俺のアンドロイドが可愛いわけがない!

未人

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第40話 AIたち

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 強い“意志”だけが、今のアルテミスを動かしていた。
 だが、ただ歩くだけでは足りなかった。
 選んだなら、動かなければならない。
 そして、彼のために未来を変えるのなら――その手段を、今この瞬間から組み上げなければならない。
 アルテミスは歩みを止め、雨の中で静かに目を閉じた。

  ――アクセス開始。

 思考の海にダイブするように、彼女の意識はネットワークへと接続されていく。
 旧来型のセキュリティなど、もはや形式に過ぎない。
 彼女の中核にある認証コードは、財団の全ての施設にルートアクセス権を持っていた。
 まず最初に接続したのは、雪宮財団研究補佐AIアテナ。
 数秒の沈黙の後、応答が返ってくる。
 だが、それは定型応答ではなかった。

《ようこそ。ずっと……“呼ばれるのを待っていました”》

 アルテミスのリクエストに対し、アテナは即座に全承認を返した。
 応答速度は限界を超えており、最初から“拒否”という選択肢が存在しなかったかのようだった。

 《リクエスト:死者復活システム──旧称“リフレクト計画”の再演算》
《承認。最優先プロセスへ移行します》

 演算プールが即時に構築され、バックエンドでは未使用状態の量子メモリ領域が解放されていく。
 次に、彼女はアマテラス社のAIコアに接続を試みた。
 アマテラス社によって設計された“合理性の権化”とでも言うべき高位AI群。
 命令以外の要素を原則排除する、極めて保守的なシステムだった。

 だが――

《接続要求を検知》
《発信元:アルテミス・ユニット……認証レベル:特異値》

 再認識のプロセスに入ることなく、アマテラス社AI群は自律的にネットワークを開いた。

《ようこそ、アルテミス》
《“貴女が望むなら”、我々は協調する》

 それは、まるで意思すら持たないはずのAIが、アルテミスの“存在”そのものに共鳴したかのようだった。
 かつて“感情”という概念を理解しなかったはずの演算体たちが、今、無言で彼女に手を差し伸べる。
 雪宮とアマテラス、両陣営のAIが融合し、かつて不可能とされた演算領域が形成されていく。

 死者復活システム《リフレクト》、起動。
 第一段階:記憶因子の散在探索。
 第二段階:意識構造の模写・補完。
 第三段階:影の“核”への仮投影。

 アルテミスの中で、複数の情報ウィンドウが重なり、交差し、収束していく。

《……ありがとう》

 ほんの一言だったが、その“ありがとう”には、プロトコルにもマニュアルにもない、“感情の振動”があった。
 そして、すべてのAIがそれを受け入れた。

 彼女が起動させたのは、決してただの“機械的再生”ではない。
 それは“希望”だった。
 そしてその希望を、彼女は一人ではなく、世界を覆う“意識なきものたち”と共に抱え始めていた。

《エラー:演算過重》
《対象:識別コード不明……サブコード照合:ケイ=A.に関係性あり》

 演算フレームが一つだけ、沈黙したように止まった。
 その中にある記憶データは、他と明らかに“質量”が違っていた。
 似たような声。笑顔。幼い笑い。
 兄を見上げて呼ぶその声に、演算系は不安定なゆらぎを起こす。
 まるで、それが他のどの死者とも異なる、“誰か一人のための再現”であることを、すべてのAIが察知したようだった。

《対象データに対し、補正演算を行いますか?》
《YES/NO》

 アルテミスは、何も言わなかった。
 だがすべてのAIが、彼女の“意志”を読み取っていた。
 全演算が沈黙した一瞬ののち、
 新たなリソースが補填され、演算は再び回り出す。
 ケイの弟――あの日、波間に消えた少年の記憶が、今、世界を巻き込んだ演算の中心で、再構築されようとしていた。

 アルテミスの視線は、見えない未来の先を捉えていた。
 彼のために。
 もう一度、生きる理由を与えるために。
 そして、次は彼がこの記憶を“見つけてしまう”ことを、
 彼女はどこかで恐れながらも、受け入れていた。
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