83 / 95
第4編:88星座巡礼編
第82章 くじら座:生命の揺籃
しおりを挟む序章:深き|うねり
〈ホシアゲ〉は、ゆっくりとくじら座の外縁軌道に降り立った。
センサーが示すのは、想像を超える規模の“海”。
惑星〈リュシオン〉は、その表面のほぼ全てを濃紺の海洋が覆っており、陸地と呼べるものは、ごくわずかに浮かぶ島嶼のみだった。
僧侶はメインスクリーンに映し出された青い光景を見て息を呑んだ。
「うわ……。でっけぇ水の塊って、やっぱ圧倒されるよな」
イザナミが淡々と応える。
「この惑星は水深が平均で100キロメートルを超えます。地球の海とは比較になりません。内部の圧力は地殻形成を抑え、結果として陸地がほとんど存在しないのでしょう」
「つまり、“地球じゃありえない海”ってことだな」
生命の光
降下艇で海面に近づくと、夜の海は青白い光を放ちながら脈打っていた。
まるで、惑星全体が巨大な心臓となり、静かに鼓動しているかのようだ。
僧侶は思わず呟いた。
「これ……全部、生き物の光か?」
イザナミが頷く。
「微細な生物群が、惑星全体で有機的に繋がっています。単なる生態系ではなく、一種の“集合意識”と呼ぶべき存在かもしれません」
僧侶は苦笑した。
「また難しい言い方をするなよ。要するに“でっかい命”ってことだろ?」
揺籃との対話
僧侶は小型潜航艇で深海へと降下した。
深く進むにつれて光は薄れ、やがて完全な闇が広がる……かに思えた瞬間、周囲が一斉に光り出した。
――深海の“声”が響く。
「外の者よ……なぜ、ここへ来た?」
僧侶はしばし言葉を失い、やがて笑った。
「いや、理由なんてねぇ。ただ……お前らを見てみたかっただけだ」
「見て、どうする?」
「わからねぇ。たぶん、俺がこの旅を続けてる理由と同じだよ。
ただ、知りたいんだ――命ってやつの意味を」
深海の光はしばらく沈黙し、やがてゆっくりと|うねった。
「ならば、見届けるがいい。
我らが始まり、そして終わる、その瞬間まで」
生命の儚さ
滞在の最終夜。
僧侶は海面の縁で夜空を見上げながら、イザナミと話していた。
「なぁイザナミ>俺さ、最近やっと気づいたんだ。
どんなにでっかい命でも、結局は“終わる”んだなって」
イザナミは静かに応えた。
「終わりがあるからこそ、命は輝くのかもしれません。あなたが出会ったすべての星々が、それを示してきたはずです」
僧侶は小さく笑った。
「そうだな。だから俺も、終わりまでちゃんと見届けてやるよ。俺なりのやり方でな」
贈り物
出発の朝、惑星全体が柔らかい光で包まれた。
深海の声が最後に一言だけ告げた。
「忘れるな。
命は、海のように流れ、巡る。
そしてまた、いつか出会う」
僧侶の手元には、海中で採取した結晶化した有機体――“海の記憶”が残された。
それはまるで、鼓動のように微かに震えていた。
旅立ち
「さて……次はどこへ行く?」
僧侶が問いかけると、イザナミは淡く答えた。
「次の座標は、極めて不安定な恒星の近傍です。環境としては“危険”の一言でしょう」
僧侶は苦笑し、操縦席に腰を下ろす。
「危険でもいいさ。海に出た以上、波に揺られ続けるしかないんだからな」
〈ホシアゲ〉が軌道を離れ、星海へと舞い上がった。
深い青が遠ざかり、暗い宇宙が再びその先に広がっていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
