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十四. クスコからの脱出
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敵のクスコ基地での反物質ロケット略奪計画に関して、月のじいさんからの指示があった。
クリスは、育ちのせいか、人を信用しきれなかった。
「ここまでやってきたけど、敵のロケットを盗んで冥王星くんだりまで行くなんて、夢みたいな話、大丈夫なのか。月のじいさんとかいうのも怪しいもんだぜ」
「アンタ、何ビビってんの。男のくせに、ここまで来て怖じ気ついたの」
皆、不安な気持ちは同じだったが、美鈴が自分に対しても含めて、鼓舞しようとした。
「皆、一度深呼吸をしてくれ」
ドクターの言葉に、皆、したがって深呼吸をした。
「これまでの経緯を冷静に思い出してくれ。確かに、危険な場面が何度もあった。しかし、危険に直面した時、必ずそれを排除する配慮がなされていた。月のじいさんも神様ではないから、十分とはいえなかったがな」
「まっ、それもそうだな。心配してもしょうがないし、いくとこまでいくか」
クリスは、開き直った。
敵の基地は、クスコの町から50km離れた高山にある小基地で、反物質ロケットは一時的に格納されていて、近々アステロイドベルトの基地へ飛ぶ予定になっていた。
基地の警備は手薄で、慎重に南北から二手に別れて行動すれば必ず成功すると、じいさんからのメール連絡があった。地下都市市長を経由しての連絡だった。
カズたちは、インカ人の運転するホバークラフトで敵基地の2か所から侵入することにした。
「だいたいのシナリオは、月のじいさんの言うとおりで大丈夫だと思うが、どうだろうか」
ドクターが、月のじいさんの意図を理解し、話を続けた。
「細かい段取りや、予想外のできごとには、私たちで対処しなければならない。侵入は、同じタイミングでやる必要がある。しかし、一切電波を発信してはならん。したがって、ここでまず皆の時計の時間をあわせよう。それから、・・・」
カズ・美鈴・クリスの3人組とセバスチャン・ドクター2人組はお互いに時計の時間を合わせて、敵クスコ基地の南北両側から夜中の同じタイミングで侵入するという計画を立てた。そして、侵入時刻の深夜0:00がやってきたて作戦が開始された。
まず、北側から侵入したカズ達3人組の方では、美鈴とカズが見張りを倒し、クリスが麻酔銃で軍用犬を眠らせながら、森の中を宇宙船発着場へ目指していった。ようやく宇宙船発着場を目の前にして、襲いかかってきた軍用犬をかわしたクリスが、ブービートラップという敵の罠にかかってしまい、飛んできた矢で太股に怪我を負ってしまった。
すかさず、美鈴が犬に蹴りを入れて、クリスは助かった。
「いてぇよ。オレはもうだめだ」
「それくらい何よ。犬に襲われるよりましでしょ」
美鈴が、強がって見せたが、3人はかなり動揺していた。
そこでまごついている間に敵に包囲されてしまい、拉致されそうになった。
その時、敵の背後からセバスチャンとドクターが密かに近づき、カズたちに襲いかかろうとしていた4人を一気に倒して5人は再び合流できた。
カズたちが、奪おうとしていたロケットは、もう目の前にあった。
5人は、すぐさまロケットに向かった。
「セバスチャン、できるだけ早く頼む」
ドクターが叫んだ。
「了解」
セバスチャンがロケットに乗り込んだ。
カズ、美鈴、クリス、ドクターは、次から次に押し寄せてくる敵をそれぞれ手持ちの武器で蹴散らしていった。
「皆、レーザーは、この赤外線照準器で、敵をしっかりねらって打つんだ」
「ロケットは、少々敵の攻撃を受けても大丈夫だ。ロケットの陰に隠れて、応戦しろ」
ドクターは冷静で、とても医者とは思えない的確な指示で、応戦した。
しかし、少しずつ敵の勢力が強くなり、かなり危険な状態になっていた。敵のビーム攻撃で、4人とも、かなりの火傷を負っていた。
「セバスチャン、まだか」
クリスが叫んだ。
「もう少しだ。もうすぐテイクオフだ」
セバスチャンが、たった1人で、信じられないスピードで反物質ロケットを離陸させようとしていた。
「皆、もう少しだ」
ドクターが再び叫んだ。
「よっしゃあ」
クリスも、一声をあげ、カズたち旅立とうとしているロケットのクルーは盛り返し始めた。
敵が少し後退した。
「よし、皆、すぐに乗船してくれ。すぐにテイクオフだ」
タイミングよく、セバスチャンが叫んだ。
カズたちは目の前にあったロケットに乗り込んだ。
「シートは8つあるはずだ。皆、近くのシートに座って、すぐにベルトを装着してくれ」
「シートベルト装着完了」
5つの声が、微妙にずれながら、こだました。
皆の返事が終わったのか、終わらないかのタイミングで、ロケットは爆音と共に
炎に包まれた。
「・・・」
セバスチャン以外の皆は、それぞれ言葉にならない大声で叫んだが、全てロケットの爆音に打ち消された。まだまだ平均余命を残して人生の終焉を迎えたものと思い込み、それぞれ別れを告げてきた愛する人々に最期の言葉を告げていた。
5分が経過した。
「わっはっはっは。皆、気分はどうだい。モニタを見てみろ。もう、アンデスがあんなに小さくなっちまったぜ」
セバスチャンが、振り返って笑顔を見せた
「おっ、おれたち、生きているのか」
クリスが、唖然としていた。
「あたり前だ。オレを誰だと思ってるんだ」
冷静だったドクターの顔でさえ、ひきつっていた。
ロケットは、無事発信し10分が経過した。
すると、今度はモニタにスペースプレーンと呼ばれる敵の超高速戦闘機が映っていた。
セバスチャンはロケットの進路を180度転回させた。
「ふー。しつこいやつらだなぁ。皆、少し暴れるけど我慢してくれよ。計算すると、このままで、敵の攻撃を受けては宇宙へは飛び出せないので、少しだけドンパチやるぜ」
百戦錬磨のセバスチャンはやばそうな言葉とは裏腹に、落ち着いて追ってきた3機を簡単に迎撃してしまった。
そして、超低空飛行で敵やアンデスの国々のレーダーからの追尾を何とか逃れることができたかに思えた。
しかし、いったん発射したロケットをもう一度離陸させることが困難であることをセバスチャンはわかっていた。どうするか悩んでいた。
その時、月のじいさんからメールがきた。
じいさんは、ロケットを月に向かわせる前に兵糧補給のため、じいさんの友人が経営するというバミューダ海域のバイオマス工場へと向かうよう指示した。
バミューダ海域に入ろうとしたときに、宇宙船のレーダーに敵戦闘機の機影が映り始めた。
いつの間にか20機あまりの機影にまで増えていたことをセバスチャンは見逃しているわけではなかった。
「まったく、しつこいやつらだぜ。こりゃ、いくら何でもこの状況で地球でのドッグファイトは不利すぎるな」
その時、以外にもドクターの目が輝きを解き放った。
「セバスチャン、前方上空を見てみろ。スーパーセルだ」
前方に巨大な積乱雲(スーパーセル)の山々が連なっていた。
「あの積乱雲の付近に、ダウンバーストという猛烈な下降気流が吹き荒れているところがあるはずだ。そこにやつらをたたきこむんだ」
「ドクターそりゃあまりにも危険だぜ。おれたちもいっしょに海にたたきこまれてしまう」
「いや、大丈夫だ。この船についている超音波ソナーを使うんだ。視界には何もないように見えるが、サブモニタで、低温の空気が下に向かって猛烈なスピードで繰り返して流れているところを探すんだ。その付近までやつらを引き付けてこっちは、気流の動きをソナーで読み取って動くんだ。必ず、奴らは海に叩き込まれていくはずだ。ただし、猛烈な下降気流が海面を叩きつけているところでは、その反作用で周囲付近の気流は上昇している。だから、機体が上昇に転じた時にそれを利用して反り返るように上昇すれば大丈夫だ」
「OK。じゃあいくぜ」
ロケットはスーパーセルの方へ向かっていた。
果して、1回目のダウンバーストへのトライで、カズたちの乗った宇宙船が上昇に転じているその下方で、敵のスペースプレーンは上昇に転じきる前にダウンバーストの餌食となってバミューダの海面に次々と叩きつけられていった。
ドクターは、どや顔だった。
「よし、いいぞ、セバスチャン」
「ドクター、でも、しつこくついてくる奴らがいるぜ。5機は残っているな。どうやら、やつらの中にもダウンバーストに気付いているのがいるみたいだぜ」
「よし、それなら今度は、超低空飛行で、海面温度がそのまわりと比べて大きく低温になっているポイントをソナーで探すんだ。それで、同じように奴らをひきつけて、その上を通過させるんだ。もちろん、我々はそこを通過したらだめだ」
「ラジャー」
セバスチャンは、ソナーで低水温ポイントをみつけるやいなや海面急降下を開始した。残りの敵機は低温ポイントを通過するやいなや下からの突風を受けると次々に爆発していった。セバスチャンというより海から吹き出す未知の気体は敵の戦闘機を全て壊滅させた。
カズたちのロケットは一路目的のバイオマス工場を目指した。ロケットが、目指す視界にも、通過した後方にも、何事もなかったかのように青い海が広がっていた。
しかし、セバスチャンの頭の中は霧に包まれていた。
「この海は、一体全体どうなっているんだ」
ドクターの方は、自分自身の発案で一つ間違えれば、海に沈むのは自分達であったかもしれない責任感から解き放たれた安堵の笑みがこぼれていた。
「船や飛行機の墓場バミューダトライアングルの謎の解2つを利用させてもらったんだよ」
「1つめの空中戦では、ここらの気流と海流の関係で発生するダウンバーストという現象を利用させてもらったんだよ。ちょうどこの時期は海面温度が30度あまりにも達して、スーパーセルといわれる巨大な積乱雲の山々を築くんだ。するとそのあたりでは、船乗りたちからは白い嵐と言われる猛烈な下降気流がスポット的に発生することがあるということを認識していて、恐れられていたんだ」
まわりで聞いていた他の皆も、「なるほど」と言いながら、首を縦に振った。
「2つめは、どちらかというと船を難破させる大きな要因となっているメタンハイドレート層の崩壊によるメタン放出を利用させてもらったんだよ。こいつは、今から300年ほど前に明らかになったことなんだが、ここらの海底にはメタンハイドレートと言って気体のメタンが数百分の一に圧縮されている地層があるんだ。それが地層のズレなど何らかの理由で、大量にメタンが放出されているところがあるんだ。飛行機は普通低空飛行することはないが、このあたりでそのメタンの塊に突入すれば、エンジンに入り込んで、猛爆発を引き起こすんだ」
他の皆は、再び「なるほど」と言いながら、首を縦に振った。
「もっとも、本当にそんなことがあるのかどうか半信半疑ではあったが、バミューダ海域に入るころから、雲の動きや風の流れ、海の様子を見ながら調べていると本当にそういったポイントがあると確信することができたんだ」
カズは、そんな話に目を輝かせた。
「へえ、バミューダの謎を利用するなんて、ドクターやるな」
「いや、これは一つ間違えば我々もお陀仏になってしまう危険な賭けであったことも確かだ。やっぱり、並みのパイロットじゃできないし、セバスチャンの腕前があればこそできたことなんだ」
月のじいさんが、指示してきたバイオマス工場へロケットが到着すると、皆驚いた。
工場のリーダー格の人たちが出迎えていてくれた。
「こっ、こんにちは。どうして、こんなところに・・・」
カズは信じられなかった。
「全く、クスコの敵ロケット発射基地と同じ設備が設置されているぞ。ロケット本体を除いて」
セバスチャンが続けて言った。
「ようこそ」
工場長が、ことばを発した。
「ここは、月のじいさんと私たちが、自然と科学が共存するために構築してきた研究所兼工場なんだ」
「じいさんの考えに同調する世界中の科学者が、集結している。その中には、ペルーの敵基地からドロップアウトしてきたやつらもいる」
「集まってきた連中の中には、それぞれ地位も名誉も研究費もそれなりに保障されてる立場を捨ててやってきた奴らも大勢いる」
「ここに来た連中は、科学は皆の共通財産で、人類だけでなく、ありとあらゆる自然現象や素粒子から宇宙、そして生物に夢と希望をもって、集まってきたんだ」
「ロケット発射設備は、我々独自でアステロイドベルトの研究と資源開発利用のためにつくりあげてきたもので、まさか、月のじいさんも私もこんなことで、役立つ日がくるとは思わなかったらしい」
「すぐにロケットは、発射台へのセットにとりかかる」
「月のじいさんから、1か月前に依頼があったので、できる限りの準備はしてある。3日もあれば、発射できる」
カズたちは、バイオマス工場での食料積み込みとロケット発射準備の間、しばしの休息時間を持つことになった。5人は、海洋牧場や巨大な海藻ジャイアントケルプス養殖場を楽しんだ。
カズたちは、つかの間の休息が終わると、再び宇宙船に乗り込み出発した。今度こそ、宇宙への旅立ちであった。
「なあ、みんな。船の名前がないとどうもやりにくくてしょうがないぜ」
セバスチャンの言葉に美鈴が、反応した。
「救世主は、中国や日本では弥勒菩薩なんだけど、欧米ではメシアなのよね。救世主ってのも、大げさなのかしら」
カズは、「適当すぎるかな」と思いながらも、言い放った。
「じゃ、いっそのこと2つ合わせてミロメシア号ってのは、どうかなぁ」
セバスチャンの表情に光が射した。
「そりゃいい。反対の人はいるかい」
「賛成」
みんなが、声をそろえた。
ミロメシア号は、テイクオフと共に、みるみる急上昇し、空と一体化した。
円い水平線を眺めながら、それぞれの胸中では家族や友人そして地球との別れが惜しまれていた。
大気圏脱出の衝撃と共に地球の重力圏を越え、青く美しい地球を見た。
彼らは決意を新たに、じいさんの待つ月へと向かっていった。
クリスは、育ちのせいか、人を信用しきれなかった。
「ここまでやってきたけど、敵のロケットを盗んで冥王星くんだりまで行くなんて、夢みたいな話、大丈夫なのか。月のじいさんとかいうのも怪しいもんだぜ」
「アンタ、何ビビってんの。男のくせに、ここまで来て怖じ気ついたの」
皆、不安な気持ちは同じだったが、美鈴が自分に対しても含めて、鼓舞しようとした。
「皆、一度深呼吸をしてくれ」
ドクターの言葉に、皆、したがって深呼吸をした。
「これまでの経緯を冷静に思い出してくれ。確かに、危険な場面が何度もあった。しかし、危険に直面した時、必ずそれを排除する配慮がなされていた。月のじいさんも神様ではないから、十分とはいえなかったがな」
「まっ、それもそうだな。心配してもしょうがないし、いくとこまでいくか」
クリスは、開き直った。
敵の基地は、クスコの町から50km離れた高山にある小基地で、反物質ロケットは一時的に格納されていて、近々アステロイドベルトの基地へ飛ぶ予定になっていた。
基地の警備は手薄で、慎重に南北から二手に別れて行動すれば必ず成功すると、じいさんからのメール連絡があった。地下都市市長を経由しての連絡だった。
カズたちは、インカ人の運転するホバークラフトで敵基地の2か所から侵入することにした。
「だいたいのシナリオは、月のじいさんの言うとおりで大丈夫だと思うが、どうだろうか」
ドクターが、月のじいさんの意図を理解し、話を続けた。
「細かい段取りや、予想外のできごとには、私たちで対処しなければならない。侵入は、同じタイミングでやる必要がある。しかし、一切電波を発信してはならん。したがって、ここでまず皆の時計の時間をあわせよう。それから、・・・」
カズ・美鈴・クリスの3人組とセバスチャン・ドクター2人組はお互いに時計の時間を合わせて、敵クスコ基地の南北両側から夜中の同じタイミングで侵入するという計画を立てた。そして、侵入時刻の深夜0:00がやってきたて作戦が開始された。
まず、北側から侵入したカズ達3人組の方では、美鈴とカズが見張りを倒し、クリスが麻酔銃で軍用犬を眠らせながら、森の中を宇宙船発着場へ目指していった。ようやく宇宙船発着場を目の前にして、襲いかかってきた軍用犬をかわしたクリスが、ブービートラップという敵の罠にかかってしまい、飛んできた矢で太股に怪我を負ってしまった。
すかさず、美鈴が犬に蹴りを入れて、クリスは助かった。
「いてぇよ。オレはもうだめだ」
「それくらい何よ。犬に襲われるよりましでしょ」
美鈴が、強がって見せたが、3人はかなり動揺していた。
そこでまごついている間に敵に包囲されてしまい、拉致されそうになった。
その時、敵の背後からセバスチャンとドクターが密かに近づき、カズたちに襲いかかろうとしていた4人を一気に倒して5人は再び合流できた。
カズたちが、奪おうとしていたロケットは、もう目の前にあった。
5人は、すぐさまロケットに向かった。
「セバスチャン、できるだけ早く頼む」
ドクターが叫んだ。
「了解」
セバスチャンがロケットに乗り込んだ。
カズ、美鈴、クリス、ドクターは、次から次に押し寄せてくる敵をそれぞれ手持ちの武器で蹴散らしていった。
「皆、レーザーは、この赤外線照準器で、敵をしっかりねらって打つんだ」
「ロケットは、少々敵の攻撃を受けても大丈夫だ。ロケットの陰に隠れて、応戦しろ」
ドクターは冷静で、とても医者とは思えない的確な指示で、応戦した。
しかし、少しずつ敵の勢力が強くなり、かなり危険な状態になっていた。敵のビーム攻撃で、4人とも、かなりの火傷を負っていた。
「セバスチャン、まだか」
クリスが叫んだ。
「もう少しだ。もうすぐテイクオフだ」
セバスチャンが、たった1人で、信じられないスピードで反物質ロケットを離陸させようとしていた。
「皆、もう少しだ」
ドクターが再び叫んだ。
「よっしゃあ」
クリスも、一声をあげ、カズたち旅立とうとしているロケットのクルーは盛り返し始めた。
敵が少し後退した。
「よし、皆、すぐに乗船してくれ。すぐにテイクオフだ」
タイミングよく、セバスチャンが叫んだ。
カズたちは目の前にあったロケットに乗り込んだ。
「シートは8つあるはずだ。皆、近くのシートに座って、すぐにベルトを装着してくれ」
「シートベルト装着完了」
5つの声が、微妙にずれながら、こだました。
皆の返事が終わったのか、終わらないかのタイミングで、ロケットは爆音と共に
炎に包まれた。
「・・・」
セバスチャン以外の皆は、それぞれ言葉にならない大声で叫んだが、全てロケットの爆音に打ち消された。まだまだ平均余命を残して人生の終焉を迎えたものと思い込み、それぞれ別れを告げてきた愛する人々に最期の言葉を告げていた。
5分が経過した。
「わっはっはっは。皆、気分はどうだい。モニタを見てみろ。もう、アンデスがあんなに小さくなっちまったぜ」
セバスチャンが、振り返って笑顔を見せた
「おっ、おれたち、生きているのか」
クリスが、唖然としていた。
「あたり前だ。オレを誰だと思ってるんだ」
冷静だったドクターの顔でさえ、ひきつっていた。
ロケットは、無事発信し10分が経過した。
すると、今度はモニタにスペースプレーンと呼ばれる敵の超高速戦闘機が映っていた。
セバスチャンはロケットの進路を180度転回させた。
「ふー。しつこいやつらだなぁ。皆、少し暴れるけど我慢してくれよ。計算すると、このままで、敵の攻撃を受けては宇宙へは飛び出せないので、少しだけドンパチやるぜ」
百戦錬磨のセバスチャンはやばそうな言葉とは裏腹に、落ち着いて追ってきた3機を簡単に迎撃してしまった。
そして、超低空飛行で敵やアンデスの国々のレーダーからの追尾を何とか逃れることができたかに思えた。
しかし、いったん発射したロケットをもう一度離陸させることが困難であることをセバスチャンはわかっていた。どうするか悩んでいた。
その時、月のじいさんからメールがきた。
じいさんは、ロケットを月に向かわせる前に兵糧補給のため、じいさんの友人が経営するというバミューダ海域のバイオマス工場へと向かうよう指示した。
バミューダ海域に入ろうとしたときに、宇宙船のレーダーに敵戦闘機の機影が映り始めた。
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「まったく、しつこいやつらだぜ。こりゃ、いくら何でもこの状況で地球でのドッグファイトは不利すぎるな」
その時、以外にもドクターの目が輝きを解き放った。
「セバスチャン、前方上空を見てみろ。スーパーセルだ」
前方に巨大な積乱雲(スーパーセル)の山々が連なっていた。
「あの積乱雲の付近に、ダウンバーストという猛烈な下降気流が吹き荒れているところがあるはずだ。そこにやつらをたたきこむんだ」
「ドクターそりゃあまりにも危険だぜ。おれたちもいっしょに海にたたきこまれてしまう」
「いや、大丈夫だ。この船についている超音波ソナーを使うんだ。視界には何もないように見えるが、サブモニタで、低温の空気が下に向かって猛烈なスピードで繰り返して流れているところを探すんだ。その付近までやつらを引き付けてこっちは、気流の動きをソナーで読み取って動くんだ。必ず、奴らは海に叩き込まれていくはずだ。ただし、猛烈な下降気流が海面を叩きつけているところでは、その反作用で周囲付近の気流は上昇している。だから、機体が上昇に転じた時にそれを利用して反り返るように上昇すれば大丈夫だ」
「OK。じゃあいくぜ」
ロケットはスーパーセルの方へ向かっていた。
果して、1回目のダウンバーストへのトライで、カズたちの乗った宇宙船が上昇に転じているその下方で、敵のスペースプレーンは上昇に転じきる前にダウンバーストの餌食となってバミューダの海面に次々と叩きつけられていった。
ドクターは、どや顔だった。
「よし、いいぞ、セバスチャン」
「ドクター、でも、しつこくついてくる奴らがいるぜ。5機は残っているな。どうやら、やつらの中にもダウンバーストに気付いているのがいるみたいだぜ」
「よし、それなら今度は、超低空飛行で、海面温度がそのまわりと比べて大きく低温になっているポイントをソナーで探すんだ。それで、同じように奴らをひきつけて、その上を通過させるんだ。もちろん、我々はそこを通過したらだめだ」
「ラジャー」
セバスチャンは、ソナーで低水温ポイントをみつけるやいなや海面急降下を開始した。残りの敵機は低温ポイントを通過するやいなや下からの突風を受けると次々に爆発していった。セバスチャンというより海から吹き出す未知の気体は敵の戦闘機を全て壊滅させた。
カズたちのロケットは一路目的のバイオマス工場を目指した。ロケットが、目指す視界にも、通過した後方にも、何事もなかったかのように青い海が広がっていた。
しかし、セバスチャンの頭の中は霧に包まれていた。
「この海は、一体全体どうなっているんだ」
ドクターの方は、自分自身の発案で一つ間違えれば、海に沈むのは自分達であったかもしれない責任感から解き放たれた安堵の笑みがこぼれていた。
「船や飛行機の墓場バミューダトライアングルの謎の解2つを利用させてもらったんだよ」
「1つめの空中戦では、ここらの気流と海流の関係で発生するダウンバーストという現象を利用させてもらったんだよ。ちょうどこの時期は海面温度が30度あまりにも達して、スーパーセルといわれる巨大な積乱雲の山々を築くんだ。するとそのあたりでは、船乗りたちからは白い嵐と言われる猛烈な下降気流がスポット的に発生することがあるということを認識していて、恐れられていたんだ」
まわりで聞いていた他の皆も、「なるほど」と言いながら、首を縦に振った。
「2つめは、どちらかというと船を難破させる大きな要因となっているメタンハイドレート層の崩壊によるメタン放出を利用させてもらったんだよ。こいつは、今から300年ほど前に明らかになったことなんだが、ここらの海底にはメタンハイドレートと言って気体のメタンが数百分の一に圧縮されている地層があるんだ。それが地層のズレなど何らかの理由で、大量にメタンが放出されているところがあるんだ。飛行機は普通低空飛行することはないが、このあたりでそのメタンの塊に突入すれば、エンジンに入り込んで、猛爆発を引き起こすんだ」
他の皆は、再び「なるほど」と言いながら、首を縦に振った。
「もっとも、本当にそんなことがあるのかどうか半信半疑ではあったが、バミューダ海域に入るころから、雲の動きや風の流れ、海の様子を見ながら調べていると本当にそういったポイントがあると確信することができたんだ」
カズは、そんな話に目を輝かせた。
「へえ、バミューダの謎を利用するなんて、ドクターやるな」
「いや、これは一つ間違えば我々もお陀仏になってしまう危険な賭けであったことも確かだ。やっぱり、並みのパイロットじゃできないし、セバスチャンの腕前があればこそできたことなんだ」
月のじいさんが、指示してきたバイオマス工場へロケットが到着すると、皆驚いた。
工場のリーダー格の人たちが出迎えていてくれた。
「こっ、こんにちは。どうして、こんなところに・・・」
カズは信じられなかった。
「全く、クスコの敵ロケット発射基地と同じ設備が設置されているぞ。ロケット本体を除いて」
セバスチャンが続けて言った。
「ようこそ」
工場長が、ことばを発した。
「ここは、月のじいさんと私たちが、自然と科学が共存するために構築してきた研究所兼工場なんだ」
「じいさんの考えに同調する世界中の科学者が、集結している。その中には、ペルーの敵基地からドロップアウトしてきたやつらもいる」
「集まってきた連中の中には、それぞれ地位も名誉も研究費もそれなりに保障されてる立場を捨ててやってきた奴らも大勢いる」
「ここに来た連中は、科学は皆の共通財産で、人類だけでなく、ありとあらゆる自然現象や素粒子から宇宙、そして生物に夢と希望をもって、集まってきたんだ」
「ロケット発射設備は、我々独自でアステロイドベルトの研究と資源開発利用のためにつくりあげてきたもので、まさか、月のじいさんも私もこんなことで、役立つ日がくるとは思わなかったらしい」
「すぐにロケットは、発射台へのセットにとりかかる」
「月のじいさんから、1か月前に依頼があったので、できる限りの準備はしてある。3日もあれば、発射できる」
カズたちは、バイオマス工場での食料積み込みとロケット発射準備の間、しばしの休息時間を持つことになった。5人は、海洋牧場や巨大な海藻ジャイアントケルプス養殖場を楽しんだ。
カズたちは、つかの間の休息が終わると、再び宇宙船に乗り込み出発した。今度こそ、宇宙への旅立ちであった。
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カズは、「適当すぎるかな」と思いながらも、言い放った。
「じゃ、いっそのこと2つ合わせてミロメシア号ってのは、どうかなぁ」
セバスチャンの表情に光が射した。
「そりゃいい。反対の人はいるかい」
「賛成」
みんなが、声をそろえた。
ミロメシア号は、テイクオフと共に、みるみる急上昇し、空と一体化した。
円い水平線を眺めながら、それぞれの胸中では家族や友人そして地球との別れが惜しまれていた。
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