82 / 95
第4編:88星座巡礼編
第81章 ペガスス座:記憶の迷宮
しおりを挟む序章:光の星海
〈ホシアゲ〉が降り立ったのは、ペガスス座の第三惑星〈エイドロン〉。
遠くから見ると静謐な水の星だったが、近づけば、無数の浮遊大陸が淡く光を放ちながら、ゆっくりと軌道を描いている。
その光景に僧侶は思わず口笛を吹いた。
「なんだよ、ここ……まるで夢の中じゃねぇか」
イザナミは冷静にスキャンを続けながら頷く。
「この惑星の空気は非常に安定しています。呼吸可能、気温も快適。……ただし、精神干渉波が強く、意識が記憶領域に引き込まれる危険があります」
「夢の中じゃねぇか、って言った途端にホラー展開かよ。もう慣れたけどさ」
光の廊下
着陸地点から続く浮遊大陸の道は、まるで透き通った水晶の廊下だった。
僧侶が一歩足を踏み入れると、足元に波紋のような光が走る。
次の瞬間、彼の耳元で声が響いた。
「ようやく、帰ってきたのですね」
「……今の、聞こえたか?」
イザナミが眉を|ひそ》める。
「私には何も聞こえません。おそらく、あなたの記憶に直接作用しているのでしょう」
僧侶は苦笑した。
「そういや俺、最近“内なる声”にやたら好かれてる気がするな」
記憶の迷宮
光の廊下の先には、巨大な水晶群で構成された都市のような構造物があった。
僧侶が足を踏み入れた途端、景色が歪み、彼の視界は一瞬で別の場所へ切り替わった。
――かつての地球。
少年時代の夕暮れ。
手の中には、まだ焦げた匂いが残る“揚げパン”。
「……なんだよ、これ」
涙が滲み、僧侶は拳を握る。
その横に立つのは、当時の友。
もう、この世には|いない、《あの笑顔》。
「忘れてないだろ? 俺たちの約束」
「……やめろよ。そんなこと言うなよ……」
イザナミの介入
イザナミが僧侶の肩を強く揺さぶった。
「戻ってきてください! あなたの意識が、迷宮に閉じ込められます!」
僧侶は必死に目を開け、深く息を吐いた。
景色が崩れ、再び水晶の廊下が視界に戻る。
「はぁ……|あぶねぇ……。なんだよ、ここ、本気で人を壊す気か?」
イザナミが淡々と分析を続ける。
「この惑星は“記憶を実体化”する性質を持っています。あなたの心の奥底にある後悔や願いが、触れられる形で目の前に現れるのです」
心の告白
その夜、浮遊大陸の縁で二人は星を見上げていた。
僧侶はぽつりと呟く。
「俺さ……たまに思うんだよ。
もし|あの時、あいつらを助けられてたら、今頃どうなってたのかな、って」
イザナミは|しばらく沈黙したあと、柔らかな声で言った。
「過去は変えられません。でも……その痛みがあるから、あなたは歩き続けられるのでしょう?」
僧侶は苦笑する。
「言うねぇ、AIのくせに」
イザナミは淡く微笑んだ。
「私は、あなたの心の“記録”ですから」
記憶の贈り物
翌朝、都市の中心部で巨大な水晶が輝き、僧侶の前に一つの小さな結晶が差し出された。
まるで「これを持って行け」と告げるように。
僧侶が結晶に触れると、脳裏に優しい声が響く。
「忘れるな、でも、縛られるな。
歩き続ける限り、記憶は力になる」
僧侶はそっと結晶を握りしめ、〈ホシアゲ〉のハッチに戻った。
旅立ち
「なぁイザナミ。次の星は、どんな地獄なんだろうな」
「地獄とは限りません。ただ……厳しい問いを突き付けてくる星であることは、間違いないでしょう」
僧侶は苦笑しながらスロットルを押した。
「まぁいいさ。地獄でも、楽園でも、どうせ俺の足は止まらない」
宙に浮かぶ浮遊大陸が遠ざかり、星海が広がる。
僧侶の手の中では、淡く光る結晶が小さな鼓動を刻み続けていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
