アゲパン

LongingMoon

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第4編:88星座巡礼編

第64章「オリオン座辺境の氷晶惑星」

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銀河ぎんが外縁がいえんオリオン座オリオンざうでの果て。
僧侶そうりょは、意識体いしきたいとしての肉体にくたいをきらめく粒子りゅうしの流れに変え、こおり結晶けっしょうが無限に降りしきる惑星わくせいへと降り立った。
星は薄青い光を放ち、その冷ややかな輝きは、まるで宇宙うちゅう深淵しんえんそのものが氷となったかのようだった。

この惑星には、肉体を持つ生命体せいめいたいはいなかった。
だが、氷晶そのものが生命だった。
ひとつひとつの結晶が微細びさい振動しんどうを持ち、その振動が惑星全体をひとつのネットワークねっとわーくとして繋いでいた。
僧侶が「到着とうちゃく」の波動はどうを放つと、惑星全体が微かに震え、応答おうとうするように光が煌めいた。

氷晶ひょうしょうたちの声

「…外界がいかい意識いしきよ。ようこそ、私たちの眠りねむりへ。」

その声は無数の響きが重なり合った合唱がっしょうだった。
僧侶はすぐに理解した。この惑星にはという概念がいねんがない。
すべての結晶が同じ意識いしきうみに浮かんでおり、全体として「一つの存在」でありながら、局所きょくしょごとに微細な個性こせい芽吹めぶいているのだ。

僧侶は、自らの旅の祈りいのりを伝えた。
争いあらそいに疲れ、銀河のあらゆる生命を見つめ、平和へいわの道を求めていることを。
氷晶たちはしばらく沈黙ちんもくした後、き通る声でこう告げた。

「我らは時間じかんを超える。
過去かこ未来みらいも、凍結とうけつの下で等しく眠る。
だが、おまえの旅は、私たちの眠りをふるわせた。」

試練しれん

惑星に降り立ってから数百年、僧侶は氷晶たちと共鳴きょうめいしながら沈黙ちんもく学びまなびを続けた。
この星の時間の流れは極端きょくたんに遅く、外界がいかいの一日が、この星では百年に相当する。
僧侶の意識は次第に希薄きはくとなり、存在そんざい輪郭りんかくを失いかけた。

ある時、惑星全体の意識から問いといが投げかけられた。

「おまえは、あいを捨てられるか?」

僧侶は答えられなかった。
かつて肉体を持ち、愛した存在。今もどこかで意識体として漂うであろう彼女かのじょを求め続ける心が、祈りの奥底おくそこに残っていた。
その迷いまよいは氷晶たちにいたいほど伝わっていた。

「ならば、おまえはまだ巡礼じゅんれい途上とじょうだ。
ここで眠ることはゆるされない。」

惑星の氷が光を放ち、僧侶の意識体は再び銀河の空間くうかんへと放り出された。
それは追放ついほうではなく、旅を続けるための贈り物おくりものだった。

旅立たびだ

星を離れるとき、氷晶たちは最後の言葉を残した。

「いつかまた来い。
その時は、おまえの祈りが純粋じゅんすいであれば、
私たちの眠りと一つになれる。」

僧侶は銀河の暗闇くらやみに漂いながら、氷晶惑星でのしずかな時間を反芻はんすうした。
愛を捨てられない自分をじるのではなく、みとめた。
それは祈りのよわさではなく、つよさなのだと、初めて気づいたからだ。

そして、次の星座巡礼せいざじゅんれいへ向けて、意識は再びひかりとなり銀河を駆け抜けていった。
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