味しかしない

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はたして奴隷商と思われる男はきた。
いやな笑みをたたえた下品さが伺える役人二人とともにその後ろに控える様子で
男は控えめに立っていた。

最初の印象は仮面。
それにすべての印象を持っていかれる。ついでそれを見ないようにして
男をミディリアはそうと悟られないよう観察する。

背は高いのを隠すためかもともとか猫背に折り曲げている。
奴隷商などよほど儲かって贅沢をしているのだろうと勝手に想像していたが
男の身なりは質素だ。それも体全体をローブで覆っているから内側はわからない。
それでも装飾品の類も見えなければ、太ってもいない。逆に痩身で貴族にはない少し浅黒い肌をして俯いている。

なんだか怖くもなければ醜悪でもない、想像していた奴隷商のイメージと違っていて
ミディリアは戸惑った。
最も表情に出す愚かなことはない。彼女は最も貴族らしく、王子火にふさわしく教育されている。並の貴族ではない。清く上に立つものであれと育てられた。
その模範のようにミディリアは静謐をたたえた瞳で彼らを眺めた。

自分を品定めする男たちを。こちらも見据えて見定めていた。

その澄んだガラスのような瞳で静かな人形のようなミディリアに役人は
不気味さを感じたのか、にやついた笑みがひきつる。
対して、ふと目が合った奴隷商は…。

ミディリアの視線にも怯まず、逆に見つめ返された。

仮面の奥からでも見つめられているのがわかる。
まっすぐと向けられる視線は何を思っているのかも仮面で隠されて謎だ。
謎なのは恐ろしい。反らされない視線に怯んだのはミディリアだった。

それに何を思ったか役人たちが再び下卑た笑みを浮かべた。

そしてミディリアを下げ渡す商談に入った。
こんなものもちろん正規の法令に従った役人の行動なわけがない。
誰に買収されたか、組しているか、犯罪には違いない。
それでも淡々と進む商談で、思うよりもずっと高値が付いたらしいミディリアに
喜ぶ役人たち。

もしかしたらこの様子もどこかで見られているのかもしれない。
貴族は直接こんな場に居合わせないからどこか安全なところから

また飛んだ志向に役人の声が引き戻す。

「どんな扱いも構わないそうだ。この女を好きにしていい。元は由緒ある大貴族だ。
それだけで値があるだろう。」

どんな扱いを受けるか、それに不安がないわけではない。
自分の家である公爵家はどうでるか。その前に救いは来るか。
何通りも父である公爵の性格を考え道を探る。

奴隷商の仮面がじっと自分を見る。
それに覚悟を決めてミディリアは見つめ返す。
自分の行く末はこの男にある。

男が口を開いた。
何を口にするか。ミディリアは息をのんだ。





「…、へえ。なら俺の妻にします。」



すぐには理解できない言葉が出てきた。



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