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九. アメリカ大陸
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「ロサンゼルスの夜景も綺麗だね」
「うん」
戦闘機がロサンゼルスの上空に達するとその夜景は美しく、カズにとっては横浜の夜景が、美鈴にとっては香港の夜景がダブり、2人とも息を詰まらせた。
ロサンゼルス市沖にある見知らぬ小島にある空港につくと陽気なスコットランド系アメリカ人が待っていた。
「ヤッホー。待ちくたびれて、かわい子ちゃんをナンパしようとしていたところだったんだぜ。おっと、プルートだな」
「カロン。なによ、アンタのその軽いノリ。こっちは、もう命懸けだったんだからね」
「まあまあ、アメリカンジョークだ。気にすんなよ。オレはクリストファー・ウィンストン。クリスって呼んでくれ」
「お嬢さんとボウズは、・・・」
・クリスについて
本名:クリストファー・ウィンストン
年齢:24歳
性格:極めて軽い性格。フランクでユーモラス。悩みもあるがいつも明るい。
職業:サーカスの軽業師
特技:スリ
出生:ニューオーリンズ生まれのアトランタ育ち
クリスは幼い頃から母親と2人暮らしで、母親はアトランタの小さな広告代理店を経営しながらクリスを育てた。クリスは家では1人ぽっちのことが多く、子供の頃は淋しい思いをすることもあったが、次第に機知に富んだ母の影響を受けながらまわりの人々を笑わせたりする話術を身に着けていった。
しかし勉強嫌いで、ハイスクールを卒業してからは、アルバイトをしていた。そんなある日、たまたま知り合ったアルバイトの悪い仲間と繁華街に入り浸って、スリのスリルにのめり込んでいった。
「おい、クリス。今日は、たんまり稼いだんだって」
「おう。100ドル札の束が、おっ立つぜ」
「じゃあ、こんばんは、豪遊だな」
「おうよ。朝まで、ギンギンだぜ」
母親の心配をよそに、クリスは1年間、そんな生活にあけくれた。
「クリス、あのおっさんの胸みてみろよ」
「おっ、こりゃいいカモじゃねぇか。オレにやらせろよ」
「まぁ、今日はオマエに譲るわ」
しかし、クリスにとって、それが大きな人生の分岐点となった。
その初老の男、実はアトランタのサーカス団の団長で、クリスごときがサイフを抜き取れるような男ではなかった。クリスが男の横を通り過ぎた瞬間、サイフを持ったクリスの右腕は掴まれていた。
「にいちゃん、なかなかいい腕してるが、ワシからサイフを抜き取るには、1万年早すぎたな」
「ふん。マッポでもどこでも着いて行ってやらぁ」
おっさんの腕っぷしは強く、すぐにクリスは逃げられないと悟った。
「・・・」
おっさんは、クリスの腕を握ったまま黙っていた。まわりをみまわすと、友達はとんずらしていた。
クリスは、そのまま警察に引き渡されるのかと思ったら、どういうわけかサーカスのテントに連れ込まれ、入団書にサインさせられてしまい、その日の内からピエロとしての特訓を受けることになった。
最初は、辛いことも多く、何度も逃げ出そうとしたこともあったが、クリスは天性を発揮して、いつの間にかサーカスの花形ピエロとなっていった。
しかし、そんなクリスの姿を一番喜んでいた母親を3年前に交通事故で亡くして、今は1人暮らしをしていた。その母が死ぬ間際にクリスには異母兄弟の兄がいることを教えられる。
それ以来、兄の動向を気にしていたのだが、その兄は1年前になんと大統領に就任していた。そして、半年程前からその娘が奇妙な病気にかかっており、その頃から大統領に関するスキャンダルが取り沙汰されていることも知っていた。スキャンダルの内容は、全く無名の人物を関係方面へ圧力をかけて国連大使に任命したという経緯があり、その人物との間での裏取引があったのではないかということであった。また、クリスは大統領の保養先であるキャンプデービッドに何度か潜入し、ウィルスに侵された娘をネタにゆすられていることも知っていた。また、キャンプデービッドで例のインターネットのホームページを見つけてメンバーに加わることになり、サーカス団とも別れを告げてアトランタからロサンゼルスへ向かった。
ロサンゼルスに着いて、クリスは長旅で疲れきっているであろう2人を休養させるホテルを手配していた。
そして、日本からやってくる戦闘機が着陸するというサンタ・カタリナ・アイランドへ2人を迎えにいって、待つことにした。
クリスが、島の空港で待っているとどこからともなく、姿かたちは見えなかったが轟音が聞こえてきた。すると、1分もしないうちに上空ではなくはるか海上に光の点が見え始めた。そして、ほどなく戦闘機は空港に着陸した。島の空港には、柵や塀もなく滑走路が1本あるだけだった。クリスは戦闘機の停止ポイントで待っていると、停止した戦闘機からアフリカ系アメリカ人のパイロットが、降りてきた。続いて、2人の若々しい男女が少しフラつきながら降りてきた。
「やあ、クリスくんだね。ご苦労さん。2人をよろしく頼んだぞ。プルートだ」とパイロットが言った。
「ありがとう。あとは任せてくれ。カロン」
「お二人さん、お疲れさん。ホントに疲れただろう。今日は、ここにホテルをとっているので、ゆっくり休んでくれ」
「うん。どうも、ありがとう。ボクはそれほどでもないけど、美鈴さんはもう動けない程疲れているんで、よろしくお願いします」
カズは美鈴のことを気遣った。
カズも疲れていたが、カンフーで鍛えられた美鈴ではあったが、香港から格闘→逃走→船旅→遠泳→格闘→戦闘機という超ハードな長旅でぐったりしていた。
翌昼前に、カズ、美鈴、クリスの3人はホテルをチェックアウトし、ロサンゼルスへ飛んだ。
美鈴の希望で、ディズーランドで遊んでから深夜列車でマイアミを目指すことにした。列車の出発時刻まで、十分遊ぶ時間はあった。
「えっ、ホントに大丈夫なの」
「これくらいのことなら、1晩眠れば大丈夫よ」
「いやぁ、ねえちゃんタフだねぇ」
3人は、あちこちのアトラクションを見終わって昼食をとっていると、ちょうどその隣に公演のためにやってきていたロシアのサーカス団がやってきた。その時、クリスは目を輝かせて、団長らしき人物に視線を送った。
「やあ、オレはアトランタ・サーカスのピエロをやってるクリスというもんだが、今日はオレをスペシャルゲストとして、混ぜてくれないか。あんたは、プルショイサーカス団のイワノフ団長だろ」
「いいだろう。あのやろう、団長のベーブは元気にしているか」
ロシアの団長は、クリスのいたサーカス団を知っていた。それで、歓迎してくれた。
クリスは、カズと美鈴の方を振り返った。
「深夜列車出発まで時間がある。ちょっとばっか、オレの腕前をみせてやろう」
クリスは、腕まくりをして、2の腕を叩いた。
カズと美鈴は、「ここまできてサーカス見物か」とは思いながらも、クリス達の演技を見せてもらうことにした。
クリスは、彼独特のメーキャップをしていた。クリスは、プルショイサーカス団のピエロと絡みながら、彼独特のピエロを演じた。彼のピエロはサルのピエロという設定で、サルのマネをしながら、玉乗り、パントマイム、ジャグリングに空中ブランコでの見事な落ちっぷりといったものを次々とこなしていった。観客は、大喜びだった。もちろん、美鈴とカズは2度と見られないであろうサーカスの特別企画に大喜びだった。夕方の公演を終えて、ロサンゼルスのディズニーランドは夜を迎え、もうすっかり暗くなり、イルミネーションの海が広がっていた。3人は、ディズニーランドが営業終了する午後9時まで、アトラクションを楽しんだ。
その後、3人はロサンゼルスの最大の駅ユニオンステーションからL-アムトラックと呼ばれる米国鉄道に乗り込んだ。
アムトラックとは、1971年5月から従来の鉄道旅客業務を引き継いだ政府、鉄道会社、民間資金が出資した半官半民の特殊法人で、200年以上も継続されていた。
車社会のアメリカとはいえ、世界の主要鉄道がリニアモーターカー化されていく中、21世紀に入ってから歴代の大統領達は、アムトラックのリニアモーターカー化を掲げていった。
そして、アメリカはついに建国300年目にあたる2076年7月4日、最後のアムトラックであるサンセットリミテッド号をリニアモーターカー化させ、更にマイアミまで到達させたのであった。それまで、3~4日もかかっていた列車の旅はわずか半日もあれば到着できるようになった。
列車はカラオケつきのコンパートメントで、久しぶりに歌など歌いながら3人は修学旅行気分に浸っていた。計画では、翌朝にはフロリダの大西洋に面したジャクソンビルへ到着してそこから2時間でアメリカの南端マイアミへ到着する予定であった。
カズと美鈴は、リニアモーターカーの長旅に心を踊らせた。
「アメリカのリニアモーターカーって、すごいゴージャスだね。日本だと東京―大阪間でせいぜい1時間、九州までいっても2時間くらいだし、やっぱアメリカって広いしスケールでかいなあ」
「私なんか香港育ちだし、なんか別の世界にいるような気分ね。まあ、ホントいうとカンフーの大会で、北京や成都なんか行ったりする時も同じような気分を味わっているんだけどね」
「お二人とも、何を言ってるのかな。もう、アメリカや中国なんてちっぽけな世界になり下がってしまったもんだぜ。普通の人でも、月やアステロドベルトなんかに自由に行ける時代だぜ。ましてや、オレたちはこれから、ここから太陽までの距離の何十倍ものところまで、行こうとしてるんだぜ。まあ、その前にペルーへ行きつけないと、宇宙にすら出て行くこともできないんだからな」
カズと美鈴は、というよりも、クリスも含めて3人ともあまりにも想像できない世界へ飛び出そうとしていることで先のことを考えると、不安感というより、開きなおるというより、全くの頭の中は真っ白になるだけだった。
列車は2時間程、走り続けた。その間3人はお互いの身の上や共通の世間話をした後眠ることにした。
カズと美鈴は、初めてのLーアムトラックの旅に興奮して眠れなかった。テレビや映画でしか聞いたことのないヒューストンやニューオーリンズといった町のステーションのプラットホームで、停車時間の間だけその町の空気を吸うといった旅行をこんな形で味わうとは夢にも思わなかった。
アムトラックは、その昔は列車の中で数泊するような乗り物だったので、その名残でちょっとしたホテルの機能を持っていた。特にこのルートのアムトラックは、スーパーライナーと呼ばれる豪華列車で寝台のベッドやシャワーは快適であった。特に、夜中に全く街の光のない山の中を延々と走りつづける時に、ラウンジカーの天窓から見えるのは満面星空で、今までみたことのない流星のオンパレードであった。
カズが、流星に向かって何か呟いた。
「カズくん、キミは一体何を言ってるんだい」
「うん、流星が流れている間に、3回願い事をするとそれが叶うらしいんだよ」
「あっ、それアタシも聞いたことある」
「二人とも、何をバカなことを言ってるんだい」
それから何度も星が流れた。
その度に「マネー、マネー、マネー」という3つの呟き声がハモった。
その後も順調ともいえる列車の旅を続けていたのではあるが、あと30分程でフロリダ州のジャクソンビルへ到着というところで状況は一変した。
突然、コンパートメントの外からドアをノックする音がした。
「こちら車掌です。お休みのところ、たいへん申し訳ありませんが、切符を拝見させていただきたいのですが、よろしくお願いします」
カズが、少し慌ててドアを開けようとした。
「すぐに、開けるな。のぞき穴から外を確認してみろ」
「そんなあ、美鈴さんもトイレかなんかで出て行っちゃってるし、ひょっとしたら車掌さんと部屋の外にいるかもしれないよ」
「バカヤロウ。ここは、アメリカだぜ。南部だぜ。それに、俺たちゃ狙われてることを忘れるな。とにかく、のぞき穴から外見てみろ」。
カズは、しぶしぶのぞき穴から外を見た。
その瞬間、カズの表情は一変した。
クリスの背中にも緊張が走った。カズの眼前には、黒服サングラスの怪しげな輩が4人もいた。
「とにかく黙っているんだ。美鈴が戻ってくるまで」
カズは、黙って頷いた。
1分間ほど沈黙の時間が流れた。再び、ドアを強くノックする音が聞こえ始めた。
カズの背中にはじっとり汗が滲み出ていた。今ここで乱入されてしまったら、確実に命はなくなると思った。
「お客さん、開けてください。開けていただかないと、強制的に開けますよ」
30秒程の沈黙が続いた。
ドアの外での雰囲気が何か変化したような気配がした。
「あなた達、なんなのよ。車掌でもないくせに。何を言っているの」
「やばい」
クリスは、すかさずドアを思いっきり押し開けた。
「美鈴、マフィアだ」
美鈴のしなやかな体は、クリスの声に即座に反応した。
クリスがドアをあけて、マフィアの存在を目にするやいなや、美鈴は2人を倒してしまっていた。
クリスとカズは、残りの2人に殴りかかったが、返り打ちにあって、蹴りを入れられ倒されてしまった。
その瞬間、美鈴がマフィアの背後から、2人を蹴り倒して気絶させてしまった。
クリスは、何とか立ち上がった。
「さすが、カンフーねえちゃん。こいつら縛って、コンパートメントに閉じ込めとこうや」
クリスは、商売道具のロープを取り出した。
カズは、キックの痛みで、体が痺れて立ち上がることもできなかった。
「4人をなんとか倒すことができたが、この列車にマフィアが何人乗ってるかわからんし、マイアミでお迎えが来ている可能性は極めて高い。危険だ。間もなく到着するジャクソンビルで降りよう」
カズと美鈴は頷いた。
3人は、「まさか、こんなところで」と思いながら、早朝のジャクソンビルの改札を出た。
「これから、アタシたちどうやってマイアミまでいくの」
「こりゃ、一般の交通機関は何があるかわからん。ヒッチハイクだな」
クリスが、スケッチブックとマジックをとりだして、紙一杯に「マイアミ」と書いた。
3人は、列車を降りて広い道で、待ち続けた。
1時間ほどすると、オーランドへ行くという大型トラックがやってきて、3人を快く同乗させてくれた。
5時間程でオーランドへついた。そこからは、たくさんの車がマイアミまで向かっているので、またヒッチハイクして4時間でマイアミへ着くことができた。
まずは、ペルーの謎の都市ビルカバンバというところを目指さなければならないらしかった。太平洋側から目指すのは、敵のチェックが厳しく危険であるということから、大西洋側のブラジルのベレンで他メンバーと落ち合って、アマゾン川を船で遡りながら、ビルカバンバとやらを探して、その付近にあるという敵の空軍基地から宇宙に飛び立つ算段だった。
その基地で敵の反物質ロケットを奪って旅立つというのが、月のじいさんの計画だった。
3人は、フロリダのマイアミを経由して予めじいさんが月から手配していた輸送船に乗ってカリブ海から一気にブラジルのベレンを目指した。
ベレンへは、5日間で無事着くことができた。ベレンは、アマゾン川の大西洋側河口の港町だった。
「うん」
戦闘機がロサンゼルスの上空に達するとその夜景は美しく、カズにとっては横浜の夜景が、美鈴にとっては香港の夜景がダブり、2人とも息を詰まらせた。
ロサンゼルス市沖にある見知らぬ小島にある空港につくと陽気なスコットランド系アメリカ人が待っていた。
「ヤッホー。待ちくたびれて、かわい子ちゃんをナンパしようとしていたところだったんだぜ。おっと、プルートだな」
「カロン。なによ、アンタのその軽いノリ。こっちは、もう命懸けだったんだからね」
「まあまあ、アメリカンジョークだ。気にすんなよ。オレはクリストファー・ウィンストン。クリスって呼んでくれ」
「お嬢さんとボウズは、・・・」
・クリスについて
本名:クリストファー・ウィンストン
年齢:24歳
性格:極めて軽い性格。フランクでユーモラス。悩みもあるがいつも明るい。
職業:サーカスの軽業師
特技:スリ
出生:ニューオーリンズ生まれのアトランタ育ち
クリスは幼い頃から母親と2人暮らしで、母親はアトランタの小さな広告代理店を経営しながらクリスを育てた。クリスは家では1人ぽっちのことが多く、子供の頃は淋しい思いをすることもあったが、次第に機知に富んだ母の影響を受けながらまわりの人々を笑わせたりする話術を身に着けていった。
しかし勉強嫌いで、ハイスクールを卒業してからは、アルバイトをしていた。そんなある日、たまたま知り合ったアルバイトの悪い仲間と繁華街に入り浸って、スリのスリルにのめり込んでいった。
「おい、クリス。今日は、たんまり稼いだんだって」
「おう。100ドル札の束が、おっ立つぜ」
「じゃあ、こんばんは、豪遊だな」
「おうよ。朝まで、ギンギンだぜ」
母親の心配をよそに、クリスは1年間、そんな生活にあけくれた。
「クリス、あのおっさんの胸みてみろよ」
「おっ、こりゃいいカモじゃねぇか。オレにやらせろよ」
「まぁ、今日はオマエに譲るわ」
しかし、クリスにとって、それが大きな人生の分岐点となった。
その初老の男、実はアトランタのサーカス団の団長で、クリスごときがサイフを抜き取れるような男ではなかった。クリスが男の横を通り過ぎた瞬間、サイフを持ったクリスの右腕は掴まれていた。
「にいちゃん、なかなかいい腕してるが、ワシからサイフを抜き取るには、1万年早すぎたな」
「ふん。マッポでもどこでも着いて行ってやらぁ」
おっさんの腕っぷしは強く、すぐにクリスは逃げられないと悟った。
「・・・」
おっさんは、クリスの腕を握ったまま黙っていた。まわりをみまわすと、友達はとんずらしていた。
クリスは、そのまま警察に引き渡されるのかと思ったら、どういうわけかサーカスのテントに連れ込まれ、入団書にサインさせられてしまい、その日の内からピエロとしての特訓を受けることになった。
最初は、辛いことも多く、何度も逃げ出そうとしたこともあったが、クリスは天性を発揮して、いつの間にかサーカスの花形ピエロとなっていった。
しかし、そんなクリスの姿を一番喜んでいた母親を3年前に交通事故で亡くして、今は1人暮らしをしていた。その母が死ぬ間際にクリスには異母兄弟の兄がいることを教えられる。
それ以来、兄の動向を気にしていたのだが、その兄は1年前になんと大統領に就任していた。そして、半年程前からその娘が奇妙な病気にかかっており、その頃から大統領に関するスキャンダルが取り沙汰されていることも知っていた。スキャンダルの内容は、全く無名の人物を関係方面へ圧力をかけて国連大使に任命したという経緯があり、その人物との間での裏取引があったのではないかということであった。また、クリスは大統領の保養先であるキャンプデービッドに何度か潜入し、ウィルスに侵された娘をネタにゆすられていることも知っていた。また、キャンプデービッドで例のインターネットのホームページを見つけてメンバーに加わることになり、サーカス団とも別れを告げてアトランタからロサンゼルスへ向かった。
ロサンゼルスに着いて、クリスは長旅で疲れきっているであろう2人を休養させるホテルを手配していた。
そして、日本からやってくる戦闘機が着陸するというサンタ・カタリナ・アイランドへ2人を迎えにいって、待つことにした。
クリスが、島の空港で待っているとどこからともなく、姿かたちは見えなかったが轟音が聞こえてきた。すると、1分もしないうちに上空ではなくはるか海上に光の点が見え始めた。そして、ほどなく戦闘機は空港に着陸した。島の空港には、柵や塀もなく滑走路が1本あるだけだった。クリスは戦闘機の停止ポイントで待っていると、停止した戦闘機からアフリカ系アメリカ人のパイロットが、降りてきた。続いて、2人の若々しい男女が少しフラつきながら降りてきた。
「やあ、クリスくんだね。ご苦労さん。2人をよろしく頼んだぞ。プルートだ」とパイロットが言った。
「ありがとう。あとは任せてくれ。カロン」
「お二人さん、お疲れさん。ホントに疲れただろう。今日は、ここにホテルをとっているので、ゆっくり休んでくれ」
「うん。どうも、ありがとう。ボクはそれほどでもないけど、美鈴さんはもう動けない程疲れているんで、よろしくお願いします」
カズは美鈴のことを気遣った。
カズも疲れていたが、カンフーで鍛えられた美鈴ではあったが、香港から格闘→逃走→船旅→遠泳→格闘→戦闘機という超ハードな長旅でぐったりしていた。
翌昼前に、カズ、美鈴、クリスの3人はホテルをチェックアウトし、ロサンゼルスへ飛んだ。
美鈴の希望で、ディズーランドで遊んでから深夜列車でマイアミを目指すことにした。列車の出発時刻まで、十分遊ぶ時間はあった。
「えっ、ホントに大丈夫なの」
「これくらいのことなら、1晩眠れば大丈夫よ」
「いやぁ、ねえちゃんタフだねぇ」
3人は、あちこちのアトラクションを見終わって昼食をとっていると、ちょうどその隣に公演のためにやってきていたロシアのサーカス団がやってきた。その時、クリスは目を輝かせて、団長らしき人物に視線を送った。
「やあ、オレはアトランタ・サーカスのピエロをやってるクリスというもんだが、今日はオレをスペシャルゲストとして、混ぜてくれないか。あんたは、プルショイサーカス団のイワノフ団長だろ」
「いいだろう。あのやろう、団長のベーブは元気にしているか」
ロシアの団長は、クリスのいたサーカス団を知っていた。それで、歓迎してくれた。
クリスは、カズと美鈴の方を振り返った。
「深夜列車出発まで時間がある。ちょっとばっか、オレの腕前をみせてやろう」
クリスは、腕まくりをして、2の腕を叩いた。
カズと美鈴は、「ここまできてサーカス見物か」とは思いながらも、クリス達の演技を見せてもらうことにした。
クリスは、彼独特のメーキャップをしていた。クリスは、プルショイサーカス団のピエロと絡みながら、彼独特のピエロを演じた。彼のピエロはサルのピエロという設定で、サルのマネをしながら、玉乗り、パントマイム、ジャグリングに空中ブランコでの見事な落ちっぷりといったものを次々とこなしていった。観客は、大喜びだった。もちろん、美鈴とカズは2度と見られないであろうサーカスの特別企画に大喜びだった。夕方の公演を終えて、ロサンゼルスのディズニーランドは夜を迎え、もうすっかり暗くなり、イルミネーションの海が広がっていた。3人は、ディズニーランドが営業終了する午後9時まで、アトラクションを楽しんだ。
その後、3人はロサンゼルスの最大の駅ユニオンステーションからL-アムトラックと呼ばれる米国鉄道に乗り込んだ。
アムトラックとは、1971年5月から従来の鉄道旅客業務を引き継いだ政府、鉄道会社、民間資金が出資した半官半民の特殊法人で、200年以上も継続されていた。
車社会のアメリカとはいえ、世界の主要鉄道がリニアモーターカー化されていく中、21世紀に入ってから歴代の大統領達は、アムトラックのリニアモーターカー化を掲げていった。
そして、アメリカはついに建国300年目にあたる2076年7月4日、最後のアムトラックであるサンセットリミテッド号をリニアモーターカー化させ、更にマイアミまで到達させたのであった。それまで、3~4日もかかっていた列車の旅はわずか半日もあれば到着できるようになった。
列車はカラオケつきのコンパートメントで、久しぶりに歌など歌いながら3人は修学旅行気分に浸っていた。計画では、翌朝にはフロリダの大西洋に面したジャクソンビルへ到着してそこから2時間でアメリカの南端マイアミへ到着する予定であった。
カズと美鈴は、リニアモーターカーの長旅に心を踊らせた。
「アメリカのリニアモーターカーって、すごいゴージャスだね。日本だと東京―大阪間でせいぜい1時間、九州までいっても2時間くらいだし、やっぱアメリカって広いしスケールでかいなあ」
「私なんか香港育ちだし、なんか別の世界にいるような気分ね。まあ、ホントいうとカンフーの大会で、北京や成都なんか行ったりする時も同じような気分を味わっているんだけどね」
「お二人とも、何を言ってるのかな。もう、アメリカや中国なんてちっぽけな世界になり下がってしまったもんだぜ。普通の人でも、月やアステロドベルトなんかに自由に行ける時代だぜ。ましてや、オレたちはこれから、ここから太陽までの距離の何十倍ものところまで、行こうとしてるんだぜ。まあ、その前にペルーへ行きつけないと、宇宙にすら出て行くこともできないんだからな」
カズと美鈴は、というよりも、クリスも含めて3人ともあまりにも想像できない世界へ飛び出そうとしていることで先のことを考えると、不安感というより、開きなおるというより、全くの頭の中は真っ白になるだけだった。
列車は2時間程、走り続けた。その間3人はお互いの身の上や共通の世間話をした後眠ることにした。
カズと美鈴は、初めてのLーアムトラックの旅に興奮して眠れなかった。テレビや映画でしか聞いたことのないヒューストンやニューオーリンズといった町のステーションのプラットホームで、停車時間の間だけその町の空気を吸うといった旅行をこんな形で味わうとは夢にも思わなかった。
アムトラックは、その昔は列車の中で数泊するような乗り物だったので、その名残でちょっとしたホテルの機能を持っていた。特にこのルートのアムトラックは、スーパーライナーと呼ばれる豪華列車で寝台のベッドやシャワーは快適であった。特に、夜中に全く街の光のない山の中を延々と走りつづける時に、ラウンジカーの天窓から見えるのは満面星空で、今までみたことのない流星のオンパレードであった。
カズが、流星に向かって何か呟いた。
「カズくん、キミは一体何を言ってるんだい」
「うん、流星が流れている間に、3回願い事をするとそれが叶うらしいんだよ」
「あっ、それアタシも聞いたことある」
「二人とも、何をバカなことを言ってるんだい」
それから何度も星が流れた。
その度に「マネー、マネー、マネー」という3つの呟き声がハモった。
その後も順調ともいえる列車の旅を続けていたのではあるが、あと30分程でフロリダ州のジャクソンビルへ到着というところで状況は一変した。
突然、コンパートメントの外からドアをノックする音がした。
「こちら車掌です。お休みのところ、たいへん申し訳ありませんが、切符を拝見させていただきたいのですが、よろしくお願いします」
カズが、少し慌ててドアを開けようとした。
「すぐに、開けるな。のぞき穴から外を確認してみろ」
「そんなあ、美鈴さんもトイレかなんかで出て行っちゃってるし、ひょっとしたら車掌さんと部屋の外にいるかもしれないよ」
「バカヤロウ。ここは、アメリカだぜ。南部だぜ。それに、俺たちゃ狙われてることを忘れるな。とにかく、のぞき穴から外見てみろ」。
カズは、しぶしぶのぞき穴から外を見た。
その瞬間、カズの表情は一変した。
クリスの背中にも緊張が走った。カズの眼前には、黒服サングラスの怪しげな輩が4人もいた。
「とにかく黙っているんだ。美鈴が戻ってくるまで」
カズは、黙って頷いた。
1分間ほど沈黙の時間が流れた。再び、ドアを強くノックする音が聞こえ始めた。
カズの背中にはじっとり汗が滲み出ていた。今ここで乱入されてしまったら、確実に命はなくなると思った。
「お客さん、開けてください。開けていただかないと、強制的に開けますよ」
30秒程の沈黙が続いた。
ドアの外での雰囲気が何か変化したような気配がした。
「あなた達、なんなのよ。車掌でもないくせに。何を言っているの」
「やばい」
クリスは、すかさずドアを思いっきり押し開けた。
「美鈴、マフィアだ」
美鈴のしなやかな体は、クリスの声に即座に反応した。
クリスがドアをあけて、マフィアの存在を目にするやいなや、美鈴は2人を倒してしまっていた。
クリスとカズは、残りの2人に殴りかかったが、返り打ちにあって、蹴りを入れられ倒されてしまった。
その瞬間、美鈴がマフィアの背後から、2人を蹴り倒して気絶させてしまった。
クリスは、何とか立ち上がった。
「さすが、カンフーねえちゃん。こいつら縛って、コンパートメントに閉じ込めとこうや」
クリスは、商売道具のロープを取り出した。
カズは、キックの痛みで、体が痺れて立ち上がることもできなかった。
「4人をなんとか倒すことができたが、この列車にマフィアが何人乗ってるかわからんし、マイアミでお迎えが来ている可能性は極めて高い。危険だ。間もなく到着するジャクソンビルで降りよう」
カズと美鈴は頷いた。
3人は、「まさか、こんなところで」と思いながら、早朝のジャクソンビルの改札を出た。
「これから、アタシたちどうやってマイアミまでいくの」
「こりゃ、一般の交通機関は何があるかわからん。ヒッチハイクだな」
クリスが、スケッチブックとマジックをとりだして、紙一杯に「マイアミ」と書いた。
3人は、列車を降りて広い道で、待ち続けた。
1時間ほどすると、オーランドへ行くという大型トラックがやってきて、3人を快く同乗させてくれた。
5時間程でオーランドへついた。そこからは、たくさんの車がマイアミまで向かっているので、またヒッチハイクして4時間でマイアミへ着くことができた。
まずは、ペルーの謎の都市ビルカバンバというところを目指さなければならないらしかった。太平洋側から目指すのは、敵のチェックが厳しく危険であるということから、大西洋側のブラジルのベレンで他メンバーと落ち合って、アマゾン川を船で遡りながら、ビルカバンバとやらを探して、その付近にあるという敵の空軍基地から宇宙に飛び立つ算段だった。
その基地で敵の反物質ロケットを奪って旅立つというのが、月のじいさんの計画だった。
3人は、フロリダのマイアミを経由して予めじいさんが月から手配していた輸送船に乗ってカリブ海から一気にブラジルのベレンを目指した。
ベレンへは、5日間で無事着くことができた。ベレンは、アマゾン川の大西洋側河口の港町だった。
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【全17話完結】
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