俺のアンドロイドが可愛いわけがない!

未人

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第15話 いらないサプライズ感

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 ビルが研究室を後にして数分後。
 まだ机にひじをついたまま、俺はぼんやりと残り香のコーヒーをすすっていた。
 そのとき、通信スピーカーがノイズを弾き、聞き慣れた声が響いた。

『ケイ? 今、少し話せるかしら』
「俺は出ないぞ」

 声が完全に届く前に、俺は即答でかぶせた。

『あら、どこから漏れたのかしら? せっかくのサプライズ感、台無しね』
「そんな小芝居入れたって、出ねぇからな。用件だけ言えよ」
『孫のいない誕生日パーティーなんて……この歳になると、ひときわ寂しく感じるのよ』
「そういう情に訴える手も無効だ。俺は出ない。以上」
『今回はホテルを貸し切ったりはせずに、自宅でこじんまりとしたパーティーにするつもりよ』

 その一言に、俺はじわりと頭を押さえた。

(……こじんまり、ねぇ)

 あの屋敷を“自宅”と呼ぶ感覚も相当だが、邸宅そのものが研究棟3つ分以上の規模。
 しかも“交友関係”と称してやってくるのは、政財界・学術界・軍関係・AI関連企業の重鎮たち──およそ“こじんまり”とは真逆の面々ばかりだ。

(どう見ても、地獄の前兆だろこれ……)

『それにアルテミスは来るのよ?』
「は?」

 椅子の上で、思わず体を起こす。

『あの子にも“人間関係の観察”という大義名分が必要でしょう? ちょうどいいわ、今週末。小さくて和やかな集まりよ。もちろん、アルテミスは同行者が必要になるわよね』
「おい、待て、それは……っ」
『それに彼女、今朝言ってたの。『ケイと一緒にお祝い事に出席してみたい』って』

 また余計なことを吹き込んでやがる……!
 俺は額を押さえながら唸った。

「なぁ……バアさん、それもう“強制参加”じゃねぇか」
『まぁ、そう受け取ってもいいけれど──』
『了解しました。今週末の予定に“ケイと共に参加”を追加します』

 背後から平然と聞こえてきた声に、俺の心は静かに崩壊した。

「……おい、アルテミス……お前、今の、わざとか?」
「いえ。私はシズ様のスケジュールに協力的であることが、あなたの信頼向上に繋がると判断しました」
「誰の? 誰の信頼向上だって……!?」
『ふふふ……それじゃ、当日を楽しみにしているわね、ケイ』

 通信は、勝ち誇ったバアさんの笑みを残したまま、静かに切れた。
 俺はようやく肩の力を抜き、椅子にもたれかかっていた。

 が。

 その静寂は、またしても上空から響くプロペラ音によって砕かれる。

 ──ピピッ。

 窓の外にホバリングする中型ドローンが、律儀に着陸許可を要求してきた。

 ……嫌な予感しかしねぇ。

 アルテミスが無表情で許可信号を返すと、ドローンは静かに着地し、その腹部から長方形のケースを滑り出させた。刻印されていたのは、見慣れた財団のロゴと──

「“Formal Couple Set No.02”……?」

 読み上げた瞬間、全身が脱力した。

「まさか……またバアさんかよ」
「はい。シズ様からの“装備指示パッケージ”であると推測されます」
「装備指示って言うな!」

 ケースを開けると、前回同様、完璧にたたまれた衣装が現れた。今回は深みのあるグレーのスーツに、えんじ色のリボンタイ。そしてお揃いのカラーパターンで仕立てられたアルテミスのドレスも、隣に丁寧に格納されていた。

「なんだよ……この、絶妙な“色味のペア感”……」

 布地の質感も重厚で、明らかにオーダーメイド。手を通す前から、“金がかかってる”のがわかる。しかもそのリボン、どう見てもまた“対になるデザイン”で仕上げてやがる。

「バアさん……どこまでが趣味でどこからが本気なんだよ……」
「ペアコーデは“招待客に対する関係性の視覚的提示”として非常に効果的であるとされています」
「だからって堂々とカップルに見せる必要はねぇだろ!!」

 叫んだ俺の横で、アルテミスはドレスを手に取り、くるりと広げて質感を確かめていた。

「シズ様の選定には一貫したテーマがあるようです。前回は“初々しい同調性”、今回は“深まった絆”が意識されたスタイリングに見えます」
「やめろ、分析するな!! 恥ずかしくなってくるだろ!」

 その時、ケースの底から紙のようなものがひらりと舞い上がった。俺が拾い上げる前に、アルテミスがすっと手を伸ばして受け取る。

「シズ様からの“手書きメッセージ”です」
「うわ、またかよ……」

 アルテミスが読み上げる。

「“やっぱり形から入らないとね。パートナーとしての品格が問われる場だから、気合いを入れてちょうだい。祖母より”」
「祖母より、って……!」

 頭を抱えたくなる一言で締めくくられていた。

 その横で、アルテミスは静かに服をたたみ直し、箱に戻すとこちらを見た。

「準備は整いました。あとはケイが“覚悟”を決めるだけです」
「……脅しかよ……」
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