76 / 95
第4編:88星座巡礼編
第75章 ケンタウルス境界水鏡の楽園
しおりを挟む序盤:静かな到達
僧侶の巡礼船〈ホシアゲ〉は、アンドロメダ境界の荒れ狂う嵐の星を離れ、長い沈黙の航路を経てケンタウルス宙域へと滑り込んだ。
眼前に広がるのは、無風の蒼い惑星。雲ひとつない大気の下、湖と海が陽光を反射して鏡のように輝いていた。
「僧侶、あの静けさはデータでは説明できません」
イザナミの声に、僧侶は思わず笑った。
「たまには説明なんかできなくていいんだ。美しいってだけで十分だろ?」
〈ホシアゲ〉は大気圏をすべり、淡い虹のような光を散らしながら、静かな入り江へと降りていった。
水の歌を持つ民
惑星の沿岸に集落があった。
水面に浮かぶ半透明の建物群、揺らぐ音楽のような声。
迎えてくれたのは、青く透き通る肌を持つ種族――「ルーミア」と名乗る水の民だった。
「遠くから来た祈りの人よ、あなたの波を聞かせてほしい」
彼らはそう言って僧侶を湖の中心へ案内した。
湖の底では微細な生物発光がゆるやかに脈打ち、まるで星座が水中に映っているかのようだった。
穏やかな日々
僧侶は、この星での数日を、静かに過ごした。
水面に浮かぶ図書室で祈りをささげ、ルーミアたちと静かな対話を重ねた。
彼らの寿命は地球基準で数百年――アンドロメダ境界の短命の民とは正反対の、穏やかで長い時間の流れがあった。
「命がこんなにも長くて……退屈にはならないのか?」
僧侶が尋ねると、ルーミアの青年はゆるやかに微笑んだ。
「長い命には、長い祈りが必要なんだよ。だから退屈なんてない」
僧侶はその言葉を、心の奥で繰り返した。
儚さの残像
しかし僧侶の心は、まだ嵐の星の歌を抱えていた。
短命の少女・カリナが見せた、あの瞬間の輝き。
それは穏やかな水鏡の楽園の中で、いっそう際立つ。
ルーミアの女性研究者・リシアが、そんな僧侶の心の動きを察した。
「あなた、悲しみを連れてきたのね」
「悲しみ、か……。いや、あれは……歌だよ。もう消えない、あの星の歌だ」
リシアは優しく笑い、湖に一枚の花弁を浮かべた。
「ここでは、祈りはすべて水に溶けて、星の海へ流れていくわ。あなたの歌も、ここで休ませてあげて」
旅立ちの前夜
その夜、僧侶は湖の畔で目を閉じた。
静かな波の音の中で、短命の星で聞いた嵐の歌と、ここで聞く穏やかな水の歌が、ひとつの旋律に溶け合っていくのを感じた。
「……ありがとう」
誰にともなくつぶやき、僧侶は再び巡礼船のデッキに立った。
星空が湖に映り込み、まるで宇宙そのものが足元に広がっているかのようだった。
出航
〈ホシアゲ〉が静かに大気圏を離れると、リシアが通信で囁いた。
「また来てね、旅人。長い時間の中で、あなたの祈りは忘れないから」
「約束はできないけど……祈りは、必ず返すよ」
船が軌道を外れ、再び宇宙の暗黒へと溶けていく。
僧侶の胸には、静かな水の星の旋律と、嵐の星の短い歌声が、確かに共鳴していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
