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第33話 吸引力の変わらない殿下
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バルド副大臣が話を終えて退席するや否や、殿下はソファーの背に身を任せて息をついた。
もしかして憑かれたかな。
「殿下。お身体はいかがですか? 取り憑かれませんでしたか」
私は殿下に近付いてお声がけする。
「いや。憑かれた。頼む」
今日も私が戻ってくるまでに憑かれて祓ったばかりなのに、また憑かれるとは。本当に吸引力の変わらない人だな。
「はい。かしこまりました。どうぞ」
立ったままでは失礼かと思い、私は身を屈めて姿勢を低くすると殿下へと手を伸ばした。
殿下はすぐに私の手を取って目を伏せるので、集中しているのかなと私も黙ったままじっとしている。
ああ。まったくもって暇です。可視化されるといいのに。――いや、おどろおどろしいものは見たくないのに、影祓いだけ見たいなんて都合が良すぎるかもしれない。
などと呑気な事を考えると、急にばっと手を離された。
だから振り払うようなその離し方を止めなさーい。失礼ですよ!
その思いが顔に出ていたのか、殿下は悪いと少し笑った。
「殿下は以前、影祓いの時は光になって空に溶け込むとおっしゃっていましたよね。目を開けていれば祓えた瞬間が確認できるのではないのですか」
「確かにそうだが、強い光のせいで眩しくてな。つい目を伏せてしまう」
集中していたからではなく、単に眩しいから目を伏せていたのね。そう言えばあの時、目を細めていたような。
「では、目の前に光を感じたら手を離してはいかがですか?」
「その場合は完全に祓えたか分からないからな。結局のところは手の感覚の方が確かだ」
「手の感覚ってどんな感じですか?」
「びりっと手が痺れるような痛みだ。そのまま触れたままにすると、脱力感が襲ってくる」
弾かれたように手を離すのはそういうことね。私だって同じ立場なら、痛いのは嫌だから振り払ってしまうでしょう。
「そういうことなら仕方ありません。少々不本意ですけれども、分かりました」
「悪いな」
殿下は謝った後、前のソファーに座るよう促したので、私は回って向かいのソファーに腰を下ろした。
「さっきの彼だが、彼を見て、話を聞いてどう思った?」
殿下の問いに私は拳を顎に当てて、うぅんと唸る。
「正直なところ、お話の半分も理解できませんでした」
「そうか。では、彼の印象は?」
殿下は特にがっかりはしていない。私が政治の話を理解することには、期待していないからだろう。むしろ理解できない方がありがたいと考えているかもしれない。
「そうですね。何と言いますか。言葉の端々に野心みたいなものが見え隠れしている。そんな印象を受けました」
「そうだな。彼みたいなタイプに影は取り憑きやすい」
「ですが、殿下は今、副大臣からの影を引き寄せてしまわれたのですよね。あのお方は体形はがっしりとされていましたし、体調も悪いようには見えませんでしたよ」
欲深そう(失礼)だったから取り憑きそうなのは分かるけれども、影が取り憑くと体調が悪くなるのではなかったか。
「取り憑かれるとすぐに体調を崩すわけではない。生きている人間にも抵抗力があるからな。ただ元々弱っている人間には急速に悪化させることがある。それに影が人間の悪意や欲望と共鳴する場合、人間側もより精力的になったりすることがあるようだ」
「精力的に?」
「ああ。これはあくまでも私の推論だが、影は人間のエネルギーを奪い取って自身の力を増そうとするタイプと、影が取り憑いた人物を使って欲望、無念を果たそうとするタイプがあるのかもしれない」
私は思わずへぇと感心の息を吐いた。
「影も奥深いのですね」
「そうだな。まだまだ分からない事がある。一度離れたからと言って、二度と憑かないということもないしな。さっきの副大臣もまたどこかでもらってくることだろう」
殿下は私とは違う意味で息を吐く。
権力を持つ殿下の周りの人間は、常日頃からそういう人間で溢れかえっているのだろうか。それに加えて取り憑かれやすい体質ときている。だとしたらこれは本当に大変そうだ。
憎まれ口ばかり叩かないで、殿下を労ってあげてもいいかもしれない。
ほんの少しだけ、同情してみた。
もしかして憑かれたかな。
「殿下。お身体はいかがですか? 取り憑かれませんでしたか」
私は殿下に近付いてお声がけする。
「いや。憑かれた。頼む」
今日も私が戻ってくるまでに憑かれて祓ったばかりなのに、また憑かれるとは。本当に吸引力の変わらない人だな。
「はい。かしこまりました。どうぞ」
立ったままでは失礼かと思い、私は身を屈めて姿勢を低くすると殿下へと手を伸ばした。
殿下はすぐに私の手を取って目を伏せるので、集中しているのかなと私も黙ったままじっとしている。
ああ。まったくもって暇です。可視化されるといいのに。――いや、おどろおどろしいものは見たくないのに、影祓いだけ見たいなんて都合が良すぎるかもしれない。
などと呑気な事を考えると、急にばっと手を離された。
だから振り払うようなその離し方を止めなさーい。失礼ですよ!
その思いが顔に出ていたのか、殿下は悪いと少し笑った。
「殿下は以前、影祓いの時は光になって空に溶け込むとおっしゃっていましたよね。目を開けていれば祓えた瞬間が確認できるのではないのですか」
「確かにそうだが、強い光のせいで眩しくてな。つい目を伏せてしまう」
集中していたからではなく、単に眩しいから目を伏せていたのね。そう言えばあの時、目を細めていたような。
「では、目の前に光を感じたら手を離してはいかがですか?」
「その場合は完全に祓えたか分からないからな。結局のところは手の感覚の方が確かだ」
「手の感覚ってどんな感じですか?」
「びりっと手が痺れるような痛みだ。そのまま触れたままにすると、脱力感が襲ってくる」
弾かれたように手を離すのはそういうことね。私だって同じ立場なら、痛いのは嫌だから振り払ってしまうでしょう。
「そういうことなら仕方ありません。少々不本意ですけれども、分かりました」
「悪いな」
殿下は謝った後、前のソファーに座るよう促したので、私は回って向かいのソファーに腰を下ろした。
「さっきの彼だが、彼を見て、話を聞いてどう思った?」
殿下の問いに私は拳を顎に当てて、うぅんと唸る。
「正直なところ、お話の半分も理解できませんでした」
「そうか。では、彼の印象は?」
殿下は特にがっかりはしていない。私が政治の話を理解することには、期待していないからだろう。むしろ理解できない方がありがたいと考えているかもしれない。
「そうですね。何と言いますか。言葉の端々に野心みたいなものが見え隠れしている。そんな印象を受けました」
「そうだな。彼みたいなタイプに影は取り憑きやすい」
「ですが、殿下は今、副大臣からの影を引き寄せてしまわれたのですよね。あのお方は体形はがっしりとされていましたし、体調も悪いようには見えませんでしたよ」
欲深そう(失礼)だったから取り憑きそうなのは分かるけれども、影が取り憑くと体調が悪くなるのではなかったか。
「取り憑かれるとすぐに体調を崩すわけではない。生きている人間にも抵抗力があるからな。ただ元々弱っている人間には急速に悪化させることがある。それに影が人間の悪意や欲望と共鳴する場合、人間側もより精力的になったりすることがあるようだ」
「精力的に?」
「ああ。これはあくまでも私の推論だが、影は人間のエネルギーを奪い取って自身の力を増そうとするタイプと、影が取り憑いた人物を使って欲望、無念を果たそうとするタイプがあるのかもしれない」
私は思わずへぇと感心の息を吐いた。
「影も奥深いのですね」
「そうだな。まだまだ分からない事がある。一度離れたからと言って、二度と憑かないということもないしな。さっきの副大臣もまたどこかでもらってくることだろう」
殿下は私とは違う意味で息を吐く。
権力を持つ殿下の周りの人間は、常日頃からそういう人間で溢れかえっているのだろうか。それに加えて取り憑かれやすい体質ときている。だとしたらこれは本当に大変そうだ。
憎まれ口ばかり叩かないで、殿下を労ってあげてもいいかもしれない。
ほんの少しだけ、同情してみた。
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