10年恋愛

杏鈴

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過去2

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ずっと探していた
ずっと逢いたかった

*過去2***

翔に手を引かれやってきたのは駅から会社方面の反対側にあたる場所にひっそりと建っている居酒屋だった
◆こんばんわ~
店長:いらっしゃーい。お、翔くんじゃないか!久しぶりだねぇ
◆お久しぶりっす!元気でしたか店長!
店長:おうよ!元気元気ー…って今日は女の子連れかい?

どうやら翔と仲が良いらしい店長さんは陽奈子を見てニヤニヤしている
◆自慢の彼女です!
◇誰が彼女だ!!!
◆おぉ、ナイスツッコミ…
店長:はははっ!まぁゆっくりして行きな!奥の座敷空いてっからよ!
◆ありがとございまーす

陽奈子はぺこりとお辞儀をして翔の後に続いた
向かった席は和風造りの半個室になっており狭いながらも居心地の良さそうな雰囲気が漂っていた
◆よいしょっと~
◇おじさんじゃないんだから…
◆んー?金曜日だし俺もそれなりに疲れてるんですよ~。さて、何飲む?俺は生かな~
◇私も生で

翔はタッチパネルを操作しながら生ビール2つと適当に料理を選んで行く
◆食いたいものあったら言えよ?
◇うん

早々にビールが届き乾杯をする
◆ぷっはー!うまー!
◇っはー。おいし
◆いやー、週末のビールは格別だよな!
◇それには同意だわ
◆ところでさ
◇?

急にジロジロと陽奈子の事を見る翔に疑問を抱く陽奈子
◇な、なによ…
◆陽奈さー、太った?
◇…はぁ!?太ってない…事もない、けど…
◆やっぱり~
◇なんでそんなことわかるのよ!てか失礼!!
◆どことなく?まぁ服着てちゃ分かりにくいけどなー
◇変態!!!

怒る陽奈子を見て悪い悪い、と笑う翔
◇そういえば前から思ってたんだけど
◆ん?
◇その"陽奈"て呼ぶのやめて欲しいんだけど。ちゃんと美山先輩、にして
◆えぇー。陽奈は陽奈だしなぁ
◇前の名残でしょ?今はただの先輩後輩だから!後、敬語も!
◆二人きりの時だけ!周りに人がいる時はちゃんと呼ぶからさ、な?
◇そんなんじゃ絶対ボロがでる…

喋っている途中で料理が運ばれて来て話が中断される
◆お!きたきた~。この豚の角煮が凄く絶品でさ、ほら!
◇ちょっと!私の話逸らさないでよ!

そう言うと翔は話を聞く様子はなくトロットロに煮込まれた豚肉を一口大に箸で切り分けると陽奈子の口に運んだ
◆はい、どーぞ
◇むぐ!?
◆美味いだろ?
◇お、美味しい…
◆な!ここへ来たらこの料理は絶対頼むんだ~
◇そういえば店長さんと仲が良さそうだったけど常連なの?
◆あぁ、あの店長は友達の父ちゃんなんだよ
◇なるほどね
◆あ、これも美味いよ!
◇ほんと?頂くわ

どんどん美味しい料理を薦められ翔のペースに巻き込まれる陽奈子はさっきの話はまた後できちんとしようと心の中で呟き、今は料理とお酒を堪能することにした
◆でさー、そのおじさんがさ…
◇ふふ、そんなに言ったらその通りすがりの人が可哀想よ
◆いや、本当に衝撃だったんだって!
◇あははっ!それは話を聞いててわかるけど!
◆はぁー。やっと笑った
◇へ?

翔は安心した様な顔をして陽奈子を見つめる
◇私、笑ってなかった?
◆俺と会ってからずーっと眉間にシワが寄ってたぞ~
◇え、そうなの…
◆陽奈は笑ってる顔が一番可愛いのに
◇…かわっ!?

陽奈子の顔が真っ赤になるのを見て翔はクスッと笑う
◇そういう冗談はいらないから!
◆冗談じゃないもん
◇ないもん、じゃない!
◆本音だもん
◇んもー!!

翔は楽しそうに笑う
◆ははっ。あのさ、陽奈
◇え、真面目な顔してどうしたの…
◆俺、ずっと陽奈の事探してたんだ。あの時からずっと
◇え?

いつものイメージとは違った雰囲気をまといながら翔は話し続ける
◆あの日、陽奈と呑みに行って一夜を共にした日。俺はあの時陽奈の事を凄く好きだった…。まだ若かったこともあってちゃんと気持ちを口にしないで酒の勢いでホテルに行ったことは申し訳なく思ってる、ごめんな。けど好きだって言う気持ちが本当にあったことは信じて欲しい

翔は陽奈子の事を真っ直ぐ見つめると話を続けた
◆けど朝を迎えてアルコールが抜けて正気に戻った陽奈から"無かったことにしよう"て言われて俺も"ごめん"しか言えなかった事を後々後悔したんだ。どうしてあの時に"無かったことになんかしないで欲しい。陽奈の事が好きだ"ってちゃんと言えなかったのか…。きっと自分に自信が無かったんだと思う
◇そんな…今になって言われても…
◆そうだよな。ごめん。続き、このまま聞いてくれる?
◇…うん…
◆ありがとう。それからもう一度会えないかと思って連絡をしようと思ったんだけど陽奈と連絡がつかなくて友達に聞いたんだよ。けどその友達も連絡が返ってこないっていうからおかしいなと思って
◇…あ、その時期ってスマホ水没させちゃって新しくした時…
◆やっぱりそうか。壊したか無くしたかで連絡がつかなくなったんじゃないかなって思ってたんだ
◇ご、ごめん…
◆それでなんとかならないかと手段を考えてた矢先に事故にあってさ。しばらく入院してたんだ、俺
◇え?入院?

そう、と言うと翔はスーツの裾を巻くって足を見せる
ふくらはぎ部分には縦に長い傷跡が残っていた
◇いっ…た…
◆もう痛くないから大丈夫。けどしばらく歩けなくてリハビリをして今は軽くなら走れるようにはなったんだ、全力疾走は厳しいけどな
◇それで営業の仕事って…
◆あぁ、リハビリの延長になるかなーって
◇そ、そういうものなの…?
◆正直、少し心が折れたよ。陽奈に会いたいのに連絡はつかないし、怪我して歩けないし、リハビリ長いし…けど会えた

翔は優しそうな微笑みを陽奈子に向けると髪を軽く撫でた
◇わっ…
◆やっと会いたい人に会えた。今、告白してもいい?
◇え!?い、いま!?ちょっ…
◆陽奈
◇は、はい!
◆こっちこれる?

翔は自分の横をポンポンと叩くと陽奈子は動揺してすんなり聞き入れ翔の隣に移動をする
◇は、はい…
◆ありがとう。俺ね、こうやってまた陽奈に会えて本当に良かったって思う。けど陽奈からしたら会いたくなかった相手なのかもなって言うのも理解してたんだ。だから陽奈がどう感じてるのかを聞かせてくれる?

陽奈子は少し考えてから口を開く
◇私は、翔に会いたくなかったって思ってたよ。気まずいもの…
◆だ、よな…
◇けど、けどね。翔の想いが聞けて良かったって今は思ってる。好きだって言ってくれてるのも翔の顔を見たら嘘じゃないんだなってわかるよ。だから…
◆うん…

陽奈子は少し辛そうな笑みを浮かべた
◇告白、聞いてもいいかな?
◆陽奈…
◇うん?
◆好きです。ずっと前から陽奈の事が好きです。俺の恋人になってくれませんか?

翔の目にはうっすらと涙が光っていた
◇ありがとう。けど今すぐには心の整理がつかないの…だから今はこのままで、また返事をさせてもらえないかな?
◆わかった。こちらこそありがとう…

翔は残っていたビールをグイッと飲み干すとよーしっ!と気合を入れた
◆絶対振り向かせてみせるからな!
◇え…えー…笑
◆なんで微妙な反応なんだよ!
◇いや、良い感じの雰囲気だったのになんかぶち壊し…
◆そんなことない!今のはときめくとこだろ?
◇あ、あはは…笑

苦笑の陽奈子とキラキラした顔の翔はその後終電まで呑み続け互いに無事帰宅をした

翌週
菜々:美山せーんぱい!
◇菜々ちゃん、おはよ

デスクでこれから使う資料を眺めていると後ろからひょこっと菜々が顔を出した
菜々:あの…金曜日のことなんですけど…
◇金曜日?あー…
菜々:どうでした!?

菜々は目をキラキラと輝かせながら質問をしてくる
◇どうって…あ、連絡先は交換したよ
菜々:え!?そこですか!?てっきりもっと親密な感じなのかと思ってたんですけど!付き合う前とかそんな感じかなって!

驚く菜々を見て陽奈子は思わずクスッと笑うと笑顔で応えた
◇そうだね、そうなれるかな
菜々:ん!?…え!もう少し詳しく…
梨緒:菜々ちゃーん!外回り行くよー!

菜々の会話が途切れる程梨緒の大きな声が遠くから響いてくる
菜々:はっ!もうそんな時間!?渡瀬先輩待ってくださーい!美山先輩、今日もランチ一緒しましょ!絶対ですよ!?約束ですからね!?

陽奈子の話に納得がいかないのか菜々はランチタイムに聞き出そうと約束を交わす
◇わかったわかった。ほら、早く行かないと梨緒ちゃんに怒られるよ?
菜々:わわっやばい!では後ほど!

行ってきまーす、と今度は菜々の元気な声が響く
◇さて、お昼までにこの仕事片さないとなぁ、頑張ろ!

陽奈子は袖をまくり気合を入れる
窓の外を見ると空は快晴
今日のランチタイムも賑やかになりそうだ

*完***
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