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Dom連続殺人事件編
12話《てがかり》
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家の中に入ると、驚くほど静かだった。玄関に靴はない。
「いないんでしょうか……?」
「……まだわからない」
靴を脱いで家にあがる。廊下の先にはリビングに繋がっているのであろう扉がある。ワンルームの一室、部屋はここだけだ。
意を決して扉を開けると、
「──え?」
そこには何もなかった。言葉通り、何もなかったのだ。人の姿も家具も、私物も。まるで内見に訪れた時のように、綺麗なフローリングと白い壁。その部屋は生活の痕跡が一切見られなかった。玄関に靴がないことが正しいとでも言わんばかりに。
「この状況は一体……?」
先生は黙っていた。冷静にこの状況を整理しようとしている。先生は踵を返すと、先ほど通り過ぎたキッチンと水場を順々によく見た。
やはり、生活の様子は見られなかった。普通、寝泊まりに使うだけだとしても水場に歯ブラシやタオルは置いてあるはずだし、キッチンに最低限の調理器具や調味料があるはずだ。それらが一切ないのだ。ここまで来ると予想はしていたが備え付けの冷蔵庫は空だった。先生が住所を間違えるとも思えない。
「……本当にここに人が住んでいたのでしょうか。柳田さんのパートナーのSub……松尾さん、でしたよね」
「彼について、近所の方に話を聞いてみよう」
周辺住民と大家に話を聞いてわかったことは、この部屋は何年も空き部屋だったということだ。最初から人など住んでいなかったのだ。先生は直接彼とコンタクトを取ったわけではない。ここに松尾がいて、話を聞けると先生に伝えたのは事件現場にいた刑事だったという。
どういうことなのかと該当の刑事に詳しい話を聞いたところ、向こうから電話で名乗り出たらしい。放心状態でとても話せる状態ではななく、「ニュースを見て彼の死を知った。3週間後くらいに家に来てほしい」とだけ言って住所を伝えた。酷く錯乱していたし、もしかするとその時の住所が間違っていたのかもしれないと刑事は言った。
「本当の彼の住所を調べる必要がありますね……」
「いや、松尾さんは誰かがあの部屋に来るように仕向けた。それは間違いないだろう」
「そうなんですか?」
「鍵が開いていただろう。普段鍵は閉まっているはずだと大家さんも言っていたからね。何かしらの手段で鍵を開けておいて、部屋に呼んだんだ」
「どうしてそんなことを……」
「先ほど私たちは、『松尾さん』を探して部屋を見ていたから、部屋には何もなかったと思い込んでしまった。しかし、彼に何か目的があるのだとしたら、あの部屋に何か見落としがあったかもしれない。もう一度見てみようか」
さすが先生だ。先生の側で学ぶことは多い。自分の視野の狭さに恥ずかしくなるがこれもまた勉強だと後をついていった。
部屋に戻った僕たちは視点を変えて再度調べた。手がかりの一つも逃さないよう、慎重に。
すると、備え付けのクローゼットの違和感に気付いた。一見何もないように見えるが、床に少量の土が落ちていたのだ。土足のまま上がったり、衣服に土が付着していたのなら、玄関からここに至るまでにも落ちていないとおかしい。つまり、何者かがここに意図的にどこかの土を落としていったのだ。
「鑑識にどこの土か調べてもらおう」
「そうですね」
「今日はもう遅いし、この土を渡してそのまま帰ろうか」
「はい!」
アパートをあとにし、土を鑑識に回して警視庁から出てくる。明日には結果が出るらしい。
帰りの車の中で助手席の先生が口を開いた。
「……助手君、今日は泊まっていくのかい?」
「はい、明日も調査がありますしそのつもりです」
「それじゃあ、今夜もプレイを──お願いできるかな」
昨夜先生を手酷く抱いてしまった記憶が蘇る。罪滅ぼしになるかはわからないが、先生がそのチャンスをくれるというのなら。
「……昨日のこと、挽回させてください」
ハンドルを握る手に力を込める。
ふと窓の外を見る。すっかり日は落ちて空は濃紺に染まっている。
今夜はこんな都会の中心でも星がよく見えた。
「いないんでしょうか……?」
「……まだわからない」
靴を脱いで家にあがる。廊下の先にはリビングに繋がっているのであろう扉がある。ワンルームの一室、部屋はここだけだ。
意を決して扉を開けると、
「──え?」
そこには何もなかった。言葉通り、何もなかったのだ。人の姿も家具も、私物も。まるで内見に訪れた時のように、綺麗なフローリングと白い壁。その部屋は生活の痕跡が一切見られなかった。玄関に靴がないことが正しいとでも言わんばかりに。
「この状況は一体……?」
先生は黙っていた。冷静にこの状況を整理しようとしている。先生は踵を返すと、先ほど通り過ぎたキッチンと水場を順々によく見た。
やはり、生活の様子は見られなかった。普通、寝泊まりに使うだけだとしても水場に歯ブラシやタオルは置いてあるはずだし、キッチンに最低限の調理器具や調味料があるはずだ。それらが一切ないのだ。ここまで来ると予想はしていたが備え付けの冷蔵庫は空だった。先生が住所を間違えるとも思えない。
「……本当にここに人が住んでいたのでしょうか。柳田さんのパートナーのSub……松尾さん、でしたよね」
「彼について、近所の方に話を聞いてみよう」
周辺住民と大家に話を聞いてわかったことは、この部屋は何年も空き部屋だったということだ。最初から人など住んでいなかったのだ。先生は直接彼とコンタクトを取ったわけではない。ここに松尾がいて、話を聞けると先生に伝えたのは事件現場にいた刑事だったという。
どういうことなのかと該当の刑事に詳しい話を聞いたところ、向こうから電話で名乗り出たらしい。放心状態でとても話せる状態ではななく、「ニュースを見て彼の死を知った。3週間後くらいに家に来てほしい」とだけ言って住所を伝えた。酷く錯乱していたし、もしかするとその時の住所が間違っていたのかもしれないと刑事は言った。
「本当の彼の住所を調べる必要がありますね……」
「いや、松尾さんは誰かがあの部屋に来るように仕向けた。それは間違いないだろう」
「そうなんですか?」
「鍵が開いていただろう。普段鍵は閉まっているはずだと大家さんも言っていたからね。何かしらの手段で鍵を開けておいて、部屋に呼んだんだ」
「どうしてそんなことを……」
「先ほど私たちは、『松尾さん』を探して部屋を見ていたから、部屋には何もなかったと思い込んでしまった。しかし、彼に何か目的があるのだとしたら、あの部屋に何か見落としがあったかもしれない。もう一度見てみようか」
さすが先生だ。先生の側で学ぶことは多い。自分の視野の狭さに恥ずかしくなるがこれもまた勉強だと後をついていった。
部屋に戻った僕たちは視点を変えて再度調べた。手がかりの一つも逃さないよう、慎重に。
すると、備え付けのクローゼットの違和感に気付いた。一見何もないように見えるが、床に少量の土が落ちていたのだ。土足のまま上がったり、衣服に土が付着していたのなら、玄関からここに至るまでにも落ちていないとおかしい。つまり、何者かがここに意図的にどこかの土を落としていったのだ。
「鑑識にどこの土か調べてもらおう」
「そうですね」
「今日はもう遅いし、この土を渡してそのまま帰ろうか」
「はい!」
アパートをあとにし、土を鑑識に回して警視庁から出てくる。明日には結果が出るらしい。
帰りの車の中で助手席の先生が口を開いた。
「……助手君、今日は泊まっていくのかい?」
「はい、明日も調査がありますしそのつもりです」
「それじゃあ、今夜もプレイを──お願いできるかな」
昨夜先生を手酷く抱いてしまった記憶が蘇る。罪滅ぼしになるかはわからないが、先生がそのチャンスをくれるというのなら。
「……昨日のこと、挽回させてください」
ハンドルを握る手に力を込める。
ふと窓の外を見る。すっかり日は落ちて空は濃紺に染まっている。
今夜はこんな都会の中心でも星がよく見えた。
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