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September.すべての序章
birthday
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前日の閉店23時までの勤務を終え、台風が近づいてるとのことで強風にあおられながら坂の多い街道を原付バイクで突っ走り、通り道にあるコンビニで、いつも通り夜食…家庭事情で自宅の台所は深夜使えない…と、コンビニスイーツを買って、帰宅したのはあと15分で日付が変わる時間。
寝間着に着替えて机につく頃ちょうど良く、午前0時になりましたと動画投稿サイトの時報が鳴り、23日…40歳になったことを実感した。
「…こんな人生がまだまだ続くのかね…」
年代的に就職氷河期で、安定した職に就きたくてもなかなか採用されなかった。今の職場以外に大手スーパーで働いてたのが、今に繋がってる…が、正直向いてるとは思ってない。
別の職種もと職安が紹介してくれた不動産会社の事務補助の仕事も、結局は同期の若い子を残すという訳で事実上のクビになったのだが。
(…仕事はかなり好き…だったのになぁ…)
私の趣味のうちのひとつは不動産屋のチラシを集めること。ずっと団地暮らしで友達は一軒家住まいが多かったのが影響してると思う。子供の頃の夢は、家に携わる仕事だった…が、高校の進路選択の失敗で機会はなかった。
私の担当は自社物件をウェブで公開する作業だったので、まさに適職だった。
パートは任意だったのに宅建も受けた、惜しい点数で不合格だったけど。
(今なら普免もあるし…といっても、求人自体見たことないしなぁ)
夜食のおにぎりをパクつきながらいろいろ考えを巡らせたが、今の時点で転職は無理、に落ち着いた。正直、転職活動は懲りてる。
もういいや、私より大変な人はたくさんいる。
夜食を平らげ、常飲の薬…睡眠障害でもあるから…を飲むと、そのまま布団に倒れ込んだ。テレビ代わりの枕元のパソコンが2時の時報を鳴らしたのを最後に、私はそのまま寝落ちてしまった…。
目が覚めて、気がついたら昼食の時間だった。
☆
「ゆきちゃんおはよう。お誕生日おめでとう」
台所に立ってた母が洗い物の手を止めて振り返った。
「おはよ、お母さん。もうめでたくない歳だけどね~」
「ゆきもすっかりばばあだな」
「…お父さん帰ってたの。ていうかまた飲んでる人に言われたくないわ」
缶チューハイがテーブルに載ってるのを見逃さず、冷ややかな視線で返してやった。
こう見えても両親のことは尊敬してる。物心ついた時には母は清掃の仕事をしていたし、父は定年直前にリストラされ、その後はずっとアルバイト。70代になった今でも働いてる。
私が非正社員でも文句を言われないのは、父の失業期間、大変だったことを知ってるからだろう、ありがたいといえばありがたいが。
インスタントラーメンで昼食を済ませると、すぐ部屋に戻って貯めてたレンタルDVDを観始める。お一人様の趣味その一、アニメ鑑賞。
「ゆきー?お母さんたちこれから買い物行くけど、ミートソースで良いのよね?」
「祝う歳ではないけど、好きな物は関係ないのだ」
きらん☆
外では絶対食べないほど、母のミートソースは好物だ。
「…食後に寝たら、また太るわよ?」
「やかましいっ!」
手当たり次第に何か投げたかったけど、家庭事情的にぬいぐるみもないことに気がつき、なんとなく落ち込んだ…。
2人を送り出した後、極度に眠気が襲ってきた。
食後もあるが、生活リズムが狂いまくってるのだ。でも寝たらやりたいことができなくなる、なる…のに……。
「…やっちまったーー…」
目が覚めたのは、両親がとうに帰った、真夏でも日が落ちて薄暗くなった午後6時だった。まさに「orz」のポーズを取ってしまう四十路になった私…。
☆
「お誕生日おめでとうーっ!」
何人前だって量のパスタと大きな鍋を前に、カチン、と別々のグラスが鳴る。
音に驚いた愛犬のトイプードル、ひめがワンッ、ワンッと吠える。
「ゴメンゴメンひめたん、お姉ちゃんが誕生日なのよ~」
とひめを抱っこする。
今こそ母は専業主婦だが、昔からの慣習で、盛り付けはそれぞれやることにしてる。母の肩の上でひめがゴロゴロしてるうちに、特盛りのミートソースを盛り付け…
「いつ食べても美味しい~!」
店のミートソースと違ってお肉は控えめに、トマトも強調し過ぎず、トロトロに煮込んだみじん切りの玉ねぎで風味が出る、母の得意料理。高齢になり少食になってからは何かあった時にしか作らない。
「お母さんのミートソース食べたら外では食べられないね」
「外でも食べなさいよ」
「俺も外の飯は食わないぞ」
ミートソースや餃子、ハンバーグは、元は外食嫌いの父のために母が試行錯誤して作った物で、外食では出ない量と味付けだ。あと結婚当初から使ってるらしい大きな鍋を使ってるのも関係してるかも。
「そういやあんた、最近どうなの?」
「どうなのって、相変わらずいいように使われてるわよ」
クビにならないだけマシなんじゃない、と付け加える。
「でも社会保険も入れないんでしょ」
「失業保険もないわね~。ま、夜は募集かけても人来ないし、時給も高くてもあんな不便な場所じゃね」
と言いつつ、2杯目のおかわり。
「介護に専念するとどの道もらえないから、2人のどっちかが倒れるまでは働くよ」
ヘルパーの資格を取ることも考えたが。
先に青果部門のやはりオープニングからの同僚…といっても私より若い…が、ヘルパーの資格を取ろうとして、実技講習のためになかなか休ませてくれなかったのを聞いてやめた。チェッカーなんてもっと休めない。
家事はできなくもないし…と言いかけたら。
「へっ。あんたの介護なんか受けるつもりはないわよ。お兄ちゃんがいるでしょ」
そんなこと言われたって。
「お兄ちゃん家事やんないじゃん」
「そうなったら然るべき施設に入ります!あんたの世話は受けないわ」
「おまえ、金も出せないだろ?」
お父さんまで…。
「車の免許だって取ったし…」
「あんたの運転なんて怖くて乗れません」
ひどっ。原付免許のおかげで来年ゴールドなんだけどね。
「あんたは自分の心配さえしてればいいの。孫はいらないし、無理に結婚しなくても良いし」
付き合った人と泊まり旅行のたびに大騒ぎしてぶち壊したの誰だ。
「お父さんが失業した時に貯金も使い果たしたから大丈夫よ」
「貯金ないから大丈夫って何の話?」
この母の発言で、私は決意することになるのだ。
「あんた今の職場で働けなくなったら生活保護受けなさい。大丈夫!1人でも生きていけるから!私たちのことは心配しなくていいのよ。失業保険なくてもこれなら安心じゃない」
病気のせいでまじめに生活保護を受けてる知人がいるから制度自体は否定しないけど。
…ちょっと酷くない?介護はアテにしない未来もアテにしない。
しかも生活保護で1人で死んでいけって、40歳の誕生日に言われることーーーー?!
かくして。
「40歳の底辺から抜け出すための婚活」をスタートさせることになるのである…。
寝間着に着替えて机につく頃ちょうど良く、午前0時になりましたと動画投稿サイトの時報が鳴り、23日…40歳になったことを実感した。
「…こんな人生がまだまだ続くのかね…」
年代的に就職氷河期で、安定した職に就きたくてもなかなか採用されなかった。今の職場以外に大手スーパーで働いてたのが、今に繋がってる…が、正直向いてるとは思ってない。
別の職種もと職安が紹介してくれた不動産会社の事務補助の仕事も、結局は同期の若い子を残すという訳で事実上のクビになったのだが。
(…仕事はかなり好き…だったのになぁ…)
私の趣味のうちのひとつは不動産屋のチラシを集めること。ずっと団地暮らしで友達は一軒家住まいが多かったのが影響してると思う。子供の頃の夢は、家に携わる仕事だった…が、高校の進路選択の失敗で機会はなかった。
私の担当は自社物件をウェブで公開する作業だったので、まさに適職だった。
パートは任意だったのに宅建も受けた、惜しい点数で不合格だったけど。
(今なら普免もあるし…といっても、求人自体見たことないしなぁ)
夜食のおにぎりをパクつきながらいろいろ考えを巡らせたが、今の時点で転職は無理、に落ち着いた。正直、転職活動は懲りてる。
もういいや、私より大変な人はたくさんいる。
夜食を平らげ、常飲の薬…睡眠障害でもあるから…を飲むと、そのまま布団に倒れ込んだ。テレビ代わりの枕元のパソコンが2時の時報を鳴らしたのを最後に、私はそのまま寝落ちてしまった…。
目が覚めて、気がついたら昼食の時間だった。
☆
「ゆきちゃんおはよう。お誕生日おめでとう」
台所に立ってた母が洗い物の手を止めて振り返った。
「おはよ、お母さん。もうめでたくない歳だけどね~」
「ゆきもすっかりばばあだな」
「…お父さん帰ってたの。ていうかまた飲んでる人に言われたくないわ」
缶チューハイがテーブルに載ってるのを見逃さず、冷ややかな視線で返してやった。
こう見えても両親のことは尊敬してる。物心ついた時には母は清掃の仕事をしていたし、父は定年直前にリストラされ、その後はずっとアルバイト。70代になった今でも働いてる。
私が非正社員でも文句を言われないのは、父の失業期間、大変だったことを知ってるからだろう、ありがたいといえばありがたいが。
インスタントラーメンで昼食を済ませると、すぐ部屋に戻って貯めてたレンタルDVDを観始める。お一人様の趣味その一、アニメ鑑賞。
「ゆきー?お母さんたちこれから買い物行くけど、ミートソースで良いのよね?」
「祝う歳ではないけど、好きな物は関係ないのだ」
きらん☆
外では絶対食べないほど、母のミートソースは好物だ。
「…食後に寝たら、また太るわよ?」
「やかましいっ!」
手当たり次第に何か投げたかったけど、家庭事情的にぬいぐるみもないことに気がつき、なんとなく落ち込んだ…。
2人を送り出した後、極度に眠気が襲ってきた。
食後もあるが、生活リズムが狂いまくってるのだ。でも寝たらやりたいことができなくなる、なる…のに……。
「…やっちまったーー…」
目が覚めたのは、両親がとうに帰った、真夏でも日が落ちて薄暗くなった午後6時だった。まさに「orz」のポーズを取ってしまう四十路になった私…。
☆
「お誕生日おめでとうーっ!」
何人前だって量のパスタと大きな鍋を前に、カチン、と別々のグラスが鳴る。
音に驚いた愛犬のトイプードル、ひめがワンッ、ワンッと吠える。
「ゴメンゴメンひめたん、お姉ちゃんが誕生日なのよ~」
とひめを抱っこする。
今こそ母は専業主婦だが、昔からの慣習で、盛り付けはそれぞれやることにしてる。母の肩の上でひめがゴロゴロしてるうちに、特盛りのミートソースを盛り付け…
「いつ食べても美味しい~!」
店のミートソースと違ってお肉は控えめに、トマトも強調し過ぎず、トロトロに煮込んだみじん切りの玉ねぎで風味が出る、母の得意料理。高齢になり少食になってからは何かあった時にしか作らない。
「お母さんのミートソース食べたら外では食べられないね」
「外でも食べなさいよ」
「俺も外の飯は食わないぞ」
ミートソースや餃子、ハンバーグは、元は外食嫌いの父のために母が試行錯誤して作った物で、外食では出ない量と味付けだ。あと結婚当初から使ってるらしい大きな鍋を使ってるのも関係してるかも。
「そういやあんた、最近どうなの?」
「どうなのって、相変わらずいいように使われてるわよ」
クビにならないだけマシなんじゃない、と付け加える。
「でも社会保険も入れないんでしょ」
「失業保険もないわね~。ま、夜は募集かけても人来ないし、時給も高くてもあんな不便な場所じゃね」
と言いつつ、2杯目のおかわり。
「介護に専念するとどの道もらえないから、2人のどっちかが倒れるまでは働くよ」
ヘルパーの資格を取ることも考えたが。
先に青果部門のやはりオープニングからの同僚…といっても私より若い…が、ヘルパーの資格を取ろうとして、実技講習のためになかなか休ませてくれなかったのを聞いてやめた。チェッカーなんてもっと休めない。
家事はできなくもないし…と言いかけたら。
「へっ。あんたの介護なんか受けるつもりはないわよ。お兄ちゃんがいるでしょ」
そんなこと言われたって。
「お兄ちゃん家事やんないじゃん」
「そうなったら然るべき施設に入ります!あんたの世話は受けないわ」
「おまえ、金も出せないだろ?」
お父さんまで…。
「車の免許だって取ったし…」
「あんたの運転なんて怖くて乗れません」
ひどっ。原付免許のおかげで来年ゴールドなんだけどね。
「あんたは自分の心配さえしてればいいの。孫はいらないし、無理に結婚しなくても良いし」
付き合った人と泊まり旅行のたびに大騒ぎしてぶち壊したの誰だ。
「お父さんが失業した時に貯金も使い果たしたから大丈夫よ」
「貯金ないから大丈夫って何の話?」
この母の発言で、私は決意することになるのだ。
「あんた今の職場で働けなくなったら生活保護受けなさい。大丈夫!1人でも生きていけるから!私たちのことは心配しなくていいのよ。失業保険なくてもこれなら安心じゃない」
病気のせいでまじめに生活保護を受けてる知人がいるから制度自体は否定しないけど。
…ちょっと酷くない?介護はアテにしない未来もアテにしない。
しかも生活保護で1人で死んでいけって、40歳の誕生日に言われることーーーー?!
かくして。
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