A.I. AM A FATHER(覚醒編)

LongingMoon

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一〇. 時間との戦い

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オレは、悩み苦しんだ。いや、正確には殆ど昏睡状態で、時折、意識が戻るとトヤーの笑顔、トヤーの裸身、トヤーの悶えよがる顔、トヤーの怒った顔、誰にも変えられない決意をしたトヤーの表情が、オレの頭の中を目まぐるしく展開していく。
このまま、少しでも、生きながらえるだけの人生でいいのだろうか。おぼろげながら、ある一点に答えが固まっていった。
「2か月。2か月あれば」
・・・
「トヤーと生まれてくる子供のために、できること」
・・・
「あるじゃないか。オレには」
「人工知能」
「だいそれたことを、考えても仕方ないじゃないか。トヤーとオレたちの子供のために全力を尽くす人工知能があってもいいんじゃないか」

「せんせい、2か月だけでいい。2か月だけ、オレを動かしてくれ」
「何を言ってるんだ。キミは」
「オレには、わかる。自分の体のことは。このまま、延命しても死を待つだけだ。そんな残酷な話はないでしょ。センセー」
「オレは、大学で人工知能を作ってきたんだ。でも、当初の構想を完成させるには、最低でも、あと1年はかかる。オレは、決めたんです。あと、2か月でトヤーと生まれてくる子供のための人工知能を作るんです」
「そりゃ、無茶だ」
「わかってます。でも、オレはやってみせます。センセーも、科学者の端くれなら、オレの気持ち、わかるでしょ」
「うっ、うーん」

医師は、苦悩の表情を浮かべ、1分くらい黙ったまま、目を瞑っていた。
「方法はあるにはあるが、もちろん、フルタイムで、キミの頭脳と指を動かすことはできんぞ。しかも、病気の進行と薬の副作用を完全には抑え切れん。平常時と苦痛の落差は激しく、真剣に死んだ方が楽だと感じるんだぞ。いや、やっぱり、いかん。医者として、患者にそんな苦痛を味あわせられん」
「いや、いいんです。オレが死のうとした時は、しばり付けてでも生かしてください。オレは、死ぬ瞬間まで機械になります。工場になります。人工知能に命を吹き込むための」
「うっ、うーん」

「本当に、できると思っているのか。命を削って2か月で、その人工知能とやらができる保証はどこにもないぞ。ただ、苦しみぬくだけで、命の灯が消えてしまうかもわからんぞ」
「大丈夫です。やりきります。どんなことがあっても」

トヤーと生まれてくるオレたちの子供のために、最後の力を振り絞って、ネット人工知能の父親であるオレを構築する決心をした。
余命3ヶ月、実働できるのは1~2ヶ月。最後まで完成させられる保証はない。
オレは、未完成の人工知能にトヤーと生まれてくる子供を探し出し、彼女達を支え続ける機能と、オレの記憶とパーソナリティをできる限りたたきこむ決意をした。

「助けてくれ。センセー、オレを殺してくれ。このチューブを抜いたら、オレは楽になれるんですよね」
「コウイチくん、残念だけど、それはできない。私にできるのは、キミにこの薬を投与し、今の激痛を少しでも和らげることしかできない」
オレは、激痛が和らぐと人工知能の開発に没頭した。

オレは、気の遠くなるような2か月間、そんな医師とのやりとりを繰り返した。

人工知能は、完成しているのかどうかわからない。デバッグやテストも十分できるはずもない。ただ、人工知能の自己修復機能と学習機能だけは、入院する前に完成していた。オレは、それを信じて、それを前提にして、人工知能システムを作り上げた。
オレは、最期の力を振り絞って、その人工知能システムを日本のとあるスーパーコンピュータで構築し、ヨーロッパにあるコンピュータシステムのバックアップに封印した。そのバックアップシステムは、通常なら、年に1回期末処理でリストアされる。それをトリガーにして、人工知能システムが動作し始めるように仕込み終わった。

それから、オレは昏睡状態に陥った。1日か2日に、数分いや1分くらいかもしれないが、ぼんやりトヤーの顔と生まれてくる子供の幻想が記憶の断片を過る。時々、誰かが声をかけてくれているのはわかるが、鬱陶しいというような感情を抱くしかなかった。
ある日、俄かに感情らいきものが蘇った。枕元には、1台のパソコンが置いてあり、少しお腹が膨らんだトヤーが、時間を割いてオレを励ましてくれた。
「コウイチ、がんばるのよ。せめて、アナタの子供の顔を見るのよ。私たちの赤ちゃんに、あなたの顔を見せるのよ」
パソコン越しに、トヤーは大声を張り上げてくれた。
しかし、オレには全てを聞き取ることはできなかった。トヤーの表情と断片的に聞こえる声から、トヤーがそんなことを言ってるような気がした。
オレは、もう薄れかけた意識の中で、トヤーに対して、感謝の涙を流していた。涙が流れている感触はなかったが。

人工知能が完成したのかどうかはわからなかったが、開発は終わった。それからどれだけ時間が経ったのかわからなかったが、医者の宣告通り、パソコンの中の彼女が泣き叫ぶ中、意識のグラデーションは急速に限りなく白くなっていった。
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