22 / 29
二十四. 再び土星
しおりを挟む
土星へ向けての2週間の間、特に事故や敵の攻撃もなく、比較的平穏な2週間であった。
ミロメシアの中では、ワトソン博士を中心にして土星の宗教紛争を解決するために、委員会の2人とじいさんが様々な議論を交わしながら土星の宗教間の規則や運営方針や運用の細部を詰めていった。土星に着くころには、宗教間協約、宗教会議、共同活動、相互支援活動などの膨大なドキュメトが、ほぼまとまった。
ドクターはセバスチャンの治療に専念し、セバスチャンは土星に着くころには、ギプスをした状態ではあるが、歩き回れるようになっていた。
という状態であるため、ミロメシアの運転は専らカズに任せられていた。しかし、こんな状態でも、カズにとってはセバスチャンが病床から的確な指示を出してくれるので、安心してミロメシアを操縦することができた。冥王星から天王星までの行程では、じいさんが補佐してくれていたが軌道修正も多く、1日くらいのロスがあったのも事実であった。
クリスと美鈴は、相変わらず芸を磨いていた。他にやることがないのと、美鈴のクソまじめな性格のために、ヌンチャク3ピースどころか、4ピースによるジャグリングキャッチボールも完成していた。クリスは、美鈴の上達の早さに驚きの連続だった。クリスは、2人で演じる最初のストーリーに、中国で2000年以上の昔にあった「垓下の戦い」で敗れ去った「項羽」とその愛人「虞美人」とのラストシーンを選んだ。
項羽のために最後の美しい舞を見せる虞美人の周りを騅という名馬にまたがった項羽が、そのまわりをゆっくりと回りながら眺めているというシーンだった。もちろん美鈴が虞美人の役で美しく舞い踊り、項羽役のクリスがヌンチャクをジャグリングしながら一輪車でゆっくりと周回していく。一輪車は、クリスが天王星のコロニーで、クリックの家にあったお古を譲りうけて改造したものであった。クリス扮する項羽は、時折ヌンチャクを虞美人扮する美鈴に投げ渡し、2人がヌンチャクによる舞いをシンクロさせていく。
すこしずつ虞美人の舞いがスローな悲しいものになっていく。
そして、最後には倒れ伏してしまう。
項羽も悲しみの舞いを見せながら、ゆっくり虞美人の周りをまわりながら近づき、最後にマジックで、ヌンチャクを一輪のケシの花にチェンジさせ、その花と共に虞美人に重なるようにして倒れ伏してしまう。
クリスにとっても難易度は高く、いつしか2人は吸い込まれるように大道芸という名の真剣勝負にはまり込んでいた。他のみんなが教えて欲しいなどという割り込みをいれる隙もいつしかなくなっていた。他のみんなは、それぞれの休憩時間にその練習風景を眺め、難易度の高い芸が数多の失敗から生み出されてく感動を2人と共有しあった。そして、土星に着くころには、「虞美人の舞い」も完成していた。
ミロメシアは、天王星を出発して2週間が経過し、土星の衛星「タイタン」のメインコロニーへ無事に着陸することができた。だが、出迎えに来ていたのは、最大宗派ネオピープルの子供、クッハとジイハの2人だけだった。
クッハが言うには、「あれから3日間は皆がまんして会議に出席していたんだけど、少しずついがみ合いが発生し、3日目には会議が進行できなくなったんです。
それで、決裂事項をそれぞれまとめて、いったん会議は閉鎖することになったんです」と言いながら、そのそれぞれの決裂事項書をワトソン博士に手渡した。
「よし、わかった。あとは、我々に任せるんだ」
ワトソン博士は、その書類に目を通し始めた。
「想定内だ。安心しろ。1年で、この土星のコロニーを平和なコロニーにしてみせるぞ」
博士は、そう言いながら準備委員会の2人の方を見た。
「大丈夫だよ。クッハくん、ジイハさん。前にやった作戦でまた子供たちをここへ集めるんだ。こんどは、私達がこの星を平和になるまで責任を持って導いていくからね」
準備委員会の2人も微笑みを浮かべた。
クッハとジイハは、オルフィナ、ムート、ムシージ、カッキに連絡をとり、土星の子供達を集めるよう依頼のメールを送った。もちろん、すでに傷も治ったネイティブピープルのツカにも連絡をとった。
それから、3時間ほどして子供たちが、続々と集まり始めた。今度は、前回の倍の400人くらいの子供達が集まった。しかも、子供達に異変が起こっていた。
そこで、クリスは鳩が鉄砲をくらった様な顔つきで突然叫んだ。
「何じゃ。ありゃあ」
驚いたことに、今度のこどもたちは、手に手にジャグリングこん棒、一輪車、中国駒やバルーンアート等、大道芸の道具を持っているではないか。なんと、南京玉すだれを持っている子供までいた。
「クリスおにぃ様、どおぉ」
ジイハが、いたずらっぽい微笑みを浮かべた。
「おまえら、いったい何考えてんだぁ。家でおとなしく、ネットゲームでもやってたらいいものを」
今度は、子供達による大道芸大会が始まった。審査員は、クリスを委員長とするミロメシアでやってきた面々であった。
終わるころには、各宗派の首長達も集まっていた。じいさんが、すでに彼らへ召集令状を出していたのであった。
この以外な展開に、首長会議はスムーズに進めざるを得ず、ワトソンを委員長とする宗教間平和委員会の準備委員会も無事に設立された。
クッハが言うには、クリス達の大道芸で子供達がネットゲームより大道芸の世界に魅力を感じてしまったらしく、誰彼となくやり始めて、ネット上で大会を開こうという気運が高まっていたところ、打ってつけのタイミングでミロメシアのじいさんによる招集がかかったため、みんな大喜びで集まってきてしまったとのことであった。
そして、土星は意外な展開で思いがけなく平和への道を歩み始めることになった。
宗教は、元々特定の時代や地域で生きていく上で有利になる考え方が発達したものであり、そういった条件下では普遍的な考え方のように思われていたことが、少しずつ時代の変化の中でぶれていく。
建物でもコンピュータシステムでも基本設計自体が、いつかは陳腐化するのと同じように、実は宗教も陳腐化していくのである。まさに24世紀の世界では、既存宗教の陳腐化が著しくなる中で、宇宙を舞台にした新興宗教が広がりを見せつつあった。宇宙空間で、孤独に耐えながら目標の星へ長い長い旅から旅をつづける。そして、辿りつた星のラグランジェポイントの閉ざされた空間で生活を送る。地球は、人類を創り出した母なる星ではあるが、人類がはるか未来を目指す中で、火星やアステロイドベルト、そして太陽系自体が母なる故郷としての存在に変わろうとしていた。人の心の支えとなる宗教も、どんな宇宙の果てに住もうと、神のお加護は時空を超えて信じる人に与えられるというようなものに変わりつつあった。そして、進んだ宗教ではいずれ出会うかもしれない異星人にも言及されており、大航海時代に大宗教が侵略の道具になってしまったこと、地球上で今も続く宗教紛争などに対する反骨精神にみなぎる宗教もたくさん生まれていた。
思いがけず巻き込まれてしまった土星での宗教紛争解決への糸口が見えたところを尻目に、ミロメシアは本来のミッションを全うすべく、次の木星へ向かってテイクオフした。
もちろん、クッハ、ジイハ、ツカやカッキ達に見送られながらの旅立ちであった。
往路では、惑星配列上木星をスキップした。復路では、惑星配列上いったん立ちよる方が、長い旅を続けてきたミロメシアのメンテナンスを行っていく上でメリットがあった。
また、敵はミロメシアが最短距離の火星を目指すものと考えているはずだから、その目を欺くための策でもあった。この時点での木星までの距離は、ちょうど天王星―土星間の距離と同じくらいとなっており、木星到着までの日程もちょうど2週間くらいであった。
土星では、セバスチャンがミロメシアの留守番をしていた。土星での出来事を、美鈴がセバスチャンに説明した。
「なーんだ。そんなことなら、オレも行けばよかった」
当然のことながら、セバスチャンは残念がっていた。
しかし、セバスチャンにはまだ療養が必要で、ミロメシアの操縦をカズに任せていた。セバスチャンの予定では、木星までの2週間で怪我を完治させ、万全の状態でアステロイドベルトから地球までの攻防に挑みたいと考えていた。
木星までの行程では、操縦桿を握るカズを除いて時間を持て余す状態が続いた。無論、カズも自動操縦モードになると、ほとんど自由な時間を過ごすことができた。
そこで、残っていた体験談義を、美鈴、カズ、クリスの順でやることになり、美鈴が語り始めた。
「私がね、12歳の頃の夏休みに、太極拳の合宿へ行った時の話なの。私は、そこで忘れられない体験をしたの。そこには、ほとんど何の手も加えられていない鍾乳洞があって、先生からはそこへは、絶対入ってはダメだと注意されていたの。でも、男子達はそういうふうに言われることで、余計に好奇心に火をつけられちゃったみたいで・・・。私は、行きたくなかったんだけど、少し気になる男の子がいて、その子が行くと聞いて、私も行くことにしたの。その日の夕方は、たまたま練習が早く終わって、自由時間になったの。それで、誰彼ともなく、3人の男の子達と私とで、鍾乳洞に入っていっちゃったの。今でも、その時のことを思い出すと、なんて無謀なことをしたのだろうかとぞっとするのよ」
「そうだな。わしも、これまでのニュースで鍾乳洞に入り込んで帰ってこれなくて、行方不明のまま捜索を打ち切った事件をいくつか知ってるよ。鍾乳洞の中は、正解のないまさに天然無限のラビリンスだからなあ。いったん迷い込んで、帰ってこられること自体が奇跡的じゃな」
じいさんが言った。
「本当にそうなの。最初のうちは、みんな元気で、『とにかく、少しだけ右の穴から入ってみて、左の穴から帰って来よう。少しでもやばかったら引き返そう』なーんて、軽いノリで入っちゃったの。それから、懐中電灯が1つだったこともあって、『絶対、みんないっしょで声を掛け合いながら行こう』と、リーダー格の男の子が言って、そこは最後まで守り続けることができたの。
リーダー格の子は、ボスと呼ばれていて背は低くて小柄だったけど、結構筋肉はあって俊敏で元気で、皆で話しているといつも中心になっているような子だったわ。でも、私が少し気になっていた男の子は、背が高くひょろっとしていて、あまり運動神経も良くなくていつも先生から怒られている男の子だったの。
あまり口を開くことなく黙々と練習しているような子だったわ。色が白かったので白ネギくんって呼ばれていたわ。もう1人は、背は中ぐらいだけど肥っていて、運動神経は良くないけど、要領が良くて口が達者であまり先生に怒られることなく、適当にさぼりながら練習しているような子だったわ。この子は、ブーちゃんって呼ばれてたわ。私は、言わずと知れたおてんば娘だったわけね。それでこの4人が新聞に載るような大事件を起こしちゃったわけ」
「今でも、・・・」
呟くように、思わずクリスの言葉がこぼれた。
「何よ。今でもって。ちゃんと聞こえたわよ。まっ、いいか」
「ボス以外は、ゆっくり進もうとしていたのだけれど、ボスが一番前で独断でどんどん進んでいっちゃたの。続いてブーちゃん、私、白ネギくんの順番だったわ」
そこから、美鈴は時々、思い出すように言葉を止めながら、回想シーンを元に語り始めた。
洞窟へ入って、10分くらい経ったころにボスが突然、「うわー、何だろうこれは」と叫んだ。
子供たちの目の前に、きれいにならされた壁や地面の空間が広がった。
すると、ブーチャンが口をはさんだ。
「これは、きっと、古代人がここで生活していたところだよ。ぼくが、他の鍾乳洞へ行った時に、案内の人が鍾乳洞の中は1年中一定の温度なので、昔の人が生活に使ったりしていたと説明してたよ」
皆、「へえー」と感心しながら、まわりを見渡した。
美鈴が「遺跡も見たことだし、ここらで引き返そうよ」と言った。
すると、ボスが「まだまだ、先に面白いとこがあるかもしれないから、もう少しだけ先に行ってみようよ」と言った。
ブーちゃんも、ボスに賛成した。
白ネギくんは、「危険だから、もうやめよう」と言った。
ボスが、「じゃあ、じゃんけんで決めよう。2対2で、交替でじゃんけんして、先に3勝した方の意見に従うことにしよう」と言った。
まず、ボスと美鈴がじゃんけんをして、ボスが勝った。次に白ネギくんが、ボスとブーチちゃんに続けて勝った。
ボスは、必勝を期して何やらブツブツ言いながら握った両手の中を覗き込んだあと、いきおいをつけて「じゃんけんほい」と言って手を出した。
白ネギくんは、落ち着いた様子でじゃんけんの手を出し、美鈴の顔に安堵の笑顔がこぼれた。白ネギくんは、勝った。
ボスは、「ちぇっ」と舌打ちし、4人は引き返すことになった。
その時、ゴーっという地鳴りのような音がして、地面が揺れた。地震であった。4人はとっさに、寄り添ってその場にしゃがみこんだ。
1分程して皆まわりを見回した後、顔を突き合わせて笑顔を確認しあった。
「助かったね」
「よかったね」
口ぐちに無事を確認しあい、来た道を引き返した。
引き返していく途中、何やら天井や壁が崩れているところもあった。
そして5分程引き返すと、ボスが「やばー」と叫んだ。
見ると、人が1人通るのがやっとだったところが、完全に崩れて通れなくなっていた。それで4人は仕方なく、洞窟に入った時の左の入り口を目指すべく、また奥へ戻りながら迂回する穴を探しては、そちらへ進んでいった。
ボスは、無言で進んでいった。10分程たったが全く出口に出られる気配がなかった。白ネギくん以外の3人は焦りの形相に変わっていた。更に10分程経った時、4人は偶然にもあの遺跡に戻ってきてしまった。
そこで、白ネギくんだけが笑顔を浮かべて、「良かったね。もう、ここを動かずにじっとしていればいいよ」と言った。
すると、ボスが「何を言ってるんだ。こんなところで、飢え死にするなんて、まっぴらごめんだ」と言った。
他の3人も、「そうだ、そうだ」と言った。
白ネギくんは、「ここにいれば、人が必ず探しに来てくれるよ。ヘタに動いたら、ホントに誰も探すことのできない暗闇の中で飢え死にすることになるよ」と言った。
しかし、他の3人は叱られることが気になって、「こっちへ行けば、帰れるはずだ」と言い張った。
白ネギくんは「ヘタに動いたら、ホントに死んじゃうよ。でも、もしいくなら1つだけボクの言う事を聞いてほしい」と言った。
「ここに、すぐおなかをこわしちゃうボクの腹巻がある。この毛糸をほつれさせて、迷ってもこの遺跡には戻れるようにしよう」と言った。
美鈴は、「白ネギくん、すごーい」と言った。
他の皆も、ふだん無口でどんくさいはずの白ネギくんを少し見直した。
そして、4人は再び出口と思われる方へ向かって歩き始めた。しかし、20分程歩いたが、白ネギくんの言うとおり出口にいきつくことはできなかった。すると、またゴーっという地鳴りのような音がして、地面が揺れた。
今度も4人とも無事かと思ったその時、ブーちゃんが「痛―い」と大声で叫んだ。
どうやら、慌ててしまったブーちゃんがつまずいて転んで、足をくじいてしまった。ブーちゃんは、半べそ状態で泣いていた。ボスと美鈴の顔も絶望的な表情に変っていた。
すると、白ネギくんは、「大丈夫だよ。交替で、ブーちゃんをおぶって、遺跡に戻ろう」と言った。
ブーちゃんは、「ボクは、ここに置いていってくれればいいよ」と言った。
ボスは「何を言ってるんだ。おぶっていくよ」と言った。
ボスと白ネギくんの2人はブーちゃんを交替でおぶって、戻り始めた。
しかし、また10分程歩くと洞窟が崩れて元来た道を戻れなくなっていた。
さすがの白ネギくんも、今度こそ、かなりやばくなってきたと内心思ったが、ポーカーフェースを保ち、「大丈夫だよ。ここで、じっとしてるんだ。毛糸の腹巻の端が遺跡に残っているはずだから、必ずここも探し出してもらえるよ」と言った。
「それに、もう腹巻の毛糸もほとんどなくなってしまったんだ。幸い鍾乳洞だから水分補給は大丈夫だし」と言った。
それを聞いて、ブーちゃん以外は安堵のため息をついた。なぜか、ブーちゃんだけは、顔を真っ赤にして汗をかいていた。
美鈴がそれに気付いて、「ブーちゃん、どうしたの」と言った。
これに対してブーちゃんは、「はー、はー」と息を切らせながら「だ、大丈夫だよ」と言った。
美鈴がブーちゃんの額に手をあてると「すごい熱。早く、お医者さんに見せなければ」と言った。
白ネギくんは、「わかった。じゃ、ボクが出口を探して、助けを呼んでくるよ」と言った。
するとボスが、「駄目だよ、白ネギくん。もう、腹巻切れちゃったんだろ」と言った。
すると、美鈴が「大丈夫よ」と言って、今度は美鈴が顔を真っ赤にしながら、何やらふわふわした物を白ネギに手渡した。
手渡された毛糸の編み物は生暖かく、今度は白ネギくんに赤ら顔が伝染した。
「み、美鈴」と白ネギくんが呟くようにして言った。
「わかった。必ず助けを呼んでくるよ」と言った。
30分程して、白ネギくんが帰ってきた。
「出口は、見つかったのか」とボスが尋ねた。
白ネギくんは首を横に振りながら「だめだ。とても出口は見つからないよ」と言った。
「でも、おもしろい所を見つけたんだ。なんとか、そこまで皆で行こう」と言った。
そして、男の子2人が交替で、ブーちゃんをおんぶしながら30分ほど歩いた。
ボスと美鈴の2人は、思わず、「うわー」という一声をあげた。
そこには、上に向かって高く高く広がる空間になっていた。
白ネギくんが「よく上を見てごらん」と言った。
ボスが、「あっ。外の光が見えている。わずかだけど」と言った。
「そうだよ」と白ネギくんが言った。
すると、美鈴が「あっ。わかった。ここから助けを呼ぶのね」と言った。
白ネギくんは、「そのとおり。でも、ぼくは、ここからの帰り道に考えたんだ。ただ叫ぶだけだと、疲れるし声も途切れちゃうよね。だから、ここで3人で、しりとり歌合戦をやり続けるんだ。それで、勝敗表をつけて一番勝った人が、負けた人に1つだけで好きな命令をしていいことにしよう。もちろん、無理な命令は拒否していいけど、なんとかできることはやるということで、どうだろうか」と言った。
他2人は賛成した。3人は、歌い続けた。時々ブーちゃんの小さな歌声も聞こえてきた。皆は、延々と歌い続けた。そして、それからなんと約10時間後に助け出された。その時、懐中電灯の電池も切れていた。4人は、10メートル上にあった地表にわずかに開いた穴から縄梯子を使って助け出された。助け出された時何十人もの大人の人達が救助にあたってくれていた。
というのが、美鈴の回想シーンの内容であった。
「はい、質問」
カズが手をあげた。
「しりとり歌合戦の結果はどうなったの」
「それは、私が勝って白ネギくんが負けたの。私は、結構歌手にも憧れてたからね」
「じゃ、何を命令したの」
「それは、秘密よ」
「そりゃ、カズ。そんな野暮な質問はしないでも決まっているだろう」
クリスが卑猥な笑い顔を浮かべた。
「何、言ってんの。いやらしい。まだ、その時は12歳の子供だったのよ」美鈴は、怒った表情を露わにした。
じいさんが、口をはさんだ。
「しかし、その白ネギくんていうのは、たいした奴だな。内心、不安な気持ちを一切出さず、他の子供たちを安心させて、みごとに救出劇を演出したようじゃな」
「うん。彼は、月のスペースコロニーの大学で学びながら、学生実業家になっていて、その業界の新進気鋭のカリスマ的存在になっているらしいということを友達から聞いたことがあるわ」というところで、美鈴の話は終わった。
カズには、これまでの皆のように劇的な話はなかったので、自分の生い立ちの中で、記念すべき月生まれであることやサッカーであった劇的なできごとなどを語った。
「ぼくの父さんは、宇宙船のメンテナンスエンジニアで、宇宙にいる時間が長くて、地球に帰ってきてもリハビリ期間も長くて長くて。重力だけじゃないけど、地球の生活に順応するまで、いつもだるそうだったなぁ」
セバスチャンは、笑みを浮かべながら、頷いていた。
「そりゃあ、そうだろ。オレも、宇宙から帰ってきたら、そうしてたさ。その時間は辛かったが、回復すると、また宇宙へ行きたくて心が疼きだすんだ」
「そうなんだ。ぼくの父さんも、無重力のミッションに憑りつかれた様に宇宙と地球とスペースコロニーを行き来しているんだ。父さんのようなエンジニアは数が少ないみたいなんだ。しかも、絶対的に宇宙エレベーターの数は不足していて、予約取りもたいへんそうだったなぁ」
「ボクもいつかは、父さんのようなエンジニアになりたいと思っていたんだ」
次に、クリスはスリ少年からサーカス少年へ転身した経緯について語った。
「オレは、少年時代にスリやコソ泥のテクニックもある程度身に着けて、自分ではプロの域に達しているという自信を持っていたんだ」
「誰にも気が付かれず、クールにビジネスをこなしているつもりだったんだ。アトランタのサーカス団長に出会うまではな」
「オレは、完璧な仕事ができたと確信したが、団長には通用しなかったんだ。みごとに見破られて、サーカス団に連れていかれたんだ。そして、毎日、厳しい練習をさせられて、なぜかサーカス団のピエロに転身し、いろんな曲芸を覚えさせられたんだ。しかし、あの団長に出会わなければ、今のオレはいなかった。自分の中では、冥王星で久方ぶりの仕事をさせてもらったんだが、我ながら鮮やかな仕事ができたかなと思ったよ。これも団長のおかげかな。このミッションが終わっても、食うもんには困らないな。なーんてね」
感心すべき話ではないが、皆なぜか感心していた。まあ、それが冥王星での攻防に役立ったことも確かではあった。
木星までは敵の攻撃を受けることなく、ほぼ予定通り到着することができた。
ミロメシアの中では、ワトソン博士を中心にして土星の宗教紛争を解決するために、委員会の2人とじいさんが様々な議論を交わしながら土星の宗教間の規則や運営方針や運用の細部を詰めていった。土星に着くころには、宗教間協約、宗教会議、共同活動、相互支援活動などの膨大なドキュメトが、ほぼまとまった。
ドクターはセバスチャンの治療に専念し、セバスチャンは土星に着くころには、ギプスをした状態ではあるが、歩き回れるようになっていた。
という状態であるため、ミロメシアの運転は専らカズに任せられていた。しかし、こんな状態でも、カズにとってはセバスチャンが病床から的確な指示を出してくれるので、安心してミロメシアを操縦することができた。冥王星から天王星までの行程では、じいさんが補佐してくれていたが軌道修正も多く、1日くらいのロスがあったのも事実であった。
クリスと美鈴は、相変わらず芸を磨いていた。他にやることがないのと、美鈴のクソまじめな性格のために、ヌンチャク3ピースどころか、4ピースによるジャグリングキャッチボールも完成していた。クリスは、美鈴の上達の早さに驚きの連続だった。クリスは、2人で演じる最初のストーリーに、中国で2000年以上の昔にあった「垓下の戦い」で敗れ去った「項羽」とその愛人「虞美人」とのラストシーンを選んだ。
項羽のために最後の美しい舞を見せる虞美人の周りを騅という名馬にまたがった項羽が、そのまわりをゆっくりと回りながら眺めているというシーンだった。もちろん美鈴が虞美人の役で美しく舞い踊り、項羽役のクリスがヌンチャクをジャグリングしながら一輪車でゆっくりと周回していく。一輪車は、クリスが天王星のコロニーで、クリックの家にあったお古を譲りうけて改造したものであった。クリス扮する項羽は、時折ヌンチャクを虞美人扮する美鈴に投げ渡し、2人がヌンチャクによる舞いをシンクロさせていく。
すこしずつ虞美人の舞いがスローな悲しいものになっていく。
そして、最後には倒れ伏してしまう。
項羽も悲しみの舞いを見せながら、ゆっくり虞美人の周りをまわりながら近づき、最後にマジックで、ヌンチャクを一輪のケシの花にチェンジさせ、その花と共に虞美人に重なるようにして倒れ伏してしまう。
クリスにとっても難易度は高く、いつしか2人は吸い込まれるように大道芸という名の真剣勝負にはまり込んでいた。他のみんなが教えて欲しいなどという割り込みをいれる隙もいつしかなくなっていた。他のみんなは、それぞれの休憩時間にその練習風景を眺め、難易度の高い芸が数多の失敗から生み出されてく感動を2人と共有しあった。そして、土星に着くころには、「虞美人の舞い」も完成していた。
ミロメシアは、天王星を出発して2週間が経過し、土星の衛星「タイタン」のメインコロニーへ無事に着陸することができた。だが、出迎えに来ていたのは、最大宗派ネオピープルの子供、クッハとジイハの2人だけだった。
クッハが言うには、「あれから3日間は皆がまんして会議に出席していたんだけど、少しずついがみ合いが発生し、3日目には会議が進行できなくなったんです。
それで、決裂事項をそれぞれまとめて、いったん会議は閉鎖することになったんです」と言いながら、そのそれぞれの決裂事項書をワトソン博士に手渡した。
「よし、わかった。あとは、我々に任せるんだ」
ワトソン博士は、その書類に目を通し始めた。
「想定内だ。安心しろ。1年で、この土星のコロニーを平和なコロニーにしてみせるぞ」
博士は、そう言いながら準備委員会の2人の方を見た。
「大丈夫だよ。クッハくん、ジイハさん。前にやった作戦でまた子供たちをここへ集めるんだ。こんどは、私達がこの星を平和になるまで責任を持って導いていくからね」
準備委員会の2人も微笑みを浮かべた。
クッハとジイハは、オルフィナ、ムート、ムシージ、カッキに連絡をとり、土星の子供達を集めるよう依頼のメールを送った。もちろん、すでに傷も治ったネイティブピープルのツカにも連絡をとった。
それから、3時間ほどして子供たちが、続々と集まり始めた。今度は、前回の倍の400人くらいの子供達が集まった。しかも、子供達に異変が起こっていた。
そこで、クリスは鳩が鉄砲をくらった様な顔つきで突然叫んだ。
「何じゃ。ありゃあ」
驚いたことに、今度のこどもたちは、手に手にジャグリングこん棒、一輪車、中国駒やバルーンアート等、大道芸の道具を持っているではないか。なんと、南京玉すだれを持っている子供までいた。
「クリスおにぃ様、どおぉ」
ジイハが、いたずらっぽい微笑みを浮かべた。
「おまえら、いったい何考えてんだぁ。家でおとなしく、ネットゲームでもやってたらいいものを」
今度は、子供達による大道芸大会が始まった。審査員は、クリスを委員長とするミロメシアでやってきた面々であった。
終わるころには、各宗派の首長達も集まっていた。じいさんが、すでに彼らへ召集令状を出していたのであった。
この以外な展開に、首長会議はスムーズに進めざるを得ず、ワトソンを委員長とする宗教間平和委員会の準備委員会も無事に設立された。
クッハが言うには、クリス達の大道芸で子供達がネットゲームより大道芸の世界に魅力を感じてしまったらしく、誰彼となくやり始めて、ネット上で大会を開こうという気運が高まっていたところ、打ってつけのタイミングでミロメシアのじいさんによる招集がかかったため、みんな大喜びで集まってきてしまったとのことであった。
そして、土星は意外な展開で思いがけなく平和への道を歩み始めることになった。
宗教は、元々特定の時代や地域で生きていく上で有利になる考え方が発達したものであり、そういった条件下では普遍的な考え方のように思われていたことが、少しずつ時代の変化の中でぶれていく。
建物でもコンピュータシステムでも基本設計自体が、いつかは陳腐化するのと同じように、実は宗教も陳腐化していくのである。まさに24世紀の世界では、既存宗教の陳腐化が著しくなる中で、宇宙を舞台にした新興宗教が広がりを見せつつあった。宇宙空間で、孤独に耐えながら目標の星へ長い長い旅から旅をつづける。そして、辿りつた星のラグランジェポイントの閉ざされた空間で生活を送る。地球は、人類を創り出した母なる星ではあるが、人類がはるか未来を目指す中で、火星やアステロイドベルト、そして太陽系自体が母なる故郷としての存在に変わろうとしていた。人の心の支えとなる宗教も、どんな宇宙の果てに住もうと、神のお加護は時空を超えて信じる人に与えられるというようなものに変わりつつあった。そして、進んだ宗教ではいずれ出会うかもしれない異星人にも言及されており、大航海時代に大宗教が侵略の道具になってしまったこと、地球上で今も続く宗教紛争などに対する反骨精神にみなぎる宗教もたくさん生まれていた。
思いがけず巻き込まれてしまった土星での宗教紛争解決への糸口が見えたところを尻目に、ミロメシアは本来のミッションを全うすべく、次の木星へ向かってテイクオフした。
もちろん、クッハ、ジイハ、ツカやカッキ達に見送られながらの旅立ちであった。
往路では、惑星配列上木星をスキップした。復路では、惑星配列上いったん立ちよる方が、長い旅を続けてきたミロメシアのメンテナンスを行っていく上でメリットがあった。
また、敵はミロメシアが最短距離の火星を目指すものと考えているはずだから、その目を欺くための策でもあった。この時点での木星までの距離は、ちょうど天王星―土星間の距離と同じくらいとなっており、木星到着までの日程もちょうど2週間くらいであった。
土星では、セバスチャンがミロメシアの留守番をしていた。土星での出来事を、美鈴がセバスチャンに説明した。
「なーんだ。そんなことなら、オレも行けばよかった」
当然のことながら、セバスチャンは残念がっていた。
しかし、セバスチャンにはまだ療養が必要で、ミロメシアの操縦をカズに任せていた。セバスチャンの予定では、木星までの2週間で怪我を完治させ、万全の状態でアステロイドベルトから地球までの攻防に挑みたいと考えていた。
木星までの行程では、操縦桿を握るカズを除いて時間を持て余す状態が続いた。無論、カズも自動操縦モードになると、ほとんど自由な時間を過ごすことができた。
そこで、残っていた体験談義を、美鈴、カズ、クリスの順でやることになり、美鈴が語り始めた。
「私がね、12歳の頃の夏休みに、太極拳の合宿へ行った時の話なの。私は、そこで忘れられない体験をしたの。そこには、ほとんど何の手も加えられていない鍾乳洞があって、先生からはそこへは、絶対入ってはダメだと注意されていたの。でも、男子達はそういうふうに言われることで、余計に好奇心に火をつけられちゃったみたいで・・・。私は、行きたくなかったんだけど、少し気になる男の子がいて、その子が行くと聞いて、私も行くことにしたの。その日の夕方は、たまたま練習が早く終わって、自由時間になったの。それで、誰彼ともなく、3人の男の子達と私とで、鍾乳洞に入っていっちゃったの。今でも、その時のことを思い出すと、なんて無謀なことをしたのだろうかとぞっとするのよ」
「そうだな。わしも、これまでのニュースで鍾乳洞に入り込んで帰ってこれなくて、行方不明のまま捜索を打ち切った事件をいくつか知ってるよ。鍾乳洞の中は、正解のないまさに天然無限のラビリンスだからなあ。いったん迷い込んで、帰ってこられること自体が奇跡的じゃな」
じいさんが言った。
「本当にそうなの。最初のうちは、みんな元気で、『とにかく、少しだけ右の穴から入ってみて、左の穴から帰って来よう。少しでもやばかったら引き返そう』なーんて、軽いノリで入っちゃったの。それから、懐中電灯が1つだったこともあって、『絶対、みんないっしょで声を掛け合いながら行こう』と、リーダー格の男の子が言って、そこは最後まで守り続けることができたの。
リーダー格の子は、ボスと呼ばれていて背は低くて小柄だったけど、結構筋肉はあって俊敏で元気で、皆で話しているといつも中心になっているような子だったわ。でも、私が少し気になっていた男の子は、背が高くひょろっとしていて、あまり運動神経も良くなくていつも先生から怒られている男の子だったの。
あまり口を開くことなく黙々と練習しているような子だったわ。色が白かったので白ネギくんって呼ばれていたわ。もう1人は、背は中ぐらいだけど肥っていて、運動神経は良くないけど、要領が良くて口が達者であまり先生に怒られることなく、適当にさぼりながら練習しているような子だったわ。この子は、ブーちゃんって呼ばれてたわ。私は、言わずと知れたおてんば娘だったわけね。それでこの4人が新聞に載るような大事件を起こしちゃったわけ」
「今でも、・・・」
呟くように、思わずクリスの言葉がこぼれた。
「何よ。今でもって。ちゃんと聞こえたわよ。まっ、いいか」
「ボス以外は、ゆっくり進もうとしていたのだけれど、ボスが一番前で独断でどんどん進んでいっちゃたの。続いてブーちゃん、私、白ネギくんの順番だったわ」
そこから、美鈴は時々、思い出すように言葉を止めながら、回想シーンを元に語り始めた。
洞窟へ入って、10分くらい経ったころにボスが突然、「うわー、何だろうこれは」と叫んだ。
子供たちの目の前に、きれいにならされた壁や地面の空間が広がった。
すると、ブーチャンが口をはさんだ。
「これは、きっと、古代人がここで生活していたところだよ。ぼくが、他の鍾乳洞へ行った時に、案内の人が鍾乳洞の中は1年中一定の温度なので、昔の人が生活に使ったりしていたと説明してたよ」
皆、「へえー」と感心しながら、まわりを見渡した。
美鈴が「遺跡も見たことだし、ここらで引き返そうよ」と言った。
すると、ボスが「まだまだ、先に面白いとこがあるかもしれないから、もう少しだけ先に行ってみようよ」と言った。
ブーちゃんも、ボスに賛成した。
白ネギくんは、「危険だから、もうやめよう」と言った。
ボスが、「じゃあ、じゃんけんで決めよう。2対2で、交替でじゃんけんして、先に3勝した方の意見に従うことにしよう」と言った。
まず、ボスと美鈴がじゃんけんをして、ボスが勝った。次に白ネギくんが、ボスとブーチちゃんに続けて勝った。
ボスは、必勝を期して何やらブツブツ言いながら握った両手の中を覗き込んだあと、いきおいをつけて「じゃんけんほい」と言って手を出した。
白ネギくんは、落ち着いた様子でじゃんけんの手を出し、美鈴の顔に安堵の笑顔がこぼれた。白ネギくんは、勝った。
ボスは、「ちぇっ」と舌打ちし、4人は引き返すことになった。
その時、ゴーっという地鳴りのような音がして、地面が揺れた。地震であった。4人はとっさに、寄り添ってその場にしゃがみこんだ。
1分程して皆まわりを見回した後、顔を突き合わせて笑顔を確認しあった。
「助かったね」
「よかったね」
口ぐちに無事を確認しあい、来た道を引き返した。
引き返していく途中、何やら天井や壁が崩れているところもあった。
そして5分程引き返すと、ボスが「やばー」と叫んだ。
見ると、人が1人通るのがやっとだったところが、完全に崩れて通れなくなっていた。それで4人は仕方なく、洞窟に入った時の左の入り口を目指すべく、また奥へ戻りながら迂回する穴を探しては、そちらへ進んでいった。
ボスは、無言で進んでいった。10分程たったが全く出口に出られる気配がなかった。白ネギくん以外の3人は焦りの形相に変わっていた。更に10分程経った時、4人は偶然にもあの遺跡に戻ってきてしまった。
そこで、白ネギくんだけが笑顔を浮かべて、「良かったね。もう、ここを動かずにじっとしていればいいよ」と言った。
すると、ボスが「何を言ってるんだ。こんなところで、飢え死にするなんて、まっぴらごめんだ」と言った。
他の3人も、「そうだ、そうだ」と言った。
白ネギくんは、「ここにいれば、人が必ず探しに来てくれるよ。ヘタに動いたら、ホントに誰も探すことのできない暗闇の中で飢え死にすることになるよ」と言った。
しかし、他の3人は叱られることが気になって、「こっちへ行けば、帰れるはずだ」と言い張った。
白ネギくんは「ヘタに動いたら、ホントに死んじゃうよ。でも、もしいくなら1つだけボクの言う事を聞いてほしい」と言った。
「ここに、すぐおなかをこわしちゃうボクの腹巻がある。この毛糸をほつれさせて、迷ってもこの遺跡には戻れるようにしよう」と言った。
美鈴は、「白ネギくん、すごーい」と言った。
他の皆も、ふだん無口でどんくさいはずの白ネギくんを少し見直した。
そして、4人は再び出口と思われる方へ向かって歩き始めた。しかし、20分程歩いたが、白ネギくんの言うとおり出口にいきつくことはできなかった。すると、またゴーっという地鳴りのような音がして、地面が揺れた。
今度も4人とも無事かと思ったその時、ブーちゃんが「痛―い」と大声で叫んだ。
どうやら、慌ててしまったブーちゃんがつまずいて転んで、足をくじいてしまった。ブーちゃんは、半べそ状態で泣いていた。ボスと美鈴の顔も絶望的な表情に変っていた。
すると、白ネギくんは、「大丈夫だよ。交替で、ブーちゃんをおぶって、遺跡に戻ろう」と言った。
ブーちゃんは、「ボクは、ここに置いていってくれればいいよ」と言った。
ボスは「何を言ってるんだ。おぶっていくよ」と言った。
ボスと白ネギくんの2人はブーちゃんを交替でおぶって、戻り始めた。
しかし、また10分程歩くと洞窟が崩れて元来た道を戻れなくなっていた。
さすがの白ネギくんも、今度こそ、かなりやばくなってきたと内心思ったが、ポーカーフェースを保ち、「大丈夫だよ。ここで、じっとしてるんだ。毛糸の腹巻の端が遺跡に残っているはずだから、必ずここも探し出してもらえるよ」と言った。
「それに、もう腹巻の毛糸もほとんどなくなってしまったんだ。幸い鍾乳洞だから水分補給は大丈夫だし」と言った。
それを聞いて、ブーちゃん以外は安堵のため息をついた。なぜか、ブーちゃんだけは、顔を真っ赤にして汗をかいていた。
美鈴がそれに気付いて、「ブーちゃん、どうしたの」と言った。
これに対してブーちゃんは、「はー、はー」と息を切らせながら「だ、大丈夫だよ」と言った。
美鈴がブーちゃんの額に手をあてると「すごい熱。早く、お医者さんに見せなければ」と言った。
白ネギくんは、「わかった。じゃ、ボクが出口を探して、助けを呼んでくるよ」と言った。
するとボスが、「駄目だよ、白ネギくん。もう、腹巻切れちゃったんだろ」と言った。
すると、美鈴が「大丈夫よ」と言って、今度は美鈴が顔を真っ赤にしながら、何やらふわふわした物を白ネギに手渡した。
手渡された毛糸の編み物は生暖かく、今度は白ネギくんに赤ら顔が伝染した。
「み、美鈴」と白ネギくんが呟くようにして言った。
「わかった。必ず助けを呼んでくるよ」と言った。
30分程して、白ネギくんが帰ってきた。
「出口は、見つかったのか」とボスが尋ねた。
白ネギくんは首を横に振りながら「だめだ。とても出口は見つからないよ」と言った。
「でも、おもしろい所を見つけたんだ。なんとか、そこまで皆で行こう」と言った。
そして、男の子2人が交替で、ブーちゃんをおんぶしながら30分ほど歩いた。
ボスと美鈴の2人は、思わず、「うわー」という一声をあげた。
そこには、上に向かって高く高く広がる空間になっていた。
白ネギくんが「よく上を見てごらん」と言った。
ボスが、「あっ。外の光が見えている。わずかだけど」と言った。
「そうだよ」と白ネギくんが言った。
すると、美鈴が「あっ。わかった。ここから助けを呼ぶのね」と言った。
白ネギくんは、「そのとおり。でも、ぼくは、ここからの帰り道に考えたんだ。ただ叫ぶだけだと、疲れるし声も途切れちゃうよね。だから、ここで3人で、しりとり歌合戦をやり続けるんだ。それで、勝敗表をつけて一番勝った人が、負けた人に1つだけで好きな命令をしていいことにしよう。もちろん、無理な命令は拒否していいけど、なんとかできることはやるということで、どうだろうか」と言った。
他2人は賛成した。3人は、歌い続けた。時々ブーちゃんの小さな歌声も聞こえてきた。皆は、延々と歌い続けた。そして、それからなんと約10時間後に助け出された。その時、懐中電灯の電池も切れていた。4人は、10メートル上にあった地表にわずかに開いた穴から縄梯子を使って助け出された。助け出された時何十人もの大人の人達が救助にあたってくれていた。
というのが、美鈴の回想シーンの内容であった。
「はい、質問」
カズが手をあげた。
「しりとり歌合戦の結果はどうなったの」
「それは、私が勝って白ネギくんが負けたの。私は、結構歌手にも憧れてたからね」
「じゃ、何を命令したの」
「それは、秘密よ」
「そりゃ、カズ。そんな野暮な質問はしないでも決まっているだろう」
クリスが卑猥な笑い顔を浮かべた。
「何、言ってんの。いやらしい。まだ、その時は12歳の子供だったのよ」美鈴は、怒った表情を露わにした。
じいさんが、口をはさんだ。
「しかし、その白ネギくんていうのは、たいした奴だな。内心、不安な気持ちを一切出さず、他の子供たちを安心させて、みごとに救出劇を演出したようじゃな」
「うん。彼は、月のスペースコロニーの大学で学びながら、学生実業家になっていて、その業界の新進気鋭のカリスマ的存在になっているらしいということを友達から聞いたことがあるわ」というところで、美鈴の話は終わった。
カズには、これまでの皆のように劇的な話はなかったので、自分の生い立ちの中で、記念すべき月生まれであることやサッカーであった劇的なできごとなどを語った。
「ぼくの父さんは、宇宙船のメンテナンスエンジニアで、宇宙にいる時間が長くて、地球に帰ってきてもリハビリ期間も長くて長くて。重力だけじゃないけど、地球の生活に順応するまで、いつもだるそうだったなぁ」
セバスチャンは、笑みを浮かべながら、頷いていた。
「そりゃあ、そうだろ。オレも、宇宙から帰ってきたら、そうしてたさ。その時間は辛かったが、回復すると、また宇宙へ行きたくて心が疼きだすんだ」
「そうなんだ。ぼくの父さんも、無重力のミッションに憑りつかれた様に宇宙と地球とスペースコロニーを行き来しているんだ。父さんのようなエンジニアは数が少ないみたいなんだ。しかも、絶対的に宇宙エレベーターの数は不足していて、予約取りもたいへんそうだったなぁ」
「ボクもいつかは、父さんのようなエンジニアになりたいと思っていたんだ」
次に、クリスはスリ少年からサーカス少年へ転身した経緯について語った。
「オレは、少年時代にスリやコソ泥のテクニックもある程度身に着けて、自分ではプロの域に達しているという自信を持っていたんだ」
「誰にも気が付かれず、クールにビジネスをこなしているつもりだったんだ。アトランタのサーカス団長に出会うまではな」
「オレは、完璧な仕事ができたと確信したが、団長には通用しなかったんだ。みごとに見破られて、サーカス団に連れていかれたんだ。そして、毎日、厳しい練習をさせられて、なぜかサーカス団のピエロに転身し、いろんな曲芸を覚えさせられたんだ。しかし、あの団長に出会わなければ、今のオレはいなかった。自分の中では、冥王星で久方ぶりの仕事をさせてもらったんだが、我ながら鮮やかな仕事ができたかなと思ったよ。これも団長のおかげかな。このミッションが終わっても、食うもんには困らないな。なーんてね」
感心すべき話ではないが、皆なぜか感心していた。まあ、それが冥王星での攻防に役立ったことも確かではあった。
木星までは敵の攻撃を受けることなく、ほぼ予定通り到着することができた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる